表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜の喰わぬは花ばかり  作者: もちもちしっぽ
後編 一輪の花
14/19

星を浮かべる

 夜半、ねぐらに吹き込んだ風に誘われ、ヴェルミリオは身を起こした。

 メィヴェルのために焚いた灯りが、煌々と揺らめくも、当の娘の姿がない。


 不安に駆られ表に出ると、崖の上にほのかな灯りが見える。

 そこにフィロスとメィヴェルの姿があった。

 彼らを包む不可思議な光景に、ヴェルミリオは目を瞠る。


 宵の空に星が降る――というのなら、初めて見る景色でもないが、いま彼らの目は地上から光が立ち昇るさまを捉えていた。

 メィヴェルと言葉を交わした日の朝に見た、朝露にも似た煌めきが空へと還っていくようだ。


「これは……魔力(リュージュ)か?」

「そう。花たちが()に食べられてしまうのを怖がって、震えてる」


 花弁を滑った光が、ふわりふわりと浮かび上がる。


「まるで泣いているようだな……。天に神がいるのなら、この涙を掬って花の嘆きを聞き届けてくれはしまいか」

「……花は神様の落とした涙が種になって、地上に生まれたって知ってる?」

「いや」

「これだけたくさんの種類の花があるのだから、神様はきっととても泣き虫なの。地上の憂いに目を向ける暇なんて、ないんだわ」


 メィヴェルは微笑んでいるのに、哀しい目で光に手を伸ばす。すると不思議なことに、彼女の指先に吸い寄せられるように光が集まり始めた。


 光を纏った手でフィロスを撫でると、集められた魔力が竜の鱗を燃えるように輝かせた。


「天に届けても、どうにもならないのなら勿体ないわ。それなら、二人が持っていたほうがいいと思うの」


 もう一度かざした手に光を集め、今度はヴェルミリオの手を握る。触れた途端に、魔力が身体に流れ込み力が漲るのをヴェルミリオは感じた。


「メィヴェル。そなた、いったい……どうしてこのような真似ができる」

「それは……今はまだ秘密。でも、いつかすべて話すから……これも持っていて」


 手の中に硬い感触が現れる。灯りの下に翳すと、それは乳白色をした何かの欠片だった。


「これは?」

「お守り。どんなに離れても、必ずまた会えるように……絶対に失くさないでね」


 ほのかに温かい欠片が、メィヴェルの心そのもののように思えて、ヴェルミリオは大切に懐へしまう。

 それから、花たちが安心して眠りにつくさまを、二人と一頭は身を寄せ合って眺めた。


 そして翌朝、不本意ながらもマコールに従う形で、フィロスとヴェルミリオは王都へと発った。



 * * *



 目を付けられては厄介になるので、隠れているよう言われたメィヴェルは見送りに出られなかった。

 人の気配が絶えてから、表に出て辺りを窺う。

 洞穴の周辺まで魔獣が来ることはないが、なるべく出歩かないようにも言われていたので、その場で二人の無事を祈った。


 谷間を鳥が渡る。

 ヴェルミリオに出会うまで、メィヴェルは俯いて花ばかり見つめてきたので、鳥を眺めることもなかった。

 今では、その自由な翼が羨ましい。


「また、お散歩に行きたいな。次はどこまで行けるかしら……」


 メィヴェルのうちに秘めた憂いを深めるように、渓谷に差し込んだ目も眩むほどの陽光が、不意に翳った。

 鳥よりも大きな何かが、空を横切ったのだ。


 メィヴェルにはそれが、凶相を浮かべた月のように見え、矢も盾もたまらず花畑へ向かった。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ