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勇者(仮)  作者: 物書男
黒き悪魔の復讐譚
1/9

EP0 悪魔、その原罪(上)

 その日のことを今でも夢に見る。

 10月4日。俺ことアンリ・アンブローズの誕生日であるその日は秋の中頃だというのにうんざりするほど暑い日だった。

 

「えーっと。トツゲキイノシシが1頭とギャングウサギが8匹…あれ?ウサギの数え方って匹だっけ?羽?ま、いいや。とりあえず、頼まれてた数はこれでよしっと」 


 暑苦しい夏が過ぎ、青々とした緑の葉が鮮やかに色づき始めた頃、俺は町外れにある山、センボク山に足を運び狩りに勤しんでいた。

 今は川のほとりで捕らえた獲物たちの下処理を行なっているところだ。


「それにしても今日は暑いなぁ」


 作業を進める手を止めると、俺は仮面の下の汗を拭った。もうすっかり秋になったというのに気温は真夏日に近く、簡単な作業をしているだけでも自然と汗がダラダラと出てくる。

 

「あっちぃ…。早いとこ終わらせて家に帰ろう」


 仮面を元に戻すと作業を再開した。丸々と肥えたイノシシも慣れた手つきで捌き、袋に詰めていく。


「よし、それじゃ帰りますかね」


 帰り支度を済ませた俺は山の麓にある街ミルバへと歩を進めた。今から帰れば暗くなる前に帰れるはずだ。

 俺が住んでいるのは人間が統治している国、『ガルシア』の辺境にあるミルバと呼ばれる町で妹であるマユと酒場に住み込みで働きながら暮らしている。両親はいない。母さんは妹を生んだ後に病気で亡くなった、父さんは俺が6歳、妹が3歳の時に『仕事に行ってくる』と言って出て行ったきり帰ってこなかった。死んだのか俺たちのことを捨てたのかはわからない。そして今働いている酒場に転がり込み、今に至る。

 空が赤く染まる頃にミルバに着くと、俺は一直線に酒場を目指した。

 ミルバは隣国である獣人が暮らす国、『アダライティア』との国境にある村…というほど小さくはないが、かといって街とも言えるほどの規模もない。言ってしまえば中途半端な規模の町だ。国の中心にある王都にも馬車を使っても一日半ほどかかるし。

 そんなミルバの今は夕飯時。街の大通りは仕事から帰ってきた者や食材の買い出しに来た者、そして露店が所狭しと並び、大勢の人でごった返していた。

 そんな人混みの流れに沿うように歩いていると、串焼きを売っている店員が俺に声をかけてきた。


「お、アンリじゃないか!今帰りか?今度は何を狩ってきたんだ?」

「ああ、マイズのおっさんか。今日はギャングウサギとトツゲキイノシシだよ。どうだ?どれもうまそうでしょ?」


 俺ががおっさんに見せつけるように袋を開けると、おっさんは1匹のウサギを持ち上げ、値踏みするようにまじまじと観察した。トツゲキイノシシもギャングウサギも冬眠を行う生き物で、夏から秋にかけて冬眠に備え、栄養を大量に摂取し脂肪をため込む。だからこの時期のこいつらは脂がのり、めちゃくちゃ美味い。


「おお、こいつは立派なもんだ。今すぐにウチに卸して欲しいくらいだ」

「金さえ払ってくれたら、いくらでも卸してやるよ」

「いつからそんな生意気な言葉を覚えたんだクソガキ〜」

「いててて!」


 おっさんは俺にウサギを返すのと同時に拳を俺の頭にぐりぐりと擦り付けてきた。対して痛くはないがちょっとオーバーなリアクションをとってみた。


「そうだアンリ。一本買ってくか?ナナホシ鳥の串焼きだ。味付けは当店秘伝のタレだぞ」


 俺から手を離すと、おっさんは肉がついた一本の串を俺の目の前に向けた。香ばしく焼けたタレの匂いとジュージューと鳴く油の猫撫で声に思わず財布の紐を緩めそうになったが、すぐにキュッと締め付けた。


「ごめんな、おっさん…。今はできるだけ金を貯めときたいんだ」

「そうか。そりゃ残念。何か欲しいモンがあるのか?」

「妹にウエディングドレスを買ってやりたいんだ」

「そういえば来年だったな。結婚すんの」

「そ、もう俺の手元から離れちまうわけだし、最後ぐらい妹孝行したいんだよ」

「ふ、そうかい」

 

 少し寂しくもあるけど他の誰でもない、世界でたった1人の妹の結婚式だ。できるだけ盛大に送り出してやりたい。

 それが兄としての俺ができる最後の妹孝行だと信じて。


「じゃあ、おっさん俺はそろそろ…」

「きゃー!泥棒!」


 俺がおっさんに別れを告げようとしたところ、二人の間に割って入るように女性の悲鳴が飛び込んできた。

 声のした方を見ると、50メートルほど先に座り込む女性とその女性のものであろう鞄を片手に走り去ろうとする男の姿が見えた。


「おっさん!これ頼む!」

「え、おい!アンリ!無茶すんなよ!」


 俺はおっさんに押し付けると、男の背を追った。

 男は周りの人を押しのけながら逃げていく。

 あちこちから人の怒号が飛び交い、俺は男が通り獣道のようになった人だかりを縫うように走った。


「おい!待て!」


 俺が声を上げると男は目を見開いた。そして、


「来んじゃねぇ!」


 男は手のひらに魔力を集中させ火の球を作り出すと、こっちに向かって放った。


「うお!」


 咄嗟のことで躱しきれずに火の球は俺の顔面に直撃し、爆発を起こした。耳をつんざく破裂音と共に俺は仰向けに倒れた。

 

「おい、兄ちゃん大丈夫か?」

「ああ、大丈夫。それよりも早くここを離れたほうがいいぞアンタ。アイツ、中々ぶっ飛んでやがる」


 近くにいた人が顔を抑える俺に近寄ってくるのを止めると俺は逃げるように指示した。

 にしてもアイツこんな街中で魔法をぶっ放すとは躊躇ってもんがねぇな。

 でもおかげでこっちも火がついた。


「絶対ェ捕まえてやる…!」


 そう言って男が逃げた方向をねめつけるが、すでに男の姿はない。さらにこの人だかり。今から全速力で追いかけても追いつくのは難しいだろう。


(どうすっかなぁ…)


 俺はあたりを見渡し道を探した。人の往来が少なく、奴の首に手が届く最短で最良の道を。


「!」


 そして、見つけた。おそらくこの街で唯一、俺だけが通ることのできる道を。

 しかし、上手くいくか?


「やってみるか…!」


 俺は心の中の不安を落とすように自分の頬を『パン!』と叩き、その道に向かって走った。


―――――――――――――――――――――――

 一方変わってアンリが追っていた泥棒は安堵していた。


(やっと撒けたか)


 男は後ろを見てアンリが追ってきていないことを確認すると忙しく動かしていた足を緩めようとした時だった。


「おい、あれ!」


 男の近くにいた者が大声をあげ、後方を指を指した。男は思わず足を止め、そちらに目をやると衝撃の情景が目に入った。

 男の目に飛び込んできたのは建物の壁を走る人間の姿だった。地面から垂直に延びる壁を重力に逆らい、まるで地面の上のように駆ける者に男は見覚えがあった。


「まじか、あの野郎…!」


 先ほどから自分を追ってきていた男、アンリ・アンブローズだった。


(見つけた!もう逃がさねぇぞ!)


 男がアンリの姿を捉えるのと同時にアンリの猛獣のようにギラついた眼が男の姿を捉えた。そして、ここで捕らえんとアンリは壁に亀裂が入るほど思いっきり踏み込むと一気に加速した。

 アンリの鋭い視線が自分に刺さり、男の体はぶるりと震えた。


(クッソ!どういう運動神経だよ!」


 心の声が思わず口から溢れてしまうほどの衝撃。男もさらに加速するもその距離はどんどん縮まっていく。


「来るな!来るな!来るなぁ!」


 命乞いにも似た悲鳴と共に先ほどと同じ火球を連続でアンリに向かって放つ。しかし、そのどれもがアンリの周りの空気を揺らすだけに終わり、アンリに当たることはなかった。そして、


「捕まえ…た!」


 アンリは走っていた壁から男の懐に一気に飛び込み、抱きつくようにして捕らえた。そしてその勢いのまま、2人は通りに立ち並ぶ露店の壁に突っ込んだ。ドゴーン!という音と共に店はガラガラと崩れた。

―――――――――――――――――――――――

 いってぇ、ちょっと無茶しすぎたか?


 瓦礫を押しのけて起き上がると周りにはかなりの数の野次馬が集まっていた。


(あ!アイツはどこだ?)


 捕まえた泥棒はさっきの店に突っ込んだ拍子に気絶してしまっているようだ。死んでないよな?


「すんません、ちょっと通して。おい!アンリ無事か!?」


 しばらくして野次馬の群れをかき分けながらおっさんが被害者の女性を連れ、俺と合流した。


「おー!おっさん、カバンなら無事取り返したぞ。ほら!」


 俺は泥棒から取り上げたカバンを2人の前に掲げた。少し汚れがついていたが目立った傷はないようだ。


「ほら、これアンタのだろ?」


 俺は被害に遭った女性に近づくとカバンを差し出した。女性は俺の顔を見ると「ヒッ!」と短い悲鳴をあげ、カバンを奪い取るようにして俺の手から受け取ると礼も言わずに足早に人混みの中に消えていった。


「んだよ、失礼な奴だなぁ。なぁ、おっさん」


 せっかく取り返してきたのに。お礼の一言ぐらい言ってもバチはあたらねぇだろ。

 あまりに失礼な態度に俺は不満の声を上げた。

 そこでおっさんが『おい!』と驚いたような声を出した。俺はびくりと体を震わせおっさんの方を見た。


「おい、アンリお前、仮面はどうしたんだ?」

「え?仮面ならちゃんと…あ」


 俺は自分の顔に触れると、いつの間にか自分の仮面がなくなっていることに気づいた。さっき火の玉に当たったせいで壊れたのか。

 そして、わかってしまった。ここに集まっている野次馬は「泥棒」ではなく、「俺」そのものに集まっていることに。


「おい、あれって」

「ああ、悪魔だ…。悪魔の契約者(イビレンター)だ」

「気味が悪いな…」

「…」

「おい!見せもんじゃねぇんだぞ!用がねェならとっとと帰りやがれ!」


 おっさんは野次馬の方を向くとざわめき声をかき消すように声を上げた。 

 

「いいよ。おっさん。俺がすぐどっか行くから。荷物ありがとな」

「でも…。わかった」


 おっさんから荷物を受け取ると人混みへと近づいたがここは通すまいと言わんばかりに大柄な男が立ち塞がった。

 

「…。なんだよ。とっととどけよ」

「この悪魔め!はやく失せろ!」

「言われなくてもどっか行ってやるから、そこ通してくれ」

「チッ」


 それを言うためだけに俺の前に出てきたのかよ。暇なやつめ。

 男は俺を睨みつけながら道を開けた。それに倣うように他の人も道を開けていく。空いた道を俺が通るとあらゆる方向から汚い言葉が雨あられと降り注いできた。


(こんなの慣れっこだろ…。今更傷ついてんじゃねぇよ。バカが…)


 俺は痛む胸を押さえながらそう自分の心に言い聞かせると、罵詈雑言を背に人混みの中を進んで行った。

 この世界には俺たち人間族の他に隣国に住む獣人族をはじめとして人間族とは見た目も身体能力も大きく違う人種が複数存在する。

 しかしそんな彼らでも2つ人間族と同じ点が存在する。それは特殊能力である「異能(ギア)」とそれを発動するための燃料などになる「魔力」を持つことだ。

 ギアと魔力は今から数千年前、突如として人々の体に宿った力であり、ある者はギアを使うことで数々の戦争で勝利を納め、またある者はギアを使うことで人類未到の地で新たな文明を生み出すきっかけを作り出したとされている。

 魔力は生まれながら全ての者が持っているが、ギアは物心がつくのと同時に発現する。しかし、時にその両方を持たない存在が生まれる。それが俺のような存在、悪魔の契約者(イビレンター)だ。俺たちは魔力とギアを持たない代わりに人智を超えた身体能力を得る。そして、その証として体のどこかに黒い大きなあざが浮き出る。俺の場合顔の左頬から首にかけてそのあざがある。

 イビレンターは大昔から差別を受けてきた。その理由として、この世界で最も広く信仰されている宗教、カタル教の存在が大きい。

 カタル教はギアと魔力を「神々からの贈り物」と信じており、それらを持つ者を「神に愛された者」とする一方で、イビレンターのような者たちを「神に見放された者」という教えを広めた。その結果、イビレンターは差別を受けるようになった。

 ちなみにギアやイビレンターといった名称を創ったのもカタル教である。

 それでもそんな世の中でもマイズのおっさんみたいに俺のことをちゃんと見てくれてる人はいる。愛してくれる人はいる。


(それでいいじゃねぇか。切り替えていけ)


 心にこびりついた雑念をはたき落とすように俺は自身の頬をパンと叩くと、みんなが待つ酒場へと急いだ。

 それからしばらくして俺は酒場へとたどり着いた。店の入り口には大きくDrunkards(ドランカーズ)と描かれた看板が掲げられていた。

 『飲んだくれたち』という名を冠したこの酒場は夜に開店する。そして開店して間もなく仕事帰りの男たちでごった返すようになる。まさしく飲んだくれたちの楽園になるというわけだ。

 俺は店に入る前に服についた埃などの汚れを落とすと荷物と共に店へと入った。


「ただいまー!」

「あ、兄さんおかえりー」

「お、やっと帰ってきたか」

「おう、ただいま。マユ、モビー」

 

 店に入ると制服を着た店員と思われる2人の男女がアンリを出迎えた。女の方がマユで俺の妹。そして男の方がモビーで、俺たち兄妹の幼馴染にしてマユの婚約者でもある。

 マユは背中まで伸びた髪を頭頂部にまとめた髪型、いわゆるポニーテールにしてまとめていた。

 モビーは生意気にも俺より若干背が高く、顔にあるメガネが印象的であり、どこか賢そうな雰囲気を出している。


「あ!兄さん!お面どうしたの!?」

「あー、えっと、狩りしてる時に割っちまったんだ」

「おいおい、気をつけろよ。帰る時は大丈夫だったのか?」

「特に問題なかったよ」


 2人の心配をよそにあっけらかんと答える俺にモビーは一つ大きく息を吐くと『ならいいけど』と話を閉めた。


「仕方ない、今代わりのやつ作ってやるからちょっと待て」

「マジで?頼むわ」

「よーし…。は!」


 モビーが手のひらに魔力を集中させると光の粒が集まり徐々に形を成していく。そして、


「ふぅ。よし!できたぞ」


 集まった光の粒がお面へ変わり、モビーは出来上がったそれを俺に手渡した。


「おー、鮮やかな手口」

「ハァハァ…、手口言うな…。犯罪者みたいになるだろ」

「大丈夫?モビーさん」


 肩で息をするモビーの肩に手を置き、マユが心配そうに声をかけた。モビーがその手を握ると笑顔で答えた。


「大丈夫だよ、このくらい。すぐに治る」

「ありがとな、モビー。サイズもぴったりだ」


 受け取ったお面を早速身につけると、俺は礼の言葉送ると、モビーは『どういたしまして』と軽く答えた。


「しっかし、便利だよなぁ。物体錬成だっけ?モビーのギア」

「ああ。構造さえわかってれば何でも作れるぞ。でも魔力を素材にしてるからお面一個作るだけでも結構疲れるんだよな」

「いいなぁ。私なんて花畑を出せるだけだもん」


 モビーのギアは『物体錬成』(ギアの名前は自分で決める)だ。その名前の通り、構造さえわかればどんなものでも生み出すことができる。しかし、生み出すものの構造が複雑だったりサイズが大きいとその分魔力を消費するようだ。モビー自身の魔力はそう多くはないらしくお面一つでも今のように結構疲れるらしい。

 対してマユのギアは『ガーデニング』(モビーが名付けた)どんな場所であっても花畑を出す能力で、出せる花はマユのその日の気分で大きく変わる。その気になれば人の体にも花を出せるので割と怖い能力である。


「俺は好きだよ?マユのギア。君に似合ってると思う」


 モビーはマユに微笑みかけながら、そんな言葉を投げかけた。マユは顔を赤めながら『もう…』とどこか嬉しそうに短く答える。

 辺りに砂糖を煮詰めたような匂いが漂ってきたような気がする。


「はー、出た出た。まーた2人だけの世界にトリップしてるよ。そのまま2人でどっかにトリップしてくれば?」

「僻むなよ。アンリもそのうちイイ人見つかるってちょっと顔怖ぇけど」

「そうだよ兄さん。兄さんは優しいんだから。だいぶ顔怖いけど」

「最後で台無しだよ」

「どんな女の子がタイプなの?私の友達紹介しようか?」

「じゃあ俺を選ばないような頭のいい子頼むわ」

「捻くれすぎだろ」

「ほっとけよ」

「騒がしいと思ったら帰ってたのかアンリ」


 3人で談笑しているところに厨房から身長が2メートルはあろうかという大男が現れた。この人こそがこのDrunkardsの主にして俺たち兄妹の育ての親でもある、ハンネルである。


「ただいま、おやっさん」

「おう、おかえり。それで頼んでたものはどこだ?」

「この中だよ。確認頼むよ」


 俺への挨拶もそこそこにおやっさんは今朝依頼した獲物たちの確認を始めた。


「数に問題は…ねぇな。処理も完璧。よくやったな、アンリ」

「こんぐらい朝飯前だよ。それより腹減っちまった。なんか食わせてくれよ」

「あいよ。なんか作ってやっから部屋行って休んでろ。一時間後には店開くぞ」

「ういー」


 そう言って俺は二階へ上がっていった。Drunkardsは木造二階建ての建物であり一階は酒場、二階は従業員の住居スペースとなっている。俺たち兄妹とハンネルはこの2階で生活している。

 自分の部屋に戻ると俺は仮面を外し、窓を開けた。涼しい夜風が肌を撫で、まだ微かに残る夏の匂いを運んできた。

 外を見ると仕事から帰ってきた労働者や露店で活気付いていた。至る所から『カンパーイ!』という声や店員と思われる者たちの呼び込みの声が聞こえてくる。週末ということもあってか町はまるで祭りのような盛り上がりを見せていた。


「結婚か…」


 俺は誰もいない部屋の中でポツリとつぶやいた。俺だって年頃の男だ。異性との交際や結婚といったものに興味がないわけではない。

 しかし、俺はイビレンターだ。そんな俺と恋仲になりたい人。ましてや結婚したいなどという人はどこにもいないだろう。交際や結婚は幸せになるためにするものだ。決して不幸になるためではない。

 だから俺は自分とその人を不幸にしないためにも結婚も交際もしない。

 

「カタル教か…」


 俺達イビレンターを苦しめる元凶の名を口にする。一体どうしてイビレンターをここまで目の敵にするのか。それは俺の知る由はない。でもここまで恨まれるいわれもない。

 俺の心の中にどろりとした感覚が生まれた。しかしそれをすぐに収めた。

 やめやめ、さっき外で言われたせいでちょっと気持ちが滅入ってるな

 俺が気持ちを切り替えようとした時、部屋のドアがコンコンと鳴いた。


「誰だー?」

「私。マユだよ。ご飯できたから持ってきたの」


 部屋に訪れたのはマユのようだ。すぐにドアを開けると料理が乗ったお盆を持ったマユが姿を表した。


「お、うまそー。わざわざありがとな」

「どういたしまして。部屋入ってもいい?」


 『どうぞ』と言わんばかりに俺が体を避けるとマユがその傍をすり抜けていく。そして机の上に料理を並べた。

 俺はすぐさま席につき手を合わせた。

 

「いただきまーす」

「ねぇ、兄さん」

「ん?なんだ?」


 早速料理を食べようとしたところに神妙な顔つきのマユが話かけてきた。


「大事な話があるの」 

「なんだよ改まって」

「いいから聞いて」

「お、おう」


 いつになく真剣なマユの顔を見て怒らせてしまったかと焦った俺は心当たりを探した。

 しかし全くもって心当たりがない。朝は仕事があったから全然話さずにここ出たしな…。だったら朝より前のことか?昨日の夜とか…。ダメだ全くわからん!それとも俺が気づかないところでマユを傷つけちまったのか?

 いくら思い出そうとしても心当たりが見つからなかった。しかしそんな俺の頭に1つの天啓が降りてきた。何も俺にとってマイナスの話と決まったわけじゃない。となるとなんだ…!そうか!

 そして俺は1つの結論に辿り着いた。深呼吸すると口を開いた。


「おめでとう。マユ」

「え?」

「まぁ、初めてのことだからな不安に感じることもあるだろう。でも大丈夫。お前には頼りになる旦那がいて、さらにもっと頼りになる俺やおやっさんもいるわけだからな。いつでもサポートするぞ」

「えっと、なんの話?兄さん、何か勘ち…」

「皆まだ言わなくていい。大丈夫。お前の聡い兄さんはなんでもお見通しだ。」


 何か言いかけたマユの言葉を遮り、俺はさらに言葉を並べた。きっと『大丈夫だから』とか『心配しないで』とか言おうとしたのだろう。優しい子に育ってくれて兄は誇らしいぞ。


「確かにお前たち2人は婚約しているが正式に結婚したわけじゃない。そんな中でのことだ。その不安というのは男である俺からすれば計り知れないことだろう…」

「…」

「でも!そんな幸せの絶頂にいる2人を誰が止められようか!いやいない!だからなぁ、マユ」


 フィニッシュと言わんばかりに最後の言葉を張り上げると俺はマユの肩を抱き、そして目線を合わせると心からの言葉を届けた。


「絶対に幸せになるんだぞ!」

「だから兄さん何か勘違いしてるって」


 感動的な俺の演説をマユは冷たい言葉で払い除けた。


「え、できたんじゃないのか?子どもが」

「違うよ!だったらちゃんとモビーさんと2人で報告するよ!」

「なんだ違うのかよ。あまりにマジな顔するからお兄ちゃん勘違いしちまったぞ」

「ていうか、そんな発想が出てきたことに私は驚きを隠せないよ」


 マユは『ハァー』とこれ見よがしに大きくため息を吐いた。…割と傷つくな。

 しかし、妊娠したことじゃないとしたら一体なんだ。あの顔色から察するにめちゃくちゃ悩んでいるに違いない。


「じゃあ話ってなんだよ」

「兄さん…」


 俺が話を促すとマユは再び神妙な顔に戻り、そして重々しく口を開いた。


「シスコンとブラコンって変な言葉だと思わない?」

「帰れ」


 シリアスな雰囲気と話の内容の落差に思わず、妹に強い言葉を叩きつけてしまった。


「ひどいよ!兄さん!私はこんなにも悩んでるのに!」

「うるせぇよ。返せよ。さっきの俺の熱い気持ちをよ。おかげでどっか飛んでったじゃねぇか。早いとこ拾いに行ってくれ」

「窓開けてるからどっか行っちゃうんだよ。ほら閉めて閉めて。そろそろ寒くなってくるし」

「へいへい」


 生返事と共に俺は窓を閉めた。外の喧騒が聞こえにくくなり、外の世界と分たれたこの部屋は兄弟だけの空間となった。


「それで?シスコンとブラコンがなんだって?」

「だから考えれば考えるほどその言葉って変だと思わない?」

「いや全く。むしろこんなことに悩んでいる妹の方が兄としては心配だ」

「はぁ、全く全く。これだから兄さんは」


 マユはやれやれと言った感じで肩をすくめてみせた。ムカつくなぁ。


「身近にあることにも疑問を持たないと、これからの世界を生きていけないよ?」

「16歳が世界を語るな」


 少なくともシスコンがどうのと疑問を持つほど世界は単純ではないし暇じゃない。


「お願いお兄ちゃん。力を貸して?」

「わかった」

「やった!」


 妹からの上目遣いに瞬時に首を縦に振ってしまった。世界って思ってよりも単純かもしれない。


「まずは本題の深みを出すために言葉の意味から紐解いていこう」

「なるほど」

「兄さんはシスコンとブラコンの意味を知ってる?」

「えーと、シスコンは姉や妹が好きすぎることでブラコンは兄、弟のことが好きすぎることだろ?言ってしまえば俺から見たお前でお前から見た俺だ」

「ちょっと私を勝手にブラコン認定しないでよ」

「でもお前俺のこと大好きじゃん?」

「それはそう」

「よっし!」


 俺は心の中で強くガッツポーズをした。


「じゃあ、シスコンとブラコンってある言葉どうしを合わせてさらに略した者なんだけどそれが何かわかる?」

「シスはシスターつまり姉妹でブラはブラザーだから兄弟…。コンは…えーと。ダメだわからん」

 

 しばらく頭を回転させたが、答えがわからなかった。そもそもシスコンの『コン』が言葉の略だったというのが初耳だ。

 白旗をあげた俺の言葉を付け加えるようにマユは続けた。


「コンはね、コンプレックスの略なんだよ」

「へぇー」


 感心と同時に、1つの疑問が頭に浮かんだ。


「あれ、でもコンプレックスって…」

「そう、一般的に見れば自分の嫌なところを指す言葉だよね。兄さんだと例えば目元とか」

「なんで1回俺を轢くんだよ。結構気にしてんだからやめろよ」


 俺の目つきは生まれつき悪く、近所の子供には泣かれ、モビーからは『人殺してそう』と絶賛されている。なんか腹立ってきたな後であいつ殴ろう。

 

「ごめんごめん。話を戻すよ。今言ったみたいにコンプレックスってマイナスな印象を持つ言葉な訳だね」

「うんうん」

「じゃあなんでシスターコンプレックスって呼ばれるようになったのか私の考察ではね…」


 妹曰く、ある者が飲みの席で、『妹が自分のこと好きすぎて困っている』と相談を持ちかける。そして、相手が『まるでコンプレックスみたいに感じてるのか?』と答える。そして相談主は『そうそう。まさしくシスターコンプレックスだよ』と答えた。

 つまり、元は『兄弟、あるいは姉妹から愛されすぎていることに対して悩んでいる者』をシスコンやブラコンと呼んでいたがどういうわけか言葉を受ける者が逆転して『兄弟、姉妹を愛しすぎている者』をシスコン、ブラコンと呼ばれるようになってしまったのではないか。ということらしい。 


「どうかな?割といい線いってると思うんだけど」

「ああ、そうだな…えーと」


 結構しっかりとした考察に俺は狼狽えてしまった。普段こんなこと考えてたんかこいつ。


「もしかしてお前、モビーに対してもこんなしょうもない話ししてるんじゃないだろうな?」

「するわけないじゃん。こんなどうでもいい話」

「はあああ!?」


 言い出しっぺである妹が話題をひっくり返したことでこの話は決着した。どうやら妹はシスコンの『コン』は『コンプレックス』から来ているという雑学を俺に披露したかっただけのようだ。


「なーんて、帰ってきて元気のない兄さんを元気づけるためにどうでもいい話をして気を紛らわそうと奮闘する妹なのでしたぁ〜」

「え」


 驚きに思わず顔に触れた。そんなに顔に出てしまっていたか。


「ほんとは何かあったんでしょ?」

「…」


 俺は何も答えなかった。きっとマユでもモビーでもおやっさんでも話せばきっと親身になってくれるだろう。あの礼も言わなかった女性を、野次馬たちを怒ってくれるだろう。でも、どうしようもないことだ。

 怒ったところで何も変わらない。

 罵倒してきた奴らを殴ったところで事態は好転しない。

 だから黙った。そんなことに時間を無駄にしてほしくないから。みんなに心配をかけたくないから。


「兄さんが話したくないっていうならそれでもいいよ。でもね…」


 そんな俺の想いを汲み取ってくれたのか、マユは立ち上がると俺の頭を撫でた。


「みんな兄さんのこと大好きなんだよ。だから兄さんがそんな顔してるとこっちも辛いんだよ。いつでも話聞いてあげるから話したくなったら言ってよ?」

「わかったよ。ありがとなマユ」

「ふふん。それじゃ私先行ってるから食べ終わったらすぐに来てね」

「了解」


 その言葉を最後にマユは部屋から出て行った。そんな妹を見て、俺は一生マユには勝てないんだろうなぁと思いつつ、夕飯を食べることにした。


―――――――――――――――――――――――

「アンリのやつ大丈夫か?」

 

 兄さんの部屋を後にしたところで店長さんとモビーさんが私に聞いてきた。私たちの会話にどうやら聞き耳を立てていたらしい。


「うわ、いたの?」

「そりゃあ保護者としては心配だからな」

「それでどうだった?」

「うーん、まあ、大丈夫じゃないかなあ?私の話もちゃんと聞いてたし。そこまで引きずってはないと思う」


 と私なりの答えを2人に伝えた。いや、これは答えというより願望に近いかもしれない。

 兄さんは辛い状況だ。望んでもないのにあの姿に生まれて、そのことで差別されて。これほど酷い話はないと思う。でも、だからこそ兄さんには幸せになって欲しい。どんな形でもいいから兄さんなりの幸せを見つけ出して欲しい。


「ふん!アンリのやつ辛かったら辛いって言えばいいのによ」

「兄さんは溜め込むタイプだからねぇ。それがいつか爆発しないようにガス抜きして欲しくはあるね」

「そうならないように俺たちがアンリの吐口ぐらいにはなってやろうぜなにせ俺たちは…」

「「家族だからでしょ?(だろ?)」」


 私たちの言葉に店長さんは力強く頷いた。


「よぅし、そんじゃ早速開店準備の続きするぞぉ!今夜は週末!忙しくなるぞ!」

「おー!」


 気合の入った掛け声と共に私たち3人は下に降りた。兄さんはもう大丈夫。もし立ち上がれなくなったら私たちがそばにいて、兄さんが自分の足で立ち上がるまで待ってあげればそれで良いとそう信じて。


―――――――――――――――――――――――

「疲れたー…」

「お疲れさん」


 夜が深まり、日を跨いでしばらく経つころ我が酒場は今夜は店じまいとなった。

 週末の夜ということもあって本日は大勢の客足に恵まれ、店内は戦場のようになった。そんな洗浄を俺たち4人はなんとか切り抜けたところである。


「めちゃくちゃグロッキーになってんじゃねぇか。大丈夫か?」

「ちょっとやばいかも〜」


 机に突っ伏した状態でマユが答えた。返事ができてるが燃料切れ寸前といったところだろうか。


「マユはそのまま休みな?掃除は俺たちでやっとくから」

「お願〜い…」


 それから間も無く寝息が耳に届いてきた。ほんとにやばかったんだな。


「お疲れ、マユ。そんじゃモビー、掃除始めんぞ」

 

 寝入るマユに一声かけると俺は彼女と同じく座って休んでいるモビーに向き直った。モビー『おう』と生返事をするだけでそこから動こうとすらしない。

 やけに深刻そうな顔をして顎に手を当て、なにやら考え込んでいるようだ。

 

「コラ!」

「いてぇ!」


 俺はボケーっとしているモビーの脛を蹴り上げた。不意の一撃だったようで俺が予想していたよりもダメージが入ったらしい。


「なにすんだよ!」

「サボってるやつに制裁を加えただけだ」

「別にサボってるわけじゃねぇよ。ちょっと考え事してただけだ」

「何考えてたんだよ?」


 脛をさすりながらサボっていたことを否定するモビーに俺は尋ねた。


「客が言ってたのが聞こえたんだが、どうやらこの町の近くで魔獣が出たって話だ。まだ目撃情報の段階だから確定ってわけじゃないみたいだけどな」

「マジか。最近多いな」


 魔獣。通常魔力を持たない動物たちがなんらかの原因によって魔力を持ち、異形の怪物となった存在。

 人類にとって唯一の天敵であるこいつらは年に1、2度ほどの頻度でこの国に現れていたがここ数年奴らの出現率が徐々に上がっている。


「前も王都のあたりで出たって話だったよな?」

「ああ、その時は勇者がすぐに事に当たったみたいで1人も怪我人が出なかったらしい」

「へぇー。さすが勇者だな」


 勇者というのはギアを操る魔導士の中で頂点に立つ存在で10年毎にその勇者を決める武闘大会が行われ、そこで優勝し、さらに現役の勇者に勝利すると新たに勇者になることができる。


「俺たちと同い年なんだっけ?今の勇者」

「そうらしいな。なんでも史上最年少で勇者になったとか」

「すげーよな。そんな勇者がいるんだし、お前がそこまで思い詰めなくてもいいじゃないか?」

「そうだけどよ…」


 そう言ってモビーは未だ眠りこけているマユに視線を向けた。そして、優しく彼女の頭を撫でた。 


「もしものことを考えるとな…。ちょっと心配になっちまうんだ」

「そっか…」


 この2人はほんと仲が良さそうで羨ましい限りだよ。さっきのマユとの話もあながち遠い話でもないかもな。

 俺は満面の笑みと共に『ドン!』自分の胸を叩いた。


「任せとけって!そのもしものことが起きたら2人のことは俺が守ってやるよ!」

「は〜?お前に守られるほど落ちぶれちゃいないんだが〜?」

「遠慮すんなって。お面1個作るのにバテバテになるほどの“貧弱”体質なんだからよぉ〜」

「お前基準だと大体の人は貧弱になるだろうがこのゴリラめ」

「だとこら!表出るか?」

「ああいいぜ!そろそろお前とは白黒付けねぇと思ってたんだ!」


 いつもの煽り合いからヒートアップし、喧嘩になりかける俺たち。しかし、そんな俺たちを止めたのは…


「うるっさい!」


 我らが最強の妹、マユだった。雷鳴の如く轟く声と共に俺とモビーの頭に拳が振り下ろされた。大の男2人が床に倒された。


「「いってぇ!」」

「もういい歳なんだからいちいち喧嘩するなっていつも言ってるじゃん!」

「「だってコイツが…」」

「はぁ!?」 

「「ごめんなさい」」

 

 俺たちは互いに指を差し合った。しかし、マユ裁判長の前ではそのような弁明は無意味だ。喉の奥から謝罪の言葉を引き摺り出された。


「ははは。この店で最強なのはもしかしたらマユかもしれんな」

「あ、おやっさん」


 厨房からおやっさんが出てきた。どうやら厨房の掃除が終わったらしい。こっちも早いとか終わらせねぇと。


「悪ぃな、おやっさん。こっちもすぐ終わらすからよ」

「いや、アンリには別の仕事を頼みたい」


 立ち上がって掃除を再開しようとした俺をおやっさんは止めた。仕事?こんな時間に?


「仕事?」

「ああそうだ」


 聞き返す俺におやっさんは頷いた。そしてポケットから紙の切れ端を取り出し俺に手渡した。

 見ると、この店の看板メニューであるナナホシドリの唐揚げの材料だった。


「これをどうすればいいんだ?」

「今から王都に行って買ってきて欲しい。でないと今晩は看板メニューなしで店を回さないといけなくなっちまう!」

「えー…いいけど休み増やしてよ?」

「すまんな。帰ってきたら3日休んでいいからな」

「全く人使いが粗いんだから」


 ブツブツと文句を言いつつ俺は2階へ上がって準備することにした。


「兄さん今いい?」


 外出する準備が終わった頃に俺の部屋にマユがやってきた。俺はすぐに部屋に通した。


「どうした?もう掃除はいいのか?」

「うん」


 マユはうかない顔している。どうしたんだ?


「モビーさんから聞いたんだけど…」

「ああ、魔獣のことか」

「大丈夫なの?」

「大丈夫だって!魔獣の1匹や2匹俺の敵じゃない」

「そうだよね…」


 俺は胸を張って答えるがマユの顔はなかなか晴れない。うーん、こういう時はアレかな?


「よし!マユ、いつものやつやるぞ。ほれ指出して」

「え、やだよ。私もうそんな子供じゃ…」

「いいから。ほら、いくぞー」

「あ、ちょっと。もー」


 俺はマユの小指を立たせるとそこに自分の小指を絡めた。 


「よし、それじゃあ、せーの!」

「「ゆびきりげんまん、うそついたらはりせんぼんのーます。ゆびきった」」


 いなくなった父さんから習った、絶対に約束を守るためのおまじないの言葉だ。俺たち兄妹は重要な約束をする度にこれしている。


「これなら、絶対に俺は帰ってくるって信じられるだろ?」

「もー、兄さんはいつまでも子どもだなぁ」

「男はなこんぐらい子どもぽい方がいいんだよ」  


 そうして俺たちは1階へおりた。


「忘れもんはないか?」

「多分大丈夫」

「気をつけて行ってこいよ」

「わかってるて、明日…じゃねぇや。今日の夕方には帰るよ」


  王都に行こうとする俺を3人は見送ろうと外に出てくれた。俺が走れば朝方には着くだろう。


「兄さん!」

「ん?」


 いざ走り出そうとしたところでマユが俺を呼んだ。


「絶対、帰ってきてね!」

「おう!」


 俺はマユの前に小指を掲げて答えた。 


「それじゃ、行ってき…ます!」  


 その言葉と共に地面を強く踏み込むと街の出口に向かって走り出す。そして、あっという間に街の門を置き去りにし街道へ出ると、そこからさらに加速した。

 徐々に温まって行く体がつげている。今日の自分は絶好調だと。この感じなら思ったより早く向こうにつきそうだ。

 夜風に溶け込む感覚の心地よさに身を委ねつつ俺は夜の山を駆け抜けるのだった。


―――――――――――――――――――――――


「行ったな」

「相変わらず速ぇな。もう見えなくなったぞ」


 砂埃だけを残していった兄さんにモビーさんはつぶやいた。兄さんの身体能力は体の成長に沿ってドンドン高くなっている。今の段階でおそらく競走馬よりも速いんじゃないかな?

 そのうち雷よりも早くなってそう。って流石にそれはないか。


「なにはともあれ計画の第一段階は完了というわけだな」

「そうだね」

「はやいとこ第二段階に移りましょうか」


 『計画』というのは兄さんを除いた私たち3人の中で練られたもので、簡単に言えば『今日の兄さんの誕生日をサプライズでお祝いしよう』というものである。

 この国では18歳になると成人と扱われる。そして兄さんも今日で晴れて18歳。立派な大人の仲間入りとなる。そんな兄さんを盛大に祝ってあげようという店長さんの発案である。

 ちなみにこの計画には名前がついているけどここでは伏せさせてもらおう。モビーさんがつけたのだけど、なんというか…マイルドに表現すると私の趣味じゃないというかなんというか、決してダサいというわけではないけど口に出すと恥ずかしいというかなんというか。

 まぁとりあえずこれ以上はやめておこうモビーさんが泣いちゃう。

 

「よし、そんじゃ計画の第二段階、『飾りつけ』を始めよう!」

「「おー!」」

「ッ!!」


 店に入ろうとした瞬間に背筋を氷でなぞられたようなゾクりとした感触が走った。

 なに?今の?


「マユ?どうした?」


 先に店に入ろうとしたモビーさんが立ち止まって、こちらに振り返った。


「ううん!大丈夫だよ!さ、行こ行こ!」

「わかったから、そんな押すなって」


 咄嗟に首を横にふると、モビーさんの背中を押して店の中に入った。

 …。大丈夫だよね?兄さん…。

 空を見上げると三日月がこちらを見下ろしていた。彼が私たちを見守ってくれているのかどうかは私にはわからなかった。

 そんな不穏な気持ちを振り払いきれずに私はパーティの飾り付けをするのだった。

―――――――――――――――――――――――


 町を出てしばらく、俺は現在、王都まで続く街道をただひたすらに走っていた。今はその中間といったところか。この調子なら朝には着けそうだ。

 しかし、昨日の朝から働きっぱなしということもあって流石に眠いな。買い物が終わったら少し寝よう。全くおやっさんは人使いが荒い。帰ったら絶対に抗議しよう。

 おやっさんへ送る抗議文を考えていると、突如として視界が光に包まれた。


「うお!」


 俺は思わず立ち止まった。『ズザザッ』と靴と地面が擦り合う音が砂埃と共に街道に響き渡った。


「な、なんだ?」


 俺は謎の光の原因をさがし、辺りを見渡した。そしてその光の源が自分のお面であることにすぐに気がついた。

 

「ど、どうしたんだ一体?」


 俺はお面を外して手に取った。先ほどより光が小さくなっている。そして、それと同時にお面が消えて行く。


「え、ちょ、おい!」


 突然のことに慌てふためく俺をよそにお面は徐々にその存在を薄くしていき、そしてついに、


「消えた?」


 光の粒子となって霧散した。

 一体何が起きてる?俺は思考を巡られた。このお面はさっきモビーに作ってもらったもの。

 それがどうして消えた?

 モビーから離れすぎたからか?

 でもそんなデメリットがあるなんてアイツ言ってたか?

 俺が頭を回転させて考えていると突然、後ろの方から『ドーン』と何かが爆発したような音と共に地面が大きく揺れた。


「うぉわっ!」


 俺は倒れないようになんとかバランスをとって揺れが落ち着くまで耐えた。幸いにも揺れはすぐに収まり辺りは静かな夜に戻った。


「な、なんだ?地震か?じゃあ最初の爆発はなんだったんだ?」 


 俺は爆発音が聞こえた方に視線をやった。ミルバの方だ。そして迷いなく俺は来た道を全速力で駆け抜けた。自分でも驚くほどスピードが出た。

 大丈夫。あの3人なら。

 マユもモビーも少なくとも俺よりは頭が良い。おやっさんはどんな時も頼りなる。だから大丈夫。

 家に帰ればいつもの日常が待っているはずだ。

 家に帰れば…!

 家に帰れば…!

 家に!

 来た時より半分もかからない時間でミルバに着いた俺の目に飛び込んできたのは、炎だった。

 遠目で見れば日の出か何かと勘違いしてしまうほどに煌々と輝くそれは黒い煙と共に町を包み、建物を蝕んでいた。


「なんだよ…これ…!」


 あまりのことに立ちすくむ俺の耳にあらゆる方向から人の助けを求める声が、悲鳴が飛び込んでくる。

 

「早く、マユ達を助けねぇと!」


 悲鳴で我に返った俺はすぐさま駆け出した。町の外へ逃げようとする人を押しのけ、瓦礫を越えながら家を目指した。すると、


「あ、アンリか!」

「!」


 聞き慣れた声が地面の近くから聞こえた。


「マイズのおっさん!」

「よかった。無事だったのか!」


 声の下方に目をやると夕方に会った、串焼き屋の店主であるおっさんがいた。瓦礫で足がが埋もれてしまい、動けなくなっているらしかった。


「大丈夫かおっさん!?今助ける!」

「た、たのむ!」


 俺は瓦礫をどけるとおっさんの体を引っ張りだした。足は傷でズタズタでひどい状態だった。


「立てそう…なわけねぇよな。おぶるぞおっさん」

「すまん、ありがとう」


 俺はおっさんを背負うと辺りを見渡した。そして、町の人たちが同じ方向に向かって逃げていることに気づいた。


「みんな、どこへ行ってんだ?」

「おそらく、町の外にある川の方だろう。あそこなら火も届かない」

「そうか、じゃあそこに行ってみよう」


 もしかしてらマユ達もそこにいるかもしれない。

 そんな小さな希望を胸に川を目指し始めた俺はおっさんに質問する。


「なぁ、おっさん。一体何が起きたんだ?」

「わからない。いきなりドーンって音がしたかと思ったら次の瞬間には…もう…」

「そうか…」


 俺たちはそれ以上何も喋らなかった。それからしばらく歩き続けて川へ辿り着くと、そこには火の手から逃げてきた人たちで溢れていた。どの人も火傷と煤だらけで、その顔は絶望に染まりきっていた。さらに何かが焦げたような匂いがあたりに立ち込め、地獄絵図となっていた。


「ひでぇ…。いったい誰がこんなことを」


 あまりの惨状に俺は言葉を失った。

 うめく人を避けながらなんとか空いてるスペースを見つけ、そこにおっさんを下ろした。

 

「さっき、包帯してる人がいたからもしかしたら医者がいるのかもしれねぇ。見つけたら治療してもらおう」

「ああ、すまねぇな。ハンネル達のことも心配だろうに…」

「いいんだよ。おっさん。モビーのやつはバカだけどマユは俺に比べてスッゲー頭いいからな。きっとここ目指してやってくるさ」

「ふふ、そこは兄貴に似なくてよかったな」 

「おい、それってどういう…イテッ!」


 おっさんと笑い合う俺の背中に何か硬いものが飛んできた。なんだ石か?

 振り返ると石を投げた張本人であろう男が立っていた。傷だらけで今にも倒れそうな見た目だ。


「おい!いきなり何す…」

「お前のせいだろ!」

「!」


 俺の声を遮るように男が声を張り上げた。周りの人達の視線が俺たちに集まる。

 男はさらに続ける。


「俺は見たんだ!コイツが働いてる店に怪しいやつらが入っていって、そのあとすぐに爆発したんだ!」

「俺の店に!?」


 それじゃあ爆心地は俺の店ってことか!?

 

「おっさん、悪い。ちょっと行ってくる」

「おい、待て!アンリ!町はもう火の海に!」


 走り出そうとする俺の手をおっさんが掴み、引き留めてきた。


「待つんだ!ここで!アイツらならきっとここに来る!さっき自分で言っただろ」

「でもここで動かないと俺は!…俺はあとで絶対自分を殺したくなる…」

「アンリ…」


 そうだ。ここで動かなかったら俺は絶対に後悔する。だから…だからおっさん。今だけは


「行かせてくれ」


 俺はおっさんの手を払いのけると町の方は一気に走り出した。


「まて!アンリ!行くな!」


 引き止めようとするおっさんの声を振り払い、俺は火の海へと飛び込んだ。

 火と煙の勢いは先ほどよりも増しており、煙でよく前が見えなくなっていた。


「クソ!こんな時に!」


 突如として俺は強烈な頭痛に襲われた。ズキズキと痛む頭を抑えながら記憶を頼りに町を進んでいく。

 そして家にたどり着いた。しかし、そこにいつもの家の姿はなく、瓦礫が積み重なっているだけだった。


「っ!」


 さらにひどくなる頭痛を堪え、俺はその瓦礫の山に飛び込んだ。


「マユ!モビー!おやっさん!どこだ!」


 瓦礫をどかしながら3人のことを呼んだ。しかし、返事はない。


「くそ!くそ!くそ!」


 炭化して何かわからなくなったものを投げ捨て、懸命に探し続けるが姿はない。まさか爆発で…。

 最悪なケースを予想している時だった。


「う…う」

「!」


 微かにうめき声が聞こえた。男の声、おそらくモビーだ。俺はそこに駆け込むと必死に瓦礫をどかした。


「誰だ!?モビーか!?今助けるからな!」


 そして、ようやくモビーを引き摺り出すことに成功するが、モビーの体は酷い状態だった。身体中に木片が突き刺さり、目の見える範囲の全てにひどい火傷をしていた。誰が見てもモビーは助かりそうにない…


「あ…アンリか?」

「モビー…もう大丈夫だからな!だから今はあまり…」


 言いかけたところでモビーは自分を抱き抱える俺の手を掴んだ。

 

「いいから…聞いてくれ…」

「ッ!」


 絶え絶えとなっている息遣いがもうモビーに残された時間がないことを示していた。そんな中でもモビーは口を開く。


「俺たちの…家をこんなにしたのは…ゆ…勇者だ。理由はわかんねぇけど…お、お前を探してるらしい…」

「は?」

「なんとか…抵抗しようと思ったんだけどな…何もできなかった…」


 モビーの手にはギアで作ったものであろう剣が握られていた。しかし、刃こぼれ一つないところを見ると抵抗する間も無く…

 でも、勇者がなんで俺を?俺がイビレンターだからか?

 思考がまとまらない。止まることのない謎に俺の頭は頭痛と共に混乱していく。


「モビー…マユは、マユはどこだ!?」


 俺はモビーに訴えかけるようにマユのことを聞いた。そしてモビーは静かに指を指した。

 俺はそこに目を向けた。そして混乱した頭が一気に真っ白になる。

 いや。それはねぇよ…モビー。

 だって()()は俺がさっき投げ捨てた…瓦礫じゃ…

 恐る恐る歩み寄ってようやくそれの全貌がわかった。先ほどまでは必死で気づかなかったが。よく見れば人の原型をわずかに残している。

 そして、決定的なものを見つけてしまう。

 人の形をしたモノの左手の薬指。そこには指輪があった。

 四葉のクローバーの形をした指輪。それは今年の春にモビーがマユに送ったもの。それはその物体がマユだったと証明するには充分すぎるものだった。


「あ、ああ…」

 

 声が出ない。

 息が吸えない。

 肺を押しつぶすように黒い感情が大きくなっていく。

 さらに頭痛が酷くなる。


「店長なら向こうだ…咄嗟に…マユが花で包んでたから多分生きてると思う…俺もマユが守ってくれたからなんとか…」

「おやっさん…」


 おやっさんは生きてるかもしれない。でもマユは…マユは!


「自分のことより周りを守るなんてよ…ほんとすげぇやつだよ。マユは…それに比べて俺は…」

「!」


 そこでモビーは大粒の涙をこぼした。


「好きな女1人も守れねぇ…!ゴホッ、ゴブ!」


 絞り出したような声と共にモビーは大量の血を吐いた。もう時間がない…俺は泣きながらモビーを向こうに行かせまいと強く抱きしめた。

 

「なぁ、アンリ…」 

「なんだ?」


 消えそうな声でモビーは俺に言葉をかける。


「お前は…幸せになれよ…キレイな嫁さん見つけて…子供もたくさん作って…店長に孫の顔見せてやれ…」

「ああ…」


 頷くしかなかった。最後かもしれないモビーの言葉を俺は強く胸に刻む。


「お前は…無理だと…思ってるかもしれないけどな…世界って広いんだぜ?だから絶対にいる…お前を心から愛してくれる人が…」

「うん…うん…」

「へへ…ほんとにわかってんのか?この泣き虫野郎が…」

「わかってる…わかってるからもう…!」

「じゃあな…親友…」


 その言葉を最後にモビーの体から力がなくなった。だらりと垂れ下がった手を握り、モビーに呼びかけた


「おい?モビー?」

 

 返事はない。頭痛が増す。


「嘘だろ…?なぁ…?なぁって!」


 返事はない。頭痛が…


「くっうううう…」


 モビーが、マユが死んだ。俺はモビーの体を強く抱きしめた。

 なんでこいつら死ななきゃいけないんだよ。なんで…なんで、なんで!

 ドス黒い感情同士が胸の中で互いにぶつかり合い、膨れ上がる。そして、臨界点を超えた。


「うわあああああああああああああ!!!」


 怒り、憎しみ、悲しみ、その全てが爆発する。

 脳裏にマユ達の思い出がよぎる。楽しいこともした。喧嘩もした。悲しいことだってあった。でもその全てが俺にとっての宝物で…


「ぐ、ああああああああああああ!!!」


 そしてそれらが更なる燃料となり爆発は迫り来る炎と煙を消し飛ばしさらに大きくなる。

 目の前の景色から色がなくなり、黒く染まって行く。

 そして気がつくと、頭痛が消え、妙にすっきりとした気分になった。まるで生まれ変わったようなそんな感覚。


「マユ、モビーちょっとこれ借りてくぞ?あとついでに(コイツ)も」

 

 俺は2人から指輪を外し、剣を手に取った。


「大丈夫。すぐ返すから」


 そう言って俺は立ち上がると辺りを見渡した。そして一輪の黄色い花を見つけた。


「この下か」

 

 瓦礫をどかすとそこには大量の花に包まれたおやっさんがいた。酷い火傷をおってはいるが気を失っているだけのようだ。すぐに避難所へ連れて行こう。もちろん、マユもモビーも。

 俺は3人を抱えると家をあとにした。

 …ごめん、モビー。約束、守れそうにないかも…。

―――――――――――――――――――――――


「とりあえずこれで終わりです。すみません。今薬だのなんだのが足りなくて応急処置程度ですが」

「いえいえ、ありがとうございます」

 

 アンリが街に戻ってしばらく、避難所で医者から治療を受けた俺はアンリの帰りを待っていた。

 避難所はケガ人で溢れていた。動ける者が医者の手伝いをしているが明らかに人手が足りない。状況は絶望的だ。


(どうしてこんなことに…)


 俺は先ほどの男の発言を思い返した。聞けばアンリの家に怪しい奴が入ったところを見たと言っていたが、一体誰なんだ?強盗なのか?それとも…


「おっさん」

「!」


 考えている俺の耳に聞き慣れた声が届いた。俺はそちらへ目を向けると目を疑った。

 モビーくんとハンネルを抱えていることからアンリであることはわかるのだが、その姿が大きく変わっている。

 きれいなえんじ色だった髪と目は墨のように黒く染まり、顔の左側にあるあざも心なしかさらに大きくなっている気がする…。

 

「戻ったのか!?よかった…その2人は…」

「おやっさんはひどい火傷だけど気を失ってるみたいだ。モビーとマユは死んだ」

「え」


 俺は絶句した。あの2人が死んでしまったことに。姪や甥のように思っていた、あの子達が。しかしモビーくんの姿はあるが、マユちゃんの姿はない。

 そこで俺はアンリが抱える、黒い塊のようなものに目がついた。ま、まさか…


「まさか、それって…」

「ああ、マユだよ」


 かける言葉が見つからない。一度に妹と親友を失ったアンリを見て俺は必死に言葉を探した。しかしどの言葉もアンリを助けることはできない。


「なぁ、おっさん頼みがあるんだけど」

「なんだ?」


 思考を巡らせる俺にアンリは問いかけた。


「おやっさん達のこと…頼めるか?俺ちょっと行かなきゃいけないんだ」

「それはいいが、どこに?」

「勇者のところ」

「は?」


 今、勇者って言ったのか?この火事も勇者の仕業ってことか?でも、なぜ?

 俺の返事も聞かずにアンリは近くの木の枝に飛び乗った。


「アイツらはどこだ?…そうか、向こうか」

「おい!アンリ!まさか、お前…」

「おっさん」

「!?」


 叫ぶ俺にアンリは振り返り、微笑む。そして、


「今までありがとう。じゃあな」

「ッ!」

 

 それだけ言い残して森の方へ飛んで行った。


「待て!アンリ!行ったらダメだ!」


 俺の悲痛な叫びはただ、森の中に消えて行くだけだった。


―――――――――――――――――――――――

 ミルバの外れの森の中。そこに1人の魔導士がいた。白衣装に身を包み、肩まで伸びた金色の髪が月明かりに照らされ、きらきらと輝きを放っていた。名をヒイロ・デルフィニウム。この世界に5人しかいない最強の魔導士に送られる勇者の称号を持つ1人である。

 そんな彼は事の顛末をカタル教の教祖へ報告しに王都へ帰る途中であった。

 

(イビレンターはあの町にはいなかったか…)


 ヒイロは立ち止まると自身が先ほど焼いたミルバの町を見た。彼が町にいた時よりも炎の勢いが増し、煌々と燃え上がる炎は火の粉と黒煙を天に向かって伸ばしていた。

 ヒイロはその様子を眺め、深く息を吐いた。その表情にはわずかな後悔と哀愁が見てとれた。しかし、その表情はすぐに険しいものへと変わった。彼の魔力感知にとてつもない量の魔力が引っかかったためである。


(ッ!なんだこの魔力は!凄まじい量だ…これじゃあの人とほぼ同じ…)


 ヒイロの脳裏にある魔導士の顔が頭に浮かんだ。最強の魔導士に送られる称号である勇者。しかし、魔導士の中には勇者の立場に興味のない者も存在する。その筆頭がヒイロ達魔道士を管理する国際機関、『魔導局』の局長である、リザ・サルビア・レオナルドである。『武闘大会に出場した魔導士の中での最強が勇者なら真の最強はリザだ』と全ての魔導士は言う。そんな最強の魔導士の魔力量に匹敵する存在が突如としてミルバに現れた。


(まさか、リザさんか?いや…!)


 リザとは全く違う重く、禍々しい魔力を前にヒイロはすぐにその考えを取っ払った。そして、


「来る…!」


 そう呟いた瞬間にまるで隕石のように『ドーン』という轟音と共に何かがヒイロの前に着陸した。巻き上がった砂埃によってその姿は見えないがヒイロの魔力感知が目の前の人物が先ほどの魔力を放った人物と同一の存在であることを告げていた。

 

「!」


 砂埃の中で何かがキラリと光ったと同時に剣を構えた男が飛び出し黒髪をなびかせながらヒイロに切り掛かった。ヒイロはそれを容易く躱すと男と距離を取り自身も剣を抜いた。人類の希望とも言える。勇者には似合わない、墨をかけたような黒い刀身が男に向けられた。


「何者だ。貴様」


 ヒイロが男に尋ねた。男は静かに答えた。


「アンリ・アンブローズ…見ての通り悪魔だよ」

「お前が…?」


 ヒイロはアンリと名乗った目の前の男を観察した。確かに男の顔の左側には他のイビレンターと同じく黒いあざが見て取れる。そして、先ほどの落下の衝撃に耐えるほどの強靭な肉体…ここまではヒイロの知るイビレンターの特徴と一致する。しかし、ただ一点イビレンターの特徴に当てはまらないものがアンリにはあった。


「嘘をつくな。貴様がイビレンターというのならなぜ魔力を持っている?」

「やっぱりこれが魔力ってやつか…どうりでお前の居場所もなぜかわかったわけだ」

(こいつすでに魔力感知を!)

「どうして俺が魔力を持てたのかはわかんねぇよ。でもこの力があればお前を殺せる…!」


 ドンッという音と共にアンリは魔力を解き放った。それはまるで黒い炎のように見えた。


(これほどの魔力…ここでこの男を殺さないとこの国最大の脅威になりかねない!)


 ヒイロは剣と全身に魔力を張り巡らせるとその魔力は電気のようにバチバチッと音を上げ始めた。ヒイロがギアを使い魔法を発動させたためである。

 ヒイロはギアによって自身の魔力を元とし雷を生み出し、操ることができる。


「はぁ!」


 剣を構えたヒイロがアンリに飛びかかり、その剣を振り下ろした。アンリは咄嗟にそれを自身の剣で受け止めた。ギャリィンッと金属同士がぶつかり合う音と凄まじい衝撃波があたりに響いた。そして、2人はそのまま鍔迫り合いとなる。その迫り合いを制したのは…アンリだった。


「オラ!」

「!」


 アンリはヒイロを容易く押し返すとガラ空きとなったヒイロの胴に拳を叩き込んだ。

 アンリの拳をまともに食らったヒイロは大きく後方は吹っ飛んだがすぐに地面に降り立ち、体制を整えた。


(硬ぇな。まるで鉄の塊をぶん殴ったみてぇだ…)


 アンリはヒイロを殴った拳からヒイロ自体に視線を移した。ヒイロは余裕そうに服についた埃を払っていた。


(チッ余裕そうにピンピンしやがって。今のが魔力操作の身体強化ってやつか)


 魔導士は魔力を操作し、体に魔力を纏わせることで身体能力を強化し、打撃力だけでなく、防御力も上昇させることができる。ヒイロはそれを利用してアンリからのダメージを抑えたのである。

 一通り払い終わったのかヒイロは再度、剣を振り上げるとアンリに突っ込んできた。


「!」


 アンリはまたも剣撃が来ると考え、剣を頭上に構えた。しかし、ヒイロはアンリの目の前で身を翻した。


「剣に意識が向きすぎだ」


 そう言ってヒイロはお返しと言わんばかりにアンリの胴に肘打ちを打ち込んだ。


(フェイント!?)

「ガッ!」


 肘打ちの衝撃でアンリの呼吸が一瞬止まり、さらに追い討ちにヒイロが纏っていた雷による電撃がアンリを襲った。今までに感じたことないような痛みがアンリの全身を突き抜けた。

 

「ぐ…オラァ!」


 負けじとアンリも剣をヒイロに向け振り下ろしたがその斬撃は空を切り、ヒイロには届かなかった。

 ヒイロは大きく後方へ飛び再度アンリとの距離をとった。


(クソ、やっぱ小手先の技術じゃ向こうのほうが上か…) 


 アンリは勇者であるヒイロとの実力の差を痛感した。剣術、魔力操作、体術…そのどれをとってもアンリの遥か上にある。 

 しかし、パワーやスピードと言った素の身体旅行ではアンリの方が上であるため勝機がないわけではない。


(どうにかしてアイツが身体強化をしていないタイミングに俺の攻撃を…)


 そこまで考えてアンリは頭をふり、すぐにその考えを捨てた。


(いや、もっと確実な方法があるじゃねえか)


 アンリは剣を構え、今にも飛びかかってきそうなヒイロに視線を落とした。


(この戦いの中で身体強化を身につけて、あいつをぶん殴る!)


 身体強化は基本的に術者の技術力に依存する。そのため、技術力さえ高ければ女性であってもイビレンター以上の身体能力を得ることは可能である。しかし、魔力操作技術がなくてもある程度は術者の身体能力は強化できる。そのため、現段階でヒイロのパワーを上回るアンリであれば身体強化を使用すればヒイロに大ダメージを与えることができる…かもしれない。アンリはその可能性に賭けることにしたのだ。


(まずは奴の戦い方を観察する…そんな悠長なことしてる暇はないかもしれないけど今俺にやれることはそれしかない!)


 アンリは剣を構えると同時にヒイロに飛びかかった。そして、ヒイロの頭上よりも高い頭で飛び上がるとそのまま剣を振り下ろした。

 対してヒイロは自身の剣を絶妙な角度でアンリの剣撃に合わせた。アンリの剣がまるで氷の上を滑るようにいなされると、ヒイロは拳を強く握りアンリの顔面にその拳を叩きつけた。


「ぐっ!」


 しかしアンリは怯まない。殴られた状態のまま、アンリは魔力を放出するとヒイロの胴体を殴りつけた。


(クソ!違う!)


 先ほどに比べればある程度の手応えは感じるもののヒイロのそれとは明らかに違う…しかし、アンリは止まることなく拳を振るう。

 技術も何もない。ただ力任せの拳に魔力を流しこみ、ヒイロを殴る。しかし、そのほとんどは容易くいなされてしまう。そんな中、連打の中の一発がヒイロの懐に滑り込んだ。

 辺りに響いたバギィッという音は明らかに今までとは全く違う手応えであるとアンリに告げていた。


(今の!?)


 自分が描いていた理想に最も近い手応えにアンリの顔に輝きが生まれた。対して、ヒイロはここへ来て初めて痛みで顔を歪めた。そこにアンリは更なる連打を叩き込む。

 ヒイロは先ほどと同じく降りかかる拳の雨をいなしていくが、さらに雨足を強めたそれをかわしきれず何発かまともに受けてしまうが先ほどのようなダメージはなかった。


(クソ!違う…あと少し、あと少しで掴めそうなのに!)


 机の下に落ちた物を足で取ろうと足を伸ばすがあと少しのところで届かない…そんなもどかしさがアンリに焦りを与え、やがてそれは苛立ちへと変わった。

 焦りや苛立ちは時にそれは致命的な隙を生む。

 

「オラァ!」


 アンリの大振りの一撃をヒイロは雷を身体中に纏い高速で移動することでそれをかわした。そして、それだけに飽き足らず、アンリの視界からも消えた。

 

「!ど、どこに行った!?」


 アンリの魔力感知はまだ完璧とは言えない。ヒイロのように相手に高速で動かれると検知することはできない。そのためヒイロに一手、遅れをとることとなった。


「こっちだ。マヌケ」

「!」


 アンリの後方へ出現したヒイロの剣は青白い光を放ちながらバチバチと連続した破裂音を響かせていた。

 そして、それをアンリに向け振り抜いた。


「しまっ…!」

雷刃(トール)


 横一閃に振り抜かれたそれはアンリの体を引き裂くだけでなく雷による追い討ちがアンリを襲った。あまりの光の強さに周囲は昼間のように明るくなり、アンリはその光の中に消えた。

 光が収まり、徐々に視界が鮮明になって行くとその結末が見えてきた。勇者ヒイロの一撃を受けたもののアンリはかろうじて生きていた。しかし立っているのがやっとであり、もはや意識のほとんどを失っているように見えた。

 しかし無慈悲にもそんなアンリにトドメを刺そうとヒイロが近づいた。高々と頭上に剣を振り上げるとそれをアンリに向かって振り下ろした。


「死ね…!」


 ガシッ!


「なに!」


 ヒイロのトドメの一撃をアンリは彼の腕を受け止めることでそれを防いだ。


「貴様…ッ!」


 ヒイロはアンリの腕を振り解こうとしたが、その腕は万力にでもかけられたようにぴくりとも動かなかった。そしてその力はドンドン強まっていき、骨からミシミシと嫌な音が聞こえ始めた。


(コイツ!どこからこんな力が…!)


 あまりの痛みにヒイロが顔を歪めているとアンリのもう一方の拳が動くのが見えた。そこには大量の魔力が溜まっているのが見えた。

 先ほどとは明らかに違う雰囲気を纏う拳がそこにはあった。


「!」


 ヒイロが回避行動をやるよりも速く、驚くよりも速くアンリの拳がヒイロの胴体にめり込んだ。

 避けられないと判断したヒイロは自身の胴に魔力を集中させたがそれでも衝撃を抑えきれない。アンリが拳を振り抜くとヒイロの体は力なく吹っ飛んだ。

 しばらく地面をゴロゴロと転がり仰向けに停止すると、ヨロヨロとなんとか立ち上がった。しかし、喉の奥から迫り上がってくるものを感じた。ヒイロは吐き出すまいとグッとこらえるが抑えきれず吐き出してしまう。それは大きな血の塊だった。

 夥しい量の血を吐き出したことで足の力が抜け、膝から崩れ落ちて四つん這いの状態となった。息も荒くなり、もはや次のアンリの攻撃を受け止められるかも怪しい。


(今のは…間違いない…身体強化だ…あの男こんな短時間で…)


 身体強化はそこまで習得が難しい技術ではない。魔導士が扱う魔力操作技術の初歩に当たるものである。そのため適切な教育を受けられれば2ヶ月ほどで習得できる。しかし、目の前の男は魔力を手に入れてものの数十分で、さらには教官も教科書もないなかでそれをやってのけたのだ。

 

「なるほどなァ…やっと掴めたぞ」

「!」


 今の今まで黙っていたアンリがようやく口を開いた。その声色は先ほど大技を食らったとは思えないほど生き生きとし、目は獲物を睨みつける猛獣のようにギラつきナイフのような冷たい鋭さを宿していた


「お前のあの魔法を受けたおかげだよ!お前の雷が俺の体の奥を駆け抜ける感覚がまさしく俺の理想に最も近い感覚だった!だからお前にぶっ殺されそうになった瞬間に一か八か再現したら見事に完成したってわけよ!」  


(コイツ…急にどうしたんだ?饒舌になりやがって…)


 アンリの体はヒイロの魔法を受けたことで痛みを和らげようとアドレナリンを過剰に分泌した。その結果、アンリは興奮状態となり、体のパフォーマンスが著しく上昇した。所謂ハイの状態である。

 

「さらに身体強化(それ)だけじゃねェぞ…」

「!」


 そう言うとアンリは剣を構えた。それは見たヒイロは何とか立ち上がり、身構えた。


(何をするつもりだ)


 するとアンリは自身の剣に魔力を纏わせた。黒い炎のような不気味な魔力が剣にまとわりつき、アンリの剣は黒色の輝きを放った。そして…


(まさか!)

魔刃(トール)!!」

「クッ!」


 ヒイロの技と同じものをアンリは放った。黒い魔力の塊がヒイロに迫るが、それは明後日の方向へ向かった。

 ヒイロから逸れたアンリの魔力は森の木々をバキバキッとけたたましい音と共に薙ぎ倒していき、そしてドゴーンッと轟音をたてて爆発した。その衝撃で地面が大きく揺れたがヒイロは驚きのあまりそれに気づかなかった。


(こ、こいつ俺の魔法を…!)

「ありゃ?外しちまった…結構難しいな」


 アンリは自分の剣を不思議そうに眺めた。そして、驚きのあまり硬直しているヒイロに視線を落とした。


「ま、いっか。雷までは流石に再現できなかったが武器に魔力を纏わせるのはできたわけだしな」


 そして、深く息を吐くとアンリは剣先と共に覚悟を決めた視線をヒイロに向けた。


「さぁ、勇者様。第二ラウンドと行こうぜ。今度こそぶっ殺してやる」


 一方ヒイロは指数関数的に強くなっていくアンリに恐怖を覚えていた。それと同時にアンリのことを世界の脅威と認識を改め、決意を固めた。


「それはこちらの台詞だ。悪魔。これ以上の脅威になる前にお前は俺が祓う」


 お互いに剣を構えると、2人は察する。『次の一撃で全てが決まる』と。


「「はあ!!」」


 2人はほぼ同時に魔力を高めた。次の一撃に全てをかけるためである。勝つのは悪魔か勇者か、復讐に燃える焔か、それとも使命に燃える炎か、これで決まる。


「行くぞッ!!」


 先に飛び出したのはアンリだった。ありったけの魔力を剣に注ぎ込み、剣を頭上に振り上げながらヒイロに突っ込んでいく。

 対してヒイロはさらに魔力を高めていた。先ほどの魔法よりもさらに上位ものでアンリを迎え撃つためである。そして振り上げられたアンリの剣に合わせるように魔法を放った。ミルバを焼いた魔法である。


雷神の戦鎚(ミョルニル)!」


 しかし、アンリはヒイロの目の前で身を翻した。


「なっ…」

「剣に意識が向きすぎだ」


 ガラ空きとなったヒイロの胴にアンリの肘打ちが刺さった。強烈な衝撃によりヒイロの意識が一瞬手放された。1秒にも満たなかったが、今のアンリにはそれで十分すぎるものだった。


(この距離なら外さねぇ!!)


 そして剣に溜め込んだありったけの魔力をヒイロに解き放った。


魔刃(トール)ッ!!」


 巨大な黒い魔力の塊が魔法ごとヒイロの体を飲み込むとヒイロを吹っ飛ばした。その勢いのまま森の木々に激突するがその勢いは止まらない。飛んでいく方向にある木を薙ぎ倒し、岩を破壊した。そして、しばらく飛んで行った先にあった巨大な岩に激突し、その表面に大きな亀裂を走らせたことで、ようやくヒイロは止まった。

 音が止んだことでヒイロが止まったことを確信したアンリはヒイロが飛んで行った方向へ歩を進めた。トドメを刺すためである。

 最初にいた場所からかなり離れた場所にヒイロは倒れていた。

 ヒイロは気を失っているようで、うつ伏せの状態からぴくりとも動いていなかった。そんなヒイロのそばに立つとアンリは彼の首を切り飛ばそうと剣を振り上げた。


「じゃあな勇者様。先に地獄(向こう)で待ってろ」


 剣を振り下ろそうとした瞬間、アンリの足元にヒイロの手が伸び、アンリの足を掴んだ。


「な!てめぇまだ動け…」

「俺は…勇者…!祖国ガルシアを守る者…!」


 足を掴んだまま、ヒイロは顔を上げ、アンリを睨みつけた。あまりの気迫にアンリは気圧されてしまった。そんなヒイロを振り払おうと足を激しく動かすがヒイロは離れない。

 すると、緋色の体がバチバチと音を立て、青白く輝き始めた。とてつもない魔力がヒイロの体の中心に集まっていくの感じたアンリは彼が何をするのかを察した。


「ッ!まさかお前自爆するつもりか!」

「悪いがお前も一緒に来てもらうぞ…」

「離せッ!」


 ヒイロの体がさらに強く光り始めた。そして…


「我が命をガルシアのために捧げん!!」

「!!」

雷神の戦鎚(ミョルニル)!」


 ヒイロとアンリが鮮烈な光の中に飲み込まれた。しかし、その光はすぐに小さくなり、消えた。光が収まると、その理由がわかった。


「…」


 アンリの剣がヒイロの背中に深々と刺さっていた。ヒイロが魔法を発動するよりも速く、アンリが彼の心臓を潰したのだ。

 アンリはヒイロの背中から剣を引き抜くと剣にべったりとついた血を払った。そして、再度、ヒイロの首を切り落とそうと彼の遺体に向き直った。


(まさかこの国を守るために自爆しようとするとは…その想いをなんでミルバの人達に向けなかったんだ…)


 アンリは未だ自分の足を掴んでいるヒイロの手を解いた。


「ヒイロ…お前は嫌な奴だけど、その心意気だけは尊敬するよ…お前こそが真の勇者だ」


 そう言ってアンリは剣を振り上げた。


「ごめん」


 アンリは剣を振り下ろしヒイロの首を切り飛ばした。体から解き放たれた頭がゴロゴロと転がり止まった。勇者ヒイロの死亡が確定した瞬間である。

 

「終わった…」


 大きく息を吐きながらアンリは呟いた。するとアンリの剣が光り輝き始めた。そして、光の粒子となって霧のように消えた。


「ありがとうモビー。最後まで俺はお前に助けられっぱなしだったな…」


 そう言って空を見上げているとアンリの視界に光が差した。見ると、東の空から日が登り始めていた。

 10月4日。アンリ・アンブローズの誕生日であるこの日をもってアンリは人ではなくなった。

 

 どうも初めまして。物書男ものかきおとこと申します。まず、この作品を読んでいただいてありがとうございます!初めてこういった小説を書いたので読みにくい部分もあったことと思います。そういったところは遠慮なく指摘してください。できるだけすぐ直します。

 私自身も一応、読み直して手直し等は行なっているのですが自分でも気づかなかった箇所もあると思いますのでよろしくお願いします。また、作品に関しての感想、質問(ここの描写に関してもっと説明して欲しいなど)等も受け付けておりますので今後ともよろしくお願いします。

 また、この物語は今後書く本編の前日譚となっています。その本編は下まで書き切ってから別のシリーズとしてまとめようと思います。

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