おもちゃを取られた子供(1)
「どうして喋らないの?」
ジェニールは、そう言って僕の顔を覗き込んでいる。
「い…いや、なんでもない。少し考え事をしていただけだ」
「ふーん、それならいいけどー」
とりあえず、さっさと帰った方がいいな。
そう判断し、当初の目的であるミーボ・トールさんの居場所を聞くことにした。
「なあ、ジェニール、ミーボ・トールって人知らないか、中肉中背のおっさんなんだが……」
ジェニールは少し考えて言った。
「えーと、知ってるけどー、どうするのー?何か用事ー?」
「ああ、急遽その人はここには居られなくなってしまってな、すぐに帰らないといけないんだ」
「えー、なんでー?どうしてなのー?」
明らかに口調が変わっているし、目つきも変わっている。警戒しているらしい。まあ、こう来ることが分かっていたからわざわざ作り話をしたんだけどな。
「ああ、あの人は重い持病があってな、早く帰んないと死んでしまうかもしれないんだ」
「ふーん………」
ジェニールはじっと僕の方を見ている。こんな時、気持ちで負けてはいけないのは前世で体験済みだ。
「………わかった。今呼ぶね」
口調が戻っているので、警戒は解けたらしい。
手を二回叩いたあと、「トール!」とジェニールが叫んだ。すると、一人の男がこちらに走ってきた。
「ッ!?」
そして、僕はそれを見て絶句した。なぜなら、彼の身体がほとんど骨と皮だけになっていたからである。
「……ねえ、あなた……」
「ヒッ!」
跪いているが先程の男達とは違い、身体がカタカタと震えている。まだ日が浅いので、充分に奴隷になってはいないらしい。
「お迎えが来てるよ。この人が、帰ろうだって」
「……え?」
思考回路が追いついていないらしく、キョトンとしている。が、すぐに気がついたのかこちらにゆっくりと歩いてきた。
「あなたが、ミーボ・トールさんですか?」
「はい、そうです。……あなたは?」
喉が乾いているのか、物凄いガラガラ声だ。
「私はダウトと言います。あなたの奥さんが掲示板に出した依頼を受けて、あなたを迎えに来ました」
「ほっ、本当かい?」
「はい」
そう答えると
「あ、ああ…ああああああああああああああああああああ!!!」
トールさんは男泣きを始めた。
「ちょ!?どうしたんですか!」
「いやぁ、う…嬉しくって、嬉しくってよぉ…」
それだけ辛かったということだろうか。
「さあ、さっさとイきなさいよ」
ジェニールは少し俯いて言った。
その言い方に、少し疑問を感じたが、今はそれよりも早くここから出る事が大切だろう。
「ああ、じゃあこの人は連れていくぞ。さあ、行きましょうか」
「ああ」
トールさんが立ち直り、行こうとしたその時
ジェニールの手の石が光り、ハイドになった。
「よーし、逝ってこおおぉぉぉい!!!」
その瞬間、ハイドの背中から黒い肋骨のような形のものがトールさんの身体に、背中から穴を開けた。
ゴキッバキボキッ、ゴシャッ、ブシュゥと音を立てて、背骨と肋骨が砕け、他の臓器が剥き出しになった胸部からは鮮血が吹き出た。
「くぇ?」
ギリギリのこっていた肺から、絞り出されるように出た言葉が、彼の最期の言葉になった。
「……は?…一体………どういうことだ?」
質問すると、ハイドは答えた。
「いやだってさー、連れて帰っちゃうんでしょ?そんなことしたらアタシの近くから消えちゃうじゃん?だったら……要らないかなって」
「………は?」
答えになってない答えがかえってきた。
「お前ふざけんなよ!人の命をなんだと思っていやがる!」
僕が怒ると、彼女はキョトンとした顔で言った。
「え?他人の命なんてどうでもいいじゃん?何言ってんだお前?」
「ッ!!!?」
「お?どうした?殺る気か?」
「……ああ」
完全にキレたのはいつぶりだろうか。
「よーしかかってこい。相手にしてやるぜ!ケシシッ」
●
ヒメとカイは二人仲良く物陰に隠れた。
「はー、面倒な人と会っちゃいましたねー」
「……お互い様」
彼らは、前々から結構仲が良かった。なので争ったりはしない。
とゆうか、彼らは基本争ったりはしない。なぜならそれは彼らの共通の目的になんのプラスにもならないからである。
「問題は…」
「……どちらかが死ぬ前には戦いを止めないと危険。目標の達成が不可能になる」
彼らは、目的のために彼らを止める方法を模索した。