3話:静寂へのカウントダウン、断ち切られた温もり
幸せな時間は、ある日、足元から響く不気味な震動によって破られた。
これまで私を包んでいた穏やかな生活の音――薪がはぜる音、鼻歌、遠くの鳥の声――が、一瞬にして「緊迫」に染まる。
(……なに? いつもと、ちがう……)
空気の震えが鋭い。
遠くで何かが壊れる音、地面を激しく叩く大勢の足音。
そして、いつも私を撫でてくれるあの手が、震えているのが伝わってきた。
その人は、私を強く、壊れそうなほど強く抱きしめた。
今までで一番強い力。けれど、その力は私を守ろうとする祈りのようでもあった。
耳元で、湿った声が響く。
何を言っているのかは分からない。けれど、雫のような温かいものが私の頬に落ちて、伝っていった。
それは、かつて宇宙で浴びた星の輝きよりもずっと、重くて、切ない体温だった。
(……いかないで。その手を、はなさないで……)
けれど、私の願いも虚しく、その手はゆっくりと離れていった。
激しい音。誰かの叫び。何かが爆発するような凄まじい衝撃。
そして――。
すべての音が、死に絶えた。
重力の感覚さえ消えていくような、深い、深い泥の中へ沈んでいく感覚。
私は一人、狭い暗闇の中にいた。
かつての宇宙の孤独とは違う。ここには「記憶」がある。
あの日食べたものの甘さ。
頭を撫でられた時の、指の節の感触。
私を呼んでくれた、愛おしい旋律。
(また、いつか。……あの手に、……ふれたい……)
私は意識の底で、その温もりだけを大切に抱きしめた。
何百年、何千年。
地上の風が形を変え、文明が砂に還り、また新しい芽が吹くほどの長い時間を。
私はたった一つの「再会」を夢見て、深い眠りの中へと沈んでいった。




