名前
放課後の教室。
窓際の最後列に座る美桜は、ノートの端を見つめていた。
名前を書くたびに、心臓の奥がひりつく。
「美しい桜? 笑わせんなよブス」
昼休みに聞こえてきた声が耳の奥で響く。
机の上に落書きされた桜の花びらには、ぐしゃぐしゃに潰したような線が重ねられていた……
クラスの中心にいる子たちは、悪気があるのかないのか分からない笑い方をする。
その輪の中に入れず、美桜は「可憐すぎる名前」をからかわれ続けてきた。
声を上げればもっと笑われる。
黙っていれば存在がないように扱われる。
どちらにしても、彼女の居場所は教室のどこにもなかった……
窓の外では桜が散りかけている。
「名前に似合わない」「弱々しい」と言われるたびに、
自分自身が花びらのように脆く感じた。
散ってしまえば楽になれるのに——。
その時、突然の揺れが校舎を襲った……
机が鳴り、ガラスが軋む。悲鳴が教室を満たし、誰もが逃げ惑う。
だが美桜の身体は固まって、椅子から立ち上がることすらできなかった。
心臓が喉から飛び出しそうなのに、声が出ない。
頭上から落ちる黒板消しの粉が雪のように舞い、視界を白くする。
「……いやだ、死にたくない」
初めて心の底からそう思った。
けれど足は動かない。
薄暗くなる教室の隅で、美桜は机にしがみつきながら涙をこぼした。
誰か、誰か助けて——。




