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新芽
高校を卒業して、濁流に飲み込まれるように進路を選んだ美桜。
大学のキャンパスは広く、建物も人も大きい。
でもその中で、美桜はまだ小さな影のままだった。
講義室の片隅でノートを取りながら、ふと災害の日のことを思い出す。
瓦礫に埋まった恐怖。
差し伸べられたあの手の温かさ。
救助隊員の落ち着いた声。
憧れてはいる……
けれど、周りの友達は夢や恋、就職活動の話で盛り上がっている。
美桜にはまだ、目に見える行動は何一つできていない。
ただ胸の奥で、静かに想いがくすぶっているだけだった……
ある日、大学の掲示板で「消防体験講習」の募集を見つける。
半信半疑で申し込んだ美桜。
初めて訓練用の梯子に登り、懸垂下降の体験をした瞬間、心臓が飛び出しそうになった。
「怖い……
でも、あの時の私もこうだった」
震える手を握りしめ、顔を上げる。
同じ訓練を受ける学生たちは楽しそうに笑いながら作業している。
美桜はまだぎこちないけれど、その中で小さな達成感を覚えた。
私でも……こんな私でもできるかも……
淡い期待に胸を膨らませ夕日にあの日を重ねたのだった。




