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1年F組学級日誌  作者: 名雲しぐれ
授業開始前
2/2

隙間の時間

七枝は足が疲れたので教室に入ったとたん歩く速度を緩め、5列ある中の5列目、つまり窓側の前から数えて3番目の席に座る。さすがに席はもう覚えた。


続いてクラスメイトが続々と席に着き始めるが、まだ名前も知らない人たちばかりだ。正確に言うと、覚えてないだけなのだが。


右隣の人は背中を向けて熱心に誰かと話している。


七枝はいわゆる「ぼっち」というやつになってしまった。周りは知らない人ばかりだから、しょうがない。あと1週間もすれば友達の一人や二人できるだろう。

それに、一人でいるということも悪いことではない。校庭に植えられている桜を見ようと窓を開けて外を覗き込むが、桜の花はもう散ってみるだけで残念な気持ちになってくるありさまだった。


ちょっと大きいセーラー服に目をやり、黒板に目をやり、机に目をやり……。何も楽しくない。


ここで誰かに声をかけられる、というのが大抵のヒーロー・ヒロインなのだが、七枝にはそんな要素はかね揃えられてはなかった。


容姿はそこそこだが、けだるそうな目に猫背、めんどくさがり屋な性格によりそれさえも邪魔している。


昔見た漫画では目がパッチリしていてサラサラストレートのありえない色の髪の毛で、可愛げがあり誰にでも優しいといった完璧な女の子が転校してきて……。その子と仲良くなった男の子が云々、誰にでも優しかった転校生はその子に怒ってしまい、泣きだして云々、なんやかんやで付き合うことになりハッピーエンド。

そんなうまい恋愛ができたら最初からその通り進めてやるよ、と独り言で吐き出したのを思い出した。別に好きな人なんてできたことがない七枝にとっては嫉妬なんて感情は出てこなかったが、何となく苛立ってくるのだ。


中々戻ってこない担任に、このぼっち状況。こんな暇な時間があったらゲームにでもつぎ込んでやるのに。


ふいに後ろの席に目をやる。後ろの席はベリーショートの女子。この子もつまらなさそうに横を向いているだけだった。


上靴に名前が書いてあるので、一応名前だけは把握しておこうと目線を落とす。


視界にうつったのはセーラー服のスカートの下に見えるジャージだった。確か、昨日配られていたはずだ。


上靴に描かれた名前を見ると、「大竹蛍おおたけほたる」と明記されてあった。きっと別の小学校出身だろう。顔見知りでもなかった。


大竹は、ずっとぼんやりどこかを見つめているようだった。


話しかけてくる様子もないので、無視して前を見る。


すると、やっと担任が教室に戻ってきた。名前は、篠崎裕次郎しのざきゆうじろう。年齢は30代前半くらいだ。


篠崎は教卓に出席簿を置き、教室全体を見渡した。もうとっくにクラス中から聞こえていたおしゃべりの声はやんでいた。


篠崎は謝る素振りもなく、手に持っているプリントを扇形に動かし、こう説明し始める。


「今から学級委員のアンケートをとるからな、みんなこのクラスの中で知り合いでも何でもいいから推薦したい奴を書け。できれば理由も書いてほしいが……、時間がなければ別にいい。以上」


ずいぶん乱暴な説明だったが、プリントが配られる。


七枝はいざシャープペンを手に取ったが、推薦する人なんてこのクラスにはいなかった。知り合いがいないのでこんなの描けるわけがなかった。


白紙提出はいけないのだろうか、七枝は考える。

学級委員は男女ともに1人ずつ推薦枠がある。どっちにしろかけないのだが。

しかしどちら一方だけでも書いた方がましだろう。


ふと思い当たったのは、後ろの席の大竹蛍だった。名前を確認しておいてよかった、と七枝は即決でプリントの「女子学級委員推薦」の枠に「大竹蛍さん」と書いた。


そのまま七枝はシャープペンを動かさずに時間が過ぎるのを待った。そして、篠崎が1枚1枚プリントを回収。後日、結果が発表されるそうだ。


ここも前いた場所と変わらない、面倒くさくてつまらない場所だ。きっと1年間何があっても自分に害があることはまずないだろう。


――そう、思えたのが最後だった。

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