第四話 踊双姫
扉を開けても何も起こらなかった。
「と、とりあえず入ってくれ。今のところは大丈夫な気がする」
「う、うん」
香奈は俺よりも気配に敏感だからかも知れないが、少し怯え過ぎている気がする。
とりあえず、香奈を連れてオーラを出している本人が居るであろうリビングに行ってみる。
「た、ただいま。少し遅くなった」
当の本人は俺達から瀬を向け座っていた。
「・・・・・・おかえり」
「たぶん分かってると思うが何日間か香奈を泊めさせるからな」
「・・・・・・・」
返事は無い。
「これから少しの間よろしくね、千夜ちゃん」
さっきまでの怯え方が嘘のようだ。ニコニコ言うもんだから、殺気がやばい。
「・・・・・・・」
「よろしくね」
「・・・・・・・・」
俺もう外行って良いかな。とてつもなく苦しいんだが。
「あー、なるほど。兄さんが自分から盗られると思ったんだね、しょうがないよ。女の子が二人以上居るとき可愛い子を選ぶのは当たり前だもんね」
あー、これは馬鹿にしてるな。絶対、下に見てる。
「怪我しても文句を言えなくしてやる」
あ、これめっちゃキレてる。口調が。
急に立ち上がったぞ。
手に持っているのは魔銃かな、魔銃だね。
嫌な予感がす
シュッ
「ん」
何だ。
気になって後ろを振り返れば壁に氷の塊が衝突したような痕跡がある。
これ、千夜が香奈に向かって撃ったのか。
危険すぎる。
でも待てよ。
何の前触れも無く撃った魔術を避ける香奈もやばくないか。
その二人が今から喧嘩すると思うと、はー。
改めて、嫌な予感しかしない。
「怪我して文句言えなくなるのはどちらかなあ」
あ、もうこれ駄目だ。巻き添え食らう前に逃げるしかない。
廊下までもう少しだ。そこまで行けば玄関に直行だ。そうしたら生き残れるはずだ。
シュ
俺の背後からの二発の攻撃が真横を通り抜ける。
1つは銃弾、もう1つは小さな氷の塊。って、香奈がいつの間にか拳銃抜いてるし。
「「死人が出ないように見ててよ」」
最初の死人が俺でないよう願いたい。
「キャラが被ってるのよ」
昨日見た魔銃の銃口から香奈の胸中央に電気が迸る。
パン
香奈と千夜の間で電撃が止まる。弾丸が電撃を止めた。あの一瞬で。
「魔術士と銃士の戦闘では最初の一発目は銃士のはずだけど、これは教育が必要だね」
どっちもヤル気満々だなあ。けどこれは千夜の本当の実力と香奈の実力を見れるチャンスかもしれない。
盗めるものは盗みたいができるかなあ。
とりあえず千夜の武装は昨日の魔銃だけに見える。
香奈も自分が開発した銃だけに見える。
香奈の銃はグリップが少し薄く銃身が細く女性にも使いやすい。
色はシルバー。
全ての動作が滑る様にできる、安心感が高いらしい。
名前はまだないはずだったか。
さっきからずっと撃合っているがなかなか決着が付かない。
千夜の残りの弾数、魔術はまだ尽きるようには見えない。
それに比べて香奈は残りの弾数は決まっている。そのハンデがあるのだが香奈はうまく立ち回れている。
このままいけば香奈が勝つのではないかと思わせるほどの余裕が戦い方から見える。
あれほど強い千夜相手にここまでやるとは思わなかった。
俺の中での最強が変わるかもしれないな。
「ここまでできるとは思わなかったよ」
押されているはずの千夜が少し余裕がありそうなことを口に出す。
勝算でもあるのか、と思いつつ見ているとどこから出したのか分からない銀色の銃を持っている。
つまり、右手に黒い魔銃、左手に銀色の魔銃を持っている。今までに見たこと無い魔銃を持っている。
その魔銃がどれほどの強さを秘めているのかは分からない。この魔銃1つでこの戦況をひっくり返すことができるのかもしれない。
千夜が香奈の足元に銀色の銃口を向けている。
「この魔銃は誰もまだ成し遂げてないことができるもの。その性能はこの黒い魔銃を上回る」
そんなことを言いながら銃の引き金を引く。
「『火柱』」
今までの魔術同様、魔法陣が5回出現した。千夜にしては少し遅い気がしたが。今までの物と何が違うのかは香奈の足元に少しばかり大きい魔法陣が出現する。見ただけで分かる魔力濃度が高すぎる。
その魔法陣から発動したのは天井まで燃やし尽くそうとする(多分)魔術名通りの火柱。
家の壁には防火、防弾、耐衝撃などを含む材料を使用している。
「ッ!お、おい人殺しになるつもりか」
香奈は魔術範囲から抜け出せてない。
「大丈夫だよ、死んでも隠蔽は容易だから」
「隠蔽は容易でも私を消すことは不可能だよ」
おっ、おー生きてた。安心安心。
香奈が一歩ずつ確かな足取りで火柱、魔術から出てくる。
足元の魔法陣を見て防御魔法を発動したのか。それにしても発動が速かったがどういうことだ。魔術士と魔法使いの差には発動時間の違いは関係ないのか。わかんね。
魔術と銃弾の交戦は続き時折殴る蹴るなどの体術を織り交ぜながら激しい攻防を繰り返す。
戦況はさっきの火柱が効かなかったのが相当響いたのか、千夜の動きがだんだん悪くなっていく。
ガタン
千夜が尻餅をついた音だ。決着が付いたらしい。なぜか、尻餅をついた千夜が涙目になっている。
何、床に尻でも勢いよくぶつけたの。この涙は違うな。あれだ、恐怖による涙だ。人の心を手で掴んでるようなものだ。
「・・・・・・ど、どうして、防御魔法と・・・・移動速度上昇魔法が同時発動されてるの」
「『複数発動』――――これは私が持てる最大の武器、大事な人の横で歩くと誓ったときに発覚した能力」
俺をチラチラ見ながら話してる。何なんだ。
「私は大事な人を守り続ける、その為には誰にも負けない。・・・・・・大人気なくてごめんね」
「・・・・・・ぅ、うえ~~~~ん。私だって、ぐす、大事な人を、ぐす、守りたくてー、うえ~~ん」
千、千夜が泣くなんて。
こういう一面があるとまだ中学生だな、と思えるな。
(どうしよう、泣かす気は無かったけど。・・・・・・ちょっとやり過ぎちゃったかな)
(俺に助けを求めても何もしてやれないぞ)
「後はよろしく頼んだ、俺はちょっと風に当たってくる」
「ちょ、ちょ、ちょっと待って!!」
手を振って後ろは振り返らずこの家から出る。
30分もしたらどうにかなっているだろう。
それにしても香奈は強いな。そんなに戦闘は得意そうには見えないが・・・・・・あんなに強いのに何の噂も耳に入ってこないのはおかしいけどな、1人ぐらい知っていてもおかしくはないけどな。
ここまで自分の周りが強者だらけだと自分の身も守ってもらうようになるかもしれない。それだけは男として避けていきたいところだ。
俺も何か得意なことでも身に付けていくしかないか・・・・・・