エピローグ
目が覚めた時、ゲームの筐体ごと、通常エリアに出ていました。
流石に、時間の流れが違う場所を意識して通り抜けるのはそれはそれで大混乱起こしそうでしたから、通常のエリアにそのまま戻るのはそれはそれで良いことなのでしょう。
周りを見ると、結構たくさんの筐体があり、私とほぼ同時刻に目が覚めた人も何人かいるようです。
ゲーム世界では若い人だらけでしたが、周りを見ると結構ご年配の人もおられますね。
たまたまかもしれませんが、思った以上に年齢が高い人が参加していたんだなと実感します。
「あれ? もしかして君はイツミちゃん?」
おじいさんと言う感じの人に声をかけられます。
「はい。ほとんど容姿をいじってませんでしたから、分かってしまうでしょうね。そういう貴方は、誰だったんでしょうか?」
「わしは、ヨークじゃ。こんな孫みたいな女の子と仲良くできていたとはな。嬉しいことじゃ」
「あなた、若い子がいたからとすぐに口説くとは……あれ? イツミちゃん?」
「もしかして、カオリーヌさんですか?」
ヨークさんのプレイヤーのお爺さんと話していたところ、おばあさんからも声をかけられました。
なんと、ヨークさんとカオリーヌさんは、リアルで夫婦なんだそうで、結婚して50年の記念に参加されていたんだそうです。
仲が良いとは思ってましたが、リアルでも夫婦とはすごいですね。
もっとも、言葉にすることはシステム上できなかったものの、途中から相手が誰であるかはお二人とも分かっていたそうです。
こんな感じの夫婦に将来なってみたいな? と憧れてしまいますね。
ログアウト後の健康診断が終わった後は、ゲームを体験してのアンケート記入を求められました。
今回は体験イベントで無料なだけに、こういう調査への協力は必須でしょうね。
ゲーム中はいろいろ手厳しいことを書いてやろうと思っていましたが、終わってみるといろいろ楽しかったなと言う思いでいっぱいになっています。
もっとも、ログアウト不可なら不可で、もっとしっかりとしたサポートをするべきだとは思いますね。
緊急事態でログアウトできると言うならば、ログアウトしたくて仕方ないという意思を示すことで、ログアウトに持っていくことだってできるんでしょうから。
スタッフの方で、やたらと呪詛を怖がられる方がいたことを思い出し、呪詛の効果はそんなに大きいのですか? と聞いてみました。
「いや単純に考えていただければ。 数千人に呪詛の儀式をされてください。 本当に呪詛されている気分をスタッフが受けるんです。 メンタルへのダメージは大きいと思いませんか?」
言われてみればそうですね。
効果の有無に関わりなく、呪詛をされると言うのは、気持ちいいものでないのは確かです。
それを数千人規模で行われた日には……多少の譲歩の決断につながっても、おかしくないのでしょう。
運営の方には、進行を補助してくれたことについてのお礼をしていただきました。
私自身、ゲームが進むことは望むところだったのですが、私がいなければできなかった展開も多かったとのこと。
そのことについて感謝しているとのことでした。
「そういうぐらいなら、もっといろいろ敷居を低くしたほうがいいのではないでしょうか。それこそ、チュートリアルで基礎に関する授業は強制的に受けるようにするなどやりようはある筈です」
「確かにチュートリアルの充実は必要と痛感しました。森で乱獲をすると、森がダメになるなんてことは常識だと思っていましたが、リアルとゲームが違うと言う認識のほうが優先されてしまうと言うことを思い知らされました。そういった前提となることからしっかり理解してもらってから進めるようにしますよ。後は、アバターの選択をもっと後の段階に持って行きましょう。貴方以外は、和風の恰好をしないと言うのは、流石に想定外でした」
「雰囲気に合わせたら、浮くようになってしまうと言うのは、ちょっと恥ずかしかったですね。途中で時折変えられるようにするなどして、着替え感覚で和服も着られると言うふうにしたほうが良いかもしれません」
「なるほど、参考になりました。いろいろ検討してみます」
「後は、伊予みたいな観光をもっと積極的に行えるようにしてはいかがでしょう? せっかくリゾートと言うからには観光もしてみたいですし。それでいて、虚ろの国みたいなトラウマものを登場させたのは、どうかと思います」
「虚ろの国は失敗でしたね。結構な数のメンタル危機な方を出してしまい、反省しております。邪馬台国への道で鉄甲船がずっと攻撃を続けるのは、私のほうも想定外でしたが」
「いえ、普通に鉄甲船を倒すのは難しくないですか?」
「それはそうなんですが、まさか冒険者長屋から直接上陸は私達考えてなかったんです。実際やっていただいて、それが最適な答えだとは理解できましたが、鉄甲船が温存されてしまうとは……でしたよ」
「なにはともあれ、楽しかったです。本運営のほうも頑張ってくださいね」
「ええ、今回はどちらかと言えば失敗でしたが、学ぶことは多かったですし、本運営開始時には、しっかりと楽しんでいただけるようにします。その時には、また参加していただけると嬉しいです」
「ええ、是非」
私は会場を後にして、家に向かうリニアを待ちます。
昨日はいろいろありましたが、今日からは現実がまた再開されます。
昨日の一年は長かったですが、今日からの人生もまた長く続きます。
今回の経験を生かして、いろいろ頑張って行こうって、柄にもなく決意してみました。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
また、何かを読んでいただける際には、よろしくお願いしますね。




