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第二十七話

 美濃に戻り、越前までの街道整備を再開しました。

陰陽術にも興味はありますが、言霊魔法の研究も半ばな今陰陽術を覚えても、虻蜂とらずになりそうかなと思えるんですよね。


 期間もそろそろ半ばが見えてきていますので、あまりいろいろ手を広げるわけにもいきませんね。

北は蝦夷まで行動範囲が広がりましたが、西は若狭、丹波、山城、伊賀、大和、紀伊に範囲が広がったのみです。

もちろん、畿内の一部まで範囲が広がっているわけですから、結構なエリアになっているのですけどね。


 範囲は広がりましたが、出来ることが広まっていると言えるかどうかは……ですね。

勿論、私達は充実した生活を送れています。

言霊魔法の研究がますます続いていますし、ヨークさん達は言語学から蝮語の派生スキルが現れて、街道整備依頼でも他の人夫と蝮語で挨拶できるようになっていますし。

流石は、神子様のお仲間だ。

我々のことを考えてくださっていると大好評です。


 カオリーヌさんは特に交流が広がっているようですね。

元々信者レベルが高まりつつあるうえに、蝮語で直接話をやり取りするわけです。

他のプレイヤーよりも遥かに親しくしてくれる生産職の方が増えているようです。

その甲斐あって、生産系スキル習得が進んでいるようです。

手芸レベルと言われていましたのが、今では武具や道具の製作も出来るようになっており、街道整備にも使えるような道具を作ってみたいと言われています。

まずは、シャベルを作ってみせると言われてましたね。


 土木工事の道具が多様化されれば、トンネルなども掘りやすくなるでしょうからね。

あまりにも急な崖や急坂は、トンネルで回避できるのであればした方が通りやすくなるでしょうし。

トンネルほどではなくても、切りとおしに出来れば、通りやすさが格段にアップする可能性もあります。

土木魔法を作ると言う方法もあるんでしょうけど、それが簡単にできれば誰かもうやってますよね。

黄金の里で金脈を掘るのに使っているか聞いてみるのもありかも知れませんね。

現状でも鉱山を掘る技術はあるわけですから、トンネルを掘る技術も当然あると思いますから、言霊魔法に頼らなくても出来るとは思うんですけどね。


 化け物退治も行っています。

レベルが上がらないと天分の制限でスキルレベルが頭打ちになりかねませんし、やりたいことを実現するためにはスキル数上限も上げないといけません。

必然的に戦闘に行く回数が増えるわけですから、システム的にはしっかりしているのかもしれませんね。

戦闘をしなくてもレベルアップすることはありますが、戦闘した方が短時間でレベルアップできますし。


 化け物退治をするプレイやが少ない国は、化け物が跋扈し易くなるなんて話もあるんだそうで、あまり人がいかないG……上野は一気に化け物が増えてしまってやることをなくしたプレイヤー達を集客しているのだとか。

ただ、東側にプレイヤーが集まりすぎても今度は西側となる為に、人を分散させるために運営も試行錯誤を始めたみたいですね。


 美濃と越前の間の街道もそれなりに整備される目途がついてきました。

生見峠と言う所が結構な難所のようですが、そこも人が通る程度であれば、冬場以外は特に問題にならないようですね。

ただ、モノの移動となると荷車が通れねばならず、洗い越し等もあることからかなりの難所であるようです。

軍勢が通り抜けているぐらいですから、荷車も通れるはずなんですが、豪雪地帯だけに維持が大変なんでしょうね。

維持が大変でありながら重要性が高いために、入ることが困難になる冬場以外は通年で街道整備依頼があり、専門で人夫を生業にできるだけの状態ではあるようですが。

近江経由で行けないこともないとは言え、移動距離が長くなるとそれだけ通る関所の数が増えて、運んでも利益がなくなるようですからね。

特に、美濃は海がありませんので、越前の海産物や塩を運ぶ道として重要なんだそうです。

南側の尾張や伊勢にも海はありますが、選択肢が多い方が安く入手できるのだそうです。


 まあ確かに、足元を見れる相手に、安く売る商人はなかなかいませんよね。

越前側にとっても洪水こそ多いものの穀倉地帯である美濃の国府と越前の国府を結ぶ最短ルートであるこの街道の価値は高いようです。

利益に感じる人が多いからこそ、複数の大物が依頼主に名を連ねるんでしょうね。


 そのため、依頼を通じて大物たちとの交流ができ、その交流から新たな大物と知り合いという日々を過ごしていました。


 そんなある日、蝦夷で第四位階ボスアルファカムイ相手に、プレイヤーが敗北したという話を聞きました。

今回私たちは、事後になってから知ったんですよね。

ギルドに所属していないことや、プレイヤーよりもNPCとの交流に重きを寄せていた結果、ボス情報から取り残されたようですね。


 でも、必要ならば前回のように指名依頼で呼ばれたはずです。

要らないと思われたのは寂しいですが、転移の魔方陣も使用料金がかなりお高いようですからね。

無理に呼ばなくても大丈夫と判断されたのでしょう。声がかかったら参加するつもりで、静観していました。

実際、街道整備でも戦闘はそれなりにありますし、冒険者としても職人(これは主にカオリーヌさんですが)としても、魔法使いとしても、充実した生活をしているのですよね。

無理にボス戦に参加しなくても良いと思えるのですから、半分他人事です。


 それも、二回目、三回目の敗北を聞くまでの話です。


「どうします?」

「ううん、俺達も協力しないといけないかもしれないな。一応、戦力になれないことはないんだし。

「まあ、仕方ないかもね」

「そうかもしれませんね」


 話し合う前から結論は決まっていました。

冒険者組合を通じて、転移の魔方陣の使用の許可を得ようと言う話にまとまりました。

もっとも、美濃の実力者の方々のご助言をいただけたこともあって、通常よりも安い値段で使用の許可を受けられたのですが。


「参加するなと言うのか?」

「前回お前達がやったことを覚えてないのかよ。賞品一人占めだぞ。そんなことやる奴らに参加させるわけにはいかない」

「独り占めって、イツミさんの儀式に参加した人達も賞品貰ったでしょうに。別に私達だって、独占したくて独占したわけじゃないよ?」

「いや、信じられない。第一、チュートリアル終了クエストだってお前らが達成者になってたじゃないか。狙ってやったに違いない」


 とんだ濡れ衣です。

ですが、今回主導権を握っている人達が私達に参加させる気が無い意思を撤回させることは不可能なようですね。


「もし、戦力が必要なら呼んでください。かけつけますから」

「誰が火事場泥棒なんかを呼ぶんだよ。とっとと蝦夷から出て行け!」

「そうだそうだ。俺達の許可なく蝦夷に来るんじゃないぞ」


 いつから蝦夷は彼らのものになったんでしょうね。

場合によると二回目のボス戦の時の私達も、他の人達からはこう見られていたのでしょうか。

理不尽なものを感じながらも、仕方が無いと美濃に戻ります。


 美濃に戻ってからの私達は忙しさに不快な記憶を薄めて行きます。

飛騨の人が来て、越前とだけではなく飛騨との街道も整備してほしいとの嘆願もされました。

飛騨の人にとっても街道は重要ですからね。

飛騨は越中との関係の方が深いものの、美濃や信濃との関係も保ちたいのは確かでしょう。

それに私自身、飛騨には結構関係ありますしね。


 ボス戦は、その後も敗北を繰り返しているようです。

あまりにも負け続けるので、招集しても相手にされなくなりつつあるとか。

実際、山城まで行けるようになった結果、平安京にも行けますからね。

無理してそれ以上にしに行かなくても良いわけです。

陰陽寮も解放されていますので、陰陽術を学び始めた人もいるのではないでしょうか。


 言霊魔法は、ヨークさんやカオリーヌさんもスキル習得され始めました。

まだ発音を正確にしてより精度を高めると言ったことをされている程度ですが、私もうかうかしていられませんね。

もっとも、今の所は補完し合うと言う感じなのですが。


 蝦夷のボスが倒せないならこのままゲーム終了時間まで、美濃を中心に過ごすのも悪くないかな? と思えてきました。

ですが、とうとう他のプレイヤー達の堪忍袋の緒が切れたようです。

蝦夷のボス戦を主導していた人達が蝦夷から追放されたそうです。

ボス戦に負け続けて、成長がトップ集団と言っても周回遅れ的な状態になっていたのも大きかったようです。

一から出直すからということで、追い出した人たちを中心に有名どころとなっていたプレイヤーに指名依頼が入りました。

その中には私達の名前もあったんですよね。

私達が有名か? と言うと、悪名の方が先に立ちそうですが、呼んでもらえたからにはかけつけます。


 今回は、下車ケ谷の時以上に人が集まっています。

反発されていた人達を追いだしたことで行かない理由が無くなったこと、今回こそは勝てるんじゃないかという期待、現状に対する不満などがあわさって舞台が整ったようです。


 今回も私は儀式魔法を主導、ヨークさん達はボス戦に参加という布陣になりました。

楓の陣と呼ばれるある意味精鋭部隊そろい踏みの状態で、戦いが始まります。

ヨークさん達も儀式魔法側に回るか、戦場警備を願い出ていたのですが、トップレベルの戦力をそんな無駄にできるかと逆に一喝され、ボス戦への参加となりました。

もっとも今回は、ボス戦に参加している後衛の護衛をメインに行われているようで、間違ってもとどめを刺すことが無いように配慮されているようです。

それに対して、当然だろと言われる方もいるようですが、勿体ないという意見の方も結構いるとか。

でも、後衛の人が大きな魔法を安心して使ってくれる方が戦力として機能するとヨークさんが言ったこともあり、他の方々も了承されたそうです。


 今回の儀式魔法は、ボスの攻撃力を半減させることをメインにしました。

今回のボスは、威力の高い全体攻撃を繰り広げることで、戦力が削られて行ったということですし。

ボスを守るように眷族が先に後衛を攻撃して行ったことで、攻撃力不足にもなったとのことですので、ヨークさん達が願い出た役割って、実はかなり重要なポジションかも知れません。


「ナパッドポル、ナパッドポル、ナパッドポル、ツタアタコ、ルヅジェ、ナパッドポル」

「ナパッドポル、ナパッドポル、ナパッドポル、ツタアタコ、ルヅジェ、ナパッドポル」

「ナパッドポル、ナパッドポル、ナパッドポル、ツタアタコ、ルヅジェ、ナパッドポル」


 儀式参加者の声が一つの意思となり、月色の光を発します。

ボスに吸い込まれるように消えて行った後、ボス戦参加者のHP現象が目に見える形で減りました。

プレイヤーには、元々の防御力もありますので、防御力を超える攻撃力がダメージになります。

なので、被ダメージは個人差こそありますが、明らかに半分以上減っているんですよね。

そのこともあり、無事ボスが倒されました。

今回は、ヨークさん達はボスと直接戦っていないこともあり、トドメとは無関係でした。


 祝勝会が開かれました。


「今回は、イツミさん達のパーティに本当に助けられた。後衛を守る存在のありがたみが良くわかったよ。

うちのギルドでは、普段からこういうスタイルを取るべきと考えだしてる」

「そうだな、うちも考えていた所だ。今回は本当に勉強になった。

ヨークさん、カオリーヌさん、本当にありがとう。後衛が真価を発揮させる作戦と言うのも大事だとよくわかったよ」

「イツミさんの儀式魔法も冴えていた。あの魔法が発動してからは、本当に戦いやすくなったもんな」

「おかげで、神術使いが回復役専念にならなくてすんで戦いやすくなったよ。

今度は、初めから何人も選別せずに呼ぶようにトップ集団みんなで協議したよ」

「うん、それに国は誰のものでもないんだ。独占しようとしたら、その人達を排除しようと言う話も決まった。

追い出された彼らも参加したかったら参加させる。

彼らが潔しと考えるかは別だけどね」


 雨降って地が固まったようです。

北は樺太、東は千島が解放されたそうです。

西は、近畿地方の殆どと、淡路が解放されたとのこと。

もう、四国はすぐですね。

でも、樺太、千島は戦国時代や江戸時代に日本だったと言えるんでしょうか?

千島の手前の択捉迄は、蝦夷の一部だったみたいですけど。

みんなで次のボス戦に向けて頑張ろうと誓い合って、別れました。

勝利の喜びをかみしめながら、私達も美濃へと戻ったのでした。

作中に出てくる美濃から越前の街道は、現在の国道157号線ルートをモデルにしています。

ネット上では、キングオブ酷道なんて言われてますが、歴史的にはかなり重要だった道みたいなんですよね。

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