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優等銃士な劣等魔法士  作者: 木津津木
第一章 水端
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第一七話 嵐闘Ⅰ

 室内訓練施設の中心を挟み込むように相対する、俺と先生。

 俺は拳銃を使用できるが向こうは持ってすらいない。戦力差は明らかなような気もするがそれが大きな間違い。拳銃が1丁2丁あろうとそれが戦力差には繋がらない。それだけの相手だ、先生は。

「開始のホイッスルはどうしましょうか?」

「何でも良いです・・・・・」

 そんな事を気にしている余裕は俺には無い。その証に汗が止まらない。

「扉の開く音がしたらで良いですね?」

「分かりました。それと今はまだ戦闘準備に入ってはいけないでいいですよね?」

「はい、それでは公平にならないですからね。それにその方が六東君のためになりますから」

 あ~~、そうですか。あくまでこれは教育の一環だと言いたいんだろう。

 二人の間に、いや、施設全体が静寂に飲まれる。

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 だがそれもそう長くは続かなかった。誰かが扉を開けたのだ。

 ギィィィという重々しい音が響く。

 いちいち扉の方を見て確かめる時間は無い。だがゾーンに入ろうとして先手を譲る訳にはいかない。どれだけ早く自分のペースを作れるかが1対1の基本だ。

 そのためには先手を取る事が重要だ。先手を取る事で相手の出だしを崩し自分が有利な状態を早い段階で作る事ができる。

 もちろん相手もそれを狙ってくる。それを如何に躱して一撃を加えられるかが第一に考える事だ。

 俺は床を力強く踏み大きな一歩で先生の目の前に移動しようとする。先生も俺の方へ駆けるはずだ。


「ッ⁉︎」


 何がしたいんだこの先生は、その場から一歩も動こうとしないなんてッ!?

 先生には拳銃が無い。そのため徒手格闘にならざるをえない。そして近接戦を有利に立ち回るための最初の一撃をがどれだけ大事か先生には分かるはずだ、それなのに何故!?


 とりあえず先手はもらえるみたいなので遠慮なく行かせてもらう。前に飛び出す力をそまま利用した右手のブローを顔に入れる。先生、女だからって容赦しない。容赦してはいけない、自分の命のために。


「くッ!?」


 渾身の右手の一撃を繰り出すための着地の一歩をノーモーションで弾かれた。

 そのため俺の渾身の右手の一撃は繰り出す事もできず不発に終わる。それだけではなく脚を払われたためバランスも崩された。つまりすでに相手のペースが出来上がってしまった。

 先手は失敗、次に考える事はどうやって自分のペースに持ち込むかだ。まだゾーンに入るには早い、それにこの状態では隙も見せられない。ちょっとでも見せればおしまいだ。それだけは避けたい。


「――くッ!?」


 額に掌底打ち!!何とか腕で受けきれたがこの流れるような連撃、戦い慣れてる!!

 でも上を狙えば体は空く。そこに一発叩き込めば良い。

 いや、違う!! 逆だ!! これは既に相手のペースだ!!

 掌底をして相手の両腕の自由を奪い、体の中心を空ける。そして、一発ぶち込む。この流れが1つの戦術か!!


「ガッ!!」


 膝蹴りが俺の腹にメリ込むのが分かる。そして先生が本気だという事も。


――シュッ


 俺の体がくの字になったところに先生の拳が俺の頬を少し擦れて通り過ぎていく。少し顔を傾けていなければ直撃だった。擦れた所が熱い!!

 だが拳を出すと体は自然に前に出るそこに一発当てれば有利になれる。


「ッ!!」

 パンチはフェイクか!! 狙いはパンチを避けた後の空いた側頭部か!! まさか肘が飛んでくるとは予想してなかった!!


 体が少し横に流れてしまう。それ以上にダメージがでか過ぎて膝を床についてしまう。

 膝をついたままでは自由に攻撃してくださいと言っているようなもの。すぐに横に転がり距離を作り追撃を回避する。

 空いた時間とスペースで息を整える。

 額に掌底⇒腹に膝蹴り⇒顔面にパンチ⇒側頭部にエルボー

 序盤は完全に先生のペースだ。一切の無駄が無い連撃で俺のカウンターは繰り出せない状況にある。

 さすが人間離れ人間。

 しかしそれでも人間だ。少なからずどこかでミスをする。俺はそのミスを見逃さないようにすれば良

い。


 冷静になれ、俺!! 今、俺ができることは何だ!! 一番勝機がある手はカウンター、だがそれをさせるほど相手は弱くない!! 考えろ!!


――俺の心中を気にも留めず相手が追撃をしてくる。

「ッ!!」

 俺はまだ立ち上がってすらいないのにもう次の攻撃が来るのか!

 1つ1つの攻撃の間が無いせいで俺のペースが作れない!

「くッ!!」

 一瞬で距離を詰めてきた。俺の目の前の床が右足で力強く踏まれる。

 片膝立ちの俺の顔の高さがちょうど良かったのか速い左足の蹴りが飛んでくる。

 重い!!

 かろうじて腕で受けきったが横に転がされる。

 蹴りを防いだ腕は痛いがなにもできないほどではなかった。

自分にできること、それは今ここで膝を折るのではなく立ち上がること、戦う意思を見せつけることだ。

―――少し痛む手を膝に乗せ圧して立ち上がる。

腕に力は入る。

それなら問題無い。腕に力が入れば殴ることはできるそれで十分だ。

先生。

いや、相手。が何を思っているか分からないが笑みを浮かべているように見えるのは気のせいだろうか?

「何が面白いんですか?」

「先生は安心しました。肩慣らし程度のことで逃げ出さなかったので」

肩慣らしか・・・・・・、言ってくれる。

俺がすぐに弱音を吐いて逃げ出すと思ったのか? まあ、以前の俺なら逃げ出したかもな・・・・・・

だが俺は変わった。

いや、変えた!

俺は他の意思を受けて変わった訳ではなく自分の意思で己を変えた!

 それを証明するために立ち上がった、そして勝たなければならない。

 相手が先生だろうと。

 現場では相手なんか選ぶことはできない、自分より強い弱い関係無しに戦い守る者を守らなければならない。

 俺は拳を軽く握り右足を少し後ろへ下げ構える。

 相手はいつものように立っているだけ。違うのは脚が平行ではなくずれていてほんの少しだけ重心が下寄りだ。一見隙だらけに見えるがそうではないと分かる。それが相手の構えだ。

 両者の準備は整った。

 後はどちらが仕掛けるか。

 仕掛けたいが一番最初のミスが頭にちらつく。ここは我慢だ。相手からの攻撃を待つべきだ。

「仕掛けてこないなら――」

 先生が一瞬膝を曲げ床を蹴る。

「こちらから行きますね」


 その言葉から間をあけず俺の眼前に拳がとんでくる。

 その拳を左腕にかすらせ避ける。

 俺は空いている右拳で相手の顔面を狙う。

 相手が首を傾けてくれたせいで俺の右拳は空を切る。


 カウンターは想像通り失敗だ。それは別に良い。それよりも俺の両腕が使えない状態にあり相手は腕一本、左腕がまだ残っている。そこには、相手の拳を避けるために腕一本を使わざるを得ない俺と使う必要が無い相手の実力差があった。


「ガハッ!!」

相手の左手による掌底が俺の胸を射抜いた。

痛い。が制服のおかげで心臓が止まるほどではない。

そして、痛いからこそ後ろに少しよろめく。


――踏みとどまれ! よろめくな! 優勢になる手を考えろ! ここで踏みとどまらないと相手の追撃がくる! このままでは本当に終わってしまう!


そう自分に言い聞かせて踏みとどまる。

考えろ。俺が優勢になる手を。優勢にならなくても対等にまでなるような手を。


俺は相手が掌底を打ち出すために出した脚を狙う。足蹴りだ。それが上手く決まれば相手はバランスを崩すはずだ。そしてそこに勝機が生まれるかもしれない。バランスを崩さなくても隙が生じるはずだ。俺はその隙を見逃さず攻撃を畳み掛けれ良い。それだけで勝利に近づく。

だが――

「ッ!?」

――世の中そんなに上手くは行かないものだ。

相手は俺の蹴りを見てから反応し俺の脚を蹴ってきた。つまり脚と脚をぶつけてきて蹴りを相殺した。

もちろん俺の蹴りは相手のバランスを崩すこともなく隙を生じさせることもできなかった。

だがそんなことで攻撃の手を緩める訳にはいかない。

俺は蹴りに使用した脚をそのまま次の攻撃のための軸とする。

左脚で相手の横腹を狙うがその蹴りは空を切る。

相手は脚がぶつかった反動を生かして後ろに下がっていた。俺は男性で力があったためその場に脚を着地させることができたが相手は女性なので力がなく圧しきる事はできなかったのだろう。だがそれがかえって良い結果に繋がってしまった。

俺は蹴り終えた状態の姿勢では不利になってしまうのでほんの少し後ろに跳ぶ。


今の攻防で俺が優勢だったのは一目瞭然だ。危ないところもあったがその後上手くリカバリーできていた。

このまま行けばチャンスはくる。

『チャンスはくる』? チャンスは作るものだ。

さっきの攻防でも俺があそこで踏みとどまったからこそチャンスが生まれた。ある小さなことが大きなものに繋がる。そんなことを何回も繰り返せば良い。

考えて考えて、動いて動いて、心を強く持てば、1つずつ1つずつ勝利に近づいて行く。

現に踏みとどまっただけで戦況は俺が圧している。


まだ経験の『け』の字も積んでない俺が言うのもなんだが、戦いはいつだってちょっとした事で決まってしまう。些細な事で決まってしまう。

それが何なのかは分からない。

だが確かに言えることは、勝利の女神は気まぐれだ。

でもそれは極一部だけだ。

その極一部以外のものに女神は興味すら示さない。

さっきの勝機は女神が興味を示したからなのかもしれない。

次回は5月26日に投稿します

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