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いったい現実を把握している者はいるだろうか?★(7,724文字)

長めのSF、7724文字


AIと本物が交じりあって、何が本当のことなのかわからなくなった未来のお話。バラで投稿したものとはラストを変えました。

「定食屋、寄ってかない?」


 特にすることもない昼間の暇つぶしの散歩中、俺がそう言うと、松本が「いいね」とうなずく。立ち並ぶビルの隙間は今日も青空だ。


「うん。最近、いつも居酒屋だし、たまにはアルコール抜きで晩飯を食うのもいいな」と松本が言う。


「いや、今、何時だかわかってる?」と、青空を仰いだまま、俺が言う。


 松本が自分の時計を見て、答える。「オレの時計だと夜の7時48分だ」


 あたりが急に暗くなり、ビルの窓が明るくなった。


 俺も目の前の空中に時計を展開し、その時刻を口にする。「今、昼の12時ぴったり」


「じゃ、おまえのほうに合わせるよ」

 松本がそう言って時計を12時ぴったりに動かすと、景色はまた昼間に戻り、ビルの壁は白くなり、窓は暗くなった。隙間から覗く空が青さを取り戻す。



 フード・ストリート沿いに並ぶ色とりどりの看板の中から、白地に黒文字の定食屋の看板を選び、クリックすると、短いロード時間を経て、俺たちの前に定食屋が展開した。


「さぁ、今日は何を食おうかな」


 店に入ると黄金比率の顔面をした美少女店員が「いらっしゃいませー」と笑顔で迎えてくれる。


「あの店員、かわいいな」と松本。

「ふつうだろ。あの手のAI顔はもう見飽きてる」と俺は正直に答えた。


「オレ、あの店員さんにしようかな」

「好きにしろよ。俺はふつうにからあげ定食にする」


 松本は立ち上がり、AI顔の美少女店員に近づくと、抱きついた。

 そのまま手でくしゃくしゃと店員を丸めると、ガムみたいに歪んだ彼女を頭からチュルチュルと吸い込む。

 店員は笑顔のまま、松本のお腹に収まった。


「美味しかった?」


 すぐさま別の美少女店員が展開され、運んで来てくれたからあげ定食を食べはじめながら、俺が聞く。


「まぁまぁかな」


 松本はそう答えながらも満足そうだ。


 からあげ定食もまぁまぁ、ふつうに美味しかった。本物なのか、AIなのかはわからなかったが。



 店を出ると、定食屋は元の看板に戻り、街はいつもの静けさを取り戻した。


 俺はまた青空を見上げる。


 今日もいい天気だ。

 昨日もそうだった。

 明日も同じだろう。


 たまには雨でも降らせて、妻と二人で相合い傘で散歩でもしてみようかな。


「じゃ、俺、家に帰るよ。ありがとな、松本」


 俺がてのひらを広げ、横にスワイプすると、松本は俺に手を振りながら、消えた。


 便利な時代になったものだと思う。

 友達がいなくても、一緒に飯を食いに行ってくれるやつが欲しいと思えばAIがそれをしてくれる。


 俺は周囲を眺めた。

 歩道には賑やかとまではいえないが、チラホラと人が歩いている。

 みんな同じような美少女、美男子だ。

 このうちの何人が本物の人間だろう? と考えるが、すぐに考えるのをやめた。

 今、日本の人口の半分以上はAIのはずだ。

 現実はこれよりずっと寂しい風景なんだろうなと想像してしまったら、そんなことを考えたくはなくなった。



 違和感を覚えた。


 歩道を歩いて行く人たちの中に、明らかに存在の浮いている男が一人、立っていた。

 ぶさいくなのだった。

 誰もが一番美しい年齢の外見をしている中で、そいつはしょぼくれた中年男に見える。顔つきが汚らしく、生々しい。

 道往く美しすぎる男女の中で、そいつはどう見てもはっきりと、人間でしかあり得ないぶさいくさをしていたのだ。しかもまるで旧時代のような布の服装に身を包んでいる。

 手に何やらおおきな黒い板のような機械を持ってキョロキョロと辺りを見回していたその男は、俺に見られていることに気がつくと、頭をぺこりと下げながらこっちへやって来た。そして聞いてくる。


「すみません! ちょっとお聞きしたいんですが、今は西暦何年でしょうか?」


 おかしなことを聞くやつだな、と思いながらも、俺は答えてやった。


「私の認識では西暦2222年ということになってますよ」


「やっぱりそうか……」と男がうなだれたので、俺は思ったことを聞いてみた。


「もしかしてあなた、タイムトリッパーですか?」

「そのようです。2025年にいたはずが、大型トラックに轢かれそうになって──気がついたらここに立ってました」


「そんなことがあるんですね」

「ええ。自分でもびっくりしてます。……っていうかあなたはそんなにびっくりしてらっしゃいませんね?」


「まぁ、どんなことでもあり得ますからね」

「それにしても、どうして世界はこんなことになってしまったんですか?」


 俺は一瞬、彼の質問の意味がわからなかったが、考えて、理解したつもりになった。

 

「あなたのいた時代とは何もかもが変わって見えることでしょうね。世はAIのおかげでこんなにも素晴らしいことになったんですよ」

「素晴らしい……? 素晴らしいだって……? これが……?」


「まぁ、地球の人口はめっきり少なくなりましたけどね」

「そのようですが……一体何があったんですか?」


「100年ほど前に、宇宙人による侵略戦争があったんですよ」

「なんですって!?」


「それまでは人類もそんなことが起こるとは考えてもいなかったでしょう。でも現実にはどんなことが起こっても不思議じゃない。だからあなたがタイムスリップしたと聞いても私は特には驚かないでしょう?」


 うーんと考え込むと、男は悩ましげに口を開いた。

「何が現実で、何がAIなのか、見分けがつかない、何を信じたらいいのかわからない──そういうことが確かに僕のいた時代には、もう始まっていました」


「とりあえず私の家に来ませんか?」

 俺は男を誘った。

「行く宛がなくてお困りでしょう? 私も2025年の話を色々と聞いてみたい」



====



 エレベーターで12階へ上がると、すぐ目の前が俺の家だ。

 玄関の扉を開けると、俺は妻をロードした。


 約3秒のロード時間を経て、妻のキナコが玄関先に現れる。


「お帰りなさい、あなた」


 俺は妻に命令をする。

「お客様だよ。おもてなしをしなさい」


「あら、珍しいですわね」


「っていうか初めてだ。しかも遠い過去からいらした珍しいお客様だ。粗相のないように」


 パタパタとスリッパの音を立てて奥へ行き、キッチンを展開する妻の後ろ姿を見ながら、客人の男が言った。

「綺麗なひとですね、奥さんですか?」


「あぁ、AIだけどね。いい時代になったもんさ。非モテ男の俺でも、あんな美人の妻が持てる」


「ええ!? あれが?」

 男はひどく驚いた。

「あれが……、AI……?」


 妻が料理を作る短い時間、俺は男との会話を楽しもうとした。


「2025年のことを聞かせてくださいよ。まぁ、そんなところにずっと立っていないで、ソファーにお座りください」


「ソファー……?」

 男はキョロキョロと部屋じゅうを見回すと、言った。

「ソファーがあるんですか? どこに?」


 なんだか面倒くさいので彼の言葉はスルーし、ソファーに腰を下ろしたまま俺は聞いた。

「2025年の世界と比べると、この時代は理想郷みたいに見えることでしょうね。学校で習いましたが、あなたの時代にはまだロボットではなく人間が労働をしていたというじゃないですか」


「学校なんかあるんですか? この世界に?」


 なんだか会話が噛み合わない。

 やっぱり旧時代の人間は知性が低いのかな──と思っていると、妻が料理を持ってきた。


「これはうまそうだ」

 私は舌なめずりをした。

「ポークソテーに海鮮サラダ、ポタージュスープに焼き立てパンか……。さすがは私の妻だ」


「お粗末なものですが」

 妻が上品にぺこりと客人に頭を下げる。


 さっき食べたばかりのからあげ定食はやはりAIだったらしい。俺の腹はふつうに減っていた。


「さぁ、どうぞ。2222年の料理をご堪能あれ」


 私が勧めると、客人がまたわけのわからないことを言う。


「えっと……。料理? あなたがたにはここに何か食べ物があるように見えているんですか?」


 すると妻が慌てたように背中を向け、キッチンへ駆け出したかと思うと、すぐに何かを持って戻ってきた。そして客人に言う。

 

「失礼しました。これならお気に召しますかしら……」


「わあっ! 納豆ですね?」


 藁でくるんだ納豆だった。


 ……なぜ、納豆が?


 俺は納豆が嫌いだから、家に納豆などあるはずがないのだが……。


「いただきます」

 客人は両手を合わせ、漆塗りの箸を持つと、それを口に入れ、噴き出した。

「くそまっず!」


「ごめんなさい!」

 妻がいきなり謝りはじめる。

「ごめんなさい! こんなひどいものしかこの時代にはないのです」


「いやいや……。こんなうまいものがあるだろ」

 俺は呆れ、テーブルの上の美味しそうな料理を見つめながら呟く。

「まさかこの料理……AIだっていうのか?」


「あなたは脳にチップが埋め込まれているので、テーブルに置かれた料理が見え、それが美味しそうに見えてらっしゃるだけですわ」


 妻の言葉に俺はびっくりした。そして彼女を罵った。


「おまえ……! 主人に幻想を食わせてたのか!」


「でもこの方は過去からいらっしゃったので、脳にチップが埋め込まれていないので、AIが現実化しないんですわ」


「なんだって!?」

 俺は客人の男を見た。

「この人には俺とは違ったものが見えているというのかい?」


「そのようです」

 男は、うなずいた。

「僕にはテーブルに置かれているという料理は見えていません」


「だからソファーにもお座りにならないのよ。それもAIですから」


 俺は愕然とした。では俺は今、何に座っているというのか……。まさかエアー椅子状態なのか?


「それにしても未来がこんなにひどいありさまだなんて……。食べ物にも困っているだなんて……」


 そんなふざけたことを呟く男の腕を掴み、俺はベランダへ連れ出した。

「来い!」


 ベランダへ出ると、眼下に広がる町の景色を見せた。


「どうだ? この時代は素晴らしいだろう? 見ろ! 色とりどりの清潔な建物が立ち並び、明るくて、幸福そうな風景だろう? 君の時代にはほぼコンクリート一色で、もっと殺風景だったそうじゃないか!」


「あなたにはそんな景色が見えているのですね」


「君にはどう見えているというんだ!?」


「廃墟……いや、荒野ですよ」


「なんだって!?」


「宇宙人との戦争で破壊され尽くしてしまったんですね……。ここ以外には建物はほとんどなく、あっても使い物になってない。人も一人も歩いてない」


「じゃあこのマンションは!? 君にはどう見えている!?」


「これがマンションに見えていたんですね」

 男は、言った。

「……まぁ、元はマンションだった建物なのでしょう。5階まではなんとか使えるみたいだし」


「ここは12階だぞ!?」


「いいえ、ここは2階ですよ」


「来い!」

 俺はまた男の腕を引っ張り、廊下へ連れ出した。


 エレベーターで1階まで降りる間、男が言う。

「こんな古くてボロボロのエレベーターがまだ稼働してるなんて驚きです」


 何を言ってやがる!

 こんな整備の行き届いた現代的なエレベーターを……!


 表に出ると、そのへんを歩いていた女性を指差し、男に聞いた。

「この女性が見えるか!?」


「見えません」

 男が首を横に振る。

「言ったでしょう? このへんに人間は一人も歩いていません」


 そんなバカな……!

 俺の目には少なくとも50人ぐらいは見えている!


 俺は指差した女性に近づくと、その顔にペタペタと触れた。


「ちょっ……! 何するんですか!」

 女性が怯えて後ずさる。


「ほら! 抵抗したぞ! これは人間だ!」

 女性の頬を掴みながら、俺は男に向かって叫んだ。


「誰もいませんよ」


「人間だ! 人間だ! これは人間なんだ!」


 女性が泣き声のような悲鳴を上げると、近くに交番が展開され、そこから二人の警官が駆けてきた。


 俺は留置所のカプセルに押し込まれた。



====



 カプセルの中で俺は考えた。


 アイツ……、俺を騙そうとしやがったな?


 おかしいじゃないか? アイツにAIが見えないというのなら、なぜ俺の妻は見えるんだ?

 もしかしてあの野郎……、キナコがあまりに美少女でアイツ好みのAIだったから、横取りしたくなって、あんな嘘を……。

 あの手に持っていた黒い板のような機械はなんだ? 見たことのないものだったが……。

 もしかするとあの機械でAIを操作し、キナコにあんな嘘を言わせたんじゃないだろうか?


 今頃アイツ……、俺の部屋で、優雅に、俺の妻と……


 そう考えるとふつふつと、初めて覚える感情が胸から沸き上がってきた。

 何という感情なのかは知らない。今の時代、学校教育で負の感情は管理され、ないものとされている。

 大昔にあったという殺人事件とかいうものも、この時代には一件も起こっていない。なるほどそれを引き起こすのはこういう感情かと思えた。

 アイツの時代には当たり前にあっただろう感情だ。なんて汚い感情だ。


 とにかくここを出たら──


 アイツ……、○○してやる!



====



 5日間ほどで俺はカプセルから出された。

 俺を解放すると留置所は展開を解き、スリープ状態になって消えた。


 あの野郎……


 あの野郎……!


 マンションに帰り着き、エレベーターに乗り込むと12階のボタンを押す。清潔で現代的なエレベーターがなんだか今日はやたらガタガタと、のろのろと上がって行くように思えた。


 玄関の鍵をゆっくりと、音を立てずに開けた。


 音楽が奥の部屋から聞こえる。

 古くさい、大昔のポピュラー・ソングのようだ。やかましいラッパの音をバックに男の声が英語で何やら歌っている。


 ──Does anybody really know what time it is?


 俺が足音を忍ばせて入って行くと、あの男が床に座っていた。黒い板のような機械をまるでノートのように開き、そこについているモニターを眺めている。

 なるほど……あれは大昔にあったというノートパソコンというものか。今はどこでも好きな空中にモニターを展開できるのであんなものは必要ない。男が過去から来たというのはどうやら本当のようだ。

 音楽はそのノートパソコンから流れていた。角の尖ったような騒々しい音が気に障る。


 俺は果物ナイフを展開すると、それを背中に隠し、男に近づいた。


「おい」


 声をかけると男がびっくりしたように振り向いた。

 俺の顔を認めると安心したように笑う。それでいて慌てふためいたような手つきで音楽のボリュームを下げると、言った。


「……よかった。釈放されたんですね?」

 なんて、白々しいことを言いやがる。


「……君のせいで5日間も悶々とした生活を送らされたよ」


「それにしてもびっくりしました。あなたは何もしていないのに、突然警官みたいなロボットが出現して、あなたを連れて行ったものだから」


 また始まったか……。


 あれは確かに人間の警官だった。

 コイツ、俺を騙そうとしてやがる。

 キナコを自分のものにするために──


 その手には乗らないぞ。俺の暮らすこの時代は、おまえの時代なんかとは比べようがないほどに幸せで、美しいんだ。

 俺の理想から抜け出してきたような俺の妻を横取りされてたまるか。

 俺は後ろ手に持つナイフの柄を握りしめた。


 しかし緊張して体が動かない。

 震える口を動かし、男に聞いた。


「その音楽はなんだ」


「あぁ……、これ?」

 男が聞かれて嬉しそうに笑う。

「僕がいた時代のヒット曲ですよ。シカゴってバンドの『いったい現実を把握している者はいるだろうか?』という曲です。2025年でもかなり古い曲だったんですが、まさかこの時代のインターネットで聴けるとは思いませんでした」


 どうでもいい男の説明を聞き流すと、俺は聞いた。


「キナコは?」

「キナコさんは?」


 男が俺の言葉にかぶせて同じことを聞いてきたので腹が立った。


「……どこへ隠した?」


「いや、出所するあなたを迎えに行ったんですよ? どこかですれ違ったんですかね」


「いい加減なことを言うな! おまえがどこかへ隠したんだろう? そのノートパソコンとやらの中か!?」


「何を言ってるんです? ノートパソコンの中に人間は入りませんよ」


「キナコは人間じゃない! AIだ! あまりに俺の妻がかわいいから、横取りしてその中に閉じ込めたんだろう!? このマンションの部屋も乗っ取るつもりか!?」


「あはは」


 笑いやがった!


 それを見たムカつきを力に変えて、俺は勢いよく男に襲いかかった。押し倒し、胸に乗りかかり、背中からナイフを取り出すと、振り上げた。


「○ね!」


 男の胸めがけ、思いきりそれを突き立てた。


「あなた?」


 後ろから声をかけられ、振り向くとキナコが戸口に立っていた。


「キナコ!」

 美しい、かわいい、愛しいその無事な姿を目にして、俺の顔を微笑みが満たす。

「よかった……、帰って来てくれて。君は僕の愛する妻だ。この男にへんなことをされなかったかい?」


「あなたを迎えに行ってたんですよ。むこうのひとに聞いたらもう釈放されたというから、帰って来たんです」


「やっぱりすれ違ってたんですね」

 男が立ち上がり、笑いながら言った。


「はぁ!?」

 俺は驚いてヤツの顔を見た。

「キミのこと……今、刺したよね?!」


「なるほどあなたはナイフでも持っているつもりだったんですね? AIで僕は殺せませんよ、残念ながら」


 確かに胸を深く突き刺したのに、男のそこからは一滴の血も流れていないどころか、古くさい服にも穴さえ空いていなかった。


「どうやら気に障ったようですので、僕はどこか別の場所を探します」

 男はノートパソコンを畳むと、腋に挟んだ。

「お世話になりました」


「ちょっと待ってくれ! なぜ、キミに妻が見えているんだ!? それだけ教えてくれ!」


「お教えしましょう」

 出て行きかけた男は立ち止まり、振り向くと、にっこりと微笑んだ。

「キナコさんはAIではありません。あなたと同じ、本物の人間ですよ」


「なんだって!?」

 俺はキナコを見つめた。

「……いや、これはAIだ! 俺なんかが、こんなに素敵な妻をもてるはずがないだろう!」


「あなた……」

 潤む目でキナコが俺を見つめた。

「今まで黙っていてごめんなさい……。私、生きた人間なの」


「でも……! AIみたいに展開するじゃないか?」


「AIでそう見せていただけなの」


「じゃあ……、どうして早く言ってくれなかったんだ!?」


「だって……あなたほど素敵な男性に私なんか……恥ずかしいって思ったんだもの」


「それじゃ、僕はお邪魔なようなので……」

 そう言って男は出て行った。




 ソファーに並んで座り、俺とキナコは見つめ合った。


「俺は……現実にこんなに美しい女性を妻にしていたというのか」


「ごめんなさい。見た目は確かにAIで加工しています」


「それでもいい。君が現実の存在であってくれるのなら」


「私こそ……、あなたみたいな超絶イケメンにかわいがってもらえて、幸せだったんですのよ」


「ごめん。僕もAIで顔を加工している。年齢も……」


「構わないわ」


「あの男には悪いことをしたな……。行く宛もないだろうに……。ここで一緒に暮らさせてやればよかった」


「それじゃ私たちがイチャイチャできませんわ」


「それもそうだな」


 俺は妻をソファーへ押し倒し、キスをした。


「しかし……あの男の言うことは本当なのかな? 本当にこの世界は僕らが見ているものとは違っていて、外には荒野が広がっているのかな」


「私たちにはわからないわ。でも、見えているものよりこの気持ちが大事だと思うの」


「世界に人間は僕ら二人だけなのかな」


「わからない……。でも、そんなことはないと信じましょう」


「君を愛している」

「私も」


 キナコとのキスはいつもと違って、心なしか生々しい、現実のような味がした。





原案:うーたくん

文章:しいな ここみ

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― 新着の感想 ―
いやあ、いいSFでした。 こういう展開もアリなんですね。 Ajuはウエアレス端末で考えましたが、チップもありですね。 好きです。こういうSF。
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