第六話 武特高Ⅱ
昼食は学校の食堂で済ますのが平日の当たり前になった。(千夜のは毎日俺が作っている)だが今日は違った。
「はい、弁当。それと、私も一緒に登校していい」
「弁当はありがたいが、一緒に登校するのはやめてくれ」
「?」
「いや色々と駄目だろう」
「どうしても駄目?」
いやー可愛らしく言われてもな
駄目なものは駄目だろ、ほら同じ高校の人に見られたら、女子とかすぐ広めるし。
うっ、そんな『ねえ、駄目?』オーラを出されても・・・・・・そうだ。
「俺は普通に登校する。香奈は俺に話しかけない触れないを徹底してくれたら別に構わない」
「そ、そんなー。・・・・・・中学生のときは一緒に登校してくれてたのに」
「それは・・・・・・あー、あれだ。護衛みたいな」
「じゃあ今日も護衛してね」
あーーーーー、ハ・メ・ラ・レ・ターーーーー。
「分かった、分かった」
これはしょうがない。口は災いの元だな。
朝から最悪だ。普通の男子は喜ぶだろうな。
あー、やだやだ。もう最悪だ。
「ひゅー、ひゅー。朝からアツいね」
ほら見ろ、教室の扉を開けたらすぐこれだ。
いちいち否定しても冷やかされるだけだ。
「はあ」
窓側の自席に腰をかけると同時に無意識に大きいため息が出てしまう。
「朝からイチャイチャしやがって」
「だ、だめだよ。火に油を注ぐようなことを言ったら」
俺の首に腕をかけてきたこのつんつん頭の男臭い男、専門科目は整備科。『塩野明』。あきらではない。
そして小柄で髪も少し長く、女子のような顔立ちをした男、専門科目は救護科。『尾紀遥華』。おきはる、ハルと呼ばれている。
「ハル」
「!!!」
「俺は大丈夫だ」
うん、俺は冷静だ。
「ていうか、なんでお前と香奈さん付き合わないの」
明が意味の分からないことを言う。
「何が言いたい」
「っ!!な、なんでもねぇ」
明がつまらないことを言うのでつい殺気を放ってしまった。
「あぁ、違う。そのなんだ・・・・・・俺と香奈はそんな関係じゃない。それに釣り合わないしな」
「そんなこと無い!!」ガタ
立つ勢いで椅子が倒れた。倒したのは香奈だ。こんなことをするのは珍しい。その場に合わせた気配りができる可憐なご令嬢と言われているのに。
こんなに自分の感情を表に出すことは無かった。どうしたんだ。
「あっ」
自分のしたことに気がついたらしい。
俺を含め、皆香奈の行動に驚いている。
「ご、ごめんなさい。そ、その」
「大丈夫だ、なあ」
「あ、ああ。まあ、少し驚いたけどな」
「そ、そうだね」
ふう、これでこの騒ぎは一件落着だ。
「なあなあ、香奈さんってやっぱいいな」「俺もそう思う」「俺も俺も」「なんか、引き寄せられるよな」「ああいう一面もいいよな」
最近は香奈の人気がうなぎのぼり、その可憐、美麗な姿はこの学校全体に広まり千夜が通う中等部も人気上昇中だ。
「ほら、朝礼が始まるぞ」
先生が入ってきたし、チャイムもなったしな。
4時限目のチャイムが鳴った。やったぜ、お昼だー。
「よし、食堂行こうぜ」
いつも通り明が一番乗りに俺の元に来た。
「よし行くか。・・・・・・グェ」
誰かが服の裾を引っ張るから変な声が出てしまった。
誰だよ、俺の学校でのオアシスの時間を邪魔するのは・・・・・・
「あっ」
今日は珍しく弁当があるのを忘れてた。香奈の机の上を見るまで。香奈の机の上に弁当が置いてあった。
俺の弁当も香奈に作ってもらってたんだ。
「ごめんな、今日は弁当があるから学食にはいかねぇ」
「はあー、お前が弁当を作った」
「俺じゃねぇ。作ったのは香奈だ」
「夫婦かっ!!」
「違うは!!」
「じゃあなんだ」
「簡単に言えば居候」
「どっちが」
「香奈が」
ず~ん
そんな感じのオーラが漂ってきた気がする。こっちから漂ってきたと思って廊下側を見ると近くに居ました。一目見ただけで分かるほどのしょんぼり感だ。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「お、俺学食行ってくる」
「ちょ、ちょっと待てくれ」
言い終わる時には教室の外へハルと一緒に走っていった。どうすんだよこの空気。
「んん、香奈」咳払いを1つ。
「はい」
明らかに元気が無い返事だ。
「その・・・・・・屋上で弁当でも食うか」
「はい」
おお、元気になった。
屋上には簡単に行けるが誰も行かない、めんどくさいからな。
こんなに快適なのにな。風は程よく涼しいため居心地は最高だ。俺も昼寝スポットとして使っている。
さて、そろそろ弁当を開くかな。
さ、さすがだな。完璧と言っていい。カロリー計算もされていて、バランスも良く、彩りも良い。
それでは「いただきます」
見た目はいいが味は最悪とかあるあるだからな。ここは慎重に行くべきだ。
箸で出汁巻き卵を挟み口まで運ぶ。
「・・・・・・ごく」こ、これはうまい!!
出し巻き卵は卵と出汁で作れる、そのバランスが大事になるがこれはうまくバランスがとれている。
視線を感じると思ったら横に座った香奈が凝視していた。俺と目が合うと視線を下にそらし、頬が少し紅潮しながら「おいしい?」と聞いてきた。
ここは素直に答えてやるのが普通か。
「ああ、おいしい。こんなにおいしい弁当は久しぶりだ」
それを聞いた香奈は「やった」+小さくガッツポーズ、をしている。
「これで・・・・・・に必要なスキルのうちの1つはOK!」
何のだよ。まさか香奈はコックになりたいのか。それは無いな。
そんな事よりさっさと食ってしまうか。
「最近は平和だね」
急に何の話だ、ただの世間話だといいが。
「ああ、嘘みたいに平和だ」
それもそうだ、前の大戦で嫌というほど味わっているはずだ、俺達の先祖は。
「こういうときにこそ嫌な事が起こる、だから桜くんも気をつけてね」
社長の勘、いや女の勘ってやつか。
「ああ、分かった」
俺は本当に分かっているのか、本当に理解しているのか。
この先どんなことが起きようとも冷静にいられる覚悟が俺にあるのか。
そんな思考は屋上に吹く風に流されてしまうような気がした。