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第三十三話

「諏訪の牢獄が炎上ですか?」

「諏訪の牢獄というと、もしかして」

「ええ、諏訪湖付近を占拠した天人様達が捕らわれていた牢獄です」

「なんでまた? 被害者達が極刑に処せられないのを見て放火でもしたんですか?」

「そういったものではなさそうです。ただ、目撃した可能性のある牢番も全員死亡していますので、真相はわからないままになりそうですね。ただ、捕らわれていた天人様達の遺体が見つからなかったのが、不思議現象と言われております。高温で焼けたにしても、あれだけ大勢いたのですから、多少は残る筈なんですが】


 それはもしかして、死に戻り現象が発生していませんか?

死亡したら、最後にいた街の死に戻りポイントに転移して復活するのは、プレイヤーならばだれでも知っています。

ですが、この現象をプレイヤー以外が理解しているかというと……難しいでしょうね。

死んでも生き返ることがあるのは知っていたとしても、システム的にどうなるかまでは知られているか……


 となると、今回の火災も裏がありそうです。

集団脱走のために火をつけたぐらいあっても驚かないですね。

それにしても、焼け死ぬ苦しみは辛そうですよね。

いくら死に戻りができるとしても、体験したいとは思えません。

牢獄から逃げることができずに自分が燃えていくのって、ホラーというかグロテスクというか、少なくとも私がやられたら相手を許せないだろうなとは思います。


 それに牢獄は最低限の衣食住が保障されていますから、せっかくの安住の地を取り上げられたなんて言っている人もいそうですね。

もし集団脱走だとすると、自分の意思によらずに脱走させられた人がかわいそうです。


 それ以上に巻き込まれて命を落とした復活のない現地人の方はもっとかわいそうですが。


 集団脱走だと決まったわけじゃありませんが、これ意図的に火をつけたんだとすると、ひと騒動おきそうですね。



 美濃の龍退治を実行することになりました。

不気味な勢いで報酬金額が上昇しており、みんなが空気読まざるを得なくなったと言いますか。

信濃の火事が幸いした面はあります。

状況を見極めようと信濃に着た帰りに美濃を通りかかったプレイヤーが結構いるんですよね。

ちょうど良いからと勧誘して、龍退治を行う算段ができました。


 受けてくれた人達も信濃のは、外から放火された可能性が高く、集団脱走の可能性濃厚だと言われてましたし、畿内や四国からまた来るよりも、信濃の隣国である美濃で様子見したいという思惑もあったようですけどね。


 龍は強いとはいえ、ボスモンスターと比較すれば、大したことがない存在の筈です。

もっとも、簡単には倒せない相手だけに放置していたんですけどね。

ボス戦みたいな人海戦術が取れるならともかく、普通のパーティレベルで挑むのは無謀としか言いようがありませんし。

それが、今回ボス戦ほどじゃありませんが、まとまった人数が揃っているわけです。

こんな絶好の機会、ゲーム終了までにあるかどうかもわかりませんし、今回やらなければいつ可能? というものでしょう。


 今回、儀式魔法も行います。

この前の呪詛で、ボス戦以外でも大きな威力を発揮すると証明されましたし、やらないことはないでしょう。


 龍は鱗の装甲効果が非常に大きいので、鱗を何とかするのが一番と考えました。

逆鱗というぐらいですから、すべての鱗を逆鱗にするということも考えましたが、どこを攻撃しても激怒するというのは、それはそれで……冷静さを失って策にかかりやすくはなるかもしれませんが、逆鱗だから攻撃されると嫌がるのか、逆鱗に宝を隠しているからかわからない以上、意味が薄いかもしれません。

ならば、鱗を柔らかくすることも考えましたが、案外柔らかくすることでダメージを吸収してしまうかもしれませんので、厄介です。

純粋に、装甲値を低くすればいいんでしょうけど、イメージで補うことでより効果が高められると思うだけに難しいですね。


「いっそのこと、鱗を固くして割れやすくしちゃえばいいんじゃない?」

「固くして割れやすくですか?」

「そう、ダイアモンドって固い物質で有名じゃない? でもトンカチで叩くと簡単に割れちゃう。それの応用よ。鱗自体が固い物質になっても、物質と物質の結合は緩くなるんじゃないかな?」

「ちょっと待て、それ固いからじゃなくて、衝撃に強い弱いは固さに無関係だぞ。ダイアモンドでも衝撃で割れるんであって、柔らかい物質だからって衝撃で割れないわけじゃない。純粋に割れやすくすればいいんじゃないのか?」

「あ」


 カオリーヌさんの策は良さそうに思えたんですが、ヨークさんのツッコミで軌道修正になりました。

まあ、うまくいけばどんな状況でも構わないんですけどね。

鱗を割って、防御力を削ぐ方向で儀式魔法を行うということで、他の参加者の方の了承は得られました。

儀式に参加する方々には、自分たちが何をやっているか理解して参加してほしいと思いますし。



「あちゃあ」


 龍がいると言う場所に来たのですが、とても龍が作ったとは思えない砦が待ち構えていました。

というよりも、明らかに人が作った砦があり、その砦を落とさないことには、退治対象の龍に近づくことすらできないようです。

試しに砦に近づくと、空中から複数の従属龍が炎で攻撃してきます。

かといって、空中対策をしようとすると、砦から弓や鉄砲の攻撃をされると言う。


 人里離れていて、人はいないんじゃなかったんですか?


「ここは、龍と天人の里だ。害をなす者は許しはしない」


 砦側から矢文が飛んできて書いてありました。

でも、こういう矢文って、普通人には当てないものじゃないんですか?

運が悪かったのかもしれませんが、頭を貫通させられた人は見事に死に戻りされました。

即死直後に、矢だけ残って落ちたのを見たのは、既にホラーでしたね。

血が噴き出していたのに、血にすら汚れていない矢って、やりすぎです。


 龍と天人の里ということは、プレイヤーが関与しているということでしょうか?

ここは、飛騨や信濃にもほど近い場所ですから、信濃でやらかしたプレイヤー達が関与していてもおかしくありませんね。

龍が一匹だと思っていたのに、複数匹いただけでも想定外でしたが、砦と龍に挟撃されるのは、もっと想定外です。

どうするべきなんでしょうね。


……放置しておいて、物資不足を狙うということも一瞬考えましたが、今いる人達を美濃に縛ることも出来ない以上、短期決戦に出ざるをえません。

とりあえず、作戦を立て直すために少し交代して仕切り直します。


「いっそのこと、また呪詛をすればいいんじゃないか?」

「でも、ぱっと見た限り、呪詛に苦しめられているようには見えませんでした。何らかの方法で解呪することに成功したと見るべきです。そうなると、呪詛をしたところで大した効果が見込めないかもしれません」

「それよりも、挟撃のほうが怖い。空を飛ぶこと自体は、俺達の陣営でも魔法で出来る人もいるんだろうけど、地上からの攻撃で挟撃されたら対処のしようがないからな。ここは儀式魔法で、空中に浮くのを禁止してもらえないかな?」

「ああ、その手がありましたね。弓矢なども空中に受けなくなれば、砦はただの建物になりますし。それでいきましょう」


 儀式魔法の使いどころが見つかりました。

敵が空中戦を仕掛けてくるなら、空中戦を出来なくしてしまえばいいのですね。

味方も空中戦が出来なくなりますが、従属龍を退治してしまえば、砦はただの建物です。

火をつけてしまえば、どうってことはないでしょう。

どうせこの砦を再利用する必要はないんですし。

既に矢文での殺害をされていますし、依頼達成の妨害をされていますので、PKにはなりません。

私達の予想通りなら、彼らは焼死のエキスパートですから、火をつけられても大丈夫でしょう。


「イングルアンゾノ、アエロウゼオマルパーメソ。ヴセ。アエロエルバジスプリア!」

「イングルアンゾノ、アエロウゼオマルパーメソ。ヴセ。アエロエルバジスプリア!」

「イングルアンゾノ、アエロウゼオマルパーメソ。ヴセ。アエロエルバジスプリア!」

「イングルアンゾノ、アエロウゼオマルパーメソ。ヴセ。アエロエルバジスプリア!」

「イングルアンゾノ、アエロウゼオマルパーメソ。ヴセ。アエロエルバジスプリア!」

「イングルアンゾノ、アエロウゼオマルパーメソ。ヴセ。アエロエルバジスプリア!」


 空中を従属龍が飛べなくなり、砦からの攻撃が失せた結果、タコ殴り戦がはじまりました。

もっとも空中を魔法の呪文を飛べなくなったために、純粋な肉弾戦になってしまいましたが。

でも飛べない龍は、ただの魔物。

人海戦術の前では、瞬殺対象です。


 砦のほうも、龍がいなくなった後は、大した障害ではありません。

一階部分を木材でバリケード作られていますが、そこに火をつけるだけで勝手に終わります。


……と思っていたのですが、火がついた直後に砦側が大混乱。

降伏するから、火を今すぐ消してくれとの大合唱が来ました。


 彼らは焼死は慣れているだろうと思ったのですが、そうでもなかったんでしょうか?

空中を浮かせる魔法が使えないので消火には難儀しましたが、何とか炎を消しとめました。


 今回の砦のメンバーは、やはり諏訪で捕らわれていた人達で、焼死したことで死に戻りしたそうです。

死に戻りしたことで呪詛の効果はなくなったものの、生きながら燃えるトラウマが新たに追加されたとのことで、今回すぐに降伏したそうです。

牢獄に火をつけた人達が今回の幹部となっていたようですが、彼らに対しても恨みは籠っていたようで、砦に火をつけられたことでその恨みが一気に噴き出し、スピード降伏になったとのことでした。


 死に戻りで脱獄できることが分かった以上、牢番を殺されたくないとどこの領主も引き受けを拒否しました。

冒険者に復帰させざるを得ないとなりましたが、元はニート状態の人達。

どうすればいいんでしょうね。

今後については、運営にも策を練ってもらわないと、なんともなりませんね。



 あ、退治対象の龍は、瞬殺でした。

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