第二十一話
「割りと彼が言っていたことは、事実も含まれているようだ」
「こっちも似たような感じ。十五年前の地震では、確かに飛騨のみが壊滅的被害を受けて、美濃では揺れを感じなかったみたい」
「私の方も、里が滅びる前に書かれたと思われる書物含めて、伝説扱いになっています」
裏付け調査を手分けして始めた私達。
一応、嘘は言ってなかったレベルの確証はとれ始めています。
そうそう、名前も聞かなかった彼でしたが、賞金首にはなっていまして、少ないながらも褒賞金がいただけました。
罪状は、無許可での人身売買だそうです。
これは、人質にされたあとの末路は、売り飛ばされていたという意味なんでしょうね。
でも、無許可が罪状ということは、許可されていれば罪状にならないってことですよね。
史実に沿った設定なのかもしれませんが、これ、本当にリゾートでやっていいんですか?
例の彼は言霊魔法は呪文を知っているものを使っているだけで、体系的には知らなかったようです。
それも、里の術者が使っていたものの耳コピで効果が不安定なものでしかないのに、たまたま真似しただけの私が偶然正しい効果を発揮した為に驚いたようです。
伝言ゲームで聞き間違いを起こした人が言ったことを聞き間違えた結果、偶然正しい答えにたどり着く現象が起きたようですね。
なお、あの後こんな感じだったはずという風に唱えても、一度もちゃんとは発動してません。
効果は違っても発動自体はすることありますので、近い発音のはずなんですが。
練習の成果は、習得スキルに、耳コピが現れただけで、言霊魔法を実践レベルで使うには、道は険しいようです
ただ、ヨークさんとカオリーヌも私の真似をして唱えた結果、効果はバラバラながら魔法が使えたということで、調査へのやる気が増しておられるようです。
強すぎるかもしれないとはいえ、力が得られるのは、純粋に楽しいですしね。
力を楽しむのはあっていいと思います。
神様を降臨させるのは、ノーサンキューですけど。
「言霊魔法の実在は確認できたんだ。そんなに急ぐこともないだろう。
最悪、ゲームが終わるまでに覚えられれば、俺には文句ない」
「そうね。有効に使えない可能性が高いにしても、魔法使えたし。
勿論、確実に使えるようになれば嬉しいし、何より目標が出来たのが嬉しいわ。
ゲーム終了まで何をやるか困っていた私達にとって、イツミさんは救世主となってくれたわよ」
そこまで言われると、赤面してしまいますね。
でも、折角お二人にも協力してもらえるのですから、是非結果を出したいところです。
ひとまずは、天人には無効になる結界についてを確認したいところです。
その結界がどういう構造かによっては、里が滅んだと思われているだけで言霊魔法をしっかり伝える生存者がいる可能性が示唆されるかもしれませんし、
滅んでいても問題なく維持できるかが分かるかもしれません。
また、天人だけがなぜ結界の対象外なのかも調べたいところです。
……運営的には、プレイヤーは特別扱いって程度のことなんでしょうけど、世界の方の理由次第では、今後の展開も変わるかもしれませんし。
結界についての話自体は、別に文献だけな限らないと、別行動になります。
街の中は、PK不可エリアなぐらいですから、NPCも襲っては来ないでしょう。
こういう噂のような話は、文献以上に人が集まるところの方が集めやすいと考えて、国府山にある産業の神の神社に赴きます。
一応は、神術使えるのですから、治療奉仕をしながら話を聞ければと考えたのですが……
「お待ちしておりました!」
「神子様が国府山に来られている噂を聞いて以来、いつ来られてもいいよう歓迎の準備をしておりました」
「いつ、ご来社になるのかとお待ちしておるのは寂しく思いましたが、これで報われます」
自分が神子に祭り上げられている立場だということを忘れてました。
これは、徹底的無視を貫くか、初めに訪れるかした方が良かったですね。
そのまま歓迎の宴に突入し、治療奉仕どころではなくなりました。
飛騨国主、六木 国衛 様まで紹介されましたし。
「漸くお会いすることができ、嬉しく思う。国府山の関所でご来訪の報告があってより、会うことを心待ちにしておりましたが、今実現したこと、大義である」
失敗したな感が私の中で渦巻いています。
国主にお目通りを願うぐらいはしておいた方が良かったかもしれませんね。
後悔先に立たずですが、いろんなところに、多大な迷惑をかけてそうです。
「ところで、神子様はどんなご目的で飛騨に来られたのですかな?
報告によれば黄金の里ゆかりの人物を奉行所に引き渡したと聞き及んでおりますが」
当然ながら、私の動きは掴まれてますよね。
隠してもいませんから、別に問題はないのですが。
「黄金の里にあったと言われる失われた魔法について、調べております」
「黄金の里の失われた魔法? ああ、所謂言霊魔法ですな?」
「そうです。信濃国で飛騨国にそのような魔法があることを知り、どんなものかを知りたいと思ったのです。
奉行所に引き渡した彼により、魔法の実在の確認は取れましたが、どう言った魔法なのかをもっと極めたいと思っております」
「なるほど。そういうことでしたら、むしろ私も一枚かませていただきたいですな。
黄金の里崩壊の際の地震は、黄金の里の者たちが魔法で起こしたとされる話がある。
そのような強大な力を野放しにするのは危険すぎる。
飛騨国国主として、管理する必要がありますからな」
管理する必要があるのは確かでしょうが、果たして国主様に管理しきれるのか? 悪用しないのか? と考えてしまいますと、なんとも言えないんですよね。
飛騨は、小国ですからいつ大国に攻め込まれるかわからず、抑止力の一つとして、言霊魔法を用いようとしているのではないか?とも思えます。
ま、だからと言って私に管理する資格があるのか? と言えば同じようにないでしょうし、有力者である国主様に色々便宜を図ってもらえるのであれば便利ですので、拒否する理由にもならないんですけどね。
「国主様、話はわかりました。私も特に独占する気等ございませんし、協力し合っていきましょう」
「おお、話が早い。私達は里の結界を通れませんので、天人であられる神子様達が動いてくださるのは助かります」
「結界なのですが、私達天人なら通れるのですか?」
ちょうど結界の話になりましたので、情報収集に入るとします。
国主様であれば、一般人よりも知識はありそうですし、渡りに船な状況ですね。
「ええ、結界はあくまでこの世界の人を識別して、受け入れるか拒絶するかを指定する魔法なのだと言われています。
なので、動物は通りぬけることはできますし、天人様もこの世界の人ではない為通れると言われているのです。
もっとも、それが本当かどうかまではわかりません。
ですが、現象として天人様達を通さない結界は、確認されておりません」
「そういうものなのですか」
「ですから、天人様達には不便でもあるようですね」
「不便ですか?」
「ええ、天人様達同士を想定して結界を張ることが出来ないため、天人様達が対立する場合すぐに戦いになりやすいと言う伝承がございます」
ああこれはきっと、PKをしかけられた場合に結界で隠れてやり過ごす的なことが出来ないようにと言うことなんでしょうね。
ここの運営、見つけだす者がPKを仕掛ける騒動を起こしたことでもわかる通り、割とPKを許容しているっぽいですし。
結果、ゲーム展開をゆがませているんですから、世話ないですよね。
でもそれならば、結界方面から黄金の里が残存しているかどうかを調べるのは難しそうでしょうか。
……そう思いかけた所で、ふと気づくことがありました。
「結界は、受け入れるか拒絶するかを指定する魔法と言うことは、その結界が張られた後に産まれた子供はどうなるのですか?」
「ああ、良い所に気づかれましたね。通常の結界であれば、術者が判断して受け入れるか拒絶するかが決まるため、術発動後にも術者が判断を繰り返すことになります。
黄金の里が本当に滅んだのか?と疑われる理由の一つとして、里が滅んだ後に産まれた子供も結界に遮られて入れないからという話はあるのです。
ただ、言霊魔法が特殊で、認めた者しか通さない結界を張ることが出来る可能性もあるため、一概には言えないと言う話にもなりはするのですが」
やはり、私と同じことを考える方はいるのですね。
でもそうなると、昔滅んだ遺跡等は、結界があっても当時の人を追い返せても未来の人は発掘し放題ですね。
まあ、滅んだ後も妄執のように結界だけ残っても、不便なだけな気もしますけどね。
……いえ、死者の墓を守るため、等はわかるんですよ。
でも、誰も覚えていないようないわくつきの場所があるせいで、生活可能圏が狭まるのもですよね。
日本って、そこまで生活快適圏が広い国じゃありませんし。
「神子様と本日お会いできたことは、収穫でした。
今後何かありましたら、領主城の方に来ていただければご対応いたします。
歓迎いたしますよ」
「その際にはよろしくお願いします」
想定していた状況とは違くはなったものの、情報収集には成功した私。
再合流して情報交換をしたのち、今後の方針を決めることにしました。
カオリーヌさん達が得られた情報は、似たようなものでしたが、一つ大きなことと言えば、黄金の里に出入りしていた商人達の羽振りが黄金の里滅亡事件以後良くなっていると言う噂があるんだそうです。
これは、商人達は何かを知っている可能性がありそうですね。
飛騨一国を襲った大災害の後の特需で儲けただけの可能性もありはしますけど、それならば黄金の里に関わっていなかった商人たちだって羽振り良くなっているでしょうからね。
ひとまずは現地に行ってぶっつけ勝負をしようと言うことになりました。
私達プレイヤーは、倒されても生き返ることが出来ると言うチート的存在なわけですし、多少無謀なことをやっても良いだろうと言うことになりました。
一応リゾートだけあって、接待的待遇なんだと思っても良いわけですよね?




