第二話 ~1000年の眠りから目覚めたら配下が一人になっていました。~
なんということのないただの大学生だった俺、安藤勇気は死んで転生してしまった。
そしてその転生先はもう一度人間に…
なんてことはなく、異世界の魔王に。
異世界転生…、しかも魔王って…、なにごとだよっ、あまりにもファンタジーすぎるだろぉ!!。
ゲームとかラノベの類の話じゃねーのかよぉぉぉぉ!!。
こんな状況を完璧に受け入れられたわけなどでは決して、決してないのだが……、
この俺、実は今割と冷静なのだ。
そしてそれは、なぜかこの世界、この光景に既視感をもっているからだろう。
どうやら俺の頭の中には少しだが、この世界についての知識がある。
俺が体験したことのないはずの記憶もぼんやりと頭の中に点在している。
おそらくだが、あの時、俺がこの体に転生したときに、この魔王バルザメルの記憶を取り込んでしまったのかもしれない。
今俺がいるこの場所はアルテリア大陸という名前の大陸だ。
この大陸には、人間、エルフ、ドワーフ、ホビット、獣人などの”人族”とオーク、オーガ、ゴブリン、巨人、ダークエルフなどの”魔人族”が混在している。
彼らは、種族ごとに国や村などの様々な規模の集落を作り暮らしている。
それらとは別の動物たちは、”魔獣”と呼ばれ、その名の通りこの世界の獣のことを指す。
イノシシや牛みたいなやつがいたりと、前の世界の動物とも似ているものもいるらしいがその多くが肉食。家畜のように飼いならすのは難しいみたい。
前の世界ではゲームなんかでしか見かけないスライムやドラゴンなどの魔獣もいるらしい……。
ますますファンタジーである。
そして俺が転生したこの体、魔王バルザメルは”魔人族”のデーモン種。
原初の魔人族で、数が少なくかなり珍しい種族らしい。
俺は、床にできた水たまりに移った、自分を見た。
黒い皮膚に鱗、頭には角が生え、背中には大きな翼を持っている。
マジじゃん……。
デーモンって……、よりにもよって悪魔かよ……。如何にも悪役って感じだな。
元人間の俺としては、人族、主に人間たちと仲良くしたいところだけれど……
残念ながらこの世界では種族間で大きな壁があるらしく、特に魔族と人族は遥か昔からの犬猿の仲らしい。
さて、俺が受け継いだこの世界の知識なんてのは大体こんなもので、必要な情報としては少し心許ない。
断片的なものだし、こいつ、魔王バルザメルは1000年もの長い時間封印されていたということなので、この世界も俺が持っている記憶とは随分と変わってしまっていることだろう。
となれば、まずはこの世界についての情報収集が最優先か……。
それにもしかしたら今は、人族と魔族が昔より仲良くなっているかもしれないしな。
……ザッ。
その時、何かがこちらに向かってきている気配を感じた。
すでにかなり近くにきているようだが姿は見えない。
近づいてくる強い気配に、俺の身体は思わず身構えた。
俺はゆっくりと息を吐き、迫りくる何かと向き合う覚悟を決めた。
次の瞬間、気配の主が静々と姿を現した。
「魔王バルザメル様、復活を心待ちにしておりました。」
落ち着いた口調でそう言い、そいつは俺の目の前に跪いた。
漆黒の皮膚の身体に濃紺のタキシードのような衣服。
黒く鋭い爪や角、黒く大きな翼。
おそらく俺と同種、デーモン種。
バルザメルに比べて老齢にみえる。
妙な落ち着きがあるし、年上か?
しかし、俺に対して大層な忠誠心を持っているようにみえる。
おそらく、封印される以前、魔王バルザメルに仕えていた配下なのだろう。
長い間、生き延びて主の帰りを待っているところを見ると、高位の配下だったのだろうか。
配下についての記憶は割と受け継いでるっぽいのだが、俺が受け継いだ記憶の中にこいつはいない。
……さて、どうしたものか。
俺は、魔王バルザメルではありません。と打ち明けるか?
いや、そんなことをしたら怒って襲い掛かってくるかもしれない。
俺自身の強さと相手の強さが分かっていない以上それは避けたい。
なら、覚えていませんと正直に打ち明けるか?
いや、そんなことをしたらこの溢れんばかりの忠誠心が薄まってしまうかもしれない。
それに、おそらく1000年も待ち続けていた人にそんなこと言えるわけない。
せめて、名前だけでも……。
「バルザメル様、久方振りにございます。
貴方様に御身を預けし配下、ベルフェゴール、ここに参上致しました。」
……うん、誰?
自分から名乗ってくれたはいいものの……、
ベルフェゴール?やっぱり名前を聞いてもまったくわからん。
やべー、まじやべーよこれ。
おい、バルザメルさんや、自分の配下くらいちゃんと覚えといてくれよっ!!!。
ここはひとまず適当に話を合わせて……。
「お、おおベルフェゴールかぁ、久しいな。達者だったか。」
「はっ、この1000年間、貴方様の復活を信じてお待ちしておりました。」
「そ、それは、く、苦労をかけたな……。」
「いえ、滅相もございません。すべては、貴方様とバルザ王国の完全復活のため。
そのためなら、この命貴方様に捧げる所存。」
と、とりあえず、大丈夫…そう…だよな?
でも……
バルザ王国の完全復活?俺が?
いや、無理無理無理。
失われた王国の復興なんて、そんな大それたこと無理。
百歩譲ってできたとしても、その後だよ。
国の運営なんてそんな難しいこと俺にできるわけないだろっ。
しかも、たった二人で……。
ってか、他の配下は?
一国の王ならもっと配下いるよね……。
「お、おい、他の配下はどうした。」
「実は…、ほとんどの者はこの1000年間の間に討ち死にを……。
残った者たちも各地に散らばり消息が分からない状況です。」
「そ、そうなのか……。」
まじかよ、ほんとに二人じゃん。益々無理じゃね。
ここは丁重にお断りしてスローライフを過ごしたいところなのだけど…。
視線が痛い。
これほどまでに期待を込めた視線は前世でも経験したことがない。
こんな眼差しを向けられて、そんなこと言えるわけないじゃない…。
「よ、よーし、それではまず、私が眠っていた間なにがおこっていたのか、いま世の中はどうなっているのかをきかせろい。」
「仰せのままに。」
もう、逃げ場がなくなっている気がする。
俺はもう、魔王として生きていくしかないのか?
ただの大学生だったはずなのに、どうしてこうなったんだああああああああ!。
ど、どうしよう……。




