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ゴミ溜め育ちの魔術喰らい(マジックイーター)  作者: ぽむぽむ
序章 魔術喰らい(マジックイーター)はゴミの中から
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0-2

「暑・・・」

 男は独り言のように目覚めの感想をつぶやきながら上体を起こした。

 寝ぼけた目つきの悪い半目にぼさぼさの髪の毛、よれよれのTシャツにゴムの伸びたサイズの大きいステテコ。年は十四、背は年の割りに低いながらもよく鍛えこまれたしなやかで力強い肉体が目に付く。

 やる気の一切感じられない雄ライオンのような大きくマヌケなあくびをするこの男、名をテオという。

 強烈な太陽光線を喰らった上、わけのわからない悪夢に襲われたテオはまだ寝させろと反抗する瞳を右手でこすりつつ視線を目覚まし時計へと向けた。

 デジタル数字の影がうっすらと見える盤面に並んだ数字とアルファベット。

1/11(MON)1:11

「もう7時過ぎかよ・・・。さっさと支度しねえとな」

 今日は7月11日の月曜日、ただいまの時刻は7時11分である。

 テオの目覚まし時計は液晶が馬鹿になっていて必要とされるパーツがかけて表示されるのだ。よく見ればそのボディも錆が付いていたりボタンが取れて金属部がむき出しになっていたりする。

 『よっこらしょ』とけだるげに地面に手を着き起き上がる。

「んん~・・・」

 寝起き特有のけだるさを放り投げるようにテオは爽快な青空に向け大きく伸びをした。


 目覚めた場所で伸びをしてどうして屋根ではなく青空へと向かうのか。


 その答えは実に単純でテオの部屋には天井など存在していないのである。

 さらに言えば天井だけではない。その部屋には仕切り戸も窓も壁すらもありはしない。

 そもそもこの空間を部屋などと一体どこの誰が呼ぶのだろうか?

 テオが生活するその空間はかつて建物が建っていたであろうと思わせる柱が何本か並んだだけの空間。そこにテオが廃棄されていた家具などを持ち込み居住空間としているのである。

 住み始めたのは5歳のとき、何一つ手持ちの荷物などなかったが生活に必要なものを揃えるのは容易かった。

 外に目をやればそこに広がるのはいくつものゴミの山々。それらは遠くに見える巨大なコンクリートの壁まで見事な連峰を成している。

 大抵のものは少し探せば山の中から手に入れることが出来た。おかげで今ではテオの居住空間も立派なゴミ溜めと化している。


「今日も時間通りだな」

 なにか気に食わないといった表情のテオは遠くの空を見上げ重く呟いた。

 テオが見つめる先にはゴウンゴウンと重低音を響かせる大きなスクリュープロペラを左右に備えた運搬用の大型魔導飛行船が停滞していた。

 飛行船に取り付けられた貨物コンテナの底が開くと大量のゴミがゲリラ雨のように地上へと降り注ぐ。ゴミを全て降ろすと飛行船は巨大な壁の向こうへと引き返していく。飛行船の去った大地にはまた新たな山が築かれている。

 飛行船は週に一度ゴミを捨てにやってくる、月曜日の7時15分ちょうど。壁の向こう側に住まう人々が新製品を手に入れる度、不要となった物たちが壁で区切られたテゴと呼ばれるこの土地に捨てられていく。

 このゴミ溜めに暮らすテオは『恵みの雨だ』とでも言って喜ぶべきなのかもしれない、それでもテオはどうにもこの飛行船が好きになれなかった。

 かつてこの国ファルネムトを支えたのは高い技術力と豊かな文明だった。しかし、ひとたび人々の手に魔法が発現し魔力が発見されれば、一瞬にして技術力は輝きを失った。人々は魔法の研究、魔術の開発に専念するようになり技術力は国の誇りでも他国に対する強みでもなくなり、魔術のための道具と成り下がったのだ。そして人々はその新しく現れた強い権力の匂いに引かれ一斉にその手にあるものを捨て始めたのだ。その結果築かれた文明も失われ今このファルネムトには混沌とした空気が広がっていた。

 テオにはあの飛行船がその象徴のように見えどうしても嫌悪感を抱かずにはいられなかった。

 なんとなく、確かな理由も意思もなく冷えた視線を遠ざかっていく飛行船に向けていると甘えた声とともに幾つかの温かさがテオの両足へと擦り寄ってきた。

「ニャ~」

 足元を見れば3匹の黒猫がふくらはぎに体を擦り付けてはねだるような甘えた声を上げこちらを見つめている。さらに4匹の黒猫が順番待ちでもするように足の周りをうろうろと落ち着かない様子で歩き回る。

「なんだよ、お前らも腹減ってんのか?」

 その場にしゃがみこみ近くに居た一匹の首元をうりうりと撫でながら話しかける。

 そんなことをすれば他の猫たちから「贔屓だ」と抗議の声が上がり、テオは一匹残らず丁寧に可愛がることとなる。これもテオにとってのいつもどおりの朝の光景。

「さて、オレも食料の調達に行くか」

 9匹の猫の心を満足させ全員分の食事と水を用意したところでまた大きく伸びをとりながら声を上げた。

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