おもちゃを取られた子供(2)
先に動いたのはハイドだった。
「くらいやがれええぇ!」
肋骨のような物が3本、ダウトの方へと向かった。
「フンッ」
だが、ダウトはそんなものは気にせず、正面へと一気に走った。
「!?」
弧を描くように動いていたそれは、ダウトに当たることなく空を切った。
ハイドにとって、これは計算外の動きだった。
「くっ!」
急いで物戻そうとするが、もう遅い。
「おっらぁ!」
ダウトの拳を顎でもろに受ける。
「あぐぁ!」
脳が揺れ、体制を崩しよろよろと後ろへよろめいた。
そこに追撃の後ろ回し蹴り。
「ぐっ!」
さらに、そのまま服を捕まれ、背負い投げ。
「うぐぁ!」
地面に叩きつけた後、ダウトはバッと間合いをとった。
「…ふぅ」
一つ息を吐く。
「……まさか、武術が使えるなんてねぇ」
引きつった笑顔を浮かべながら、ハイドがゆっくりと立ち上がる。
思いきりやったが、大きなダメージにはなっていない。
(普通の人間なら、しばらく立てなくなるんだけどな)
と思ったが、さっと思考回路から消した。
「ケシシッ、次はこっちの番だ!」
地面が抉れるほど強く踏み込み、一気に間合いを詰められた。さっきまで6メートル離れていたのに、もう彼女が腕を伸ばせば届くところにいる。
(ヤバイ!!!)
反射的にダウトは左脇腹を守った。
そしてそこに、間髪入れずに、物が衝突してくる。
「うぐっ!!!!」
勢いを殺せず、そのままダウトは近くの建物にめり込んだ。
辺りを砂煙が包む。
「ふーん、やっぱり能力を持ってる奴はいいねぇ。身体が頑丈だからそう簡単に壊れなくって飽きないからなぁ」
(……あん時ヒメが言っていたことは本当らしいな)
ゆっくりとめり込んだ建物から身体を抜いて、ダウトはここに来る前にヒメが話していた能力を持つ人の身体の解説を思い出していた。
●
「そうそう、言っておきたいことがあります」
話は本当に唐突に始まった。
「ん?なんだ?」
橋も終盤に差し掛かった頃に、ヒメは話し始めた。
「石をつけた時に、強烈な痛みを受けましたよね?」
「ああ、気絶するほどのな」
嫌味っぽく言ったが、ヒメは気にせず続けた。
「あれって、能力を植え付けるのと同時に、身体機能の能力向上もしてたんであんなに痛かったんですよ」
「ふーん」
あまりに唐突すぎて、何を言ったらいいのかわからないが、とりあえずあいずちを打った。
「筋肉とか骨とか、構造とその量も変わってるんで、戦う時にはものすごくパワー出ますよ」
「ん?今戦うって言ったか?」
「え?はい、言いましたけど」
聞いてないんだが。
「僕って人助けしたら願いが叶うんじゃないの!?」
「人助けの中に、戦闘依頼とか。不良の撃退とかあるかもしれないじゃないですか」
「ああ、そうゆうこと……」
それなら納得だ。
「まあ、これは念のためなんですが…」
「ん?なんだ?」
「人格順位については理解してますか?」
「ああ、それなら石がおしえてくれたぞ」
人格順位とは、この世界における生物の人格的順位のようなものだ。非生物がランク0、哺乳類以外の動物がランク1、人間以外の哺乳類がランク2、普通の人間がランク3、下位能力者がランク4、上位能力者がランク5、人間以外の種族がランク6、そして七柱神がランク7だ。
「なら話が早いです。実はダウトの能力は下位能力なので、ほとんどの能力者に能力がききません」
……まじか。
「ですので、もし、仮に能力者と戦う時が来てしまったら、能力で相手を倒すことはほぼ不可能なので、そこを理解していて下さい」
ダウトは、はぁ……とため息をついた。
「大丈夫だ。こう見えて武術習ってたし」
「……だといいんですけどねー」
●
砂煙がゆっくりと霧散する。
ダウトはゆっくりとハイドの方へと距離を詰めていた。
「へー、私の能力で作った魔装でもあんまり怪我しないなんて、受け身が上手いねぇ」
完全に舐められている。
だがもう、ダウトの中で勝利への作戦が完成していた。
「ハイド……お前に予告する」
「ん?」
「お前は、僕に見下ろされ、その視線を痛いほど浴びながら敗北する」
少しキョトンとした後、彼女の顔が歪む。
先程までとは違い、その顔にはハッキリとした怒りの感情を感じられる。
「ケシシッ、おもしれぇ……やってみろよ!」
決闘が始まった。