第十一話
鬼熊:邪気を浴びて、仙骨を持つ熊が鬼と化したもの。
普段は巣穴に籠っているが、いざ人里を襲うと、村一つ丸ごと滅ぼされることもある。
私の化け物知識でわかった鬼熊のことは、こんな感じでした。
巣穴にいるうちに対処するしかなさそうですね。
ヨークさんとカオリーヌさんと三人で対処するにしても、力攻めはまず無理そうですね。
となると、三人寄れば文殊の知恵と言いますし、なんとか策を考えるしかありません。
「邪気を浴びたとはいえ、熊には違いありません。
そこでなのですが、巣穴の入り口に蜂蜜や鮭をおくことで入口におびき寄せられないでしょうか?」
とはいえ、そんな大した策が考えつける筈もなく、思いついた策を提案してみましたが、
「熊ってそこまで嗅覚良かったかしら?入口に置いた所で気付かれないと思うんだけど」
そうですよね。
簡単に行くようなら、依頼として出されたたりはしませんよね。
「いや使える。匂いが足りないなら、匂いを発生させて巣穴に流し込めばいい」
おや?何やら建設的な方向になりそうですね。
それなら上手くいきそうということで、準備を始めることにしました。
……いえ、確かにその時は上手くいくと思えたんです。
でも冷静に考えてみると、自然界の熊って、匂いで判断しているのかは……
ヨークさんの策は、巣穴の入り口で、鮭をちゃんちゃん焼きにして、うちわで巣穴に煙を送り込み、その匂いにつられてきた熊を倒すというものでした。
実際にやってみて、ヨークさんが手際よく進めてくれたこともあり、スムーズに進んでいたんですよね。
なかなかおいしそうな匂いが漂い出した所でカオリーヌさんが我に帰りました。
「ねえ、自然界の熊って、鮭が焼いた匂いってわかるの?
普通動物って、火を嫌がるという話はよく聞くし、熊が鮭を焼いて食べる話なんて聞いたことないんだけど」
……そういえばそうですね。
鮭の匂いはわかるかもしれないにしても、焼いた鮭の匂いなんて熊がわかるはずありませんよね。
でも焼けば匂いが強くなるから、呼びだせるなんてちょっと無茶がある気がします。
「……どうします?」
「ちゃんちゃん焼きはできそうだから、食べるしかないよ」
いえ、そっちの意味ではなく。
でも、惰性でうちわであおいでいたのが良かったのかもしれません。
急に煙が大量に発生し、その煙が奥に流れ込みました。
上手くいけば、鬼熊が何らかの反応を示してくれるかもしれません。
でも、奥に流れ込むと言うことは、別の出口もあるんでしょうか。
確か、行き止まりの場所には、空気って流れ込みにくい筈ですよね?
その辺の知識はあやふやなので、勘違いかもしれませんけど。
……結果として、今回の策失敗じゃありませんでした。
煙を吸って苦しくなったらしい鬼熊がせき込みながら出てきたんです。
咳き込んで苦しんでいる所を三人がかりで総攻撃しました。
とはいっても、剣やこん棒、杖といった物理攻撃ですので、ちまちまとしたものでした。
相手が避けない上に反撃が無いのが救いでしたが、
ヨークの攻撃
鬼熊は2のダメージ
カオリーヌの攻撃
鬼熊は1のダメージ
イツミの攻撃
ミス。鬼熊はダメージを受けない。
といった体たらくでした。
体力がダメージに影響したらしく、私がダメージを通せたのは一回だけでした。
体力を上げないと、防御力が高い敵にはダメージすら与えられないようですね。
鬼熊がまともに反撃を行い始めた時には、負けを覚悟しましたがそれまでに結構削れていたようです。
システムメッセージ:チュートリアル完了記念イベントは、ヨーク、カオリーヌ、イツミの三人によりクリアーされました。
無事に何とか倒すことが出来ました。
「これ、初めから煙を発生させるようにすれば良かったのかもしれませんねちゃんちゃん焼きにした意味ってあったのでしょうか?」
「折角出来かけていたちゃんちゃん焼きが戦闘中に焦げてる!」
「本当に食べる気だったのね?」
ちゃんちゃん焼きは尊い犠牲になり黒炭と化しましたが、私は一気に二回レベルアップする等嬉しい限りです。
ヨークさんやカオリーヌさんもレベルアップ出来たようですし、依頼達成報酬もはじまりの街城主の感状とコネにはもってこいといったものですので、
終わり良ければすべてよしなのではないでしょうか。
「今回はご一緒に戦っていただき、ありがとうございました」
「いや、俺も助かった。今度また何かあったらよろしく」
「ヨーク、鼻の下が伸びてるわよ。イツミさん、今回はありがとう。またの機会はよろしくね」
お二人とは冒険者組合の入り口で別れ、今回の依頼が完全に終わりました。
他の人と協力して戦うことで、強い敵でも倒せることを実感しましたし、実りが多いイベントとなりました。
なお宿舎でどうやって倒したのかと質問された際に聞いた話によりますと、
あの巣穴で鬼熊と戦うと鬼熊が三ターンに一回巣穴にある回復の泉に触れることで、生命力が削りきれずに負けると言うループになったそうです。
中にはその回復の泉を自分達も使って挑むことを試みた方もいたようですが、それが上手く行く前に私達が倒したとのことでした。
「回復の泉の傍から引きずり出す方法もあったんだね。戦い方が参考になったよ」
そう話をしてくれた方が言われてましたが……巣穴に入らずに戦えて僥倖でした。
これからは運も高くした方が良いのかもしれないと思いつつも、今回の二回レベルアップ分は、体力を3にすることにしました。
流石に今回、ダメージを殆ど与えられなかったのはショックでしたし。
魔法を覚えるまで時間がかかりそうな以上、体力が低いままでいることは致命傷っぽいですからね。
最初に1にしようとしたことを2に上げておいて、本当に良かったです。




