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世界を跨ぐスマートフォン  作者: あざらし
4/4

四人目 自称仙人、女の子達を侍らす方法についての相談

 美少女ゲームを全クリした僕は、お茶を飲みながら達成感に浸っていた。

 最後にハーレムエンドを迎えた時のあのシーンには鳥肌ものだったが、とりあえず終わることが出来て何よりだ。できればもう二度としたくないゲームである。

 イケメン度100になったダークエルフはいつの間にか痩せてイケメンになっていた。おかしい、僕は別段運動させていない筈なのに……。


 ようやく終わらせたと感慨深く呟いて、僕は次のゲームを始める。先程相談を受けた報酬にもらったゲームだ。名前を「英雄王ヴォルカイザー」という。名前がカッコいいので中々期待している。しかもアイコンが斜め十字にクロスされた剣であることから、これが本当のRPGだと僕は思う。


 アイコンをタップして始めると、またもや主人公をカスタマイズする画面が出てきた。どれもこれもカスタマイズするのが普通なのだろうか。初めてのスマートフォンのアプリでゲームする僕としてはよくわからない。

 このゲームでは髪型と髪色と肌の色、そして目の色が変更できるようだ。ただし、名前はヴォルカイザーで固定されている。金髪碧眼や銀髪紅眼にしてもつまらないので、水色の髪に青い目、そして青い肌におかっぱという不思議な主人公にカスタマイズしてみた。

 青い肌にできるのが凄いよね。何だかモンスターみたいな英雄王だ。


 僕の期待通り、このゲームは普通のRPGだった。突然恋愛展開なんてない、友情と戦いの物語だった。素晴らしい。美少女ゲームをした後のこれは清々しいものを感じる。

 攻略を進めていると、本日二回目の着信音が鳴ると共に画面が変わった。


 またもや電話だ。今度はどんな痛い人からの電話だろうか。重い溜息を吐いて僕は通話ボタンを押した。

 今日はどんな相談が来るのだろうか。この電話番号にかける人は皆相談しているので、自然と僕もそう思うようになっていた。


『うぅむ、聞こえているかのぉ?儂は仙人の……名前は言えんから仙じいと呼んでくれ。兎も角、儂の相談を聞いてほしいのじゃが』

「あーはいはい、どうぞー」


 仙人。今度は仙人かよ。中々妄想のレパートリーも尽きないものだ。僕は思わず感心してしまったよ。とりあえず相談したいらしいので、話を促すことにする。

 自称仙人はエヘンと咳払いをして続けた。


『実はのぉ、最近可愛い女子たちが儂を避けておるんじゃ。ただのジジイを避けては「何あの視線、絶対胸を見ているわ」と陰口を叩いておる。なんで見ちゃダメなんじゃ!男のロマンを否定せんでほしいのぉ!のぉ、お前さんもそう思っとるよな?』


 え、これ同意求めてるの?女の子の胸を見るのがロマンだなんて初耳だけど。どうしよう、ここで否定的なことを言ったら僕は恨まれる。それは嫌だな。だからといって認めるのも嫌だ。

 迷った末に、僕は答えた。


「そもそも女の子たちと会う機会なんて早々ないんで何とも言えないですねー」

『なんじゃと!?お前さん、寂しい奴じゃな……どれ、儂が良い仙女を紹介しようかの?まあ、どいつもこいつも若作りのババアじゃがな』

「いえ、結構ですー」


 どうやら僕の答えは相手を怒らせるには至らなかったらしく、寧ろ同情された。まあ、怒られるよりはマシなので甘んじて聞くことにしよう。

 しかも何やら女性まで紹介されたぞ。ババアなんて高校生に紹介しないでほしい。僕は熟女好きではない。若作りって言ってもやっぱり熟女だよね。仙女って熟女ばかりなのか。

 このおじいさんもおじいさんな割に結構痛い人だ。しかも変態だ。これは何という二重苦なのだろう。そういえば自称魔皇帝も変態で痛い人だった。彼と同じ分類だ。

 しかしこの自称仙人、中々のお喋りである。


『……と言ってな、全くアイツは儂をイラつかせる天才じゃ!なーにが世界五大美女じゃ!アイツはどの仙女よりもババアじゃ!仙姫なんてババアがもらって良い名前じゃないじゃろ!!アイツの弟子は弟子でケーキケーキ煩いしのぉ、その弟は儂の弟子なんじゃが……そいつは無言でケーキを催促ばかりして、本当に姉弟そっくりじゃ!!』


 何だかこの自称仙人、先程から一人で愚痴っている。僕の相槌を聞くことなく延々と喋り続けているので最初辺りに彼が何を言っていたのか忘れてしまった。覚えているのは最後辺りだけだよ。

 世界五大美女って、何だかいかにもな感じだ。本当に美人なのだろうか。この自称仙人の話を聞いている限り、年齢詐称がいるようだが。しかし年齢詐称の美人を五大美女に入れるという設定も中々斬新だ。流石の妄想力だと思う。うん、褒めているんだよ。


 自称仙人はどうでも良いことばかり話しているので、正直言って飽きてしまった。スマートフォンなどは電話をかけてきた方が料金を負担するらしいので、自称仙人が凄まじい額を負担することになりそうだ。僕は負担しないので右から左に聞き流せば問題ない。少し精神力が削られるだけだ。

 この人の脳内設定も中々面白い。世界五大美女の弟子がケーキ好きとか、その弟もケーキ好きとか。何故ケーキなのかツッコんではいけないのだろうか。いや、そうすればますます通話が長引いてしまう。

 早く電話を終えたいのだが、いつになったら本題に入ってくれるのだろうか。


 しばらく話していた自称仙人は、ようやく自分が話しつづけていたことに気付いたらしい。何やら謝っていたが、僕は気にしていないと言って用件を促した。


『うむ。実はの、儂は本当はイケメンなんじゃ。仙人はジジイがいいとババア共が言うから仕方なくじいさんの姿になっているだけじゃ。儂は若いんじゃよ、本当は。なのに女の子たちからはジジイ扱いで遠巻きにされておる。女の子たちを侍らすにはどうしたらええんじゃ?このままじゃあ、儂は一生女が出来ん!!』


 自称仙人の話は僕からすれば「ふざけんな」の一言であった。イケメンじゃなくフツメンの僕に対する当て付けだろうか。恨めしい。

 自分でイケメンとか言う奴は滅んでいいと思う。

 まあ、これはこの人の妄想だから否定的なことを言ったら発狂するかもしれない。本当に良い年だというのにこういう妄想しちゃっているので、少し労わらないといけないだろう。うん、あまり傷つけないようにしないと失礼だよね。


 この人の妄想ではこの人は仙人らしいので、その設定を利用したモテ方をレクチャーしてみることにする。大体勘で言っているから間違っても知らないけどね。


「そうですねー。仙人ということでしたら、惚れ薬の一つや二つはできるんじゃないですかー?それを香水みたいに振りかけてみてくださーい。それで女の子たちの前で手品みたいに「実はイケメンでしたー」的な感じで元の姿に戻ってみてくださいよー。大抵イチコロですって」


 とはいうものの、経験したことないから出鱈目なんだけどね――とは黙っておく。


『おおっ、惚れ薬を飲ませるのではなく香水代わりにするのか!中々独創的なアイディアじゃのぉ!儂は思いつかなかったぞ!!流石相談員じゃな、相談して良かったぞ。うむ、そして女の子たちの前で手品的に元の姿に戻れば良いんじゃな、わかったぞ。感謝する』

「はーい。じゃあ、頑張って下さーい」


 どうやらアドバイスを真に受けたらしい。自称仙人が「早速試してみる」と言っているのを僕は聞いた。このことから僕はこの人が末期であると悟ってしまった。

 この人、現実と妄想の区別がないのかもしれない。

 妄想の設定なのに現実で惚れ薬を作ろうとしてしまうなんて……彼に狙われる女の子たちが心配だ。現実の惚れ薬って実は大抵が精力剤らしい。つまり……うん、ちょっと僕は間違った答えを言ってしまったのかもしれない。


 溜息を吐きながらホーム画面に戻ると、再びメッセージが現れた。そういえば先程通話時間を見た所、八十五分と書いてあった。自称仙人、話し過ぎだよ……。


《一件の相談を受けました。報酬を受け取ってください》


 にしても、このスマートフォンの電話料金とかはどこから請求が来るのだろうか。気になって仕方がない。現れたメッセージの下にある受け取りボタンを押して僕は報酬を受け取った。


《報酬 ホームキャラ ちびふくろう》


「ホームキャラ?」


 初めてゲーム以外の報酬をもらった気がする。にしてもホームキャラって何だろうか。ホーム画面にプレゼント箱があるのでそれをタップしてみた。

 すると、箱が画面の真ん中に出てきた。かと思いきや、リボンが解かれて中から……フクロウが出てきた。何故かリアルフクロウだ。アニメ化していないが、製作者の意図を知りたい。


 「ちびふくろう」というらしいこのフクロウは、真ん丸でとても可愛らしかった。くりくりとした目でこちらを見ている。何だか気になったのでタップをしてみた。


《初めまして!私の名前はちびふくろう。フクロウネットワークの諜報員です!これから貴方のスマートフォンに所属することになりました!》


 可愛いフクロウが何気に恐ろしいことを言っている気がする。諜報員って何だ、諜報員って。僕のスマートフォンの情報を盗もうとしているのだろうか。中々えげつないな、このフクロウ。

 しかもこのフクロウが所属しているらしいフクロウネットワークって……諜報組織の一端だろうか。自称魔皇帝も持っている諜報組織か。


 ふと思ったが、もしかしたらこのフクロウネットワークと僕のスマートフォンには何か関係がある筈だ。フクロウネットワークがこのスマートフォンに色々施しをしている可能性がある。名前が可笑しい割に侮れない組織だ。

 フクロウネットワークについて聞けないだろうかと、何となくフクロウネットワークの文字をタップしてみた。すると、ちびふくろうのメッセージが変わった。


《フクロウネットワークはフクロウが沢山務めている諜報機関です!構成メンバーは現在ロックされているので教えることはできません。ロックを外すにはロック解除アプリを導入してください》


「ロック解除アプリ?ってことは、相談を沢山受けろってことかな」


 構成メンバーは機密情報ではないらしい。ロックを解除したら見ることができるようになっているらしいからだ。諜報機関なのに良いのだろうか。それとも、バレても問題ないという自信があるからなのか。

 そしてその解除方法はアプリの導入。すなわち相談を受け続けなければならないということだろう。妄想癖のある面々の相手をしてアプリを手に入れないといけないなんて結構辛い仕事だ。

 もはやこれは仕事だろう。給料がアプリになってしまっているのが何とも言えない。社会ってこんなものだろうか。


 これからも相談を受けなければいけないと暗に言われた僕は、ゲームに逃げるという選択肢を選ぶことにした。少し現実逃避をしたっていいじゃないか。自称何とかさんをこれから何度も相手しないといけないんだからさ。

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