第二十二話
「ここが結界の入り口か」
「ええ、国主様に用意していただいた地図によればそうなっております」
黄金の里のあった場所の往時の入り口とされる場所に来ました。
されるも何も、十五年前までは現役だった道ですから、特に通るのは難しくない…… なんて思ったこともありました。
廃道状態になって十五年も経つと、完全に自然に還ってしまうみたいですね。
少なくとも、これを道というには無理がある雰囲気です。
でも、ヨークさんの着目は違いました。
「ほら、ここに微かに踏み跡があるだろう。人通りは少ないが、確実に人が通っている」
考えてみれば当たり前なんです。
結界の入り口までは、この前の襲撃者みたいな里を追い出された人が里に入れないかと結界の入り口まで来ているわけですから。
人通りがない方がおかしいんですよね。
もっとも、藪がすごくて、服の耐久度が落ちたり、橋が壊れていて腰まで浸かる川を歩いて渡る羽目になったりと、大変でした。
「下着の中までびっしょりよ」
なんて、カオリーヌさんが言うので、ヨークさんは聞こえないふりをするも真っ赤になっていました。
巫女服だけに、下着の形式が違う私としては、ノーコメントです。
九十九折りを何ヵ所も巻き込んだ崖崩れや道を塞ぐ巨石を越えるのに苦労したりと散々でした。
いくら越えるのに失敗して死亡ダメージ受けても、復活ポイントに戻るだけと言っても、死の恐怖で一杯でした。
まあ、バーチャル体験にはもってこいなのかもしれませんが、こんなことを再現する暇あったら、先にやることありませんか? 運営さん。
そんな困難を乗り越えて、結界入り口にたどり着いた私達。
これでは入れなかったら、悲惨ですよね。
まあ、今まで何人も先輩がいるようではありますけど。
「入りましょう。通れなかったら、その時はその時です」
……なんの妨害もなく簡単に通り抜けできました。
拍子抜けしちゃいますよね。
でもまあ、結界を抜けたからと言って、道が改善するわけはなく。
ここからは、完全な廃道になるわけです。
もし、里が残っていたとしても、これまでの道の状態から、この道はメインルートとして使われてはいない可能性が高く、こうなることはわかってはいましたが……
さすがに、崖のような五メートルぐらいの地割れで道が寸断されているのは、厳しくないでしょうか。
先に続いている道が見えているだけに、これを乗り越えればなんとかなるだけに、悔しいところです。
「何かいい方法はありませんか?ジャンプするにはちょっと幅が広すぎますよね」
「跳べそうで飛べない可能性が高いと言うのが憎らしいな。こういう時は回り道をして、地割れが無い場所まで行くという方法もあるけど、どうしようか?」
回り道はやって出来なくはなさそうなんですが、地割れほどではありませんがかなりの傾斜のある山肌を迂回することになるんですよね。
何かいい方法はないでしょうか。
「こうなったら、ジャンプするわよ!えい!」
あ、それは無謀すぎます……
あれ?うまく跳んじゃいましたね。
「ここはゲームなのよ。ジャンプスキル習得しているから、このぐらいのジャンプは簡単よ」
……ああ、それを忘れてました。
まあ、5メートルぐらいなら、走り幅跳びの上級者レベルの人でも跳べないことはありません。
ジャンプスキルのない私は、縄を渡してもらいヨークさんとカオリーヌさんに抑えてもらって渡りきり、ヨークさんは自力で危なげなくジャンプを成功。
さっきまで悩んでいたのが馬鹿みたいです。
問題は解決したので、先に進みます。
もっとも、道らしきものでしかなくなっているこの道がいつ途絶えてもおかしくありません。
黄金の里は、山津波で埋め立てられたという伝説の地なのですから。
……その筈だったんですけどね。
「ようこそ、黄金の里へ」
普通に歓迎されています。
滅びたんじゃなかったんですか?
「このような隠れ里に天人の神子様がお越しいただけるとは、嬉しき限りです。
隠れ里ゆえ、宴等は開けませぬが、心行くまで滞在していただければ幸いです」
「イツミちゃん、彼らはなんと言っているんだ?」
「天人の私達を歓迎すると言っています」
私が神子だから歓迎されているっぽいですが、天人全体にすることで私だけ特別というのを薄めたいところです。
「そうは聞こえないけどなあ。私達が変なトラブルになるとまずいから、流石にここでは正確なことを教えてくれないかな、イツミちゃん。
結構恥ずかしい秘密だとはわかるんだけど、イツミちゃんだけが特別扱い受けるのにも理由はあるんだろうしね」
カオリーヌさんは鋭いですね。
まあ確かに3人とも歓迎されているのか、私だけ歓迎されているのかは勘違いさせてトラブルは避けなければいけないのも確かです。
「えっと、他のプレイヤーの方には秘密にしていただきたいんですが……実は、はじまりの街で産業の神が降臨しまして、その依り代に私がなったんです。
それ以来、人々から私、神子と扱われているんですよね」
「ああ、システムメッセージで、信濃の国に産業の神が降臨しましたって出てたよ。
あの直後に謎の業減少が発生したということで、騒ぎになってた」
「そうそう、折角高くなっていた業が下がったことで、運営に抗議する人が続出してたわよね」
業が高いと良いんですか?
逆だと思うんですが。
「あの、業が下がることに抗議ってなぜですか?」
「?? 業は、徳の高さを表す能力値じゃないか。何もやってないのにシステムメッセージで神が降臨したからって、一気に値が落ちたんだぜ。
そりゃ、理不尽イベントすぎてもめて当たり前だ」
「えっと、業が高いと徳が高いと思われているんですか?」
「そうだよ。……って、頭を抱えてどうしたんだい?」
とんでもない誤解が広まっているようですね。
まあ確かに、プラスの方が能力が高いという状態で、業だけマイナスもあるなんて、普通は思いませんよね。
ただ、業と言えば、悪いイメージがある言葉だと思うんですが、逆に業が高いと徳が高いと思われるとは、能力値の説明をちゃんと入れない運営に非がありそうです。
「えっと、業は悪いことをすると上がって、良いことをすると下がる能力値ですと、チュートリアルキャラクターである壱之条さんに聞いてますよ」
「え?」
「マジで? それ、本当なの?」
「運営に確認しなかったんですか?」
「運営は、個別の能力値については攻略情報ですので、意味はお答えできませんとしか言ってくれないんだよ。
だから、プレイヤー同士で想像していたんだけど……となると、良いことをするとマイナスになったりするの?」
「ええ、私の値を見ていただければわかるかと思います」
あれから奉仕活動等もやっていたこともあって、業は今はマイナス10800程にまで下がっています。
それを見せた時のヨークさん達が見ものでした。
絶句されて、ムンク状態に。
まあ、ヨークさん達もプラスとはいえ、大した数値ではないようなんですけどね。
「俺達、業が低いから徳の低いことしかやってないと他のプレイヤーからは侮蔑されていたんだ。
逆だったんだな」
「ゴミ拾いとか、いいことをやると業が下がるからおかしいとは思っていたのよ。
ゴミ拾いをやると徳が下がるとか、嫌な世界だなって」
……運営コールを起動しました。
「誤解される能力値ぐらい、説明を出して下さい!」
返答を待たずに一方的に切りましたが、私達のやり取りは運営も把握しているはず。
これで改善しないようならば、救いようないですよね。
「天人様達、いかがなされましたかな?」
「あ」
黄金の里の人達を置き去りにしてましたね。
「いえ、すみません。ところでなのですが、この里は滅んだのではなかったのですか?」
「ああ、確かに15年前滅びの危機に瀕しておりました。
金山の中から現れた魔がそのまま出て来ていれば、間違いなく滅んだでしょうね。
里の力のある魔法を使える者達すべてを動員して封印の儀式を行ったのです。
その際、力のある魔法を使えぬもの達を避難させるために追放をしましたが、彼らが無事ならいいのですが。
封印の反動は大きく、私達の里自体、一時的に特殊な空間に飛ばされまして、つい最近にここに戻ってこれたのですよ」
戻ってきた日付を聞くと、私達がこの世界に来た日。
無関係とも思えませんから、何らかの意味があるんでしょうね。
「無事に戻って来れましたが、魔は封印しているのみです。
いつ封印を破って出てくるかもわかりません。
どう解決するかを悩ましていた所で、天人様達、しかも一人は神子様であるという。
こんな僥倖はないと思っておりますよ」
これは下手をしなくても、第二位階のボスモンスターと言うものではないでしょうか?
言霊魔法で強化したプレイヤー達で倒すと言うのであれば、ストーリー的にわかりやすいですし。
「私達は、言霊魔法に興味があってこの里を訪れたのみですが、その状況を放置はできません。
出来る限りの協力はしますよ」
「助かります。天人様達の助力の為には、我らの里に伝わる魔法を公開する等、問題ではありません。
是非、学ばれて行かれるが良い」
これで、言霊魔法習得のめどが経ちました。
呪文を覚えさえすれば、使えると言うからには、言語学的なスキルが無くても、習得できる人は多いでしょうし。
三人の間で役割分担がはじまりました。
私が言霊魔法の基礎を覚えて、正しい使い方を学ぶ。
ヨークさんとカオリーヌさんが国府山に向かい、国主様への報告と冒険者組合に強大な魔討伐の依頼を冒険者組合に出しに言ってもらうと言う形です。
今回の依頼のスポンサーは、黄金の里となっていますが、国主様も事の重大さから参加してくれるのではないでしょうか。
プレイヤーの方々に話が通れば、協力して下さる方もいるでしょうし、そう言った方々に言霊魔法を覚えていただくのは、戦力強化の為にも歓迎です。
決戦に向けて、流れがはじまりました。
どれだけのことが出来るかはわかりませんが、敗北は許されません。
前回のボス戦闘には一切参加しなかった私が、主導的立場に関わるのも何かの縁なのでしょう。
私自身の報酬はどうでもいいので、是非上手く行かせたいものですね。




