第一話 兄妹
対戦を断ったらどうなるか俺は知っている。
こめかみに怒筋を浮かべ魔術をどんぱち撃ってくる。一方的に、笑顔で。
その結果、数学の教科書が灰になるという悲惨な結果になったことがある。
それだったら、一矢報いてよろうと戦うのが『漢』ってもんだろう。
まあ、それでも俺の銃弾が掠る確立は1パーセント以下かもしれない。
それには目に見えている理由がある。
千夜の魔術士世界ランキング10代で197位だ。世界ランキングで三桁の奴らは化物だ。
ちなみに俺の銃士世界ランキングは155421位だ。テスト(俺達の学校では記録会と言われている)を受けた者に封筒が送られてくる。これで分かると思うが、彼(自分と認めたくない)と彼の妹では実力差がありすぎる。
だが負ける気はしない、なぜなら俺(良い作戦が見つかり少し自信が持てた)は銃弾以外なら100パーセント当てれる。・・・・・・100は言い過ぎた。 90、80ぐらいかな。
けどこれをやると一生銃を触れないかもしれないな。それはさすがに嫌なので普通にやろう。
もう少し時間が欲しいところだが、どうやら時間切れだ。
「おーい。何か考え込んでいる、シスコンさん。そろそろ始めようよ~。それとも焼かれたい」
「いえ、これからも生きたいです」
ヤッベー、自分がやられる映像が頭の中で再生されちゃったよ。あの目を一瞬見ただけなのに。
「私の銃の説明するね。前使ってたのと同じ形状で色を変えました」
「へー、それで」
「えっ。・・・・・・後は分からない」
・・・・・・え――――。それじゃあ、作戦を考えるのに必要な情報が少なすぎる。
「で、お兄ちゃんの相棒は」
「変わらない」
「あ~。はい」
リアクションうっす。ずっと使ってんだよ、『FN ブローニング・ハイパワー Ⅲ』。褒めろよ。
「ね~ね~、始めようよ」
「分かった。分かった。ハンデが欲しい、というより魔法かけていいか」
「良いよー」
今の時代では魔銃を使って魔法を使うのが『魔術士』と呼ばれる。
攻撃魔法が使えないため魔銃を使えない俺たちのような奴を『魔法士』、もしくは『銃士』と呼ぶ。
ちなみに魔銃を用いて発動された魔法は魔術と言う。
他にも分け方はあるがこれが一番有名だ。
「じゃあ、遠慮なく」
左手を胸の中心に当て発動する。
(オリジナル魔法『不倒の城』)
頭上と足元に魔法陣が現れ、頭上と足元のものとまったく同じ魔法陣が頭上から足元に向かって流れていく。これが5個流れると魔法が発動する。
この動く早さにはそれぞれ違って、速い人は魔法の才能がある。俺はとても遅いため銃士と呼ばれる。
(くそくそくそくそ)
長すぎる。俺の目の前に立っている妹一瞬なのに。兄妹でもこんなに差があるのか。
「私も一応掛けとく」
千夜のすごいところはそれだけではない。
魔術士は魔法を使えないのだが。千夜は銃なしで防御魔法が使える。
俺の魔法陣が五個目に差し掛かったときに発動したくせに俺が終わる頃には自分の銃を見てたよ。
ちくしょう。
見て気づいたが銃がブラックだった。前のは確か・・・・・・ホワイトだったか。
よく見ると、ではなく明らかに形も変わっている。まず長さが短くなった。確か全体的に長い銃は遠距離、短いものは近距離。つまり接近戦向けだ。
前のは少し長くて中距離だった。
魔術士同士の戦闘では距離が遠過ぎず近過ぎないくらいが良いと聞いていたが、今回のはどう見ても魔術士以外の相手用だ。
もういつでも撃てる準備はした。
「勝利条件は弾を直撃させること」
「最初の一発はお兄ちゃんからで良いよ」
ははー、余裕ですね。まあ魔術士と銃士のテスト戦闘の開始はだいたい銃士からだ。
「コインを放って地面に着いたらスタートだ。いいな」
「うん」
「いくぞ」
ピ―――――――ン
ざく
ぱーーーん
千夜の眉間に弾が向かっていく。だが千夜までは届かない。
空中で弾は止まった。氷を纏って。
予想はしていたが、こんなに綺麗に止められると悔しくもないな。
千夜は俺が狙っている場所を一瞬で判断し魔術を放ってきた。
引き金を引いてから魔法陣が出現し魔術が発動する。この時間は速くて3秒だ。この3秒でどんな魔術が来るか推測はできる。
だが俺の妹はほぼ0秒だ。推測なんかできるわけない。
凍りついた弾が地面に落ち、「あいかわらず狙いがドンピシャだな」話しかける。
「それはお兄ちゃんもでしょ」
「俺はお前ほど上手くないっっよ!」
会話の途中から撃ってきやがった。次は電気かよ。なんとか避けることはできるがこのままだと防戦一方だ。
マガジン1個で終わらせたいがそうはいかないだろう。
こっちの弾は止められる、相手の弾は止められない。
これ勝てなくね。
しかもあいつの魔力は尽きないだろう。
弾で戦わず拳でやれば勝てるかな。
実行するべし。相手との距離は約10mだ。
(今だ)
魔術を放たれると同時に相手に向かって走る。
飛んでくる氷を避け千夜の目の前にたどり着く。見えるものを避けるのは簡単なことだ。
千夜が驚きのあまり目を見開くがそれも一瞬、俺から距離を取ろうとし後ろに体重を掛けるが俺がそれを許さない。千夜の踵が引っ掛かり転けるように足を出す。
それを見て千夜はバク転をしながら足で俺の顎を蹴ろうとする。顎を蹴られると脳震盪を起こすかもしれないそれだけは避けたい。そのためには一度退くしかない。
退くだけでは嫌なので、一発撃ってやるとちよも同じ考えだったらしく着地と同時に撃ってきた。空中で最初と同様弾が凍りつく。
さきほどまで汗を掻いていなっかた千夜のパッツンな前髪から汗が滴る。明らかに冷や汗だ。俺も冷や汗と、避けるために動いたことによる汗が頬を流れる。
「お兄ちゃんは凄いね、驚いちゃった」
お世辞ではなさそうだ。
「まあ、地面すれすれを走ったからな」
このまま長引くと消耗戦になって終わらない。
残りの銃弾を一気に撃つしかない。
引き金を残りの弾の数だけ引く。
『数撃ちゃ当たる』だ。
それとほぼ同時に千夜も引き金を引く。
最初とさっきの魔術を氷のビームとしたらこれは、菱形の氷石だ。
弾と氷が当たりどちらにも相手の弾は当たらない、はずだった。
一発だけ俺の角度から見えないように、ある氷石とかぶるように放たれていた氷石が俺の銃に当たる。
俺の手から離れた銃が地面を滑る。
「チェックメイト、だよ。お兄ちゃん」
千夜はそう言いながら魔銃の引き金を引く。
銃口(発射口の方がしっくり来る)から今まで見たことのない魔術が発動される。
それは超小型の西洋の槍の形をしていて黒く全てを飲み込むかのような闇に見えた。
黒い槍が俺の胸中央に迷うことなく飛んでくる。
その衝撃は俺の魔法を破壊しても収まらず俺の心臓を強く叩く。
そして俺の意識が途切れた。
『だらしない』
意識が落ちる前にそんな言葉が頭に響いた。千夜とは違う声で。