第四十話
ボス戦と言うことで、日向に来ました。
天孫降臨ネタかとビビっていましたが、実際の所は、韓国岳の山頂に誕生した、虚ろの国との戦いとのことです。
確かに、韓国岳は、山頂に草木を含めて何もないことから、虚国と呼ばれて、韓国岳という名前になったという説がありましたね。
だからと言って、虚ろの国の軍勢と山頂で戦うのは、それはそれで結構きつい戦いです。
まず第一に標高が千七百メートル級ですからね。
そんな高い場所で戦うとなると、心肺機能的にマイナス補正が入るようです。
しかも、相手は高い場所に陣取るわけですから、どうしたって地形効果が圧倒的不利になります。
その状況なのに、薩摩や大隅がまだ解放されていないために、日向側からしか攻撃できないと来ています。
せめて、敵が撃って出て来てくれれば話も違うんですが、虚ろの国にこちら側から近づかないと、応戦もしてこない始末。
これだけでも苦戦しますのに、敵は虚ろと言うだけあって、感情もなく規則正しく進んでくると言うホラー仕様。
虚ろな表情で来られるのは、軽くトラウマものです。
いっそのこと死体の軍勢のほうがまだマシだったかもしれません。
それはそれで嫌ですが。
「どうやって攻撃する?」
「難しいですよね。高地に籠城する敵が強いのは間違いありませんし、包囲する事も不可能ですし、兵糧攻めも何も補給は虚ろの国の内部で何とかなるでしょうし。相手がボスでなければ放置が一番なんでしょうが、それも出来ませんし。火でも放ちますか?」
「それにしたって、この標高だ。空気が薄いから、延焼があまり期待できない。しかも、虚ろの国内部が、どうなっているかがわからないから、下手をしたら燃やしちゃいけないものがある可能性もある」
「となると、力攻めするしかないですか?」
「そうなるんだろうな。儀式魔法の援護を行うにしても、相当苦しい戦いになるな」
今回、良い策が思いつかないんですよね。
ほとんど、二百三高地を攻撃するような気分です。
消耗戦では、私達は死に戻りが出来るという優位さがありますが、敵の戦力が有限であるとも限りません。
短期決戦で行くしかないんですが、地形的な圧倒的不利な状況でのとなりますと……
「いっそのこと、虚ろな状態を満たしたらどうかな?」
「満たしたらとは、どういうことでしょう?」
「虚ろな兵士達を満ち足りさせることで、戦闘意欲を奪うんだよ。満足して満ち足りれば、トラウマじみた行進もなくなるし、攻撃することも止まるんじゃないかと思うのよね」
「うまくいくかどうかはともかく、やってみる価値はあるかもしれませんね」
カオリーヌさんの提案は、何も思いつかない私達にとって救世主のようなものに思いました。
実際には、満ち足りたところでどうなるかはわかったものじゃありませんが、泥船だろうが大海原に出る手段がみんなほしくなっていたのです。
「カヴァ、セント、コンテンチガス。モチヴァド、ペルディ、ボナセント」
「カヴァ、セント、コンテンチガス。モチヴァド、ペルディ、ボナセント」
「カヴァ、セント、コンテンチガス。モチヴァド、ペルディ、ボナセント」
「カヴァ、セント、コンテンチガス。モチヴァド、ペルディ、ボナセント」
「カヴァ、セント、コンテンチガス。モチヴァド、ペルディ、ボナセント」
「カヴァ、セント、コンテンチガス。モチヴァド、ペルディ、ボナセント」
儀式魔法は発動しましたが、みんな同じ笑顔で進んでくるという、こっちのほうがトラウマ、といった行進が発生しました。
もっとも、行進してくるだけで攻撃は止まったため、戦闘と言う意味では良かったのですが……
さっきまでの虚ろの行進と言い、笑顔の行進と言い、暫く夢の中に出て来て苦しめてくれそうです。
ここって、確かリゾートでしたよね?
何とかみんなで、虚ろの国に突入出来ました。
そこに広がっていたのは……
「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり」
いきなり、平家物語がBGMで流れだしました。
羅生門っぽい門に死体が多数転がっているという状況です。
その死体達が立ちあがって、私達のほうにむかってきました。
ここって、確かリゾートでしたよね?
「応戦するしかない、やるぞ!」
確かに戦うしかないことに違いはないんですよね。
見た目こそグロテスクとはいえ、動きも遅く、私達の敵ではありません。
ただ、当分夢にうなされそうですし、もう少し気持ち良く倒せる敵を用意してほしいと思ってしまいます。
門を突破すると、今度は何もない空間が広がっていました。
気付くと周りに人すらいなくなっています。
自分こそあるのですが、周りに何もなく何も感じられないという、どちらが上なのか、今自分が立っているのか落ちているのかもわからない状態です。
人は修行で無の境地にたどりつけると言いますが、それを強制的に体験しているということでしょうか?
時間の流れもわからなくなっています。
今こうして過ごしているのが、一分にも満たないのか数時間たっているのかもわかりません。
生理的欲求は感じませんので、大したことがない時間なのかもしれませんが、ここは仮想空間ですからそう言ったものは簡単に遮断できますからね。
どうしようかと考えてしまいます。
無の中で過ごしていても埒が明きません。
攻略して終わらせるために中心部に進むことを考えます。
考え始めて足を勧めたところ、歩いているような感触で進むような感覚を得ることが出来ました。
もしかすると、無の空間だけに思考がそのまま行動にリンクできるのかもしれませんね。
暫く進むと、ヨークさんとカオリーヌさんに合流することが出来ました。
何でもヨークさんとカオリーヌさんは、互いの名を呼びあうことですぐに合流できたんだそうで、お二人のきずなの深さを改めて羨ましく思います。
そしてお二人が私のことを考えてくれたことで、私も合流できたということのようです。
「三人寄れば文殊の知恵だ。何らかの方策が思いつくだろう」
「そうですね。そう言えば、この世界では魔法って使えるんでしょうか」
「あ、そうか。言霊魔法で中心部に対して攻撃すると言う形にすれば、俺達自身が中心部の位置をわからなくても攻撃しようと思えば攻撃できそうだな」
「ああ、その手がありますね。実行してみましょう」
「システムメッセージ:第九階位ボスモンスター虚ろの国が複数の同時攻撃により滅亡しました。全プレイヤーは、第十位階に進めるようになりました。今回の戦闘に参加した全プレイヤーは、撃破ボーナスが配布されましたのでご確認ください。また、戦闘参加プレイヤーの業を今回の功績点数ごとに下げました」
無事倒すことが出来たようです。
複数の同時攻撃と言うことは、皆さん似たようなことを考えられたようですね。
言霊魔法の使い方自体はいろいろな人に教えてますので、思い至る人はそれなりに多いでしょうし。
これで、九州本土すべての国にも行けるようになりました。
対馬や壱岐、琉球にはまだ行けないとは言え、かなりの終盤ですね。
ただ、無の空間で精神的に参って強制ログアウトになった人も結構な数いるようです。
考え続けないと何も感じられない世界だったようで、精神的にかなりきつい状況のようでしたから。
強制ログアウトにならなかった人でも錯乱一歩手前になっている人もいますし。
ここって、確かリゾートでしたよね?




