表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/6

4話:目覚め、そして「光」の洪水

何百年、何千年の時、私は眠りの中にいた。

あの「やさしい手」の温もりだけを、暗闇の中の灯火のように抱きしめ続けて。

それは、唐突に訪れた。

ずっと不動だった私の世界に、微かな「音」が浸入してくる。

――ピコーン、ピコーン……。

機械的で、どこか無機質な、けれど確かな脈動。

泥のような眠りから、意識がゆっくりと上層へ引き上げられていく。

(……あ、あの……手……?)

それは、暗闇の中で私を幾度となく救ってくれた、あの「手のひら」の記憶そのものだった。数千年の時を経て、細胞の隅々にまで刻まれていたあの安らぎが、今、目の前の彼から溢れ出している。

「……きみ、なのかな」

私は声にならない声で呟く。血の流れが、魂の形が、時を超えて私の元へ帰ってきたのだと悟った。


けれど、私を導いたのは、かつてのゴツゴツとした土の匂いのする手ではなかった。

金属のように冷たく、けれどとても慎重で、洗練された「なにか」が私を運び、温かい液体に満たされたカプセルへと横たえた。


液体の中で、私の体は作り替えられていった。

かつて地球に落ちた時に、本能が継ぎ接ぎで作り上げた「カタチ」ではない。

不純物を取り除き、傷ついた細胞を癒やし、完全な「器」へと再構築されていく。

感覚が、鋭利になっていく。

液体のわずかな対流、カプセルの外から聞こえる鼓動のような音。

そして、その瞬間は、突然訪れた。

(……なに、これ……?)

暗闇しかなかった私の世界に、亀裂が入った。

まぶたが、震える。

これまで「開く」という概念さえ知らなかったその場所が、外側からの圧力によって、ゆっくりと持ち上げられた。


「――っ!」

激痛に近い衝撃が、脳を貫いた。

それは、光だった。

最初は、ただの圧倒的な白い暴力。

私は恐怖し、まぶたを閉じようとした。けれど、カプセルの液体がそれを優しく押しとどめる。

次第に、白は意味を持った「色彩」へと砕けた。

カプセルを満たす液体の、澄んだ「青」。

向こう側で動く、見たこともない複雑な構造物の「銀」や「黒」。

そして、私を覗き込む、知的生命体たちの肌の「色」。

(これが……これが、せかい……?)

「音」でも「感触」でもない、情報が雪崩のように押し寄せる。

それは、あまりにも美しく、あまりにも眩しかった。

目が見えるということは、これほどまでに、世界を立体的に、鮮烈にするものなのか。

カプセルが開き、液体が引いていく。

私は、新しく手に入れた肺で、この時代の空気を深く吸い込んだ。

目の前には、白衣を着た、優しい眼差しをした人々が立っていた。

かつて私を愛してくれた「彼」や「彼女」とは違う姿。けれど、その眼差しの奥にある温もりは、数千年前に感じたものと、少しも変わっていなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ