第三十二話
美濃に戻ると、また龍退治の依頼料が上がっています。
ここまで上がり続けるとなると不気味ですし、みんなで受けることを視野に入れたほうがいいかもしれませんね。
何か大きなイベントにつながる意味があるのかもしれませんし。
そんなことを考えながら美濃の依頼を余り多いとは言えない冒険者たちで消化し続けていた日々でした。
「諏訪湖経由の信濃の街道が封鎖されているんですか?」
「ええ、正確にいえば、諏訪湖付近で盗賊が発生しまして、事実上通れなくなったのです」
「盗賊が発生したぐらいで通れなくなるもんなの?」
「ええ、今回の場合は相手が悪いと言いますか」
「と言いますと?」
カオリーヌさんと一緒に行った産業の神の神社で会合に参加したところ気になる話をお聞きしました。
私達自身は、越前との街道がメインとはいえ、信濃の街道の状況にも興味はありますし。
諏訪湖付近となりますと、う回路がほぼ存在せず、割と物流が多いことからも盗賊が発生した程度ならばすぐに鎮圧されて終わっていたと思うのですが。
領主にとっても、街道封鎖は損失ですからね。
「天人様の集団が乱暴狼藉を始めたんですよ」
「え?」
「領主軍も、天人様相手に強く出るわけにもいかず、対処に困っております」
もしかしなくても、はじまりの街を追い出された冒険に飽きた人達ですかね。
はじまりの街から諏訪湖って、そこまで遠くありませんしね。
「でもそれならば、結構簡単に鎮圧できるんじゃないですか? 信濃にも結構な数の冒険者がいると思うんですが」
「忘れてないか? 彼らはプレイヤーだ。プレイヤーを倒すということは、PKのペナルティで賞金首になってしまうんだ。賞金首になれば、狩られるまで他のプレイヤーに狙われる。それ以上に、賞金首になるような極悪人ということで、それまで受けていた依頼の依頼人から出入り禁止を申し渡されたり、信用激減が待っている。だから、プレイヤーが鎮圧することは、非現実的なんだよ」
「……状況でNPCは判断しないんですか?」
「システム的な話になっちゃうと、状況の判断を優先しちゃうようなんだよな。だから、今特定の依頼をメインにしている人はPKになっちゃうから手を出せないでいるんだ」
厄介な状況になりました。
私達も街道整備依頼がメインで受けていますし、産業の神の神社での地位もそれなりに高くなっています。
それを賞金首になることですべて捨てる覚悟がなければ鎮圧できなくなるわけです。
過去には、手を出させて相手を賞金首にすることで自分はペナルティを受けないようにすると言う手法もあったようですが、今はそれも出来なくなっているとのことですし。
NPCをいくら害しても、システム的なPKペナルティの賞金首にはならないが為にどんな極悪行為をしていても倒したら、倒した人が極悪人の賞金首扱いになってしまうと言う。
「流石に、この状況は何とかなりませんか?」
運営コールを試みてみます。
NPC相手に犯罪行為をいろいろ行っているんですから、賞金首になってもおかしくないと思うんですよね。
これが、プレイヤーに手を出してないからという理由でプレイヤーが制裁しようとすると、ペナルティを受けると言うのはどうなんでしょう? と。
「PKに関する同意書にサインをされてますよね? 今更不便だからとどうこう言われても契約違反です」
「あの、これでゲームそのものが失敗した場合、不利益を受けるのはあなた達運営だと思うんですが?」
「脅迫ですか? 犯罪行為に対しては現実の法律にのっとって、警察に告発いたします。今なら聞かなかったことに出来ますが、いかがしますか?」
……話になりません。
そんなことになったら、ダメージ食らうのは運営だと思うんですが。
システムの欠陥に対して、指摘されたら逆切れでプレイヤーを告発とか、客商売の自覚あるんでしょうか?
今回は確かに無料イベント中ではありますけど、有料化する前に評判が落ちたら損するのは運営側なんですし。
でも、今は対処しようをなくしているのも確かです。
明らかに人々に迷惑をかけているのに、それを倒すと今度は、助けた人達から極悪人扱いとは。
しかも抗議するのは犯罪扱いとか、完全に詰んでますね。
諦めて諏訪を封鎖状態にするには、交通の要所過ぎますし。
これは仕方ありません。
運営を呪詛する儀式を呼び掛けるしかないですね。
ゲーム内の要素で騒ぐなら問題ないでしょう。
「今回は仕方ないし、最近は言霊魔法もある程度使えるようになってきたから、俺達も中心になれば、人数増やせるよな」
ヨークさん達も積極的に賛成してくれ、有力ギルドに打診してくれています。
運営への不満は、多かれ少なかれ持っている人ばかりだったらしく、賛同者が一気に数千人単位になりました。
結果、運営は降伏してきました。
「お客様対応の基本ができていない職員三名を本日付けでアルファケンタウリ送りにいたしました。また、PKにつきましても、NPCに対して、ゲーム内規範で犯罪行為にあたる行為を行い、発覚したプレイヤーに対しては、攻撃を行ってもPKペナルティの対象外に致します。この度は、ご迷惑をお掛けして、申し訳ございませんでした」
本気で、呪詛されたくない運営のお偉いさんがいるみたいですね。
まあ、禁じ手ですから何度も通用しないと思いますけどね。
ただ、アルファケンタウリ送りって、シリウスで対処する別の職員さん達がかわいそうに思います。
現地に着くのは、十年近く後でしょうけど。
これで、鎮圧することに障害はなくなりました。
せっかく集まっているのだからとみんなで信濃の横暴プレイヤーに呪詛を行うことにしました。
実際に戦うのは後日行うにしても、景気づけが必要ですしね。
「バンディト ジャズスティスカジョ リューディ レスポンデ レコンペンシ べチコ!」
「バンディト ジャズスティスカジョ リューディ レスポンデ レコンペンシ べチコ!」
「バンディト ジャズスティスカジョ リューディ レスポンデ レコンペンシ べチコ!」
「バンディト ジャズスティスカジョ リューディ レスポンデ レコンペンシ べチコ!」
今回、ヨークさんやカオリーヌさんにも中心になっていただき大きな呪詛を諏訪付近で暴れているプレイヤーに対して行います。
距離の補正もあるでしょうから、大した影響はないでしょうが、出陣式も兼ねているということで盛り上がります。
今回はプレイヤーのみならず、街道が封鎖されて迷惑をかけられている人々も自発的に参加していますのでみんなの気持ちをまとめる役割もありますでしょうか。
儀式も終わり、みんなで信濃に向かいます。
ある意味、織田信忠の行ったという1582年の武田攻めの再現的な雰囲気でしょうか。
諏訪で決戦となる予定ですが、冒険者+実力者及び護衛による大軍の進行ですので、木曽など途中経路の人達にはちょっと迷惑をかけてしまいますね。
諏訪に着いて決戦をしようとしたところ、暴れていたプレイヤー達は一戦もせずに降伏してきました。
何でも、運営のPKOK宣言後、話が違うと運営に抗議する以外は何もしていなかったのだそうで。
「宣言から暫くして、寝るとすぐに他人に襲われて殺される夢を見続けることになったんだ。最近じゃ起きていても夢を見る始末。とてもまともに行動できる状況じゃなかった。なあ、あんたら、これを何とかしてくれないか?」
……呪詛が効果あったようですね。
今回、未来永劫報いを受けよ的な呪文で具体的な効果指定しなかったのですが、結果的に精神的にがりがり削れる効果を発揮したようです。
結果オーライではありますが、呪詛ってちょっと怖いですね。
犯罪冒険者は、諏訪の領主に引き渡しましたが、諏訪の領主は領主で頭を抱えていました。
「天人様を処刑するわけにもいかぬが、無罪放免とするわけにもいかぬ。かといって、追放するにも付近の領主への迷惑となるし。牢に閉じ込めるにしてもこの人数の経費……今年は、厄年だ」
私達が養うわけにもいきませんが、流石に諏訪に対して寄進をして良心の呵責を慰めます。
暴れたプレイヤー達も、はじまりの街の快適な宿舎こそ失ったものの、諏訪の牢獄という安住の地を得たわけで。
ある意味、彼らにとっても幸せな結末となったのかもしれません。
……呪詛解く方法がないので、夢に苦しめられる以外は。
天人の牢獄は、夢に苦しむ人達の叫び声が余りにも不気味すぎて、集団避難が起きていると聞き、ちょっぴり反省する私達です。
解けないような呪詛はやめようと、心に決めました。




