第二十三話
「プレイヤーが出す依頼だけに、食い付きが悪いみたいですね。」
「いや、それだけなら良かったんだけど」
「何か、他にも要因あるんですか?」
「ああ、イツミちゃんがこの前運営コールをした結果、能力値の説明が入ったじゃん。それで、徳が高いから組織のトップは俺だ、的にやっていた人達が、実は正反対だと発覚して解散に追い込まれたギルドが続出してさ。ソロだと他国の依頼がどんなの出てるなんてわからないから、飛騨にいる人以外には伝わらないんだよね」
何でも、ギルド内の連絡があれば、他国の依頼はわかるものの、ソロだと自分のいる国の依頼しか見られないんだそうです。
ただでさえ、飛騨は小国ですので、訪れるプレーヤーも少ないため、言霊魔法で魔法を使えるようになると言う報酬があっても、そもそも依頼の存在が知られないということのようです。
困りましたね。
しかも原因が、私が運営に訴えた内容によるとなると、誰を恨むわけにもいきません。
……業について、初めから説明されていれば防げた悲劇では、ありますけどね。
「こうなっては、仕方ありません。少ない人数でも、何とかするしかないですね」
「まあ、救いはトップレベルは結構な数参加してくれていることかな。彼らにとっては、ボス戦闘は格好の稼ぎ時だし、組織だっているから情報もまわりやすかったようだしね。なにより新たな魔法がボスに止めを刺さなくても入手可能というのは、報酬としては破格だから」
なんとか少数精鋭でも、必要な戦力を整える方向には、持っていけそうですね。
次以降のことを考えれば、ボスに止めをさせなくても得られる報酬は重要になるはずです。
さすがに、運営も対策を考えているとは思いたいですけど。
「ところで、理論習得の方は上手くいっているの?」
「何とか、スキルの段階にはなりました。ただ、まだ簡単な構成しか理解できていない段階です。勿論使って見せて実演することはできますが、まだ効果を調節すると言ったレベルのことはできませんね」
「そこまで行ったんだ。それでも大きいよ。真似して覚えれば、魔法が使えると示せるんだから、最低限の報酬としては間に合うよね」
「報酬以上に、戦力となっていただかないといけませんので、もっとしっかり学んで伝えられるようにして行きますよ」
言霊魔法は、使うだけならスキル枠を使わないようなんですが、魔法理論を覚えるとなるとスキル枠を消費して、スキルを習得する形のようなんですよね。
どうも、言語扱いの一つのようです。
私の場合は、言語習得能力補助のユニークスキルのおかげで習得しやすくなっているにもかかわらず、スキルとして習得すること自体に結構な時間を消費することを考えますと、普通に覚えるには大変そうですね。
こうなると、他の方に理論をお伝えするのは、結構難しいことになるのかもしれません。
言語学の派生スキル扱いと言うことも、習得を面倒にしていますね。
あまり多くの人に習得されないようなバランスにしているのかもしれませんが、次回はもっと習得しやすいようにしないと覚えようとする人でないかもしれませんね。
私みたいなプレイスタイルの人が常にいるとも思えず、それでいてボスを絡ませるとなると、正直宝の持ち腐れになってしまうのでは?と。
まあ、黄金の里と言うぐらいですから、言霊魔法が報酬にならない場合は、黄金が報酬になるのかもしれませんけどね。
仮定の話などどうでもよく、今は今回のことに集中ですね。
金山に突入決行する日がやってきました。
黄金の里の人の案内で入って行きます。
言霊魔法の方はある程度は習得できましたが、まだ完ぺきとは言い難い状態です。
また、封印の儀式をやったということから、儀式の方法も学びました。
もっとも、参加する人数に合わせて魔方陣を組み上げるとのことですが、計算が思いのほか大変です。
ちゃんと計算できれば、数千人レベルに参加できるようなのですが、今回は十数人が限度です。
数学的に魔方陣を作ることはできるのですが、そこまで学びきれなかったのですよね。
魔方陣と聞いて、魔法陣のことかと思いましたが、違いましたのですよね。
本当に正方形の枠で計算する魔方陣を構成されているのを見て、ダジャレ?と思ってしまいます。
もっとも、今回参加した人達の話によりますと、魔術的な意味で魔方陣を魔法陣にして使うという発想自体は珍しくもないそうで、魔方陣で世界を表現するなんて試みもあるんだそうで。
魔方陣も、奥が深いんですね。
金山だけあって、結構坑道が金色に見えます。
実際の金山がそうなのかはわかりませんが、幻想的でいいですね。
現役の金山ですから、こういう機会じゃないと入れませんし、しっかり味わいましょう。
……まあ、雑魚の魑魅魍魎が出てきますので、のんびりなんてはできませんけど。
ザコでは、トップレベルの方々の敵ではなく、どんどん進んで行きます。
封印の間自体は、結構大きな空間があるとのことですので、儀式を展開して戦っている人達の補助はできそうです。
今回は、敵の装甲を薄くして、ダメージが通りやすくするという儀式魔法を行います。
もっとも、みんなで言霊魔法を唱えて、それを一つのものにするという程度の儀式なんですよね。
里の人がいればもっとしっかりした儀式も出来そうなものですが、封印の儀式で魔力を使いきっており、中心になって儀式を行えるような状況の人がいないんだそうです。
勿論、里の方々も金山突入には参加していただいており、通常の行動はしていただいているのですが。
「マルモラ キラソ ポルマクレスカンテ エン スコダ ラッシュ インダビビロ ラスジェロヴァズダ!」
「マルモラ キラソ ポルマクレスカンテ エン スコダ ラッシュ インダビビロ ラスジェロヴァズダ!」
「マルモラ キラソ ポルマクレスカンテ エン スコダ ラッシュ インダビビロ ラスジェロヴァズダ!」
「マルモラ キラソ ポルマクレスカンテ エン スコダ ラッシュ インダビビロ ラスジェロヴァズダ!」
「マルモラ キラソ ポルマクレスカンテ エン スコダ ラッシュ インダビビロ ラスジェロヴァズダ!」
「マルモラ キラソ ポルマクレスカンテ エン スコダ ラッシュ インダビビロ ラスジェロヴァズダ!」
「マルモラ キラソ ポルマクレスカンテ エン スコダ ラッシュ インダビビロ ラスジェロヴァズダ!」
「マルモラ キラソ ポルマクレスカンテ エン スコダ ラッシュ インダビビロ ラスジェロヴァズダ!」
「マルモラ キラソ ポルマクレスカンテ エン スコダ ラッシュ インダビビロ ラスジェロヴァズダ!」
「マルモラ キラソ ポルマクレスカンテ エン スコダ ラッシュ インダビビロ ラスジェロヴァズダ!」
「マルモラ キラソ ポルマクレスカンテ エン スコダ ラッシュ インダビビロ ラスジェロヴァズダ!」
「マルモラ キラソ ポルマクレスカンテ エン スコダ ラッシュ インダビビロ ラスジェロヴァズダ!」
「マルモラ キラソ ポルマクレスカンテ エン スコダ ラッシュ インダビビロ ラスジェロヴァズダ!」
「マルモラ キラソ ポルマクレスカンテ エン スコダ ラッシュ インダビビロ ラスジェロヴァズダ!」
十四人が心を合わせて呪文を唱えます。
魔方陣で増幅され、一つのものとしてボスの装甲を薄くして行きます。
通常ではそのような魔法は効果すら発揮しない魔法も、儀式魔法とすることで効果を発揮します。
トップレベルの人達の攻撃が目に見えて効果を発揮するようになり……
ピコーン
システムメッセージ:第二位階ボスモンスター、黄金のマイマイカブリが、イツミが行った儀式魔法のサポートにより、戦いの先にある夢ギルド所属、テオの攻撃により撃破されました。
全プレイヤーは、第二位階に進めるようになりました。戦いの先にある夢ギルド所属者及び、儀式魔法参加者には、撃破ボーナスが配布されましたので、ご確認ください
あれ?
倒した人に報酬が来るのは話に聞いていてわかっていましたが、儀式魔法に参加していた人への報酬は初耳です。
しかも、私の名前が出て全体に対するシステムメッセージとなりますとは。
これはちょっと想定外ですね。
まあ、倒せたから良かった上に私や儀式魔法に参加していた人達も報酬貰えたので嬉しいのは確かなんですけどね。
ヨークさんやカオリーヌさんも儀式魔法組でしたので、撃破ボーナスがもらえた形になります。
で、撃破ボーナスは、男女で異なるアイテムだったようなのですが……天女の羽衣と言うのは、どうなんでしょう。
巫女服以外に天女の羽衣に着替えることが出来るようになりました。
でも、結局和装なんですね。
たまには、洋服も着たいです。
撃破ボーナスで業が大きく減ったため、ヨークさんやカオリーヌさんもマイナスに突入しました。
私の数字は、マイナス過ぎて見るだけ無駄と言う感じになってますね。
NPCに名前が知られていたのは諦めも尽きますが、今回の全体メッセージで、プレイヤーにも名前を売る結果になった私。
神子であることを隠していても、もうあまり意味が無いのかもしれませんね。
大声で言いふらす的なことはする気ありませんので、必要な時は明かす程度のことにはなるとも思いますが。
「イツミさん、良い報酬も得られたし、言霊魔法も色々使えるようになった。今回は本当にありがとう。ところで、今後何か予定ある?」
「私の方こそ、ありがとうございました。ヨークさん達が手伝っていただけなければ、ここまでのことはできていないと思います。予定は特にはないですよ」
「正式にパーティを組まないかな?ってお誘い。自分で心配されていたように、PKの的にされかねないとのことだから、一緒に行動すれば少しでも防げないかなって言うのと、純粋にイツミさんと一緒に行動していると色々面白そうってことだね」
「面白そうですか?」
「ああ、俺達とは違う視点でこの世界に対しているじゃん。そうなると、俺達だけでは体験できないようなことに接することができそうでさ。迷惑じゃなければ、これからも一緒に行動させてくれないかな?」
「私からもお願いするよ」
凄い魅力的なお話です。
むしろ私自身単独行動では色々限界がありますし、私では気付けないことを教えていただけますし。
「むしろ、私の方からお頼みすべきことです。よろしくお願いします」
勿論返事はOKです。
三人のパーティを結成しました。
パーティ名は、なかなか決まりませんでしたが、出会いと今回のことを合わせて、「天女の鬼熊」としました。
良く考えると意味不明な名前ですが、気にしたら負けです。
天女の鬼熊結成祝いと言霊魔法習得お疲れ様でしたと言う食事会を行い、のんびり過ごします。
明日からはまたいろいろ冒険の日々になりますが、今日はのんびり過ごしましょう。




