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優等銃士な劣等魔法士  作者: 木津津木
第一章 水端
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第一六話 嵐前

『ゾーン』になる事は簡単な事だ。結局のところ目的(ゴール)が何かということだ。

 スポーツ選手は脚を動かすことを目的にはしない。腕を動かすことを目的にはしない。勝つ事を目的にする。目的は1つだ、1つの事に集中する事こそゾーンの入り口だ。

 勝つという事は最善の動きをすれば良いという事だ。つまり脚を動かす、腕を動かす1つ1つに集中する暇はないのだ。

 俺の場合は護りたいものを護る事を目的にすれば良い。

――護るには腕を脚を体を動かすしかない。

――護るには危険を察知するしかない。もっと言えば殺気を感じとるしかない。殺気を感じとるには冷静か つ無駄の情報を遮断すれば良い。

 俺は練習で脚を動かすこと、気配を感じとるを別々に考えていたのが失敗の原因だ。その2つは過程にすぎない、何かを護る為にはそうするしかない。それは当たり前の事だ。それができなかったのは俺に覚悟が足りなかった、いや、なかったからだ。


 それを今、否定する。

 俺は変わった。今までの自分とはおさらばだ。

 覚悟を決めた俺にはもう恐怖もない。

 自分の体がどうなろうが知ったことは無い。それで護りたいものを護れるなら本望だ。

 今の俺なら極限集中状態(ゾーン)になれる。

 人を動かすのは心だ。心を強く持てばできないことは無いと言われるほどだ。


 今、護りたいものを護るために俺は強くなる――――



「できたんですね」

「まあ、形ほどは」

 昨夜、心を改めた俺は寝る前ゾーンになれた。視界は白くはならなかった。ただいつもより頭が機能していたのは分かった。それでいて体も動かせた。それは俺が目指したものじゃないのか。それ以外に何が当てはまる。

「昨夜時点ではあまり実感が無かったんですけど今朝の登校時で確信しました。いつもより殺気を敏感に感じとれました」

 普段この学校にいれば殺気なんて普通に感じとれるのだが明らかな違いがあった。範囲が広かったし、殺気を向けてくる人の動きが見なくても分かった、いや、正確には感じた。

「それは良かったです。午後の授業で先生が確認してあげます」

「・・・・・・はい?」

「先生が確認してあげます」

 今この人、確認してあげますって言ったよな。それこの学校では「直々にぼこしてあげます」っていう意味なんだが。

 く~~・・・・・・

「ありがとうございます!」

 できた、完璧な作り笑顔!

「午後の授業で良いですね」

「はい! お願いします!」

「楽しみに待っていますね!」

 く~~・・・・・・



 窓の外の青空を泳ぐ雲。それは白い。そして柔らかく軽いのだろう。

「桜くん、大丈夫?」

「大丈夫、大丈夫。俺超元気」

 そう、俺は元気・・・・・・香奈に心配されるほど不元気ではない。今すぐにでも学校から走り出したいほど超元気・・・・・・

「じゃあ、何でノートに雲書いてるの?」

「はは、なんでだろうねぇ。雲さん雲さん、何でそんなに自由なんですか・・・・・・」

 俺もあれぐらい自由で午後の授業ふけれたら良いのになぁ・・・・・・

「そんなふうにはいかなよなぁ」

「ん?」

「なんでもない」

「本当に大丈夫?」

「ん、何で?」

「だって今日の桜君おかしいもん。1時限目は教科書を遠い目でずっと見て、2時限目は教科書も開かず虚空を見つめて、3時限目は机に突っ伏して、4時限目はノートを開いたと思ったら外を見て雲を描いて、絶対なんかおかしいもん!」

「そうだなぁ、はぁ・・・・・・」

 自分でも分かってる。今の俺は明らかに変人だ。分かってる、分かってるけど止められない。

 それもすべて午後の時間に待ち受けるもののせいだ。

 自分の腕時計を机に突っ伏した状態で見る。

 秒針が進むたび、時間が過ぎていくたび、午後の授業に近ずくたびに体全体をダルさが蝕んでいく。

 そして時計の針が指し示す時刻は授業が終わる数分前、そして机の上には大きな雲が4つ5つ描かれたノートが開いて置いてある。

 板書ぜんぜんやってねぇ。もういっか、今日の授業。別に俺のせいじゃなくて先生のせいだしな。

 後日、香奈にノートを写させてもらおう・・・・・・



 弁当を食べ終わるのにいつも以上に時間がかかってしまった俺はゆっくりと車道の脇を歩いている。

 ゆっくりと歩く事で時間を稼ぎ最悪な時間が来るのを引き延ばしている。が、どんなに引き延ばしても来るものは来てしまう。未来はもう変えれないのだ。自宅にも帰れないのだ。

 なぜ俺が素直に先生との約束を守ろうとしているかは簡単な事だ。俺はふけるなんて成績に関わってくる事ができるほどちゃらんぽらんな男ではない。それ以上に先生との約束を無視すると山奥に埋められるとかいつのまにか豚の飼料に混じっていたりと後が不安でしかない。

 普通科の実習棟の入り口にケルベロスがいるぞッ! あれが噂の冥府の入り口か・・・・・・

 俺ってもう死んでたのか。

「来たんですね」

「はは・・・・・・」

 ケルベロスかと思ったら先生か。

 そんなことより作り笑顔ばれてるし! しかも、来ないと思われてたのかよ! そりゃ、来るだろ! 相手が先生だぞ!

「じゃあ、中に入りましょうか」

 入りたくねぇ。だが気持ちとは裏腹に先生が開けた扉の中へと俺の脚は一歩ずつ近ずく。

「拳銃はありますか」

 廊下を進む先生からそんな言葉が聞こえてくる。

「あります。けど使おうとは思ってません」

 先生が拳銃を持っていないのに俺だけ使うのはフェアではない。

「それならいざとなったら迷わず使ってくださいね。自分の命が大事なら、ですけどね」

 気のせいかな。先生が「うっかり(ヤッ)ちゃうかも」と言ってるのは気のせいだな。

 それにすごい余裕だな。俺がもし先生の予想以上のゾーンを見せれば先生は傷を追うかもしれないんだぞ。それなのにこの余裕。それほど子供と大人という事か・・・・・・

「じゃあ、いざとなったら遠慮なく使わせてもらいます」

 ここで先生にどれほどの余裕があるのか探ってやる。

「それで先生が怪我しても知りませんよ」

「それはないですからご心配なく。どうぞ気軽に使ってくださいね」

 うっぜ〜〜。これが本心か、俺の考えを察しってからかっているのか俺には分からないがうざい事だけは分かる。

 今に見てろボコボコにしてやる。

 多分、できないけどなッ!

 

 いつも開閉している扉が今日はどうもいつもより重たく感じる。

 5時限目の冒頭だからだろうか、体育館のような施設にいる生徒の人数はそれほど多くない。

 これは俺からしたらラッキーなのかもしれない。人がいないのはそれだけ自分のスペースを確保できるし、距離も取れる。さらに俺が惨敗しても多くの人には見られない。これが一番良い事だ。負けるところを多くの人に見られると舐められるからな。だがその分ここで先生がうっかり(ヤッ)ちゃった場合隠蔽するのが楽になる。これはアンラッキー。

 ちらほらといた生徒の視線が扉を開けた俺の横に集まる。

 それもそのはず。

 先生が生徒を引っ張ってくるときは大概公開処刑と決まっている。

 生徒たちの視線は「ああ今日も被害者が出てしまうのか」とでも思っているだろう。

 そうなるかもね!

 勝てる見込みなんて全くない。全然ない。一切ない。これぽっちもない。

 拳銃持っている生徒を教育する人間、それがどれだけやばいやつかは言わなくても分かる。

 魔力を操る生徒を教育する人間、それがどれだけ人外なのかは言わなくても分かる。

 つまり千夜や香奈とは段違いに強い。

 先生が本気でやれば俺が引き金を引く間に骨が何本かは折れるんじゃないか。

 まあ、そうならないためのゾーンだ。正直な事を言うとまだ調整段階で完璧なものとは言えない。

 今回ので俺のゾーンの質を確かめる。

 千夜に兄の酷い姿を見せて得た力。千夜に俺の覚悟を聞いてもらって得た力。それは千夜や香奈を守るために得た力だ。

 それが無駄だと言われないために俺の今持てる力を見せつけてやるしかない。

 そして俺の覚悟も見せつけてやる!

 かかってこんかい先公!

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