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優等銃士な劣等魔法士  作者: 木津津木
第一章 水端
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第一三話 自心

 先生が退室してから、香奈たちが帰ってから何分たったか分からない。だが窓から覗く円盤は俺が見たときよりも明らかに橙色に染まり西側に傾いている。

『君が枝木澤さんを守りたいと誰よりも強く思っているからです』、この言葉が頭の中で何度も反響される。

 否定する言葉が出なかった。いや、見つからなかった。どんなに探してもその言葉を否定する言葉が無かった。

 分かっていた。自分でも分かっていた。気付いていた。

 でもどこかでそれは俺の役目じゃないと気付いていた。

 俺には香奈を守る資格はないと分かっていた。

 それでも守りたいと思ったから、守れるほどの実力を付けようと思ったから休校の日も学校に行って訓練した。今までとは違う力で守ろうと思ったから狙撃訓練をした。それでも足りないと思ったから限界まで挑んだ。

 それでも俺の力は香奈に必要ないと思った。もう諦めようかと思った。これ以上努力しても追いつけないのなら。

 そんな時に1つの依頼が転がり込んできた。この依頼で自分の気持ちにケリをつけようと決めた。

 でも駄目だった。

 香奈が俺に一歩、一歩と近寄ってくるたび、「桜君」と話しかけられるたびにに決心したことが揺らいだ。諦めることができなかった。できるだけ香奈の近くに居たい、守りたいと思う気持ちがまた強まった。

 だからこそ今回の依頼で証明してやると思った。もし先生の言った事が本当に起こるのならその時どんな手を使っても香奈を守る。

 そしてこれがラストチャンスだ、と自分に言い聞かせた。もし、香奈が傷付くようなことがあれば俺は諦めるしかない。俺には力がないと自覚しなければならない。

 それは絶対に嫌だ。

 俺の頭の中には土石流のように色々なモノが流れるがそれだけは分かる。それは濁流ごと覆い尽くすような大きなモノだった。

 だからこそ今やらなければいけない事は先生が最後に言った事を実行することだ。

 それが今の俺の動力源となる。


「簡単に言ってくれる」

 心の底からそう思う。訓練の時は人差し指を少し引くだけで良かったからあの状態まで行けた。だがそれを日常生活からやれと言われると話が違いすぎる。あれはできるだけ1つの事に集中することでなれる状態だ。

「ふー」

 俺は校門を出た所であの時のように息を吐き気持ちを落ち着かせる。あの時同様辺り一面がホワイトアウト現象みたいになる。

 360°から、歩く者の、立ち止まっている者の気配が伝わってくるが体を思うように動かすことができない。どうしてもこの状態を保つのに全神経を注いでしまう。この状態を少しでも緩めてしまえばいつもの状態に戻ってしまう。

 とりあえず走ってみるか。全身に脚を動かすよう信号を送る。

――脚、動けっ、て言ってるだろッ!

 脚は前に出たが同時に視界にいつもの世界が映し出される。さらに全身から汗が湧き出る。

「くそッ!」

 上手くいかない、だが方法はあるはずだ。先生はできない事をやれとは言わない。できるからこそやれと言った。そして俺はそれを成し遂げないといけない。信じられている訳だしな。

 何か方法があるはずだ。

 例えば手順を逆にするとか・・・・・・、走りながら集中状態になる、みたいな。

――思い付いた事はとりあえずやってみるしかない、糸口が見つかる可能性はゼロではない。

「ええい、ままよ」

 家の方向にダッシュ、と同時に息を吐き集中していく。だんだん視界は白くなり動きも噛み合わなくなる。って、ダーーーーッ!!

「イテー」

 何も無い所でこけちゃったせいで冷たい目で見られてる。ハズッ!

 穴があったら入りたいとはこういう時に使うものなんだなぁ、と生まれて初めて思った。

 結果的に失敗だったが最初の方は少し集中状態にもなっていたしちゃんと走れていた。

 できない訳ではない。何回もやればコツを掴める気がする。

 だからと言って何回もできるようなモノでもない。この前分かったがこの集中状態は回数ではなく時間が関係してくる。1日最高1時間が限界みたいだ。それ以上やると風邪の時に現れる症状の頭痛とは違う頭痛が起きる。頭の内側から破裂するんじゃないかと思うような痛みだ。

それでもやる、やらないといけない。

最初の方はスポーツ選手などが極限状態になった時に使われる言葉で『ゾーン』と呼ばれる状態に近いものと言えるだろう。

つまり、できる事にはできる。がなかなかに困難な話だ。

スポーツ選手はある一つの事に集中するからこそなれる領域だが、今回俺がやる事はすべての事に集中するとか言う無理難題な訳だ。結果、最後の方は噛み合わなくなっていた訳だしな。

香奈とか千夜に聞ければ良いんだが、そうもいかない。

とりあえず、自宅に着くまではやり続けるか。

七顛八起だ。


「ただいま・・・・・・」

 俺はいつもよりも長い時間を掛けて自宅に着き扉を開ける。

 結局、自宅に着いたのは太陽の下部分が欠け始めた時で自宅に着くまでに何回も試して何回もこけた。その度に道行く人に冷たい目で見られる。さらに、汗だくというオプション付きで。・・・・・・確かに。それだったら、俺でも冷たい目で見るわ。変人にしか見えんししょうがないな。

 今日中にはできなかった。俺はそんな数時間でできるような天才ではない。でもちょっとずつゴールには近づいている気がする。

 玄関には香奈と千夜の靴があったが、廊下の向こう側から声が響いてこない。千夜は挨拶を返さない時もあるが香奈は必ず挨拶を返してくれるはずなんだが・・・・・・

 まあそれは置いといて、水分を摂取しないと脱水症状で倒れかねないので急いでキッチンに向かうがヘトヘトで脚が思うように前へ進んでくれない。

 なんとかキッチンへたどり着きコップ3杯の水を喉に流し込む事ができたが人影が無かった。

 香奈と千夜の反応が無かったのは料理でもしているからだろうと思ったがキッチンにもいない。

「何処に行ったんだ、2人とも」

 靴があるから外には行ってないだろう。けど、家の中からも反応が無い。

「まあ、あの2人だ。別に大丈夫だろう」

 もしくは千夜の部屋にでも居るんだろう、確かめるために千代の部屋に入るのは嫌だ。入ったら殺される可能性大だ。

 今はそんな事よりもすぐにでもシャワーを浴びて汗を流したい。

 廊下に出て脱衣場に向かう。下着類は脱衣場に置いてあるプラスチック製のタンスの中に入っている。

 足取りも少しは正常に治ってきた、とりあえずは生活に支障は出ないだろう。

 脱衣場へと繋がるスライドドアを開ける。

「はっ⁉︎」

 むわっと伝わってくる熱気と湿気。鼻の奥へと抜けていく何度も嗅いだことがある花の香り。

 視界にいっぱいに入ってくる白い雲。それはたちまち晴れ本当の姿が現われる。

――ソメイヨシノのような色をした綺麗な肌。桃の実のような色をした可愛いらしい肌。

――小鹿のようにほどよく引き締まった細い脚。

――体全体を細く見せるキュッと引き締まったくびれ。

――綺麗な半球の形をした胸。綺麗な形をした丘のような胸。

――星のように自ら光を放ち視線を引き寄せる金髪。周りの光を飲み込み視線を集める艶やかな黒髪。

――パッチリ二重(ふたえ)の栗色の瞳。おっとりとした二重の黒色の瞳。

――朝露のように輝く水滴がなぞる体の曲線(ライン)

「桜君の、えっち・・・・・・」

「すっすいませんでしたーーーーー‼︎」

 見てない!見てない!2人の女性の裸なんて!

 とっとりあえずリビングに避難を・・・・・・

 そこで一旦気持ちを落ち着かせないと・・・・・・これはヤバイ殺されるッ!

「イテッ!」

 気が動転して足がもつれ床に顔から転んでしまった。

 鼻血も出るし!

 あーー、クソ!

 見てないはずなのに瞬きするたびに香奈と千夜の2人がチラつく。

 唯一の救いだったのは2人の大事なとこは見えてない事だ。下はもう下着履いてたし、上は髪で隠れてたし。

 冷や汗止まんねぇ~。

 これ言い訳できないやつだな。

・・・・・・死んだ。

 殺されるなら自分の手で死んでやる! ここは日本男児らしく切腹いたす!

 待て、早まるな! こんな事で死んで良いのか、俺! 他の男どもは本望かもしれないが俺は違う!

 俺はまだやりたいこ事だってある。それを諦めて死んでたまるかぁぁぁぁ‼︎

・・・・・・死なない程度に殺してもらうか。

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