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勇者(仮)  作者: 物書男
勇者の伝説
6/9

未来へpart2

アダライティア・モルト地区 

アンリ達がサイプレスの討伐に成功する中、カーデルの戦いは未だに続いていた。身体中傷つき、血を流しながらも戦っているようだが、かなり苦戦しているようだ。


「ハァハァ…チッ…クソッ」


 カーデルが対峙しているのはバリアを操る人型のサイプレス。しかし、他の個体と比べ、その見た目に大きな違いがあった。黒い体に赤色のラインまでは同じだが、体のサイズは人間とそう大差がない。大体160cm前後。

 その小柄な見た目とは裏腹にその強さはとてつもなく、カーデルは今に至るまで防戦一方を強いられていた。

 苦戦しつつも未だに戦う意志を見せるカーデルにサイプレスが手を伸ばすとそこから無数の魔力弾を撃ち放った。それを見たカーデルは重い体を引きずるように横に飛び出すとそのまま走り出した。


ドドドドドッ


 カーデルのすぐ後ろの地面が弾け飛ばしながら魔力の弾がカーデルに迫る。


「チッ!埒が開かねぇ…な!」


 逃げることに嫌気がさしたのかカーデルは魔力弾の雨を掻い潜りながらサイプレスに近づくと拳を叩きつけた。しかしその拳はサイプレスには届かなかった。バリアによってカーデルの拳は阻まれてしまったのだ。しかし、カーデルの拳は止まらない。


「オラオラオラァ!!」


 雨霰と降り注ぐ拳の連打。バリアに弾かれるごとにその威力は増していき、ようやくバリアに亀裂が入った瞬間にサイプレスは魔力弾による反撃を行った。


「ぐわぁ!!」


 サイプレスの反撃を受け、カーデルの体は大きく吹っ飛ばされた。激しい戦闘に身も体力も削られカーデルの限界は近かった。


「ハァハァ…」


 しかし、そんなカーデルにサイプレスの無情な一手が迫る。

 一瞬でカーデルとの距離を詰めるとサイプレスは手に魔力を集中させた。掌が妖しい赤色に染まり魔力弾を作り出した。


「クッ…」

(間に合わ…)


 カーデルはなんとか回避行動をしようとしたが遅かった。サイプレスの一撃がカーデルを襲う…その瞬間。彼らの間で一つの影が踊り入った。


「オラァ!」


 猛々しい掛け声と共にサイプレスは蹴り飛ばされた。助けに入った魔導士の正体にカーデルは目を見開いた。


「アンリ…!」

「大丈夫か!?カーデル!」


 かなり飛ばしてきたのかアンリは肩で息をしながらカーデルの安否を尋ねると、手を伸ばした。

 カーデルは『ああ』と短く答えると自分の力で立ち上がった。いつもと変わらないカーデルの振る舞いを見てアンリは安堵の息を吐いた。

 そして蹴り飛ばしたサイプレスの方に視線を移した。


「やべぇなアイツ。俺が戦ったやつより強ぇぞ…」


 自分が先ほど戦ったカエル型よりも遥かに体が小さいにも関わらずそれを遥かに超える魔力量を持つ人型にアンリは思わず息を呑んだ。

 向こうの視線がこちらに向けられるだけで肌がビリビリ痺れるような感覚に襲われた。その存在感だけで先ほどのサイプレスとは別格の存在であることが皆様でわかった。


「!」


 突然アンリに向かってサイプレスが飛び込んできた。一瞬にして距離を詰められたアンリは瞬時にサイプレスに向け拳を振るった。


竜王の一撃(ティーレックス)!」

 

 ガキィィィン!!

 金属同士がぶつかり合うような硬い音があたりに響いた。アンリの拳はサイプレスのバリアに阻まれ大きな亀裂が入っただけだった。


(硬ッ!!)

「オラ!」


 バリアの硬度に驚きながらもアンリはサイプレスを蹴り付けながら後方へ飛びサイプレスとの距離をとり、カーデルの近くに降り立った。


(咄嗟の一撃とはいえ俺でもひびが入るだけか…カーデルとの相性は最悪だな…)


 カーデルが持つギアの名は『蓮撃(ラッシュ)』。その効果は攻撃が途切れない限りその威力が1トンずつ増していくというものである。攻撃さえ続けば理論上、無限に攻撃力が上昇し続けるのだが攻撃の対象が変わるとその威力がリセットされてしまう。

 今回の場合、バリアを攻撃し続け威力を上げたとしても本体に対しては上がった分の威力はリセットされてしまう。  


「!」


 アンリがサイプレスを見て目を見開いた。バリアが再生し始めているのだ。


(再生までするおまけ付きか…)


 アンリは後ろにいるカーデルをチラリと見た。傷は治癒を使ってなんとか治しているようだが荒い呼吸をしている。


(カーデルはもう限界かもしれねぇな…ここは俺がなんとか…)

「!」


視線をサイプレスに戻し睨み合うアンリを押しのけるようにカーデルが前に出た。


「引っ込んでろ。アンリ…あいつは俺がやる…!」

「おい!もうそんなこと言ってる場合じゃないだろ!2人でやらねぇとアイツは…」

「…」


 そんなことはカーデルもよくわかっていた。2人で協力しなければ相手を倒せない。だが彼のプライドがそれを許さなかった。

 他の勇者達が単騎でサイプレスを撃破する中、自分だけがそれを成せない。それが現実になれば獣人族の勇者としての名折れどころじゃない。

 そんな思考がカーデルの首の動きを硬くした。


「カーデル。このままだとこの国も滅びちまうぞ。お前が継いで導くための国がよ」

「…!」

「やるぞ…!カーデル」

「チッ…わかったよ…!」


 カーデルの決意にアンリがニヤリと笑うとカーデルの横に並び立った。

 そんなアンリにカーデルが尋ねた。


「それで?どうすんだ?アイツのバリアはちょっとやそっとじゃ割れねぇぞ」

「そこは俺がなんとかする。俺がアイツのバリアを破るからその隙にお前が本体をやってくれ」

「…わかった」

「いいか?全力で行けよ?遠慮はいらねぇ…!」

「言われるまでもねぇ…!」


 カーデルのその言葉を合図としてアンリがサイプレスの前に躍り出た。それを見てからサイプレスは自分とアンリの間に厚いバリアを張った。

 するとアンリは右の拳を固く握り、そこに魔力を注ぎ込んだ。そしてその拳をバリアに向けて叩き付けた。


竜王の一撃(ティーレックス)!!」


 ガキイイイイン

 アンリの放った拳は再度、サイプレスのバリアに大きな亀裂を走らせた。しかし、アンリの攻撃はこれで終わらない。

 今度は左の拳に魔力を込めると先ほどつけた亀裂を殴りつけた。


「もういっちょ!!」


 アンリの放った2発目の攻撃でサイプレスのバリアはガラスのように砕け散った。しかし、サイプレスも黙っていない。

 アンリの攻撃後の隙を狙ってその手に魔力を溜め込んでいた。そしてそれは赤黒い光の弾となった。サイプレスはその弾をアンリに押し付けるように手を伸ばした。

 その2人の間にカーデルが割って入ると、サイプレスを殴りつけた。


「オラァッ!」


 その一撃を皮切りにカーデルのラッシュが始まる。2発、3発…攻撃がヒットしていくたびに彼の拳の威力とキレが増していく。

 ズドドドドドッ

 サイプレスの外殻もカーデルの攻撃により徐々にヒビ割れ、砕けていく。


(バリアを張る隙を与えるな!!ここで決めろ!!)


 攻撃のヒット数が100発に到達した辺りでカーデルは真の力を解放させた。


解封(かいほう)拳魂一擲(けんこんいってき)!!」


 カーデルの解封(かいほう)拳魂一擲(けんこんいってき)は上がった威力がリセットされる代わりに次の拳の威力が2乗となる。即ち、今回の場合100×100、10000トンの威力がカーデルの拳に上乗せされる。

 カーデルは地面を割るほど強く踏み込むとサイプレスにその拳を叩き込んだ。

 瞬間、爆発に似た衝撃波が辺りに轟いた。そしてその拳をもろに受けたサイプレスの体は大きく吹き飛び、巨大な岩に激突し、崩れた岩の下敷きとなった。

 動き出す様子はない。カーデルは勝利を確信すると大きく息を吐いた。

 アンリはカーデルに近づくと喜びの声とともに彼の肩を抱いた。


「やったじゃねぇか!カーデル!俺たちの勝ちだ!!ハハハ!」

「離せよ…気持ち悪りぃ…!」


 体を擦り寄せてくるアンリをカーデルは押しのけた。そして…


「まぁ…感謝ぐらいはしてやる」

「素直じゃないんだから〜」


 ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべるアンリに向けカーデルは声を荒げた。


「なんだとテメェ!?こっち来い!サイプレスの次はお前だ!」

「あはは!やめとけって体ボロボロなんだろ?」


 子どもがする鬼ごっこのように辺りを走り回る2人に他の3人の勇者が空を飛んで合流してきた。


「おーい!2人ともぉ!」

「お!カーデル見ろよ。みんな来たぞ」

「あ?」


 ミリーに声をかけられ2人は一時追いかけっこを中断して3人を出迎えた。


「なんじゃもう終わったのか」

「おう!俺とカーデルの2人でやったぜ。な!」

「離せ」


 アンリはまたカーデルの肩を抱くとアレス達に向け親指を高々と挙げてみせた。

 そんなアンリにロカが尋ねた。


「それでアンリ。リザさんには報告したのか?」

「お、そういえばまだだったな。えーと…」

「「「「「!!」」」」」


 アンリが通信機を取り出そうとした瞬間、その場にいる全員にゾクリと悪寒が走った。そして瞬時に戦闘体制をとった。


「なんだ!?今の!?」

「アンリさん!あれ見てください」

「?」


 アンリがチョーカーに引っ張れた方向を見るとサイプレスが立ち上がっていた。

 予想外の出来事に5人全員が目を見開いた。


「おい!終わったんじゃなかったのか!」

「いや、カーデルの攻撃は完全に決まってた!」

「では、なぜ…」


 議論を交わす3人を押しのけてカーデルがサイプレスに向けて飛び出した。


「関係ねぇ!もう一回ぶっ飛ばすだけだ!」


 カーデルの唸る拳がサイプレスを襲おうとした次の瞬間。サイプレスは大きく息を吸うと鼓膜どころか空間そのものを大きく揺らすような大声を出した。

 まさしくそれは生き物が死ぬ間際に放つ慟哭。


「ウガアアアアアアアアアアアアアッ!!」

「!」


 鼓膜を貫かんとする叫びに思わず全員が自身の耳を塞いだ。


「な、なんだ急に!」

「カーデル!一旦下がるんだ!何かしてくるぞ!」

「チッ!」


 嵐のような叫び声を浴びつつ、ロカはカーデルを一旦下げさせた。カーデルはその指示に従うと4人の元に下がった。

 するとミリーがここへ何かが猛スピードで近づいてくることに気づいた。


「みんな!何か近づいてくるよ!」

「!」

「この方角は…まさか!」


 ロカが飛んでくる『何か』に予測を立てる前にそれは姿を現した。

 アンリ達の前に現れたのは3つの塊。その正体は…


「あれって…!」

「ああ…私たちが倒した、サイプレスだ…!」


 人型のサイプレスの元に集まったのはロカたちが先ほど倒したサイプレス、その残骸。それらを見ると人型はニヤリといやらしい笑みを浮かべ頭の側面まで口を大きく裂けてそれらを飲み込んだ。


「共…食い…?」

「違う!アレは!!」


 瞬間、サイプレスの体に大きな亀裂が走った。そして…


「グオオオオオオオオオッ!!」


 サイプレスの外殻が砕け散り、辺りを凄まじい光が包み込んだ。誰かの『全員飛べ!!』という声に引っ張られるようにアンリ達は飛び上がり、光から逃れサイプレスと距離を取った。

 光がどんどん収まっていきサイプレスの真の姿が露わになる。伝説の怪物、その本領発揮である。

 小柄だった体は10メートルほどの大きさとなり、頭身もグッと伸びた。体色は変わらなかったが体が大きくなったことで更に異質な雰囲気を漂わせていた。

 それを見下ろす形でアンリ達は上空に浮かんでいたが、サイプレスの出すプレッシャーに飲まれていた。


「何だよ…アレ…!吸収するなんて聞いてねぇぞ!」


 静寂を突き破るようにカーデルが声を荒げた。その声でようやく周りの者も正気を取り戻した。


「起きちまった事にウダウダ言っても仕方ねぇ!やるぞ!」

「うん!」

「チッ!」


 既に剣を構えたアンリの言葉に呼応するように他の4人は戦闘態勢をとると、魔力を練り上げカーデル、ミリーの2人は魔力弾をアレスとロカは魔法をサイプレスに向け打ち出した。

 

魔刃(トール)!!」

氷殺の槍(アイススピアー)!」

発射(ファイア)!!」


 5人の勇者による渾身の一撃を受けサイプレスの巨体は爆炎に包まれた。

 この場にいる誰しもが明らかな手応えを感じていたがその期待はすぐに打ち砕かれることになる。

 煙が消えるとそこには勇者たちの攻撃をバリアで防いだサイプレスがそこに現れた。


「効いてねぇぞ!」

「さっきよりもバリアの強度が上がってる!?」


 5人がバリアの強度に驚愕しているところにサイプレスが震え始めると、その背中に昆虫の羽のようなものが生えた。そしてそれはブゥーンと不快な音をたてると上下に高速に動き始めサイプレスの体を宙は浮かせた。

 そして瞬く間にアンリたちとの距離を詰めた。


(速…!!)


ズドンッ


「グッ!」


 強烈な一撃がロカに打ち込まれ、その体は大きく吹き飛ばされた。


「ロカーーッ!」

「アンリ!よそ見すんな!」

「ッ!」


 ロカの次にアンリに狙いを定めたサイプレスは大振りの拳をアンリに叩き込んだ。

 アンリはなんとかそれを受け止めた。


「…この…!なめん…な!!」


 アンリはそのままサイプレスの巨体を投げ飛ばした。アンリに投げられたサイプレスは叩きつけられるように地面に激突した。

 そこにカーデルとミリーが追撃を加える。


「カーデルくん!!」

「合わせろ!ミリー!!」


 ミリーは着衣型魔動兵器(サンダルフォン)を起動させるとカーデルと共に拳を唸らせサイプレスに向け打ち込んだ。


「ハァァァァッ!!」

「オラオラオラァ!!」


 ドドドドドドドド

 そこから始まる二人の勇者による連打(ラッシュ)。しばらく殴り続けた後、その仕上げとして二人は渾身の一撃をサイプレスの身に叩き込んだ。

 さらに吹き飛ばされた巨大に狙いを定めアレスは腕を大砲に変え魔力弾を撃ち放った。

 

「コイツはオマケじゃ!!食らえい!!」


 ドゴンドゴンドゴン

 着弾した魔力弾はサイプレスの外殻の上で爆発しその身を炎と煙で包み込んだ。

 煙が晴れるとサイプレスの目に先ほど吹き飛ばしたはずのロカの姿が映った。

 ロカはその身の中で高密度の魔力を練り上げていた。彼が一歩を踏み締めるごとに地面に薄く氷が張り始めている。


「さっきは世話になったな。コイツは礼だ…受け取れ…!」


 ロカが練り上げた魔力を解放すると彼の足元の氷がサイプレスの巨体を包み込んだ。


解封(かいほう)。絶対領域"零"」


 瞬く間にロカの氷がサイプレスの体を侵食するとその巨体を氷へ変えた。

 美しい青色に染まったそれに向けロカは白い息を吐いた。


「フーッ…これで詰みだ」


 しかし、ロカはすぐその言葉を撤回することになった。

 バキ


「!」


 バキバキバキと嫌な音がロカの鼓膜を揺さぶった。見ると氷に亀裂が入り始めていた。

 サイプレスは氷の中でニヤリと笑うとロカの氷の封印を破って見せた。


「あ、あり得ない…」


 ロカの解封が破られたのは初めてのことだ。その動揺がロカの思考を一瞬だけ止まった。

 サイプレスは大口を開けるとそこに魔力を溜め込んだ。赤黒い光が徐々に強まり、ある程度溜まったところでそれを撃ち放った


「いかん!下がれ!ロカ殿ーッ!」


 動けないロカに赤い光が迫る。食らえば間違いなく命を失う、絶命の光。それがロカに当たる寸前にアンリの魔刃がロカ達の間に割って入り、相殺してみせた。


「ロカ!早くこっちに!」

「あ、ああ!すまない!」


 ようやく我に帰ったロカがアンリ達の側に飛ぶとロカは苦虫を噛み潰したような顔でサイプレスを睨みつけた。

 解封はその魔導士にとって最強の戦術である。それが破られたとなるとロカのほとんどの魔法がサイプレスに通用しないことを意味する。その事実はロカのプライドを砕くには十分過ぎるモノだった。


「大丈夫か?ロカ」

「…ああ」

「ヤベェなアイツ。解封(かいほう)を破るとはな…」

「ぶわっはっは!!ワシに任せろ!」


 聞き慣れた豪快なやつ笑い声が耳に届き、アンリ達が目を向けると地面に降りたアレスが巨大な砲台の前に立っていた。


「アレスの奴…いつの間に」

「ふふふ…こいつでどうじゃ…魔力超加速砲(レールガン)!!」


 砲台に莫大な魔力が集中、圧縮されるとアレスはサイプレスに向け弾を撃ち放った。

 砲台から放たれた魔力弾は音を置き去り、空気の壁を破りながらサイプレスに迫った。

 しかし、サイプレスは避けるまでもないと言わんばかりにそれを真っ向から胴で受けた。


 ズドォンッ


 サイプレスの体に突き刺さるように魔力弾が着弾したが、サイプレスの体には傷一つついていなかった。

 衝撃的な光景にアレスは顔を歪めた。


「ぬぅ!?わしの攻撃すらも!?」

「次はわたし!」


 アレスに代わり、ミリーが攻撃しようとした瞬間、サイプレスの体からさらに2本の腕が生えると、そこに高濃度の魔力が溜まり始めた。

 それを見たロカがミリーを制止した。


「待て!ミリー!奴の様子がおかしい!」

「!」


 ロカに制されミリー動きを止めた。しかし、アンリは止まらず剣を構えてサイプレスに突っ込んだ。


「おい!アンリ!」

「なんかしてくんなら、その前に先に叩くべきだろうが!」


 アンリはエルシルドに魔力を込めるとそのまま振り下ろした。

 しかし、それよりも早くサイプレスはアンリに向け緑色のガスを吹きかけた。ガスに包まれるとアンリは動きを止めた。


「何だこれ…!ゴホッゴホッ!」


 ガスを吸い込んだ瞬間にアンリは口を抑え大きく咳き込んだ。抑えた手を見てみるとそこにはべっとりと血が付いていた。


(毒ガスか!)


 アンリは即座に腕を振り、その風圧でその毒ガスをかき消した。

 毒ガスが消え、姿を現したアンリにミリーは安否を尋ねた。


「大丈夫?アンリくん?」

「ああ。問題ねぇ。俺に毒は効かん」


 イビレンターはその体質として毒に対し高い耐性を持つ。特にアンリはその傾向が強く、取り込んだ毒の抗体を瞬時に作り出し解毒することができる。

 アンリは口元についた血を手で拭うともう一度剣を構えた。


「ねぇ、アンリくん、カーデルくん。あのサイプレス、さっきまで毒使ってた?」


 ミリーの問いに2人は首を横に振った。


「いや使ってなかったはずだ」


 2人の答えを前にミリーは重々しく口を開いた。


「となるとアイツはほか4体のギアが使えるのかも…」

「!」


 その瞬間、ミリーの考察を裏付けるようにサイプレスの手に溜まった魔力が爆炎と暴風に変化した。

 そしてサイプレスはそれらをアンリ達目掛けて投げつけるように放った。

 サイプレスの手から離れた魔法は一つに合体し爆炎の竜巻となり大地を巻き上げながらアンリ達に向かってきた。

 ジリジリと肌が焼ける感覚にカーデルが顔を歪めた。

 

「熱!!」

「一旦離れるぞ!」


 その場から離れようとアンリ達は飛ぼうしたが、すでに彼らはサイプレスの魔の手の中だった。

 

「ぐ…吸い寄せられる…」

「逃げられん!全員魔力で身を固めろ!」


 アンリ達の体が竜巻の中心へとどんどん吸い込まれていく。アレスの声に従い全員が全身に魔力を回し、防御力を上げるが強烈な熱によりアンリ達の肌が焼けていく。

 完全に竜巻に呑まれてしまったアンリ達に向けサイプレスが更なる攻撃を仕掛ける。

 サイプレスは大口を開けるとそこに大量の魔力を溜め込み始めた。魔力が貯まるごとに赤い光が強まっていく。

 そして一際強い光を放った瞬間。サイプレスは溜め込んだ魔力を解放した。

 

「グォォォォォォォッ!!」


 雷鳴のような咆哮ともに放たれた魔力はレーザーのように一直線にアンリ達へ飛んで行った。


「しまっ…!!」


 アンリ達が迫る赤い光の中に飲み込まれた次の瞬間、凄まじい閃光の後に衝撃波を放ち炸裂した。


ドゴオオオオン


 その爆発は竜巻を掻き消し、アンリ達を地面に叩きつけた。


「ぐっ…ぐはッ」

「何ちゅう…威力じゃ…」


 5人の勇者の攻撃をものともせず、複数の強力なギアを操り、そして魔導士の最強戦術である解封すらも無効化した正真正銘の怪物を前にロカは口を開いた。


「はっきり言うぞ…私たちでは…奴に勝てない」

 

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