サブストーリー ジェニール過去編
少々グロテスクな表現が含まれています。
彼女は小さな頃からおかしな子だった。
たまにやんちゃな子になったと思ったら、すぐに大人しくなり、起こったと思ったら、いきなり泣き出したり、まるで2人の人間がその中にいるかのような、そんな子だった。
彼女はよく、ジギルとハイドのお話に出てくるジギル博士と同じ名前で呼ばれていた。別に、本名はジギルではない。しかし、ジギルは別に気にしていなかった。
彼女が異世界に来るきっかけは、とても悲しいものであった。
その時、彼女には彼氏がいた。彼女より少し背が大きく、とても優しい人だった。
しかし、彼は優しすぎた。彼はその性格と穏やかな顔立ちのおかげで結構女子に人気があった。よく告白のされていたのだが、ハッキリと断ることができず、何人もの女子に誤解を生じさせていたのである。
その噂が、彼女の耳に入るまでに、あまり時間はかからなかった。
彼女は、すぐに彼氏の家へ行き、彼の部屋まで一気に駆け上がった。
「ねえ!どうゆうことなの?私が一番好きなんじゃ………!!!」
彼女の目に飛び込んできたのは、他の女を複数人連れ込み、馬鹿みたいに腰を振っている彼の姿だった。
「………嘘……こんな…こんなこと…ある………訳……………」
膝を落とし、落胆する彼女に、彼は慌てて近づいた。
「いや、こっ、これは違うんだ!か、彼女達がこうしないと死ぬって言うから………仕方なく………本当、本当なんだ!」
それは、あまりにもひどい言い訳であった。それが嘘であることは、この部屋に入った瞬間にわかった。床に敷かれたカーペットが、彼らが撒き散らした体液によって所々シミだらけになっていたし、ゴムも7個ほど落ちていた。
「……………」
彼女からの返事はない。
「………どうしたの?」
彼が彼女の顔に自分の手を近づけた瞬間、彼女の中のもう一つの人格が、その本性を現した。
まず、カノジョは彼の両目に向かって人差し指と中指を突き立てた。
「え?」
反応が遅かった彼の両目に2本の指が深々と刺さる。カノジョの爪は、きちんと手入れされていたが、普通の女性よりも長めに爪を維持していた。
「ぎゃああああああああああああ!!!」
「「「きゃあああああああああああああああああああああ!!!」」」
彼が痛みによって叫び声をあげ、部屋にいた女子達も悲鳴をあげた。
そんなことなど気にもとめず、カノジョは突き刺さったままの指を、乱暴に引き抜いた。その時、指を曲げながら抜くことによって、目の中を抉るように動かした。
「━━━━━━━━━━━━━━っ!!!」
もう、彼の悲鳴は声に表せないようなものになっている。言葉で表すなら、喉から空気が勢いよく吐き出されているような音だ。
カノジョはそれが気に入らなかった。
近くに落ちていたカッターナイフを使って、喉仏より少し下のあたりに切れ込みを入れた。するとそこから血が吹き出し、少し経ったら泡ができ始めた。。空気が抜けているのである。
「………ウフフ」
カノジョはこの時、とても愉快な気持ちになった。
それを見ている女子達はもう静かにしている。ある者は泡を吹き、ある者は失禁し、ある者は絶望し心ここに在らずの状態である。
「あっはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははっはっはっははははははっはっ!!!」
カノジョはカッターナイフを彼の局部に当て、そのまま切断した。
彼の身体がビクンッと跳ねた。
このショックにより、彼は死んだ。
カノジョは死体に向かって、叫びながらカッターナイフを胴体に向かって何回も振り下ろした。
「テメェが悪いんだ!テメェがアタシを裏切ったからこうなったんだ!アタシは悪くない!悪くない!悪くない!悪くない!悪くない!悪くない!悪くない!悪くない!悪くない!悪くない!悪くない!悪くない!悪くない!悪くない!悪くない!悪くない!悪くない!悪くない!……………」
一体何回刺しただろうか。
カノジョは、彼女に戻った。
そして、目の前の光景を見て絶句した。
「……ウフフ、な、何かの間違いよ。こんなこと。でも、私の体、血だらけ。これ、かれのなの?わたしがやったの?わたし、かれを」
彼女は、考えるのをやめた。
そして、今すべきことをやった。
●
「うーん」
1人の女子が起きると、
「きゃあああああああああああああああああああああ!!!」
そこには、彼女の死体が転がっていた。
その外傷は、彼とほとんど一緒だった。
●
彼女は、浮遊感に襲われていた。
そして、自分の死を実感した。
「ああ、これで楽になれるんですね」
そう考えていると、男の声がした。
「………やり直しませんか」
「……え?」
彼女が聞き返すと、また声がした。
「………もっといい人生を手に入れて、また人生をやり直しませんか?」
彼女は少し考えて答えた。
「もういいわ。彼がいない世界なんて、私には必要ないし」
声は答えた。
「やり直したなら、また彼と会えますよ。もっといい男になった彼に」
「え?彼に………彼にまた会えるの!?」
声は続ける。
「………はい。あなたが善行を積むのであれば」
彼女は決心した。
「やって見せる。そして………また彼に、裏切らない彼に会うんだ!」
彼女の視界に光が差し込んだ。
「………ようこそ、こちらへ、私はカイ。あなたの付き人です」
「ここは………?」
目の前に広がるのは、漁師や農家の人々が行き来する活気の溢れる町並みだった。
「………さあ、始めましょうか、新しい人生を手に入れるための試練を」
「………ええ」
こうして、彼女はこの世界で、新たな人生を手に入れるため、ジギル・ジェニールとして生きるのである。
ただし、歪んだ善行を重ねながら。