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世界を跨ぐスマートフォン  作者: あざらし
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二人目 自称魔皇帝、娘の片思い相手についての相談

 僕は今、自称王子の相談を受けたことによって得た報酬のゲームを遊んでいる。ちなみにもう家に帰ってきている。

 僕の両親は仕事のために家に殆ど帰ってこない。そして僕には兄妹はいない。

 つまりどういうことかというと、僕はいつも一人なのだ。


 いつから一人暮らしをしていたのかは思い出せない。中学生の頃には既に料理していた気がするので、恐らく小学生の頃からだろう。

 両親は家に帰ってこないので、家の電話に連絡すれば僕が出ることになる。故に両親は僕に携帯電話の必要性はないと判断したのだ。それもそうだろう、家に固定電話があるのだ。携帯電話を持ったところでそれほど使う機会はない。


 しかし、今の僕は携帯電話の更に上を行くスマートフォンを持っている。電話機能しかないスマートフォンに、ゲーム機能が付けば家の固定電話よりスマートであることがわかるだろう。

 この真っ白なスマートフォンは、着信を受け取って初めてスマートになったのだ。


 夕食を食べ終えた僕は、報酬である「お宝ハンターベガ」というゲームをしている。

 このゲーム、中々面白い。ゲームをしたことが無かった僕ができるくらいだ、その操作の簡易さはわかってくれるだろう。

 ベガという主人公を使って宝を取っていくゲームだが、時には盗賊紛いのこともする。他のお宝ハンターからも奪うことが出来たり、美術館等に展示されている宝を奪うこともできる。

 こういうのがあるから世間を騒がしくするんだと思いつつ、面白いと思ってしまう僕は悪い子なのだろうか。


 主人公のレベルを上げると更にランクの高い宝が取れるので、僕はレベル上げに専念していた。最近はどこかの金持ちの夫人から宝石を奪ったりしている。ちなみに奪い方が多種多様なのがこのゲームの良い所だと僕は思っている。

 例えば相手が女性の場合、色仕掛けで取ることもできるのだ。その時は大抵潜入してのイケメンぶりを発揮、そして気付かぬうちに奪うというのが流れだ。気付かれないようにするにはステータスを上げたりアイテムを使ったりすると良い。アイテムはショップで買える。課金というシステムがないこのゲームが僕は好きだ。

 課金は怖いらしい。とある男子生徒は、十万ほどを美少女が沢山出てくるゲームにつぎ込んだらしい。ああ、恐ろしや。


 しばらくプレイしていると午後十一時になったので僕はゲームを中断する。

 この時間帯から僕の就寝時間帯になるのだ。だから僕は眠ることにしよう。明日は土曜日なので、思う存分レベル上げをしようと思う。にしてもこのゲーム、最初からスマートフォンに入っていたのだろうか。


◆◆◆


 翌朝、僕は厳かな着信音で目覚めた。聞き覚えのある音に目を開けると、スマートフォンの画面に数字が書かれていた。どうやら電話が来たようである。

 元王子ではないようで、知らない数字が列をなしていた。

 間違い電話だったら泣こうかと思いながら、僕は緑色の通話ボタンを押して耳に当てた。


「もしもしー?」

『おいお前、俺を待たせるなよ!俺は魔界を統べる魔皇帝……あ、素性言っちまった。まあいいや、お前、俺のことばらすなよ?ばらしたら魔界魔術でお前を呪って俺の娘の召使にしてやらぁ』


 何だかまた訳の分からない人のようだ。自称魔皇帝というとてつもなく痛い人が電話をかけてきたことに、僕は人知れず溜息を吐いた。

 魔界とかどう考えてもファンタジーだ。最近の人はここまで頭がファンタジー色に染まっているのだろうか。これで大人だったら恥ずかしいぞ。

 しかも魔界魔術って何だ、呪って娘の召使って……うん、とりあえず痛い人確定だ。


「あーはいはい、ばらさないんで用件言って下さーい」


 あまり魔術とかオカルト的なものを信じないんだけど、この人は本気みたいだからね。話を合わせておかないと、いきなりキレられることになりそうだ。

 僕がばらさないと言ったからか、若干機嫌が戻った自称魔皇帝は先程とは打って変わって泣きそうな声で僕に言った。


『実はな、俺の娘が人形姫って愛でられているの知ってるだろ?最近人形姫がどうも誰かに恋しているようでな、気になって眠れやしねぇ。本人に聞きだせば無視されそうだし、だからといって俺が尾行すれば直ぐに気付かれるし……なあ、どうすればいいんだ?俺は娘の片思い相手がどんな野郎か気になって仕方がねぇんだ』


 ……ちょっとツッコミ入れていいですかね。何なんだよ人形姫って。知ってるだろ、じゃないだろ!僕が自称魔皇帝とやらの妄想の設定を知っているわけがないじゃないか。

 その人形姫とやらも自分で名乗っていたら、「相当いい歳しやがってオバサン……」って痛ましそうな顔で言ってやれる気がするね。いや、その人形姫がオバサンとは限らないけどさ。

 人形姫って人形が好きなのか?それとも人形なのか?どうでもいいが、オバサンがそういう妄想していたら僕は悪寒がするね。


 この自称魔皇帝の話を聞いていると、どうも自分勝手な人のように見受けられる。何せ、娘を尾行してまで野郎を見ようとしているんだ。こんな親父なら普通嫌われているね。

 しかもこの男、どうも娘から嫌われたくないようだ。いわゆる親馬鹿って奴かな?僕には無縁の言葉だ。


『なあ、やっぱり娘を尾行して野郎の顔に代々魔皇帝の必殺奥義、オーヴェルディヴァーンを使った方が良いのか?ああーだけどそうすれば野郎は死んで娘が益々俺を嫌ってしまう……おい相談員、力を貸してくれ』

「はいはい、わかりましたよー。じゃあぶっちゃけますと、別に尾行するのはアンタじゃなくてもいいじゃないですかー。その、王様なら持っているんでしょー?諜報組織って奴ですよ。あれ使えばお姫様も気付きませんって」

『諜報組織……そうか、フェルヴェルダークォンか!!忘れていたぞ!!ありがとう相談員、俺は魔界最強の諜報組織を忘れていた!よし、これで人形姫の日常的な行動から風呂場まで見れるぞー!!!ありがとなー!!!!』


 ブツッ、と通話終了してしまったスマートフォンを僕は虚しく見ていた。僕は今、とてつもなく後悔している。

 もしかしたら、僕は犯罪行為の助長をしたのかもしれない。

 あの自称魔皇帝、娘の入浴シーンにまで諜報組織を使おうとしているぞ。しかも彼の脳内設定なら最強の諜報組織を。彼は馬鹿なのだろうか。晩年赤点とか言われている僕より馬鹿なのか。流石の僕も、諜報組織を風呂場を覗くために使わないぞ。

 僕なら家の料理人やら掃除人やらにしようと思う。一人で全部行うの大変なんだよね。


 そういえば自称魔皇帝が凄く痛いことを言っていたのを僕は思い出した。代々魔皇帝の必殺奥義「オーヴェルデヴァーン」を片思い相手の顔にぶつけるとか言っていたような……うん、とてつもなく痛い人だ。

 ああいう人と関わると碌なことにならないと思いつつ、僕はスマートフォンの画面を見下ろした。通話終了画面になっている。ちなみに通話時間は三分四十秒らしい。


 通話終了画面からホーム画面に戻すと、昨日見たメッセージが現れた。


《一件の相談を受けました。報酬を受け取ってください》


 おおっ、またもや報酬がもらえるのか。わくわくと浮き立つ心を押さえつつ、僕は報酬を受け取るべく画面をタップした。

 すると、メッセージが再び現れた。


《報酬 ゲーム ラビリンス・ノヴァを受け取りました》


「わーい、ゲームだー!!」


 思わず声を上げて喜んだ。昨日に続いてまたもやゲームだ。昨日のゲームはまだ全部クリアしていないので攻略しなければならないが、このゲームも中々面白そうだ。

 アイコンが可愛い女の子だが、この子が主人公なのだろうか。ちなみにお宝ハンターの方のアイコンはイケメンな主人公である。少しイラッとくるが二次元なのでまあいい。


 早くプレイしたいと僕の本能が言っているが、その前に先に終わらせなければならないものがある。物事の順番は大切だとどこかの本に書いてあったので、僕はそれを実践しようと思う。

 我慢すればそれだけ期待感湧くよね、という思惑は無視することにする。


◆◆◆


 それから三時間ほどかけて、僕はようやくクリアすることができた。最終的にスキルを極限まで高める事が出来たので、僕はその満足感に浸っていた。

 しかも僕は主人公の外見を変更できるアイテムを買ったので、僕が理想とするイケメンに変えておいた。あのイケメンは女の子たちの言うイケメンだ。僕の言うイケメンは、鷹のような優雅で獰猛でハンターなイケメンなんだ。あんなナヨナヨとした金髪碧眼の王子ですっ☆みたいなイケメンじゃない。


 僕が作ったイケメンが次々と宝を奪っていく様は、まさに至高の一言だ。警察や他のお宝ハンターを相手に銃を構えて襲撃するんだ、至高と言わずになんという?お宝ハンターじゃないのか、って思って人もいるかもしれないけどお宝ハンターだよ。

 気が付いたら職業が「テロリスト」になってたけど。

 もうこのゲームのタイトル、どこに消えたって感じだよね。でも、このゲームの開発者がそういう職業を入れていることに驚きだ。もしかしたら僕と気が合うかも知れない。お友達申請しておきたいところだ。


 お宝ハンターのゲームを終え、僕は新たに手に入れたゲームのアイコンを起動させた。さて、どんなゲームなのだろうか。名前はファンタジーみたいだからRPGだろうか。楽しみだ。


 そう思ってしまった僕は、後程それを後悔することになる。


 ゲームを起動した僕は、まずは主人公の外見から設定しろと言われたので設定することにした。しかしこのイケメン度とかいう項目が気になってしょうがない。またイケメンかよと思いつつも、それをタップしてみる。

 ……何も変化がない。数値が書かれているのに何も起こらない。

 ちなみにイケメン度23と書かれていたのだが、一体何のことだろうか。


 変更できない所を押しても意味がないので、変えれるところを変えてみることにした。髪色やら目の色やら肌の色やら体型やら変更できるらしいので、僕はイケメン度23のイケメンを作ることにした。

 マックスイケメン度は100らしいので、その100の中の23とは案外低いのではないだろうか。となれば、フツメンにする必要があるようだ。


 フツメンなのに金髪碧眼は辛いよね。なら、黒髪茶目にでもしておくか。特に意味はないけれども。あ、でも僕の外見と似ていたら嫌だから変えておこう。ここは敢えて肥満気味にして髪は白色、目の色は金色で肌は褐色にしてみた。

 ゲームのタイトルがファンタジーみたいな名前なのでダークエルフにしてみたが、イケメン度23の顔と肥満気味の体型がその神秘さを台無しにしている気がする。見ていて笑ってしまったが、面白いので良いだろう。


 主人公設定が終わったので完了というボタンをタップする。すると、オープニングに入ったらしく何やら画面が鮮やかだ。

 画面には虹色の羽を背中に生やした美少女が話しかけていた。半身だけ描かれているが、随分と凝ったようでそのキャラクターの絵柄が細かい。


《えっと、大丈夫……?あなた今、空から落ちて来たのよ?ここはラビリンス。果てしなく広い迷宮の中よ》


 不思議なことに、このメッセージの下に何やら選択肢が出ている。


《1.なんて……美しい人なんだ。

 2.空からだって?何故空から落ちて来たんだ……?

 3.迷宮?よし、探検しよう!》


 ここで1を選んだらただの変態もしくは軽い男だ。僕は正直に3を選んだ。選択肢が沢山出てくるゲームってどこかで聞いたことがあるような……確か、僕の周りの男子生徒がコソコソと集まってその話をしていた気がする。

 僕が3の文章を押すと、美少女がその選択肢に対して何やら慌てたように注意してきた。


《ちょ、ちょっと待って!!今のあなたじゃ先に行っても死んじゃうだけよ!もう、そんなに探検したいなら私について来て!戦い方教えてあげるから》


《1.君に教わることなんてない。

 2.戦い方?それはもしや夜の……。

 3.わかった。やっぱり強くないと探検できないよね》


 再び出てきたメッセージと選択肢。僕は一瞬考えた後に1を選んだ。

 それにしても、どうも思い出せない。僕の周りの男子生徒たちが集まって、このようなゲームが何と言うか思い出せない。

 その話を聞いていた女子生徒たちが冷たい視線を向けていたのも気になる。一体このゲームは何て言うのだろうか。


 気になりつつも、僕は眠くなるまでゲームを続けた。

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