最終話 美桜
今回はミスが許されない卒業考査。
今回は前回と同じシナリオ——煙と暗闇の中で要救助者を発見し、搬送して脱出する。煙中進入も考査の1つだ……
「前は失敗した。でも今日は違う」
美桜の胸には、仲間と重ねた深夜の訓練の記憶が残っていた。
「よし、入るぞ!」
拓海の掛け声で突入。
煙の中での視界はほとんどゼロ。
だが美桜の指は迷わなかった。
ロープを手にした瞬間、体が勝手に動く。
「ロープ確保!」
結索は一発で決まった。
人形を抱え、班全員で「いち、に! いち、に!」と声を合わせて搬送する。
焦りに飲まれることなく、仲間の呼吸に合わせて歩調を刻む。
——そしてゴール。
教官の声が響く。
「合格だ。よくやった!」
その瞬間、班全員が地面に倒れ込む。
汗と涙が混じった顔で、互いに手を握りしめた。
「やったな……」
「次は現場だな」
美桜は、胸の奥からじわりと熱いものが込み上げてくるのを感じていた。
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数ヶ月後。
美桜は正式に消防士として配属されていた。
ある夏の夕暮れ、大規模な地震が街を襲う。
サイレンと無線の声が響き渡り、現場へと急行する救助車両。
揺れで崩れた住宅街。
瓦礫の隙間からは助けを求める声。
その光景は、高校生の頃に自分が閉じ込められ、救われたあの日と重なった。
「要救助者、家屋内に閉じ込められてます!」
先行した隊員の声に、美桜の心臓が跳ねる。
「班、突入するぞ!」
拓海の声に頷き、ヘルメットをかぶり直す。
瓦礫の下に、小さな女の子が取り残されていた。
泣き叫ぶ声に、美桜の視界が一瞬にじむ。
——かつての自分だ。
「大丈夫! すぐに助ける!」
美桜は手を伸ばし、必死で瓦礫をどかす。
仲間と声を掛け合い、ロープを結び、資材を持ち上げる。
学んだ全ての技術と知識が、今この瞬間に繋がっていく。
やがて少女を抱き上げた美桜は、涙まじりに笑った。
「安心して。私、美桜っていうの」
名前を告げるその声は、もう弱さの象徴ではなかった。
少女の小さな手がぎゅっと握り返す。
その温もりは、何よりも確かな答えだった。
——救われた少女は、今、救う人になったのだ。




