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優等銃士な劣等魔法士  作者: 木津津木
第一章 水端
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第二〇話 嵐過

 五感から不必要なものが抜け落ちたような感覚だ。頭の中はとてもクリーンで脳内に入ってくる情報がとてつもない速さで行き交う。考えているのに考えていないような放心状態のような感覚に近い。この身体に赤い血は流れておらず、ロボットのように導線が通っていて俺が遠くから制御しているのではないかとさえ思わせるほどこの身体は自分の支配下にないような軽さがある。

 視界はあの時のように白くはなく、いつもと変わらない。が、見えているものがいつもと違う。視界内にいる人の微細な動きが頭の中に入ってくる。

 聴覚は無駄な雑音は閉ざされている。

 今までと一番違うのは視界外にいるものの動きが手に取るように分かる。向けられる視線も分かる。言葉で言うのであれば第六感だ。それが並はずれて覚醒している。

 その第六感が俺の甘さを許してはくれない。俺は制服を脱ぎ拳銃に、拳銃が収めてあるホルスターに手を伸ばし外す。これで俺には逃げる物もなくなった。

 人は逃げ道があるからこそ甘え弱くなる。そうならない方法は何か、逃げ道をなくしてしまえばいい。それだけだ。

 ただ、それだけで強くなれるとは思っていない。むしろ、緊張し動きが鈍くなり弱くなっているかもしれない。そしてそれは今から分かることだ。気にすることはない。

 今までの攻撃で出血や吐血をしていてもおかしくはないがそこは日々の授業や千夜との模擬戦の成果が出ている。あの一方的な暴力もたまには役に立つ。


 もう、無駄なことは考えていられない。不安定だった半極限集中状態も安定してきた。今ならあの時のように無様に転ぶ事もない。俺の身体は俺の言う事を素直に聞いてくれる。

 本当の意味で身体も温まってきた。

 さあ、最終ラウンドを始めようか。


 相手もこれ以上は待てないと言うかのように一歩とこちらへ歩を進めてきた。

 相手も本気、俺も本気。

 殴っても、蹴ってもーーー殴られても、蹴られてもこれが最後になるだろう。

 どちらかがダウンした時がこの勝負の決つだ。もちろんここまで来たのに、負ける訳にはいかない。

 だが、相手が一歩ずつ近づいてくるたびにその気持ちは押されかける。一歩ずつ近づいてくる姿はコツコツと床を鳴らす程度の音しか聞こえないほど静かにも関わらずグツグツと煮えたぎるような闘志が音を立て聞こえてくる。

 だが、そのオーラに押されているようでは先がない。

 俺は相手のその闘志に答えるようにスタンスを広げる。

 まだ、スタミナはある。心配するものはない。俺の今の全力をぶつければ結果はついてくる。

 今は勝敗よりも俺ができる事をすればいい・・・・・・

 相手の足先に力が込められているのが分かる。それに対応するために俺も足先に力を込める。これで相手の動きに遅れず前に飛び出す事はできる。

 この相手の動きを見て判断し行動する、というひとつの動作が一瞬でできている。

 考えるよりも先に体が動く。そんな感じだ。


 相手が左足に力を入れるのが見える―――体が勝手にブレーキをかける、と同時に眼前を横薙ぎの左足が通り過ぎていく。前髪が風に流される。相手は右足を空中で止めそのまま顔面に蹴りを入れてこようとする。

 さすが、としか言えない。

 勢いがついた足を空中で止めることは容易くない。それを戦闘中にやってのけ隙さえも作らず攻撃へ移るのは称賛しかない。

 だが、その蹴りは俺の顔には届かない。俺は右足が空中で止まるのを見てそれを左に跳び避けた。

 片足立ちになったこの機を逃すわけには行かない。

 そのままの勢いをのせたアッパーカット気味のパンチを喰らわす。

 そのパンチは相手の頬を掠める。ぎりぎりのところで相手は首を傾け直撃を免れた。

 余波で髪が舞う。

 掠めても十分なダメージだ。それを証明するように相手は横によろめく。

 さらにここで畳み掛ける。

 右足による横薙ぎの一撃を振るう。が、それは相手の腕によるガードによって防がれる。だが、そんなことでは終われない。

「アァ・・・・・・ッ!!」

 さらに力をいれる。

 全力の蹴りを防ぎきることはできず女性ならではの軽さでガードごと吹き飛ばされる。

 足に力を込めて体にブレーキをかけるが勢いを殺しきれず片膝をついてようやく止まった。

 相手が片膝をついた状態をみすみす逃す俺ではない。

 さらに仕掛ける。片膝をついた側とは反対側を狙った蹴りが相手の腕により防がれる。だがこの蹴りは防がれても良い。真の目的は相手を倒すことにある―――片膝をついたことにより横から力が加わるとバランスを崩し倒れやすくなる。

 だが、倒れない。想像以上の体幹だ。

 俺はそこですぐに脚を離すべきだった。

「ァッ―――!!」

 息が詰まるのが分かる。

 相手は俺の脚を取り、引くと同時に立ち上がり俺の胸の中央に掌底を撃ち込んできた。俺の体は相手に近寄り、相手は俺に近寄り、で普通の掌底よりも威力倍増だった。

 俺は無意識に後ずさり、息を整える。

 息を吸うと頭が冷静になる、と同時に頭の中にあるひとつの真実がよぎる。


 強い


 この状態だからこそより深く分かる。

 今の相手は俺の今の状態に似ている。が、俺よりもクオリティが高いのは確実だ。

 このままでは今までの状況と何も変わらない―――負けを先延ばしにしているだけだ。

 

「ウ―――ッ!!」

 右肩に拳で殴打された、というよりナイフで刺されたような痛みが走る。

 防御をしたつもりだったが間に合わない。相手のパンチそのものが早いのもあるが序盤に喰らったダメージのせいで動きが遅れる。

 右肩に喰らったせいで体が大きく開いてしまい無防備になる。

 もちろんそれを逃すような奴はこの学校にはいない。救護科であっても。

「ガハ―――ッ!!」

 強烈な一撃―――かかとによる横蹴りが俺の鳩尾にめり込む。

「ァ・・・・・・ッア―――」

 息が・・・・・・でき、ない。

 あまりの痛さに腹を押さえて膝をつく。

 このままでは追撃が来る。

 くそ!!

 追撃から逃れるため横に転がる!!

(ツ―――!!)

 転がるたびに、攻撃を喰らった右肩に痛みが走る。

 それを歯を食いしばり堪える。

 立ち上がると同時に距離をとるため後ろへ跳ぶ。

 息はそれなりに整ってきた。

 俺が後ろへ跳んだのは相手から距離をとるためともうひとつ理由がある―――助走をとるためだ。

 なぜ助走をとったかは定かだ。

 勢いよく跳び出すためだ。

 そして何故勢いよく飛び出すかは・・・・・・

「シュッ」

 スライディングをするためだ。

 俺の足の裏は見事に相手の足首を捉えた。

 そして相手の虚を突いたので想定通り転んでくれた。

 この次の一手が大事だ、すぐに立ち上がる。

 俺と相手は鏡に映る自分の姿のように同じ姿勢―――立ち上がるため片膝と掌で床を押す姿勢で睨み合う。

 相手も俺と同様に考えていたらしい。

 それなら尚更相手より一秒でも早く立ち上がらなければならない。だがそれは相手も同じことだ。つまり殴りかかるタイミングがかぶるのは当たり前のことだ。俺の拳が相手の掌で受け止められているように、相手の拳も俺の掌で受け止められている。

 睨み合うも一瞬、俺が拳に力を入れたと同時にその拳を掴まれ引っ張られる。俺の体は相手の方へ引っ張られそのまま後ろへ投げられる。

 俺は足がもつれ転げそうになる。が、体を反転させて何とか踏ん張る。さらに反転することで相手の追撃にも備える。

 やはり追撃をしてきた相手にローキックをかます。相手は痛みに歩を止め少し前かがみになる。

「・・・・・・ッ!!」

 相手の足の裏による蹴りが膝蹴りをしようとした俺の右脚の脛を直撃する。

 一瞬で視界が変わる。視界に捉えていたのはフローリングが張られている床だった。

 絶妙なタイミングだった為右脚は抵抗もなしに後ろへ行き深いアキレス腱伸ばしをしているような体制になる。

 視界に敵の姿を捉えよう見上げると眼前には太腿があった。

 気づいた時には遅かった。

「ガッ・・・・・・!!」

 相手の膝蹴りが俺の顎を容赦無く蹴り上げた。

 俺が見る世界は色を失った―――

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