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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編・考え中

少年の終わりと始まり

作者: kotori

普段からやってる一人称以外の地の文を初めて書いた(つもり)なのでかなり無茶苦茶かも知れませんが、最後まで読んでいただけると幸いです。

 赤レンガの絨毯のような道で有名な街のとある家に一人の青年がいました。雪を思わせるほど白い肌と髪は華奢な青年の体付きをより一層際立たせ、とても十六歳の男には見えません。

 青年はたった一人の家族の帰宅を待ちつつ窓から降る雪を眺めながら今から随分と昔のことを思い出していました。

 それは青年がまだ少年だった頃事。自分自身が何者なのかすらわからなかった頃の記憶。六年前の日のこと。

 少年にとって人生が始まった日のこと。


 ■□■□■□■□■


 その昔少年は一人ぼっちでした。どこで生まれどうやって育ちどんな風に生きてきたのか、これからどういう風に生きるのか。自分が何故赤レンガの孤児院の小さな部屋の隅で膝を抱えているのか、何一つわかりません。

 昔も今もそしてこれからも、きっと自分が何者なのかわかる日が訪れる事は無いと言葉を知らずとも諦め方を学び実行しました。


 少年にとっての世界窓のない部屋の中と壁の向こうから聞こえる子どもたちの楽しそうな歌声だけ。

 少年はそれだけで充分幸せでした。親が居たということすら知らず自分の名前も分からない、扉の向こうの世界に踏み出せなくても幸せでした。幸せという言葉を知らなくても少年は幸せでした。

 少年には幸せが何なのかわかりません。でもきっとこれが幸せなんだと諦めました。


 少年の食事は毎日太陽が一番高く登る頃、と言っても窓のない部屋だから少年には朝なのか夜なのかわからない。扉に付いている小窓から入ってくる固くて粗末な食パンが二枚だけです。水は部屋に備え付けられた蛇口から直接飲みます。

 少年は食パンと水道水が何かわかりません、でもこれを食べないと死んでしまう事は知っていました。

 空腹は知らないけど食べたくて仕方なくなるまで我慢して食べる食パンはどんなに固くカビ臭くても美味しくて好きでした。少年にとってパンは顎が痛くなるほど固く異臭のするパサパサとした物だったのです。

 少年には美味しいや好きが何なのかわかりません。でもきっとこれが美味しいや好きなんだと考えるのを諦めていました。


 少年はなんでも知ってます。幸せも好きも美味しいも、でも少年が何より知っている事は諦めです。少年は幸せも諦めも美味しいも諦めで知りました。少年にとって諦めることは知ることでした。

そういう意味では少年は何一つ知りません。諦める事は知る事ではなく妥協する事、しかし何も知らない少年にはその二つの区別がつくはずもないのです。

 諦めることでしかものを知れない少年では言葉をどうしたって知ることができませんでした。本も何も無いその部屋で言葉を知るすべは何一つなかったのです。

 三日に一度聴こえてくる合唱もことばを知らない少年にとっては鳥のさえずりと変わりません。少年はどう諦めても言葉を知ることが出来ないという事を知りました。


 そんなある日少年の日々に変化が訪れたのです。

 話し声が聞こえてきたのです。初めて聞く声と言葉は少年にとって未知の物でしかありません。考える暇も無く知るための諦め方も検討がつかない少年にとって初めて味わう恐怖でした。

 でも少年は今感じている感覚がなにかわかりません。思わず震えてしまうこの感覚は少年の世界だけじゃ決して味わうことのない感覚です

 少年は怖いを知らないけど、知らないことが怖いことだと知りました。


 唯でさえ小さい体をもっと縮めて少年は扉を見つめました。聴こえてくる声が大きくなるほど少年は身を縮め視線を強くしました。

 扉の向こうからは大きな声のやり取りが聞こえる。少年それが喧嘩の類だと言葉がわからずとも子ども特有の感性で気づきました。

 喧嘩をしている、しかし言葉を知らぬが故に喧嘩の理由も内容も分かりません。

 そもそも喧嘩という言葉を知らない少年からすれば、大声のやり取りが喧嘩だとわかっていても何が起きているかわからない。

 知らないことは怖いことだから少年はより一層身震いを強めました。


 未知に震えていると少年は初めて扉の開く瞬間を目の当たりにしました。初めて聞く軋んだ音は少年の耳には不快でしかありません。

 不快感に顔を歪めながら開いた扉を見つめるとそこには大きな声人が二人立っていた。

 一人は黒いスーツに身を包み冷たく感情の感じられない顔には銀縁のメガネが掛けられていた。

 もう一人は赤紫色のロングスカートに藍色の大きめのニットセーター、その上に緑と生成色のショールを羽織った女。スーツの男とは対極的な表情は陽だまりを連想できそうな程暖かいものだが、窓のない部屋で暮らして来た少年にはその暖かみが何なのかわかりません。

 鏡のない部屋にずっと居たが故、少年はその時初めて人の顔を見ました。


 戸惑う少年にユウコは歩み寄ると微笑みながら座って目線を合わせゆっくりと話しかけます。


「こんにちは」

「…………」


 しかし少年は言葉を知らない、そんな少年からすればユウコ性の挨拶もただの音でしかありません。そして言葉を知らない少年は同時に自分の気持ちを言葉にすることもできませんでした。

 誰がどんな気持ちかなんて少年で無くてもわからない事、自分地震ですら見失うほど複雑怪奇した代物なのだ、言葉を持たない少年からすれば伝えるどころの話ではありません。

 少年にこれまでの人生では到底人間の気持ちなんて味わえるはずもなかったのだから、わからなくても当然なのです。


「私は名前はユウコ、ユ・ウ・コ。よろしくね」

「…………」

「言葉はこれからゆっくりと覚えていけばいいわ」

「…………」

「まずは私と君の名前から」


 ユウコはジェスチャーも交えながらゆっくりと話ました。そして一通り話終えると右手を少年の頭に持っていき撫で始めました。初めはビクビクと怯えていた少年もユウコの掌の暖かさに心地よさを感じ、すっかりと落ち着きを取り戻しました。

 ユウコはタイミングを見計らって空いてる方の手で自分を指さし話しかけます。


「私は、ユウコ」

「……ううお」


 満足げに微笑むと次は少年に指を指しいままでと同じようにゆっくりとした口調で話し始めた。


「君は、ホワイト」

「……おあいと」

「そう。ユウコとホワイト、家族」


 ユウコは両手で少年の両手を包み込み今までとは打って変わって真剣な眼差しで少年の目を見つめました。少年は初めて見つめられどうすればいいのかと挙動不審になるも、手を振り払うだけの力もなく次第に俯いてしまう。

 ユウコがどれだけ気持ちを込めて真剣に真摯に語りかけようと少年には何も理解出来ない。先程の名前もジェスチャーが少年でもわかるほど単純だったからオウム返ししただけで、言葉の意味まではわかってなどいなかった。

 それでも少年は自分を撫でてくれたユウコが、自分に危害を加えようとしてるのかどうかはわかった。知識がないが故直感で判断するしかない。こんなに暖かくて心地いい物が危険なはずない、少年は直感だけでそう判断した。


「ううお、おあいと、かおく」

「うん、家族」


 十歳にしては小さく力を入れれば折れてしまいそうな少年の体をユウコは強く抱きしめ、少年は温もりに包まれる感覚の心地よさに抵抗するどころか眠ってしまった。

 黒いスーツの男はそんな様子を見て忌々しげな顔をしたがユウコは気付かない。

 こうしてユウコとホワイトは家族になった。誰もが祝福した訳では無いが、ホワイトはユウコに受け入れられ何も無い孤児院から赤レンガの道で有名な街にあるユウコの家に住むことになった。

 少年はその日から一人ぼっちじゃなくなり、固い食パンと聴こえてくる歌声を楽しむだけの人生に終わりを告げ、新たな人生の幕を開けたのだ。

読んでいただきありがとうございます。

もし宜しければ評価や感想でいい所悪い所を書いていただけるとこれからの参考になるのでありがたいです。

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