第十三話
「言霊魔法?」
平日辞書部分を読んでいた時に、気になる記述を見つけました。
特殊な言語を用いた言霊を用いることで世界に影響を与えると言う魔法としか辞書の記述にはありませんでしたが、
存在する可能性がある情報とその言葉が得られたことが大きいです。
文献を探す際に、言霊魔法が含まれる題名が無いか、読み始める際に目次的なものがあればそこを確認すると言ったことが出来ますしね。
この一歩は、大きな一歩となりそうですね。
「ああ、私も話としては聞いたことがありますよ」
橘さんに言霊魔法について聞いてみました。
最近では、平語のレベルも上がり、辞書にある単語を発音して伝える程度のことはできるようになったんですよね。
「ぜひ、教えてください」
「と言っても、大したことは知りません。専用の言語体系を持った言葉を言霊とすることで、言霊が作用する魔法という伝承があります。
飛騨の山奥の一族が口伝で伝えていたと言う話はあるものの、地震により発生した山津波で里そのものが埋まった為に、絶えたと言われていますね。
ただ、最近になっても使い手を見たと言う噂自体は流れますので、なんらかの形で残っているのかもしれません」
飛騨と言うと、ここが信濃であるからには割と近くではあるんですね。
地理的には隣国ですし。
ただ、その間の道が結構な山道で行き来自体はそれほど活発ではないようですが。
でも逆にいえば、隣国ともなればこの信濃の言葉である平語の文献がそれなりに残っていてもおかしくありません。
調べてみる価値は高そうですね。
「ありがとうございます。言霊魔法について調べてみますね」
「そうですか、頑張ってください。
我々も本の中身までは把握しきれておりませんのでご助力できることは殆どないかと思いますが、お声をかけてくださればお手伝いしますよ」
「お気持ちだけでも助かります」
暫くは素材集めも中止して、平語を一気に学び、並行して言霊魔法の文献を探す作業に勤しむことにしました。
そうしたある日、
「システムメッセージ:資料検索スキルを習得しました」
色々探してきたことによりスキルを習得できたようです。
資料検索スキルとは、本や文書を効率よく探すことが出来るようになるスキルとのことで、一定回数以上特定の目的を持って本を探すと習得できるものとの説明がありました。
今後のことを考えるとありがたいスキルですが、このスキルっていわゆる趣味スキルになるんでしょうね。
よその文庫は違うのかもしれませんが、日本語だけしかできないと殆ど読めない文献を探すとなると、言語学スキルを習得して、
派生した現地語スキルを習得しないと、そもそも特定の目的を持って本を探せないわけですから。
資料検索スキルのおかげもあり、言霊魔法を使っていた一族のことについて、少しずつ分かってきました。
一族は、地方豪族外ヶ海氏に仕えていた一族であり、言霊により金を作りだしてそれを売っていたという伝承があるようです。
ある時、言霊魔法による占いを行うと、占いの対象にした里の者すべての未来が見えなくなると言う怪現象が発生。
その日のうちに起きた地震による山津波で里ごと埋まったということです。
……これ、創作の可能性もありますけど、占いの件が文献に残っているということは、それを外の人に伝えた人がいる筈ですよね。
里の者ではなく、滞在していた旅人が旅立った直後に地震が発生したのかもしれませんし、占いの対象にしなかった人で、里の生き残りがいたのかもしれません。
魔法で手紙を送られただけという可能性もありますけど、何らかの形で知識が外に出ている可能性はあり得そうです。
今後は、その線から探して行くことにしましょうか。
そんな感じに文庫に籠る日常が続いていた時でした。
「システムメッセージ:第一位階ボスモンスター ハルノーブシンゲンが見つけ出す者レイド所属、ソーマの攻撃により撃破されました。
全プレイヤーは、第二位階に進めるようになりました。見つけ出す者レイド所属者は、撃破ボーナスが配布されましたので、ご確認ください」
何事と言うことで、詳しい情報を得ようと冒険者組合に行きました。
思えばここに来たのも久しぶりですね。
「えっと、この話を知らないとはどこにいたの?」
情報を得ようと組合の窓口で話を聞こうとしたところ、聞かれたこと自体が相当意外だったようです。
「ハルノーブシンゲンを倒すために、天人の皆様は動きまわっておられましたし、ほぼすべての天人の方が今回の退治に何らかの形でかかわっていたかともいましたが。
今頃情報を得ようとする方がいるとは、正直驚きです」
いつのまにか、世間一般から取り残されていたようですね。
知っていたとして、今のステータスでちゃんとした貢献が出来たかはそれはそれで微妙ですけどね。
それでも知らないうちに一気に動いていたのですね。
「そ、そうなのですか。文庫に籠っていて全然わかりませんでした」
「ああ、あなたが文庫でずっと調べ物をしている天人様ですか。お噂は聞いております」
「噂ですか?」
「ええ、あなたが平語を学び始めたことで、我々の中ではよく話題に出るようになっていましたからね」
今行っている会話は、平語で行っています。
別に他のプレイヤーに隠すようなことではないんですが、折角覚えたからには積極的に使いたくなったんですよね。
もっとも、私が思っている以上に好評だったのか、かなり親切に色々教えていただいています。
「別に平語を覚えたのは、目的を持ってですからね。噂になるようなことはしていません」
「今も平語を流暢に使われておられますし、嬉しいことには違いありませんよ」
「……そうなのですか。ところでなのですが、第一位階と第二位階とはどういうことなのでしょうか?」
照れてしまうので、強引に話題を変更させます。
純粋に良くわからないので教えていただきたいと考えたのも、確かですけどね。
「天人の方々の行動可能範囲は、この世界ででどれだけのことをしたかで広がって行きます。
第一位階は、現れた国のみ、今回でいえば信濃国での行動の自由が認められたのです。
第二位階は、現れた国とその隣国での行動が自由になります」
おや?飛騨は信濃の隣国ですから、飛騨での調査が出来るようになったわけですか。
しかも、信濃は多くの国が接していますから、行動範囲が一気に広がるわけですね。
一度は飛騨に行ってみて、調査をしながらこの街の文庫でも調査をするという二本体制で行くとしますか。
そろそろ、冒険者としての活動も再開した方がよさそうですし、やることはいっぱいありますね。
頑張って行きませんと。
一族の里が滅んだ部分は、帰雲城滅亡の話を元ネタにしています。




