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優等銃士な劣等魔法士  作者: 木津津木
第一章 水端
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第一四話 星下

 もし女の裸を見たときどうするべきか分かる方、教えてもらえませんか?

 

 俺の姿を見た香奈がシャワーで汗を流す事は許したのでその通りに汗を流してリビングに帰ってきてみればソファーに座らせられて取り調べが始まった。カツ丼の代わりに花のスメルが提供されている。

「まず話し合おう! 言葉で!」

「桜君の、えっち」

 いきなり核心‼︎

「待て待て、誤解だ誤解! 見てない見てない! 湯気が濃くて見えなかった!」

「私と目が合ったのに?」

「ウッ!」

「鼻血も出したのに?」

「それは違う! 廊下で転んで顔をぶつけたんだって!」

 誤解を解こうとするがどうもそれが空回りしている気がする。

「それにわざと開けた訳じゃない! あれは完全な事故だ! 俺はただ汗を流したかっただけだ!」

「ノックしなかったのは?」

 それは完全に俺の落ち度だ。まさか2人が脱衣場にいるなんて思う訳ないだろ!

「するような気分じゃなかった・・・・・・」

 こうなったら開き直るしかない。

 疲れてましたしー、そこまで気が回らなかったのはしょうがないと思いまーす。

 あくまで心の中で。

「はあー、最近ちょっとだけ食べ過ぎて太っちゃったのに・・・・・・」

「いや、そんなふうには見えなかったぞ」

 事実、出るところは出ていて引っ込むところは引っ込んでいた。スタイルが良いとも言う。

「・・・・・・やっぱり、見たんだ」

「へんたい」

 2人の視線が痛い痛い! それに、また香奈に()められた。

「そんな子にはお仕置きです」

「え、マジで!?」

 武特高の生徒のお仕置きはお仕置きにならない、もう半殺しのレベルだ。

「マジです」

「――ツ!!」

 香奈のやわらかい手が俺の頬に優しく触れる。

 はー、びっくりしたー。ビンタされるかと思ったー。

「今回はこれで許してあげる」

 ムスッとしている千夜とは違い香奈は優しい笑みで許してくれる。

「お兄ちゃん責めすぎるとすぐにふてくされるから許してあげる」

 身を乗り出した香奈の隣で千夜がそう言うので俺も言わせてもらう。

「すぐふてくされるのはお前だ、お・ま・え。この前もすぐにふてくされたし」と、言いたいが許してもらえるのでここは大人な俺が引いてやる。

「そりゃどうも」

 心の声を顔に出すなよ、俺。1ミリでも顔に出せば蜂の巣になる可能性が・・・・・・ある、ではなく断言できる。

 これ以上この話を続けるとボロが出て自分の首を絞めかねない。それなら早いうちに話を逸らした方が身のためだ。許してくれる訳だしな。

「そんなことより、なんでいつもより早い時間に入浴してたんだ? いつもは夕食後だろ」

「ご飯はできたてが一番おいしいから桜君が帰ってきてから作ったほうが喜んでくれると思ったから、先に入浴しただけだよ」

 話を逸らす事に見事に成功した。チョロいな。

 それにしても香奈の言うことはいつも理に適っている気がする。説明が上手とか口が上手いとかじゃないだよなー。いつも納得してしまう、納得させられてしまう。

「夕飯の準備は何もしてないと・・・・・・」

「まだ時間的にも早かったから、まだいいかなぁと思って」

 確かに時間的には早い。なので、

「少し聞きたいことがあるんだが・・・・・・」

 急に真面目トーンになった俺に対して香奈は「?」と浮かべている。

「移動手段どうするつもりなんだ?普通は警護車だろ、でも今回は俺が運転する訳にはいかない。だからと言って中学生にさせるのも不安がないとは言えないだろ。香奈が運転する訳にもいかないしな」

「それについては今度言おうと思ってたけど、移動手段は徒歩にします。遠くはないので大丈夫だと思います。安全面でも・・・・・・桜君が、見守ってくれるはずだから」

 なんとなく背中がむず痒くなる。

「――それにもし何かあったら千夜ちゃんたちが守ってくれるから」

その言葉を聞いて胸を張っている我が妹は置いとくとして、香奈が大丈夫だと言うのなら心配することはないだろう。

「それにしてもおじさん何してるんだか、こんな大事な会議に出席しないなんて」

 この一言には香奈も苦笑い。

 自分の愛娘に大事な会議に出席させるなんてありえんだろう。

 もし何かあって香奈に危険が及んだらどうするつもりなんだ。

 まあ、依頼人(クライアント)として俺に頼む時点でありえんけどな。

 もともと何考えているか分からない一面もあったしな。

「お兄ちゃん、そろそろおなかへったよー」

 こっちは今、結構真面目な話してるんだがその一言で空気ぶち壊れだ。まあ、もう終わりそうだったし良いか。

 そんなことより女性がそんなおなかへったなんてはしたない言葉を使っちゃいけません。千夜は見た目は可愛いくて美人さんなんだからそういうところ気にしないと後々後悔するぞ。見た目は良いんだから。見た目は。

「じゃあ、夕飯の準備をするか」



 俺の部屋にはベッド、PCが置いてあるデスク、クローゼットぐらいしかない。

 体重を後ろに、椅子にもたれかかかるとギィギィと音がする。

 俺の現状の壁である「ゾーン」をどうにかしなければならない。そのためにネットで調べてみたが、

「どれも今ひとつだな。やっぱりこれしかないのか」

 食事中にひとつ思いついたことがるがその方法はかなり俺にとってかなりハードルが高くなる気がする。魔力によって筋肉をいつもの状態より活性化させたりすることもできる、つまり魔力で脳に作用すれば良い結果が得られかもしれないという訳だ。その為には繊細な魔力操作がいる訳だ。それにゾーン中はずっと魔力を使用しなければならないので魔力が少ない俺には少し厳しい。

 そういえば「気」というもので気配を察知したりする人もいるとか、自然中の魔力の動きで分かる人もいるとか。

 つまりやり方十人十色という訳か。俺には俺に合ったやり方でやるしかない。

 今はとりあえず魔力を使用する方法が最有力だろう。魔力量は少ないが操作の方は多少自信がある。例えば視力を上げることだってできる。

 椅子から立ち上がりカーテンを開け、窓を開けと涼しい風が頬をサッと撫でる。その感触があのあたたかい感触を思い出させる。

 誰よりも優しくやわらかい温もり。あの温もりが心を包んでくれる。

 「・・・・・・俺はいつももらう側で何もしてやれない」

 それはまるで俺が見ている景色――夜空に浮かぶ星と人の関係だ。星は人に美しいものを与えてくれるのに人は星に何も与えることができない。遠すぎて、遠すぎて背伸びをしても、腕を伸ばしても届かない。

 俺から見る香奈は綺麗で、可愛くて、優しくて、あたたかくて、とても眩しい。そして・・・・・・遠い。足を前に出しても、走っても、精一杯手を伸ばしても遠くて、遠くて、遠くて、届かない。

 だが実際は届く、触れれる・・・・・・そして、守れる。

 守るのは香奈だけじゃない。家族(千夜)友達(明や遥華)、そしてその関係も。

「俺は自分が守りたいものを守れるなら自分を犠牲にしたって良い、その過程に障害が現れるなら排除する。それでも生命は(いのち)奪わない。・・・・・・だれも傷つかなくて良い。傷つくのは俺だけで良い」

 自分が弱いから守りたいものが傷つく。それなら俺が代わりに傷を負えば良い。

 これは罰だ。

 今まで俺は、自分の周りに強者が何人もいたから自分の弱さにしがみついた。守りたいものを守れなくてもしょうがないと思っていた。

 その劣等感を利用して逃げていた自分への罰だ。

「もう自分が弱いことを理由に逃げるのは終わりだ」

 俺は自分の弱さに立ち向かう覚悟を決めた。守りたいものを守るために前へ歩く覚悟を決めた。岩壁をよじ登る覚悟を決めた。棘の道を歩く覚悟を決めた。

「俺にとってかけがえのないものを守るために・・・・・・」

「――お兄ちゃん・・・・・・」

「千夜・・・・・・」

 千夜が途中からこの部屋に入ってきた事は分かっていた。それでも止めなかったのは俺の劣等感の一番の原因である千夜、俺を一番近くで見てきた千夜、に昔の俺と決別する瞬間を見ていてほしかった、俺の今の嘘偽りのない思いを聴いてほしかったからだ。

 その言葉を聴いて千夜は何を思ったか、どんな顔をしているかなんて分からない。ただ千夜が俺の言葉を聴いてくれればよかった。


 窓から吹き抜ける涼風が上がった体温を下げてくれるようで心地よかった。

 窓から差し込む月明かりがうっすらと照らしてくれるのが心地良かった。

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