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第二十八話

 美濃に戻ってから周りを見ると、プレイヤーの数が本当に少なくなってますね。

今までのパターンだと、信濃、飛騨、武蔵、蝦夷と新たに増えた国でボスが発見されるというパターンを繰り返してますので、一回目に行けるようになった美濃はボスの対象外なんだろうなとは思います。

そうなると趣味で残っている人以外は既存国にはいなくなるわけで、仕方のない状況ですね。


 ただ、プレイヤーが減っても依頼が減るわけではありません。

美濃は領域も広く、石高も高いことから国力も高いために依頼人は比較的多い設定のようなんですよね。

その状況でプレイヤーが少ないわけですから、依頼の供給過剰状態が発生しています。


 NPCの冒険者がいないわけではないのですが、プレイヤーを余り邪魔しないための設定なのでしょう。

本業は別に持っていて、休日冒険者的な人が多いようで、どうしても依頼を受ける主力はプレイヤー達天人になります。

こうなると、プレイヤーが来る前は常に依頼過剰で困っていたんじゃないでしょうか?

ちょっと疑問に思わなくもありません。


 プレイヤーたちみんなで協力して数をこなす状況になります。

そういう状況ですので、人里離れた龍を念のために倒してほしいなんて言う依頼は出ていてもスルーしています。

人里離れた場所に行くには時間がかかるうえに龍退治となると多人数が必要になります。

別に負けても、死亡ペナルティを受けるだけですが、依頼未達成に費やした時間を成功できる依頼に回さないと依頼を処理しきれないんですよね。


 その段階でライフワークである街道整備依頼を受けるのは、ちょっと心苦しかったのですが、他のプレイヤー達もそれぞれ追っているものがあるから美濃にいるわけです。

メインにしている依頼はその人たちに任せる、人手が必要なときは声をかけるなんていうふうに自然に紳士協定化しました。

そういう依頼も受ける人は必要なので、専門的に成功できる人が専念したほうが効率がいいというのもあるんですよね。

慣れるまでに失敗するぐらいならば、専門化したほうがいいということですね。


 依頼を短期間に積極的に受けたためか、美濃にいるプレイヤーはどんどん冒険者組合の位階が上がり、レベルもアップし続けています。

言霊魔法の研究などに回す時間が減っているのは痛いですが、まずは目の前の依頼を片づけなければいけないため、仕方がないことと割り切っています。


「神子様、最近お忙しそうですね」

「ええ、冒険者の人数が依頼の数に比べて少ないために、皆さんと協力して依頼を受けているんですよ。冒険者の人数が増えれば、もう少し楽になるとは思います。逆にいえば充実した生活を送れているともいえるのですから、贅沢を言ってはいけませんね」「無理だけはなさらないでくださいね。我々も他国に依頼を出すという形で、冒険者を増やそうとしているのですが、美濃なんて行く価値がないと断られるようなのです。未開の蝦夷と比較されるならわかりますが、隣国の飛騨には負けないと思っていたのですが。我々の努力が足りませんね」


 飛騨が人気あるのは、黄金の里というわかりやすい豊かさがあるのと、ボス戦があるぐらいなので、他にもイベントがあるだろうという期待感からみたいですね。

美濃は、龍退治の依頼があるとは言え、特に大きなイベントが起きてませんから、プレイヤーには魅力が薄いでしょう。


 でも、それを素直に言ってしまうとは、観光客みたいですね。

あ、ここはリゾート空間なんでしたっけ。


 そんな忙しい日常を過ごしていたのですが、どうも私たちみたいな充実した日常を過ごしているのは少数派であったようです。

依頼で信濃に行きましたので、はじまりの街に顔を出したのですが、プレイヤーがかなりの数いたんですよね。


「信濃にこんなにプレイヤーが集まっているとは、今度のボス戦は信濃で行われるのですか?」

「ああ、ボス戦に関わって盛り上がっている人たちも、まだいるんだね」

「?? どういうことですか?」

「俺たちは、スタートダッシュに失敗したこともあって、みんな飽きちゃったんだよ。だけど、ログアウトはできないのに生活費がかかる。となると、衣食住が保障されているはじまりの街に来る。今、この街にたむろっている奴の大半はこんな感じさ」

「あんたらのようなトップ組にはわからないだろうが、もうみんな嫌になっているんだよ。こんなところ。なのに、緊急事態以外はログアウトできないんだ。運営コールはしたけど、緊急時以外はログアウトできない旨の同意書にサインいただいておりますの一点張り。どうにもならねえよ」


 私達って、トップ組扱いだったんですね。

確かに飛騨のボス戦では主導しましたし、その後のボス戦にも参加していますけど。

でもどちらかというと、ふだんはトップ組と呼ばれるような派手な活躍なんてしている気なかったんですけど。

でも、確かにヨークさんやカオリーヌさんは、ボス戦で活躍するほどのレベルなわけですし、私は私で儀式魔法を主導しているわけで。


……言われてみれば、確かにトップレベルに見えるかもです。


「クリアすればログアウト可能になるわけですから、ボス戦に協力すればいいんじゃないですか?」

「ああ、そう思ったよ。だから、蝦夷の戦いには参加していた。だけど、敗北を繰り返してさ。それなのにあんたらが来たらすぐに勝利した。あれで俺たちはわかったんだよ。俺たちがボス戦に参加しても無駄だって。何もしないで、待っているしかないんだって」


 言葉を失う私達。

確かに私達が参加した時は、敗北を繰り返していた直後にいきなり勝利したわけで。

必死になっていた自分達が馬鹿らしくなったとしても、責められないのかもしれません。


 でもこの状況が健全だとも思えません。

ならばと、


「もしやることがないなら美濃に来て依頼を受けていただけませんでしょうか?人手不足で困っているんです」

「本当にあんたら廃人は、物事の本質がわかってないな。俺たちは依頼そのものを受けるのも嫌になってるんだよ。廃人連中は幻想に酔えているのかもしれないけど、現実に生きる俺たちには関係ない話だ。廃人はゲームに帰れよ!」

「そこまで言うの? ゲームでゲームを楽しんで廃人って、ちょっとどうなのよ」

「廃人に廃人と呼んで何が悪い。事実を言ったら問題なんて、ただの言論弾圧だろう」

「カオリーヌ、やめとけ、話が通じない。いくぞ」


 私の提案は前否定され、それに怒ったカオリーヌさんと彼らが口論になりはじめますが、ヨークさんが止めに入りました。

正直、廃人と呼ばれたのはショックです。

その時でした。


「何だ、急に。うわああああ」


罵倒してきた男性の体が急に透明になり始め、あっという間に消えました。


「何をやった!」

「口論で勝てないからって、殺すって最低だぞ!」

「いえ、私にも何がなんだか」


 そこにシステムメッセージが流れました。


「精神的に危険な状態であると判断し、ログアウト措置をとりました。急に人が消えることでお騒がせして、申しわけございませんでした」


 ああ、そういえば、医療上の都合ではログアウト措置があり得るという話でしたね。

精神的に病んでいる雰囲気でしたし、あの暴言を繰り返された状況では、精神的に危険な状態と判断されもするでしょう。


「そうか、精神的に狂えばログアウトできるのか。盲点だった。狂えばいいんだ!」


 すでに発想がそこに至る時点でどうなんでしょうという方が出ているのは、正直……ですが。

そろそろ運営側がなんとかしないと、まずい状況なのではないでしょうか。

私たち自身、自分達のことだけで気づいていませんでしたが、状況は変わっているわけです。

今回の強制ログアウトで運営側が気付いているといいのですけど、対応とれるかはまた別でしょうしね。

外とは時間の流れが違いますから、ゲーム内スタッフで対処しないといけないでしょうし。


 私達プレイヤーでどうにかできることでもないとは思いつつも、重い気分になってしまいます。


「廃人か」

「あいつらが勝手に言っていただけじゃないの。私達は、単純に楽しんでいるだけだよ。リアルを犠牲にするならともかく、リアルではまだ一日経ってないんだからさ。言いがかりにも程があるよ」

「それはそうなんだけど、俺たちがそう思われているんだなと思うと、ちょっとな」

「私もショックでしたが、気にしてもはじまりませんよ。今は、今を楽しみましょう」

「イツミさんは、そんなにショックを受けてないのか。強いなあ」

「いえ、ショックはショックですよ。でもまあ、いろいろあって動じなくなったかなあって。

NPCに間違えられた時とかのほうがショックでしたし」

「ああ、そんなこともあったって言ってたね。まあ、他人は他人、俺達は俺達か。改めてよろしくな」

「よろしくお願いします」


 美濃に戻り忙しい日常を再開しました。

飽きた人が出てくるのも仕方ないことでしょうし、私達は私達でやるしかないですね。

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