第二話
N県S市
ここが会場ですか。
さすがは、元が宇宙技術の研究所だけあって、敷地が広いですね。
今回は、一万人が参加する体験イベントというだけはあり、大きなお友だち風の人がたくさん集結しています。
ちょっと女性が少なめなのが、不安材料でしょうか。宿泊イベントとはいえ、長期睡眠装置に入るわけですから、間違いは起きないと思いますけどね。
リニアの駅前にもいましたが、結構な数の報道陣や宇宙開発反対のデモ隊の方々が入り口の側にいますね。
宇宙開発反対だけならわかるんですが、侵略戦争の謝罪をしろって、百年以上前の話を今回やる必要あるんでしょうか。
よくわからない人達です。
係員の方々も結構おられるのですが、押し掛けてきた人への対応が精一杯で、参加者の私たちはスルー。
係員の人数は、一万人の参加者への対応なら十分だと思えるんですが、数百人が暴れるのには足りなかったようです。
暴れている一部である報道陣からの質問攻めは、嫌がらせかと思いましたね。
国の事業だけに、それだけ関心が高いのかもしれませんけど、参加者を罪人扱いするかのようなことは、やめてほしいですね。
国に協力する売国奴として一言、って意味わかりませんから、答えようがなかったですよ?
「二泊千日のVRMMOリゾートへようこそ」
報道陣の肉壁を突破し、何とか会場にたどり着くことが出来ました。
これ、今日来た人の何人かは、会場にたどり着くことが出来ずにリタイアしそうですね。
本当に嫌がらせの為に、報道陣は来ているんでしょうか。
それはともかくとして、ゲームのガイダンスを受けます。
説明は、事前におじさんに聞いていたものと殆ど一緒。
ただ、ゲームについては、私もおじさんもよく知らないでいましたので、新鮮でした。
「言うなれば、みなさんはバーチャル空間でライブRPGをやっていただく形になります」
ライブRPG?聞き慣れない言葉ですね。
「みなさんは、ゲーム内で作るファンタジー世界のキャラクターになっていただき、そのキャラクターを演じていただきます。
そのキャラクターは、スキルや天分が成長しますし、お金を稼いだり名誉を得たりすることもできます。
ただし、犯罪を行う場合はペナルティを受けますので、ご注意ください。
たとえ隠して犯罪を行っても、システムで処罰モードに入ります。
敢えて楽しみたい方を止めはしませんが、期間が限定されておりますのであまりお勧めはできません」
犯罪は行われたら嫌だけど、出来ないようになっているのも確かにおかしいですね。
「期間は、明日一日が装置内では一年以上になると言うシステムです。
具体的に何倍とは申しません。曖昧にしておくことで臨場感を楽しんでいただきたいと言う事を考えております。
ただ、いきなり世界滅亡では納得いかないかと思いますので、前兆イベントも用意いたしますので、お楽しみください」
400倍前後と言っていたから、ぴったり一年ではないはずですよね。
一年間は保障、それ以上が何日あるかは事前に公開しないというスタンスと言うことで良いんでしょうか。
それにしても一年は長いですよね。
飽きたり自分に合わないと思ったらどうするんでしょうか。
今回私は、おじさんへの義理もありますからそうなってもやりきるつもりではいますけど、純粋に楽しみたいだけの人にとっては、ちょっとつらいかもしれませんね。
「これから皆様が行かれる世界は、日本語が共通語の世界ですので、今回参加されている方は、皆様日本語が使えると思いますので、
今回参加されている全ての方々は日本語が使えると思いますので、会話する上では特別な配慮も必要ないと思われます。
立場的には、救世主伝説のある天人として、世界に入っていただく形になります。
天人であることにより、世界の常識を身につけていなくても、天人だからということである程度許されますし、
天人の新たな思想を伝えると言った行動も説得力を持って聞いてくれやすくなります。
とはいえ、限度もありますのでご注意ください」
なるほどですね。
ある意味世界に対して、ゲストとして訪れることになりますと。
確かにリゾートとして、世界に行くわけですからある程度のて加減は受けられるわけです。
ただ、あまりに傲慢だと自滅することになると。
……共通語が日本語と言うことは、共通語以外の言語もあるということですね?
これは覚えておいた方がいいかもしれません。
イメージとして、共通語で話してもうわべだけの関係になりやすく、相手の母語で話せば相互理解がしやすいという感じでしょうか。
もっとも、その言語をしっかり把握しきらなければ、コミュニケーションが困難なことに違いはないでしょうけど。
折角、ゲームの中の人と交流するのならば、言葉を学びやすいキャラクターを作ろうなんて思う説明でした。
「事前に告知済みの話ですが、このリゾートは、途中でのログアウトが自発的にはできません。
外部からの緊急連絡や医療上の都合などで、強制的にログアウトとなることはありますが、あくまで例外措置です。
長期睡眠装置及び、時間倍速装置の仕様上、やむを得ない状況以外でのログアウトは行えないことに同意していただく必要があります。
それ以外にも色々な書類がございますので、中身を御精読の上、サインしていただくことをお願い致します」
ここからがおじさんに予告されていた同意書サインラッシュでした。
中身を精読も何も、これ読んでいるだけで飽きる人が続出すると思いますよ。
手続き上、瑕疵が出てはいけないから、慎重に慎重を重ねて同意書ラッシュとなるのでしょうけど、これを全部読んだ上で同意のサインと言うのは無理があります。
読まずにサインの人も多いのではないでしょうか。
ここまで来ると、弁護士を雇って訴訟すれば、同意書が多すぎて理解しきれなかったという論理で勝てる気がします。
私はやりませんけど、これもう少し簡略化なりわかりやすくするなどしないと、事業化した時に事前手続きを面倒くさがって誰も利用しないとなりそうですね。
事前の予告通り、マッサージをしてくれる人が本当に用意されてましたが、用意する所が本当に間違ってますよ。
怒涛のサインラッシュを終えて、施設の見学をさせてもらえることに。
時間倍速装置の理論的説明も受けましたが、何やらすごいということ以外は良くわかりませんでした。
私達は利用できれば構わないので、科学者に頼り切ると言うのが今の文明世界なのかもしれませんね。
サーバー室も見せてもらいましたが、その装置を冷やすための空調冷却室が用意されている等、本格的でした。
もっともサーバー室も、時間倍速装置の内部になるため、基本的には自動操縦となるそうです。
何かエラーが起きる予兆が起きたら即座に時間倍速装置を止めてメンテナンスするのでご安心くださいとのことですが、
内部からすると、タイムラグが起きそうですけど、大丈夫なのでしょうか?
見学の後は、装置に入る前の健康診断。
体重が学校で受けた健康診断より300グラム増えていることが気になりましたが、誤差の範囲と思うことにします。
太ってなんていないんです。
絶対、たぶん、きっと。
そんなこんなで、ゲーム開始時刻が刻一刻と近づいてきました。
長期睡眠装置は初体験ですが、苦しくなるようなことはなく、ゆっくり意識が薄れてきました。