悪役令嬢を運命づけられたお嬢様には温泉につかってゆっくりして頂きます、いつまでも
湯浴みするお嬢様のお世話を出来る日がまた来たこと、このセバス、本当に幸せ者です。
しなやかな手脚、細やかな肌、出るところはそれほどでもなく、引っ込むべきところもそうではなく、まさに寸胴、幼児体型。将来は絶世の美女と謳われること間違いなしの美貌をお持ちですが、いかんせん今は小さく。
それゆえ殿方が今のお嬢様に欲情を抱けばなんのかんのと理由を付けられ左遷、一生ここには戻ってこられないでしょう。
ですので、今、お嬢様のお美しさを間近で楽しめるのはこのセバスのみ。
「しっかり洗ってくれないかしら」
いら立った声でお嬢様がお叱りになる。
熱気で上気した頬を膨らませてプリプリするお顔もお美しい。
地中から湧き出る熱水を常に溜め置き入浴の場とする――いわゆる『温泉』が侯爵家領の一角にあるのはひとえにお嬢様のため。
王太子の許嫁であるお嬢様はこれから数年後、田舎出のパッとしない娘に王太子を寝折られます。その上それを舞踏会で暴露する前に悪役令嬢へレッテルを貼られギロチンの露となってしまいます。
そんな過酷な運命を持つお嬢様が安らげる場所として、あらゆる手を尽くして『温泉』を準備した訳で。
突然、湯船に腰掛けていたお嬢様の体がビクンと跳ねました。
そして、急に辺りを見回し、ここが10歳の時の自分専用の温泉と分かるとホッと胸をなで下ろします。
その動きで確信しました。〝10年後〟のお嬢様が戻ってきたのだと。
「え、と、セバス? 私、夢を見てましたわ」
そう言ってお嬢様は口をつぐみます。体験してきた10年を整理してるのですね、混乱しているお嬢様もかわいいっ。
じっと見てますとお嬢様は意を決したように口を開き、
「王太子って、その、セバスのように胸が豊かな女性がお好みなのかしら?」
そして顔を赤らめながら俯きます。
あー、もー、かーわーいー。このセバスが魔物でしたらこの場で丸呑みにしてるところでした。むしろ出来ないのが悔しい。
「お嬢様にはお嬢様の長所がございます。それは一番近くで仕えているこのセバスがよく存じております」
「そう、よね。ありがとう、セバス!」
抱きついてくるお嬢様の体はとても柔らかい。
どうぞ、このセバスを頼って下さい。
これからの10年、このセバス、ずっとお嬢様と共におります。
そしてまた、この『温泉』にお戻りになり、不幸だった未来を洗い流して下さい。
ああ、愛しいお嬢様!
永遠に、この10年を繰り返しましょう――。
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この作品はギャグ物ですが、シリアス物も書いています。
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残り1話(全51話)で完結の予定です。
(https://ncode.syosetu.com/n1075if/)