そうだ! 三角チョコを持って山へ行こう☆(1,192文字)
僕と美月は山登りのプロだ。
まるでピクニックをするように険しい崖を登る。
「あー、楽しかったね、優吾」
ピンクの登山服でモッコモコな美月がにこにこ言う。
標高8,000メートルから眺める景色は、まるで宇宙から見る青い地球のようだ。
もちろんそれよりは近い。雲が下にも上にもある。しかし、地上が巨大なヒダであるのを見下ろすのは、神の視点だと思える。
僕らは今、空の上に立って、果てしなく青と白の地球を見ている。
「今回の登山もサクサク楽しかったねー、優吾」
「おいおい。そんな浮かれたことを言うと、登山経験者の方々からお叱りを受けるぞ、美月」
「このへんでちょっとおやつにしようよ」
そう言って美月がピクニック・シートを広げる。
レトロかわいい赤黄白青のチェック柄のシートだ。
僕たちはそこにお尻をつけて、シート越しに地球を感じながら、おやつを食べることにした。
「ハイ! こんなの持ってきたよ」
美月が取り出して見せたのは、黄色い三角錐の紙箱に入ったチョコレートだった。
「え。これ、トブラローネ? スイスのメーカーが作ってるのをアメリカの会社が販売してるやつ?」
「……の、自作版!」
よく見ると三角錐の紙箱も手作りのものだ。美月がせっせと黄色い塗工紙で作り、赤い手書きの文字で『TORABURNAI』と描いてある。
箱から抜き出した三角錐のアルミホイルを剥くと、山が連なったような形のミルクチョコレートが現れた。結構太い。
正直、本家のトブラローネを食べたことはあるが、苦手だと思った。
海外のチョコレート特有の嫌な甘さがあって、ヌガーとかも入ってて……
しかし美月の手作りとなれば一味違うはずだ。
「いただきまーす」
僕はそれを受け取ると、連なる山のようなそのチョコを内側に折った。
パキンと快い感触で折れたチョコを、口に運ぶ。
不思議な味がした。
甘くて、でも爽やかな空気のような味がする。
噛み切れないくらい硬いのに、パキンと割って口に入れるとホロホロと溶けはじめる。
正直めっちゃうまかった!
「美味しい」
「美味しいね」
僕らはにこにこ見つめ合った。
同じぐらいの技量をもつ、いわばライバル同士であり、命を預け合う仲間が、この時はまるで無邪気な子どもみたいににこにこ笑った。
水筒の中のあったかかったプロテイン・ドリンクはもう冷めてたけど、美月の手作り山型チョコレートが心をあっためてくれる。
高山はとても寒いのに、なんだか太陽がぽかぽかしてる感じがして、僕らはピクニック気分だ。
眼下をやわらかそうな雲がゆっくりと流れて行く。
ほわーんとそれを眺めながら、しばらく放心すると、どちらからともなく言った。
「そろそろ降りるか」
ムササビのように羽根を広げると、僕らは標高8,000メートルから飛び降りた。
作者にはもちろん登山経験などありません