第三十五話
美濃に戻ってきましたが、依頼の大掃除が終わったこともあって、余裕を持って依頼が受けられるようになっています。
もっとも、依頼消化に頑張ってくれた人達は、ゲームクリアを早めるために前線で攻略組の下請けをやることを選択した人が多かったために、美濃に戻ってこなかった人が多いですね。
まあ、それは仕方ないことだと思います。
美濃までの転移の魔方陣代を全員分負担なんて、ちょっとお財布に厳しすぎましたし。
もっとも、時間が経つにつれて、美濃に戻ってくる方が増えてきました。
なんでも、美濃は条件が良いんだそうです。
なんで? と思ったところ、攻略組は報酬を全部ピンはねして、お金を彼らに渡さなかったんだとか。
それ以外の諸国も、攻略組みたいにただ働きというほどじゃないまでも、ピンはね率が酷くとても依頼達成だけでは生活できないからと難民化しかけているそうです。
信用分として取り分を要求しているんでしょうが、依頼で生活できないんじゃ本末転倒でしょうに。
話を聞いた美濃の冒険者たちはあきれ果てて、攻略組に直談判することに。
「彼らを追い詰めたら、また騒動が起きますよ。そうなったら、貴方方の攻略に大きく足を引っ張る要因になりかねませんが、良いのですか?」
「いや、そうは言うけど、攻略調査が進めばそれだけで彼らの利益になるんだろ? だったら、金銭的報酬は渡さなくても良いと思わないか? 報酬はゲーム終了が早まることなんだ。それで何の問題が?」
「なるほど、そういう考えね? でも聞くけど、ゲーム攻略までは彼らはどうやって生活するの? このゲームは霞を食べて生活みたいなことはできないよね? それとも攻略組の人達は可能なような技術を見つけているのかしら?」
「そんなこと言われても、彼らは彼らで生活費稼ぐぐらいの才覚は見せてくれないと困る。俺たちだってボランティアじゃないんだ。武器の充実や調査のための付け届けの費用を考えてくれ」
「本当にそれだけなのか? 美濃に来た人の話じゃ、街に戻ると豪遊していると聞いているが」
「豪遊と言うがな。あれは、調査のための人気取りだぞ? 信用を高めるためには大金を使ってすごい冒険者だと人々に見せつける必要がある。必要経費のことを文句言われても困る!」
完全に理論武装完了済みですね。
こういう相手は、どれだけ理や利を説明しても無駄なことが多いですし、痛い目を見てもらうしかないでしょうか?
相手は、どこの国も犯罪者として引き取ることを拒否する凶悪軍団ですよ?
一度苦しめられると良いんです。
諦めて美濃に戻り、美濃でだけは報酬全額渡し、著しい功績は彼らのものにするという条件で進めていきます。
やはり、条件の違いというのは大きいのか、美濃に来る人が増えています。
越前側の街道整備をやっている人の話では、越前も人不足なので少し回してくれなんて言われますね。
だったら条件を良くすれば簡単ですよ? と提案したものの、越前を牛耳っているスパイダーギルドが実働の人達には一割のみ渡して、九割のうち半分はスパイダーギルドに上納金として納めさせるという仕組みを作ってしまっているんだとか。
最近では、スパイダーギルドは依頼に参加せずに上納金のみで遊び暮らしていると言いますから末期ですね。
普通に依頼を受けている人も報酬の半分を上納金として納めないと、越前での依頼の妨害をされ始めているとのことで……
「いっそのこと、スパイダーギルド討伐依頼を出しませんか?」
「それやったら、PKになっちゃうから出来ないんだよ」
「犯罪行為を行っている相手にはPKにならないはずですが」
「NPCに対して犯罪行為を行えばね。奴らは狡猾だ。俺達PCに対して妨害するだけで、殺しては来ないし、NPCに直接犯罪行為を行わないから、PK制限は有効なままなんだ」
「殺しては来ないで妨害ってどういうものなんですか?」
「たとえば、現地の依頼を妨害すべく現地の村人達に俺達のありもしない悪評を言いふらして、帰れコールを煽動したり、俺達の背格好によく似た格好で仲間の冒険者を一般人に仕立てて、街中で襲う演技をしたりとだ。俺達の評判が落ちるだけで、PKをやってるわけじゃないし、NPCに犯罪行為を行っているわけでもないから、反撃は禁止されているも同然だ。もっと長期にやれば化けの皮もはがれるんだろうが、後数カ月しかないんじゃ、金を渡すしかないんだよ」
最低ですね。
ただの利権ゴロじゃないですか。
しかも反撃したくてもしたら、PK扱いでシステム的ペナルティとか運営は何を考えているんでしょうか。
……失礼、考えているわけありませんでしたね。
流石に、侮辱が酷過ぎましたね。
「運営からのメールです。すみません、今対処策考えてます。考えてると考えるのが侮辱とか、やめて下さい」
運営から文句が来ました。
考えているにしても、結果を出せていないのでは意味がありません。
それに第一、考えていることにいちいち文句言ってくるのは、プライバシーの侵害じゃないでしょうか?
運営はその後沈黙を保ちましたが、システムの改善と言う形で実行されました。
「何人も、実際に働いた冒険者の報酬を奪い取ることを禁止する」
この御触書が全国の街に発布されました。
このことにより、中間搾取や他の冒険者から依頼報酬の上納金を強制する行為に対して、反撃を行ってもPK扱いにならないことになりました。
流石に酷過ぎると言うことで、運営も準備はしていたみたいですね。
結果、スパイダーギルドに対しては手口を公開したうえで義勇軍を募った結果、五千人もの冒険者が集まり、スパイダーギルド所属の冒険者たちは、死に戻りを体験することになりました。
タイミングが不幸だったのは確かなようなんですよね。
遡及処罰はないとはいえ、お触れが出たことを知らずに強制搾取を繰り返していた人達と組織的な共犯だと認定されてしまいましたから。
日々の情報収集って、大事ですね。
攻略組達も、犯罪になるんじゃと全額報酬を渡すようになり、前線に下請け冒険者達が戻って行きました。
尤も、美濃はお触れによらずとも尊重してもらえるということで、それなりに冒険者が集まってくれていますので助かります。
金銭的な部分はともかく、功績も評価してもらえる可能性があるというのは、純粋に嬉しいようです。
越前のほうにも依頼を美濃に出して貰って下請けてもらう等交流が活発になり、私達の整備している街道の利用者が増えるなど、良いことづくめですね。
やっぱり通る人が多いほうが、街道って維持しやすいですし。




