スキル
朝から訓練場には怒号が飛び交っていた。
「もっと速く! 命がかかってるんだぞ!」
教官の声に、汗まみれの新人たちは必死で動き続ける。
美桜たちの班には、真琴を含めた5人が配属されていた。
それぞれ性格も体力も違うが、ここから半年間は命を預け合う仲間だ。
この日の課題は「要救助者の搬送」。
80キロの人形を担ぎ、障害物を越えながらゴールまで運ぶ。
「よし、掛け声合わせて!」
リーダー役の青年・拓海が声を上げる。
「いち、に! いち、に!」
掛け声に合わせ、美桜も肩に食い込む重さに必死で耐えた。
腕が震えても、歯を食いしばり、仲間のリズムに合わせて足を進める。
途中、仲間の一人がバランスを崩し、人形が傾いた。
その瞬間、美桜は思わず声を張り上げた。
「右、下がって! 体勢立て直して!」
全員が動きを修正し、どうにか倒れずに進む。
——ゴールに到着したときには、全員が息も絶え絶えだった。
「……はぁ、死ぬかと思った……」
真琴が笑いながら地面に倒れ込み、仲間たちも次々と膝をつく。
それでも互いに顔を見合わせ、自然と笑みがこぼれた。
「今の、美桜の声がなかったら完全に落としてたよ」
拓海が息を整えながら言った。
「……私、ただ必死で……」
「それでいい。必死に声出してくれたから助かった」
その言葉に、美桜の胸が熱くなる。
——自分が仲間の役に立てた。
救われるだけだった自分が、今は誰かを支える側に立っている。
夜の自主訓練。
美桜は一人、ロープ結索(もやい結び)を繰り返していた。
何度も、何度も、目をつぶっても指が勝手に動くまで。
「体に叩き込まなきゃ……。
現場じゃ、一秒の遅れが命取りになるから」
その小さな声は、決意の炎のように静かに揺れていた。
——技を身体に刻み、仲間と息を合わせる。
レスキューとしての道は、ようやくここから始まろうとしていた。




