店の話
もう、ずっと昔のこと。と、おじいさんは夕食のスープをかきまぜながらつぶやいた。
おじいさんの家には、おじいさんのハルと、ネコのリンしかいません。
なので、料理はおじいさんが作ります。
「もう、ずっと昔のことだけど。このあたりにも、店があったんだ」
リンは、毎日飽き飽きするほど食べているスープにため息をついた。
そのスープには、おじいさんの畑で採れた野菜と、森で採れたキノコがはいっています。とても栄養があって、美味しいスープだけれど、毎日毎日同じものを食べています。
たまに、おじいさんが気がむいた時には、川に釣りに行くのだけれど、最近はおじいさんは釣りをしなくなりました。
「店にはね、色んなものが売っていたんだ。魚も肉も、野菜もキノコも、それからね、酒や甘い菓子、ほんとうに色々ありすぎて、もう覚えていないよ。もう、ずっと昔のことだから」
おじいさんが今よりちょっと昔に木でつくった器へ、スープをよそります。
リンの分と、自分の分を、綺麗なテーブルに並べます。
リンはテーブルの上に乗り、おじいさんは自分の椅子に座り、いただきます、と頭をさげます。
「おかわりはたくさんあるよ。リン」
おじいさんは自分のスープを食べずに、話を続けます。
「そうそう、たべものじゃないものが売っている店もあった」
リンはたべものじゃないものがわからないので、スープを小さな舌でぴちゃぴちゃと音をたてて飲むことにしました。
おじいさんは、とつぜん閃いたように手を合わせると、「そうだった……そうだった」と二回うなずきました。
「とにかく何もかも売っていた。売っていないものがなかったんだ」
おじいさんの顔はちょっと悲しそうです。
「だけど、売る人がいなくなっただけの話。もう、ずっと昔のこと」
リンは嫌いなキノコをよせて、きれいにお皿の中のスープを飲みました。
すると、テーブルからおりて、おじいさんのあたたかい膝の上に移動します。




