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ゴミ溜め育ちの魔術喰らい(マジックイーター)  作者: ぽむぽむ
第二章 全能の魔女(オールマイティ・ウィッチ)
13/31

2-5

 初めて触れる扉を押し開けると外は灼熱の大気の海だった。

 突如全身を包んだ重く暑苦しい空気に軽いめまいを起こすと思わず顔をしかめた。

 涼しい屋内の空気に寝ぼけていた頭がようやく外気の暑さを理解すると玄関の外に広がる景色が明確に捉えられる。

 いつもどおりのゴミ山が並び立つ景色。

 家のすぐそばにはごろごろとテオにとって見覚えのある品々が転がっている。きっと家を建てる際にミアがゴミとして放り出したのだろう。拾ってきたはいいが一度も使ったことのないものも多く見られる。自分では世間の流れに反発して物を大切にしてきたつもりだったのがいつの間にか物の捨てられない収集家のようになってしまっていたようだ。自分自身に対して呆れ自嘲する笑みがこぼれる。

「シャー!」

 辺りに散らばっているゴミたちに別れを告げていると前方からクローブとコリアンダーの双子の声が聞こえた。

 尻尾を吊り上げ全身の毛を逆立てて全力で威嚇する2匹。その方向はソファで猫たちが向いた方向。

 ゆっくりと双子に近づくとその背中から尻尾にかけて優しく撫でる。逆立った毛はなだめられ2匹の表情も穏やかになる。

 落ち着いた2匹を家の入り口の方へと促してやると2匹はすんなりと家の中へと入っていった。

「さて、やりますか」

 2匹を見送ると前を向きなおしストレッチをする。

 前方約50m、ゴミ山の谷間、盆地のようになっている広場で土が盛り上がる。盛り上がった土は次々と人の形に収まっていく。

 形の定まった人形は順に前進を始める。次々と生まれる土人形は40体目を最後に登場を終える。

 集結した敵の戦力を前にテオは静かに窺うようにつぶやく。

「これで全部なのか?それとも、これだけいれば十分ってことなのか?」

 テオにとって最大の脅威となっているのは相手の全力を知らないこと。それは敵にとっても最大の優位となるところである。特にテオはまだこのゴーレムたちの生みの親である術者の姿すら目にしていない。その精神的優位は計り知れない。

 だが、そんなことでひるむようなテオではない。ゴーレムとは昨晩にも相手をしたばかりで戦い方も理解している。

「さっさと来いよ。てめえら全員喰らい尽くしてやる」

 そう言ってテオは右手でくいくいと挑発交じりに手招きをする。

 手招きに乗ってきたのは10体のゴーレム。1体のゴーレムを先頭に他の9体もそれぞれに走り出す。

 真っ先にテオへと辿りついたゴーレムが助走そのままにノーモーションで右ストレートを繰り出す。テオはその拳を左手で受け止めるとそのまま右手のツッパリをゴーレムの顔へと打ち込んだ。

 テオのツッパリを受けたゴーレムは右腕の肘から先と頭を失い、そのまま後ろへと倒れる。

 倒れるゴーレムの陰からは2体目となるゴーレムが腕を振り降ろしながら突っ込んでくる。これをテオは右手で受け止めると即座に2体目の頭に狙いを定める。

 だが、ゴーレムの頭を狙った左手を出すことは出来なかった。

 2体目の陰から3体目が現れテオの左頬を目掛けて拳を繰り出してきたのだ。

 テオはこれを上体をそらしかわすと3体目を視界に捉えようとしたが、その前に2体目が肘までの長さになった右腕を突き出す。

 すでに上体が伸びたテオはこれを右頬へとまともに受けた。

 地面を2度跳ねるとそばのゴミ山に打ち付けられて静止する。口の中で血の味がする。

 この時テオは全身で理解した。これが命のかかった戦いであること、1つの読み間違い1瞬の油断が死を招くのだということを。

 それでもテオの心に湧き上がる感情は恐怖ではなかった。楽しさにも似た高揚感が全身を駆け巡り、死という言葉が程よい緊張感となり指先まで全身の感覚を鋭敏にさせる。今なら血流までも感じて制御できるようなそんな気がテオにはした。

「今の1発が必殺の威力じゃなくてよかったよ。・・・おかげで目が覚めたぜ。お前ら次の1撃が簡単に入るだなんて思うなよ」

 テオはゴミ山から起き上がると口の端に滲む血を舐めとりゴーレムの群れに告げた。

 テオとすぐに戦える距離には先に来た9体のみ、あとの30体はオーディエンスのようにこちらを見ているだけ。

 その9体も今はテオの動きを窺っている。

「まだオレの実力を探ってるってとこか。・・・ならたっぷりと堪能させてやるよ」

 余裕を見せるゴーレムの集団に見せ付けるように拳を鳴らす。

 全身を流れる血液、その流れに沿うように全身を巡る魔力エネルギーの存在を強く感じる。これはブルクハルトとの特訓の成果で。体内にある魔力エネルギーの総量を常に把握すること。エネルギーは力を出したいときに込めるのではなく、出したいと思った瞬間に自然に込められているように反射を作る。

 特訓を超えたテオにとって魔力エネルギーはすでに体の一部となっている。血が勝手に全身を巡るように、荷物を持てば筋肉が収縮し力を生むように、テオには魔力エネルギーを自分のイメージ通りに力に変えることが出来る。

 次の瞬間テオは9体のゴーレムの真ん中に立っていた。

 一瞬遅れてテオの存在に気づくと、知能も本能も持たないはずのゴーレムの体がビクリと弾む。

 この驚きは術者のものだ。随時指示を出し直接制御するゴーレムには術者の強い感情がタイムラグなしに伝わるという不随意の効果が見られる。

 このタイプのゴーレムの弱点は指示にタイムラグが起きる点である。ゴーレムが攻め続ける限りはこの弱点は気にもならない。しかし、防御に回るとこの弱点は致命的である。

 だからこそこのタイプのゴーレムでの戦闘は集団先頭が基本となるのだ。

 1体のゴーレムが防御に回った瞬間、他のゴーレムへ指示を出し援護させる。

 こうすることでタイムラグの影響を少なくすることが出来る。攻撃は最大の防御とでも言うべき戦い方である。

 実際、そのスタイルでテオは見事に1撃をもらった。そして戦闘が再開されて尚苦戦を強いられているのだ。

 ゴーレムたちの連携は実に見事である。1人の術者が全体を見ながら操っているのだから当然ではあるがそれでも感心させられる。

 テオが1体の攻撃を受け止めようとするものなら他のゴーレムから二の矢を打ち込み妨害させる。

 おかげでテオは攻撃に転じることも出来ず、魔力エネルギーを得ることも出来ない。

 ゴーレムの攻撃も次第に速度と正確さを上げている。テオの動き方を術者が理解し先読みし始めているのだ。

 ゴーレムの素材を昨晩のアスファルトから土に変更しているのも見事に功を奏している。打撃力こそ下がりはするが速度は上昇するし1体にかかる魔力の量も少なくすむ。アスファルトから土へと素材の使役に割かれる魔力が少なくなる分、性能の高いゴーレムを多く造れ、テオの1口で喰らわれる部分も小さくすむ。

 そもそも『魔術喰らい(マジックイーター)』を持つテオにとって魔術であるゴーレムの防御など紙ほどにも役立たない、ならばこの選択は当然のことだろう。

 それでも戦況はテオ優勢で進められた。いくら動きを先読みされ死角から攻撃されようとも攻撃してくるのはここに居るゴーレムなのだ。昨日まで10日間『稲妻のブリッツ・フィスト』の攻撃を受け続けてきたのだ。集中を切らさない限りまともに攻撃を受けることなどありえない。

 後は欲張って攻撃に出るのではなく相手の攻撃を『魔術喰らい(マジックイーター)』で喰らってはかわしてを繰り返し、魔力エネルギーが溜まれば速度を一気に上げゴーレムのコアを喰らい、その数を少しずつ減らせばよかった。地味で根気の要る戦闘ではあるが術者はテオの動きを1歩先読みして攻撃させているだけ。テンポさえ掴めれば後は作業となんら変わりない。

 9体のゴーレムたちは徐々にパーツを失い仲間を失い、その数を減らしていった。

「これで10体目。・・・さて次はどうすんだ?」

 いくつか傷を作りながらもテオは10体のゴーレムを完食した。

 戦闘の間いつ残りの30体が加わるのかと気にしていたが、最後の1体を喰らい終わるまで参戦することはなかった。

 残り30体との戦闘のことも考えて魔力エネルギーを蓄えつつ戦闘を終えたテオ。体温が上昇し頬が赤くなっている。だが疲労の色はまだ見えていない。むしろ今、これまで感じたことがないほどに調子が上がってきている。

 テオの様子を観察するように観客席から視線を打ち付けていたゴーレムたちは10秒ほどの思考時間をとると5体が円陣を組むように集まり始めた。

 肩を組み円を作るとその足元に魔方陣が展開される。遠隔魔術、上級魔術師の認定試験の課題の1つ。しかもあらかじめ地面に魔方陣を仕込んでいたのではなくすでに発動しているゴーレムをキーとしての術式の展開と発動。間違いなく術者はファルネムトでも指折りの魔術の研究者であり、その実力も魔術師全体の10%以下といわれる上級魔術師以上。

 魔術が発動するとゴーレムの体は光り、重なった5つの影は1つの大きな塊となっていく。

 光は6つの人形に収まる。全体的に分厚さが増した土人形の背丈はおよそ3m、体積はきっと元の5倍になっているのだろう。しかし単純に5体のゴーレムが1体になったというだけではないとテオは直感的に感じた。それは大きさの問題ではなく、それぞれのゴーレムが放つ威圧感や存在感によるものだった。

「よくわかんねえけど、あれだ。・・・嫌な感じがするな」

 口にした言葉は逆にテオの顔は挑戦的な笑みを浮かべ、口の端を軽く舌なめずりしてみせた。

 心臓がバクバク言っているのがわかる。これは戦闘のせいではなく緊張しているのだとすぐに気が付く。

 さっきの笑顔だって苦笑いで舌なめずりも唇が乾いたのだ。決してこの状況を楽しんではいない、そんな余裕など微塵もない。そう心では思っているのに体が警戒しようとはしてくれない。今はテオの思いを語っている心だって少し気を抜けば『今すぐにでもゴーレムに飛び掛りその魔力を喰らってやれ』と命令を出したがる。

 敵は目の前のゴーレムでありその先に居るはずの術者であるはずなのに、今は自分の心を逸らせる高揚感で精一杯になっていた。

 その瞬間、ゴーレムは一斉に動き出した。1体は走ってくるわけでもなくいきなり跳びあがるとそのままテオ目掛けて自由落下してくる。

 落下の勢いを受けながらゴーレムは両手を組み振りかぶる。

 テオはそれをただ見ていた。

 土属性魔術ゴーレム、その殺傷能力は他属性の魔術に比べると低く派手さもない。しかし、決して弱いというわけでない。ゴーレムは魔術ではあるが攻撃自体はそこにある土や岩による打撃である。つまりは対魔術の防御術式は無意味。その殺傷能力も魔術の中では低いというだけで対人間であればその威力は充分であることは知られている。

 先ほど常人サイズのゴーレムの1撃であれだけ吹き飛ばされたのだ、今空中に見えるあれをまともに受ければ間違いなく死ぬ。そんなことは誰に言われずともわかっている、わかっているのにテオの体は動かなかった。

 逸る心にストップをかけた瞬間体にもストップがかかった。自分自身の思考と心と体がバラバラになっていた。その瞬間を相手に突かれた。ただそれだけのこと。

 もしこの状況をスポーツの実況者が見ていれば『上手くタイミングをずらしましたね』だの『これは相手を褒めるしかありませんね』だのとお手上げのセリフを軽々しく口にするのだろうが、そんなわけにはいかない。その1撃で訪れるのはただの1敗ではない、死なのである。

 それでも、テオの体は指1本動こうとはしなかった。

 迫り来る大きな土の塊についにテオの思考すらも停止した。

 ズドン!という大きな衝撃音とともに辺り一面に土煙が巻き上げられた。その衝撃は大砲でも打ち込まれたかのようだった。

 土煙の中でテオは自分の体を確かめる。2,3度手を握り足を踏む。辺りは土煙で見えないがどうやら直撃はしなかったようだった。尻と手のひらに地面を感じることから地面に座り込んでいることはわかった。

 つい10分ほど前に1瞬の油断が命とりになると理解したところだというのにこの情けない様だ。自分で自分が嫌になるとテオはまた笑えて来た。

 今日はじめて命を賭けた戦いをするのだ、油断もなく自分の思い通りに完璧にやり過ごすことなど不可能というもの。むしろ幸運でもなんでも命も残したまま生きて帰れればそれは驚くべきことなのだ。

「ラッキーでもなんでも生き残った奴が勝ち、だよな」

 土煙の中でテオは今一度心を落ち着かせ集中するために自分に語りかける。

 まだ考え方が甘かった。ミアを狙う犯人を懲らしめるだとか捕まえるだとかせめて手がかりを掴んでとか、そんな話ではない。まずはどれだけ格好悪かろうともここに居るゴーレムを倒し生き残ることそれだけを考えなければ待っているのは死のみだ。

 テオは腰を起こし地面にかがみ直す。音を立てないように静かに周りを見渡すとむくりと起き上がる影が1つ。

「まずは1匹、あいつを喰らうとこから・・・」

 土煙が術者の視界を奪ったことでゴーレムはただ立ち尽くすことしか出来なかった。

 テオは腰を落とし体を縮めたままゴーレムのそばへと向かう。

 足元まで来るとその大きさに改めて驚かされる。

「こいつが他にも5体居るのか・・・」

 そんなことを考えると思わず生唾を飲んでしまう。

 だが、どれだけ大きかろうともゴーレムの弱点は変わらない。頭部に存在するコアさえ喰らってしまえば術者の指示も受け取れなくなる。

 テオは呼吸を整えるとかがんだ姿勢から一気にゴーレムの頭部へ跳びついた。

 ゴーレムの頭上を跳び越し地面に着地したテオの右手にはゴーレムの頭部だった土の塊が握られている。

「残り5体」

 一仕事終え一息ついたテオに影が被る。

 慌てて振り返ったテオの目の前には頭部を失ったゴーレムが右腕を振り上げている。

「なんでっ!コアはさっき喰ったはず・・・」

 言葉にしてすぐテオの脳内では1つ予想があがった。

「まさか、コアは5つあんのか?」

 合体したゴーレムの数は5体、つまり合体前に存在していたコアも5つ。そして今頭部のコアを失いながらも行動を続けているということはこのゴーレムの体には5つのコアが存在していると考えるのが妥当だろう。

 当然テオの疑問に答えることなくゴーレムは上げた腕を振り下ろす。

 土煙で正確な位置がわからないのかゴーレムの腕は体2つ分、テオの右に振り下ろされた。しかし、その威力は血の気を引かせるには充分なものだった。地面に打ち付けられた腕は周囲の土を吹き飛ばし子供1人が入れるほどのクレーターを作った。

 再び巻き上がる土煙はテオの姿を隠しゴーレムの動きは再び止まる。

「まずはコアの場所を把握しねえと・・・。他にも5体も居るんだちまちま戦ってたらミンチにされちまう」

 さっきみたいにヒット&アウェイで戦うにもコアの場所がわからないのではゴーレム30体分の魔力を全て喰わなければならない。そんなことをしていたのではいつか死んでしまう。相手の1撃はテオの命を刈り取るには充分なものだ。そんなものを素手で受け止めるわけにはいかない。たとえ魔力を喰らいその場で土になったとしてもそれまでの勢いが一切なくなるわけではない。魔力を失った土の塊はそのままテオの体をなぎ払い大ダメージを与えるに違いなかった。

 そんなものはきっと1度としてやるべきではない。テオには相手の攻撃を全てかわしコアを的確に喰らう必要があった。

 そのために今相手がテオを見失っているこの好機をコアの位置を把握するために使う。

 テオは右の拳をしっかりと握りこみ欲しい力の大きさをイメージする。

「ゴーレムの体をバラバラに、弾き飛ばすようなイメージで・・・」

 軽くステップを踏むとゴーレムのみぞおち辺りに向けて右の拳を突き出した。

 バカン、と大きな音を立てゴーレムの体はボウリングのピンのように勢いよく弾け飛ぶ。周囲の土埃も一緒に吹き飛ばされ景色は一瞬にして晴れる。

 吹き飛ぶゴーレムの破片の中に4つのコアがキラリと光る。しかし、テオはすぐにはそれを喰らいには行かない。ゴーレムの体が再生する際にコアがどこに組み込まれるのか、それを確認しなければわざわざ魔力エネルギーのほとんどを消費してまでゴーレムの体を吹き飛ばしたのかわからなくなってしまう。

 すぐにゴーレムの再生は始まる。しかし、相手もそう易々と弱点の場所を教えるつもりはない。再生するゴーレムを見つめるテオの元へ5体のゴーレムが突っ込んでくる。

 テオは即座に向かってくるゴーレムの方へと向く。テオから見てゴーレムが重なって見えるとすぐにテオは拳を握り腰を落として構えた。

「ギリギリだな・・・。破壊力はなくていい、キュー・スティックで真っ直ぐにボールを突くように」

 テオは丁寧にイメージを作ると一瞬にして先頭のゴーレムの懐へと飛び込んだ。

 ゴーレムの重心へと狙いを定め握った拳を突く。

 真っ直ぐに打ち抜かれたゴーレムの体はくの字に曲がり後ろに続いた4体を巻き込んでさらに後方へ80mほど地面を跳ねながら飛ばされる。

 この1手でテオが稼ぐ時間はわずかに10秒ほど。だが、このわずか10秒がテオの生死を分ける。残していた全ての魔力エネルギーを使い切ってでも稼ぐ必要のある10秒だった。

 その成果は充分にあった。

 赤く輝くコアはそれぞれ足と腕の付け根へと組み込まれて再生されていく。

 それだけ確認できればこのゴーレムにもう用はない。コアが収納されるのだけ確認するとすぐさまテオはゴーレムを駆け上がりコアを喰らっていく。

 5つ全てのコアを失ったゴーレムは土くれとなりガラガラとその場に崩れ落ちた。

コアの位置は確かめられた。後は残る5体のゴーレムをこれまでと同じくヒット&アウェイで少しずつ削っていけばいい。

 全く格好良い勝ち方ではないし、見る人によれば卑怯とでも言うのかもしれない。だが負ければ死ぬ、命を賭けた初めての戦いで生きて帰ることこそ最高の戦果だと、そう思い逃げ腰の戦いを決心したのだ。

 なのに、残されたゴーレムたちは動こうとはしない、またしても。

 先ほどからテオの中でぼんやりと浮かんでいただけの思いがはっきりとした形を持っていく。

『これまでの戦いでこいつらはオレを殺しに来てない』

 もちろん、あわよくばこの段階で死んでくれればいい、程度の思いはあるだろう。だがゴーレムたちは確実に殺そうとして戦いに臨んではいなかった。そうテオには感じられた。

 ここまでのゴーレムの動きはどれも予定されていたもののように思えたのだ。必要以上の追撃も我武者羅な攻撃もなく、必死さに欠けた戦いぶり。防御にしてもテオの攻撃を防ごうとはしてもかわそうとはしなかった。

 そして何よりテオの攻撃が上手くいった後のこの間がテオには不気味で心をかき乱される。人の動きを観察・解析しそれを踏まえた対抗策を練るような気味の悪い静寂の時間。重く鈍い緊張感が場に満ちていく。

 ねっとりと絡みつくような緊張感がテオの口から流れ込み心臓を締め付ける。

 2つ、テオの直感が警告してくる。

 1つは追い詰められつつあるのが自分であること。

 もう1つは敵の次の攻撃は確実にテオの命を狙いにくるということ。

 それがわかっていながらもテオにはどうすることも出来なかった。

 逃げ出すことも、戦う意思を固めることも、助けを求めることも、ただゴーレムたちの次の動きをその場で見守ることしか出来なかった。

 きっとその昔、魔法もないころ丸腰で熊に出くわした人は今のテオと同じ思いを感じていたのだろう。

 テオの恐怖と心配とが入り混じった視線を受ける中ゴーレムは静かに動き始めた。

 5体のゴーレムが先ほどのように輪を作る。

 テオの心のせいだろうか、この土人形たちが作る円陣すらも先ほどとは異なり真剣さを纏っているように見える。お互いに組み合う肩、相手を掴む手の間から光が発しゴーレムの体を駆け巡る。光の筋は枝分かれを繰り返し地面に向けて流れる。

 別々に流れた光は同時に地面へと到達すると一気に地面を駆け魔方陣を描く。先ほどよりも大きく組み上げられた術式もより複雑になっている。

 見た限り、魔術の効果は先ほどと同じゴーレムの合体生成。魔方陣の上に誕生したのは常人サイズのゴーレム25体分のモンスター。身長は元の3倍およそ5mにまで達し、他の部位も全て同様に3倍近くにサイズアップしている。

 それでもテオは目で見たものが全てだとはどうしても思えなかった。『さっきの魔術が単なる合体生成魔術であるわけがない』、『必ず何かしら追加要素が、ゴーレムのアップデートがされているに違いない』そう全身の細胞が告げている。目の前の現実を捉える視神経さえもが『間違っているのは自分だ。絶対に見落としがあるはずだ』と主張する。

 だとすれば敵は1体のみでまだ生成直後のため動きが緩慢な今、先制を仕掛けるほかなかった。

 しかし、コアを喰らって最短で戦いを終わらせようとしても25体分のゴーレムとなればコアも25個それも場所がわかるのは先ほどの5個だけ。魔力エネルギーも空の現状では瞬時にとどめを指すことは不可能である。

 それでも悩んでいる暇などない。まだ魔方陣の光が残っているうちに仕掛けなければ覚醒してしまう。

 テオは迷いを捨て走り出した。

 魔方陣は光とともに消えゴーレムの瞳に光が灯る。それからゆっくりと体を起こし始める。

 そのとき、テオはすでに折り曲げられた左ひざを踏み台にゴーレムの体を駆け上がり左肩を喰らっていた。接続部位を失い落下を始めた左腕を踏み切り頭部へと喰らい付く。

 頭部を喰らうとそのまま右肩へと手を伸ばし右肩をも喰らった。

 起きてわずか1,2秒の出来事にゴーレムは右腕を大きく振って肩に乗った虫を追い払おうとした。その拍子に右腕は地面へ一直線に吹っ飛び頭部は足元に転がった。

 同時にテオも吹っ飛ばされるが2,3度地面を跳ねると体勢を立て直した。

 体を起こしながらテオは自分の手のひらを訝しむように覗いた。

「変だ・・・。コアを喰らったにしては軽すぎねえか?」

 そう呟くと確かめるように顔を上げる。

 上げられた視線が捉えたのは信じがたい光景だった。

 コアを喰らわれ魔力の流れを失った両腕と頭は地面に落ちた、はずだった。その両腕が頭がまるで逆再生されるかのように元の場所へと戻っていく。魔力を失った箇所分の素材は分断された両側から回され補われる。5秒もすれば元どおりの姿になっていた。

 この光景がテオの中にあった幾つかの違和感を1本の線で結んでいく。そしてその線の先には1つの事実が存在していた。

『今のゴーレムは術者制御型ではなく自立思考型になっている』

 そうであれば全て説明が付いた。自立思考型ゴーレムは術者制御型とは違い常にコアは1つなのだ。たった1つのコアが人間の脳のような働きをすることで活動する。そしてそのコアの位置は人間の心臓がある位置、胸の真ん中である。

 だからこそ両肩にも頭にもコアが存在しないことは至極当然の話なのだ。

 ゴーレムが自立思考型になっていること、それは『コア1つになってるの?ラッキー』だとか『コアの場所も決まってんでしょ?楽勝じゃん』などと言える話ではない。

 自立思考型ゴーレムは名称どおり自ら考え行動を決する。つまり指示を受ける間のタイムラグもなく純粋な対人戦闘となんら変わらない。その上その行動パターンは術式として組まれるので人間と違い迷うことはなく常に最善の手を打つ。

 これまでのテオの戦闘パターンはすでにコアに組み込まれているだろう。

 体格に差のある相手に真っ向勝負、相手は自分の動きを熟知している。少なくとも今のままのテオでは勝ち目など全くない。

 テオは唇を強く噛み締めた。唇が切れ血が滴を作り流れ落ちる。

 『悔しい』テオは強く何度も何度も心の中で叫ぶ。全身の細胞が声を上げる『まだ死にたくない』と、脳は考える『どうすれば死を避けられるか』と。

この戦いにおいて勝敗は生死を意味する。1つのミスが一瞬の油断が死を招きいれるのだ。テオはそれを戦いの最中理解した。だからこそ死に捉えられないように、その姿形を見なくてすむように避けて距離をとっていた。

 だが、もうそれでは許されない。

 相手はさらにテオとの距離を縮める、影から恐怖そのものとでもいうような気味の悪い笑みを浮かべた死が手招きをする。

 それならば、と今一度距離を開けてやりたい。なのに、テオにはその余裕がなかった。振り返ればそこあるのは奈落へと続く断崖絶壁、すでにテオに安全地帯など残されてはいない。

 唇に突き立てられた歯が静かに離れる。ほんの1,2秒、間の抜けた表情が現れるとすぐに口元に笑みを浮かべる。

 テオの突然の笑みにゴーレムは警戒して足を止める。

「『活路を得るため敢えて死地へ赴く』か」

 それは、遠い昔誰かが口にした言葉。いつ誰から聞いたのか、どうして覚えていたのかもわからない言葉、それでもこの言葉のおかげでテオは心を悔しさに塗りつぶしながら死を待たずに最後まで前を向いていられる。

「死を覚悟する、ってのは聞こえは格好いいかもしれねえけど、生を諦めて死を受け入れるってことでもあるよな。はは、くそだせえ・・・」

 言葉にしてみて初めてわかった。死の手が届かないように余裕を得るためにどれだけ心の余裕を失っていたか。

 リアムなどこのファルネムトにおいては死人と同じく無価値な存在であるというのに。

「オレはもともと『永遠の敗者』なんだ、勝ちを得るためなら自分の命だろうが道具として扱ってやる。喜んで死地へ赴こうじゃねえか!」

 まだ緊張が残った顔で挑戦的な笑みを浮かべたテオは片手を地に着け足に力を込める。

 突如浮かべられた笑顔に一人問答、テオの不可解な行動に警戒していたゴーレムの胸元目掛けてよーいドンと跳びかかった。

 だが、ゴーレムもそう簡単にはコアがある胸へと近づかせてはくれない。

 魔力エネルギーを込めたテオの攻撃を全て防ぎながらも反撃の手をさらに増やす。

 1つ攻撃をかいくぐり近づこうにも肝心の胸への攻撃は巨木のような両腕に阻まれる。折角詰めた間合いもその腕に押し切られ振り出しに戻される。それでも休むことなくテオはゴーレムの胸元を目指す。前から横から後ろから、体勢を変えきっかけを変えゴーレムの防御を抜ける穴を探し続ける。

 それでもコアを喰らえるだけの距離に近づくことは出来なかった。コアとテオとの間に両腕があるだけで『魔術喰らい(マジックイーター)』の射程外になる。ゴーレムからしてみれば最後は絶対にコアを狙いに来るのだから防ぐのは容易だった。

 テオの攻撃回数が増えればそれだけゴーレムは戦闘パターンも予測し易くなる。実際テオは胸元へ飛び込む前に退けられることが多くなってきた。

 状況はファーストピリオドとは真逆、ゴーレムが気を抜きさえしなければ負けることはない。テオにとっては苦しい展開だった。速度を落とせば1撃で沈められる、それどころか速度を上げ続けないとすぐに追いついてくる。それなのにこちらの攻撃ではこのデカブツ相手にまともなダメージは入らない、コアを狙おうにもがっちりと両腕が行く手を阻む。息は上がり、足が上がらなくなってくる、体には生傷が増え、動く度筋肉と間接が悲鳴を上げる。

 それでもテオは攻撃の手を緩めない。緩めれば死ぬことになるからではない、あと1歩前へ踏み込むことが出来れば生き延びることが出来るからだ。

 振り回される両腕の間に見えるゴーレムの胸がテオの集中を高める。いつしかテオはゴーレムとの間合いを広げられることは無くなっていた。攻撃をかわし1歩踏み出そうとすれば腕が間に割ってはいる。一瞬の隙も許されない一進一退の攻防が続いた。

 テオはあと1歩踏み出せる隙を作ろうと攻め続け、ゴーレムはあたりを駆け回る負け犬の足が止まる一瞬を待ち続けた。

 限界まで張り詰めた緊張の中一進一退の攻防は2分間続いた。

 そして結末は何の前触れもなく突然に訪れた。

 ジャリッ、テオの右足は地面に広がった土の塊に滑らされる。

 ゴーレムの残骸、ゴミ溜めには見られない小粒で丸みのある土の塊が転がっていた。ゴーレムが疲労の溜まったテオを誘導したわけではない、テオがコアのある胸元に集中していたために足元に転がる塊に気付かなかったのも偶然。それでも、テオは土の塊に右足をとられバランスを崩した。

 動きの止まった負け犬に向け渾身の力で1撃を振るう。大きく踏み出された足は地面を踏み抜き振り上げられた右腕がうなりを上げテオに迫る。

 テオの視線は足を滑らせた瞬間にその足元へと奪われた。足元に転がる塊を見ると強い悔しさが心に溢れた。

『まだ終わってはいないだろう?可能性はまだ残っている』

 誰かに言われた気がした。

 急いで振り返ればそこに見えるのは腕を振り上げるゴーレムと勝利の笑みを浮かべる死の姿。だがその姿はこれまでにないほど、あまりにも近かった。

 待ちわびた瞬間にゴーレムの1歩は必要以上に大きくなった。詰められた二人の間合いはあとひと伸びでテオの『魔術喰らい(マジックイーター)』がゴーレムの胸元を抉れるほどに近づいた。

 テオの瞳に活路が光を見せた。

 タイミング的にゴーレムの右腕を喰らうのと同時か少し後手になる。それでも一度目にした光に手を伸ばさないでいる理由などテオにはなかった。

 テオは滑った右足に残された魔力エネルギーを全て注いだ。限界を超える力を受けた右足は地面を蹴り出すと同時に叫びを上げて意識を失った。

 ゴーレムの胸元目掛け飛び出したテオは激痛が走る右足に構いもせずに右腕に集中する。

「親父には禁止だって言われてっけど、仕方ねえよな・・・。とっておきだぞ、存分に喰らいやがれ」

 テオは指を立て手の平を広げた右手を構える。

 ゴーレムはその構えられた右手を一瞬気にはするが構わずに右腕を振りおろす。テオの右手がゴーレムのコアに届くよりも先にゴーレムの右腕がテオを襲う。

 ゴーレムの攻撃を受ける直前テオは左半身を縮めせめてもの防御姿勢をとった。空中にいたおかげでゴーレムの攻撃を少しは受け流せた。それでもテオの左の手足は即席ラーメンでも砕くかのように骨を粉砕された。

 意識が飛びそうになりながらもテオの視線はゴーレムの胸を捉える。

 あと15㎝。今手を伸ばしてもゴーレムにはそれだけ届かない、『魔術喰らい(マジックイーター)』が使えない。あとコンマ何秒、それだけの時間我慢すれば勝てる、なのにテオの体は前に進まず右へと流れ始めた。

「くそっ」

 痛みと悔しさに顔を歪ませたテオをゴーレムが笑ったような気がした。

 だが本当に笑っていたのはテオだった。

「『勝った』、とか思ってんだろ?とっておきなんだ、遠慮せず喰らっとけよ」

 テオはゴーレムの体を斜めに斬るように右手を振るった。

「『魔犬の一口』」

 テオの右手は空を切り体は右へと吹き飛ばされた。

 ようやく満足のいく1撃を入れられたゴーレムは任務を果たした達成感とともに体を起こす。

 ズズゥン。起こされる体から大きな塊が落ち、瓦礫が続けて降り注ぐ。

 ゴーレムの視界は地面から空を見上げていた。そこには左肩から右の脇腹までを一直線に抉られその上部を失った大きな土の人形が立っていた。

 ゴーレムに殴り飛ばされたテオは200mほど離れたゴミ山に背を打ち付けてようやく静止した。左の手足は骨を砕かれ感覚もない、右足も膝から下は似たようなものだった。

 テオの外傷はそれだけではなかった。最後に振るった右腕は赤く染まり体表が裂けて血が噴き出している。内臓を損傷したのか口からは血を吐き右目からも血を流していた。

 それでもテオの顔は笑っていた。『やってやった』と満足げだった。

 『一口の大きさに限界はない』テオが『魔術喰らい(マジックイーター)』について語ったときの一言だった。

 なら、届かなければ一口を大きくすればよかった。コアを確実に喰らうように、許容量も無視して。テオはゴーレムとの間の空間に存在した魔力も含めイメージした一口分の空間全ての魔力を喰らった。その結果、身に余る魔力エネルギーを体内に取り込み多くの細胞が死滅した。それが血の噴き出す右腕に臓器の損傷、右目の流血の正体だった。

 テオは軋む体で首だけ起こすとぼやける視界で相手の姿を探した。

 いつもよりも散らかったゴミ山に立ち尽くす人影を見つける。視界が定まってくると頭部を失ったゴーレムであることがわかる。

 頭を落としたゴーレムの姿にテオはほっとした。

 しかし、次の瞬間笑顔は緊張感に凍りつく。

「立ってる?」

 そう、ゴーレムは今も立っているのだ。コアを喰われればゴーレムは魔力を定着させれずに土に還るはずなのに。

「・・・まじかよ」

 右肩と頭部を落としたままのゴーレムが振り返るとテオは愕然として言葉をこぼした。

 テオが喰らってできたゴーレムの断面には赤く輝く鉱石のようなコアが見えた。断面を見るだけでも大人が膝を抱えたぐらいの大きさがありそうだ。

 当然、コアがまだ生きているのだからゴーレムはまだ生きている。しかしコアを半分ほど削られ魔力の多くも喰らわれたため再生が遅い。

 『今のうちに次の手を』そう思い懸命に頭を働かせるが今のテオには文字通り手も足も出せない。ただ再生していくゴーレムを見ていることしか出来なかった。

「くそっ、結局駄目なのかよ」

 四肢を犠牲にしてもまだ勝てない。テオの言葉は込め切れないほどの悔しさを孕んでいた。

 視線の先ではゴーレムが再生しながらこちらに向かってゆっくりと歩みを進める。これが勝者の余裕、勝者の風格、勝者の姿なのだと見せ付けるかのようなゆっくりとした歩み。テオは最早その悔しさを言葉にすることも叶わなかった。

 全てを諦めるようにテオが瞳を閉じようとすると聞き覚えのある声が耳に届く。

「泣き寝入りなど随分とださい真似をするのだな、テオ」

 挑発的な上からな言葉使い。声がしたのはゴーレムから遠く左の方向、テオの家の方向だった。赤みがかった茶髪に細身で小柄な体の少女がエプロン姿で家の前に立っている。

「ミア、お前なんで出てきたんだよ!あいつ昨日のゴーレムだぞ」

 テオの言葉にミアはふっと鼻で笑ってみせる。

「知っているがそれがどうかしたのか?」

「どうかしたのかって、お前の魔術じゃあいつは倒せえだろうが!」

 余裕をかますミアにテオが慌てて声を上げた。

 しかしミアはテオの言葉などろくに聞きもせずに鼻歌交じりに地面に何かを書き始める。

 ゴーレムは身動きの取れなくなったテオは無視して、本来の標的であるミアへと方向転換してまた歩き出す。再生もすでに右肩の辺りまで進んでいる。失った魔力の分サイズダウンしてはいるがそれでもミアを捉えるには充分な力すぎる力がある。

「くそっ、あの野郎何してんだ。さっさと逃げろよ」

 逃げようとしないミアの元へ向かおうとテオは感覚のない体を揺らす。地面に倒れこむと全身に激痛が走る。

 激痛に顔を歪ませながら顔を上げるとまさにゴーレムが再生を終えるところだった。

 戻った右腕を確かめるとゴーレムはミア目掛けて走り出す。

「バカ野郎!早く逃げろ!」

 テオの必死の言葉にもミアは動じずに地面に何かを書き終えるとゆっくりと立ち上がった。

「全く、私を何だと思っているのだ」

 ミアは少し不機嫌そうな表情をすると両手を前に構える。

 走り来るゴーレムを見据えるとすっと意識を集中させる。突き出した両手に力がこもると地面から光が漏れる。

「属性は闇、形状は沼、用途は拘束、魔術名はダークネスマーシュ」

 ミアが唱えるとゴーレムを中心に地面に真っ黒い円が広がった。ゴーレムは足元からずぶずぶとその闇に呑み込まれていく。手を突いて上がろうとすれば今度はその手が捕らえられ呑み込まれる。

 身動きの出来なくなったゴーレムに向けてミアはさらに詠唱を続ける。

「属性は雷、形状はビーム、用途は昇華、魔術名はライトニングストライク」

 今度は地面から出た光が両手の前に魔方陣を描く。

 ミアの詠唱により魔方陣からは柱上の雷が飛び出した。雷の柱はゴーレムの上半身を捕らえるとさらに先のゴミ山も貫通し空中に霧散していった。

 雷の柱に触れた部分は一瞬で蒸発させられ後には何も残らなかった。

 取り残されたゴーレムの下半身は土の塊となって闇の沼に呑み込まれていく。

 目の前で見せられた圧倒的な魔法力に自分の頑張りは何だったのかと、不満を感じながら、テオは意識を失った。

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