島の探索1
島での新しい生活が始まった。お寝坊から始まったけど、朝ごはんをいっぱい食べて、私のお腹の音で起きたライラ様も眠気が飛んだと言って一緒に起きてくれたので結果オーライと言うことで。
「でもほんとに寝なくて大丈夫ですか?」
「くどいぞ。私が大丈夫と言ったのだから大丈夫だ。そもそも、別に私は毎日寝なくても平気だしな」
「そう言ってましたけど、でも、実際に毎日寝てるじゃないですか」
「お前も生きるのに必要がなくても、毎日おやつを食べているだろう?」
「はっ……なるほど。完全に理解しました」
起きてくれて今日は一日ライラ様と一緒と言うことで嬉しいけど、無理させてるなら申し訳なかったのだけど、なるほど。そう言う感覚だったのか。ライラ様がよく寝るのは完全にお菓子感覚だったのか。それならまあ、本人がいいならいいか。
と、いう訳で、お家の中は昨日一通り見ているので、ライラ様とぶーらぶらお出かけすることにした。
以前であればもうお店で仕事をしている頃だけど、今日のところはこの島の探索がお仕事だ。いざいかん! 未知の冒険へ!
「おー、改めて見ても、ほんと、いい景色ですねぇ」
扉を開けて、目の前に広がるのは白い砂浜、青い海、上に広がるのは透けるような夏の空。はっとするほど絵になる、まさに南国のビーチ。ここが家だなんて信じられないくらいだ。
「お前は本当に海が好きだな」
「はい。いいですよね」
「まあ、森の中よりは解放感もある。お前に影響されたな」
私は山も森も好きだけど、まあ、海はいいよね! 海好き!
振り向くとライラ様は私の後ろで保護者顔で微笑んでいた。ママ味を感じる。きゅんとしちゃうね。
「ライラ様、手、繋いでいきませんか?」
「うむ。いいぞ」
手を出して小首をかしげてお願いすると、ライラ様はにっこり笑って握ってくれた。にっこり顔を見合わせてから、玄関を出る。マドル先輩に見送られて私たちは砂浜に出る。昨日も歩いたけど、普通の地面と違って歩き心地が違って面白い。
海まで少し遠いけど、近すぎても水害が恐いし、こんなものなのだろう。安全対策ばっちりだね。
そうしてついに波打ち際にまで来た。実はすでに私より先に朝食を終えていたイブとネルさんはとっくに家を飛び出し、膝くらいまで海につかってきゃっきゃしている。なのではいっても安全なのは見てわかるけど、今は探検中なので、慎重に観察してみることにした。
「白い砂浜が透けて見えそうな、綺麗な水ですね」
「ああ。ここならお前が裸足で遊んでも大丈夫だろう? 存分に走り回っていいぞ」
「う……きょ、今日は大丈夫です。探検を続けましょう」
子供みたいに言われてしまってとっさに否定したくなったけど、いやでも、この砂浜走り回って海に向かうとか普通に大人でも楽しいでしょそんなの。って感じなので言葉を濁した。
「水の透明度が高いから危険そうなものもないし、小魚がちらほら見えるので水質的にも安全そうですし、海はいいですね。向こうに行きましょう」
と言うことでライラ様の腕をひいて砂浜から離れ、家の裏へ向かった。家の裏手は昨日裏口を開けてちらっと見せてもらったけど、畑になっている。
建物の裏は広く整地されていて、さっきまでの景色と違って奥に森が広がる明るい景色だ。建物とその周りの木々で直接的な潮風が防がれているのもあって、一気に森のど真ん中にいるような景色に様変わりだ。そのさらに遠くには山も見えるし、本当に立地条件がよすぎる。
今日もマドル先輩の一人がせっせと世話をしつつさらなる開拓を続けている。かなり広い範囲に柵があるのだけど、その内側を全部畑にするつもりなのだろう。
確かに家庭菜園は一緒に教えてもらったりしたけど、マドル先輩、いつの間にこんな本格的な畑を自分でつくれるように。
「マドル先輩、一から畑をつくられてすでにすごいですけど、この柵の中全部畑にするんですか? 結構な広さですけど」
「ひとまずはそうです。いずれはもっと広げたいですが」
「えっ、そんなに畑をつくるんですか?」
「様々な食材を作る以上、できあがる季節が異なりますから」
こんなに広い畑をつくって、農業でも始めるのかと思っていたけど、色んな種類をつくるためだったのか。なるほど! それなら確かに私たちが食べるためだけでも、たくさんの畑が必要になるのか。
少しだけど向こうで育てていた家庭菜園の分もさっそく広い場所に移し替えてくれているみたいで、少し離れて種類ごとに小さな看板まで立てている。本格的だなぁ。
「そう言われたら確かにそうですね。一年中新鮮なものを食べようと思えばそうなりますか」
「そうなりますね。いずれは果樹園もつくりたいですね」
「えっ! めっちゃいいじゃないですか!」
まさかそこまでの野望がマドル先輩にあったとは! 畑で生活の足しにするだけではなく、まさかの果樹園! ゆ、夢が広がる! プライベート果樹園、いちご狩りとかし放題。
えー、いいじゃないですかー?
「果樹園な……悪くはないが、島のなかで自生しているものはあったのか?」
「木苺などはありましたが、市場に出回っているものには劣りますので、いずれ買い付ける必要がありますね。いずれにせよ今すぐではありませんので、よい交易先を見つけてからになります。ライラ様の手を借りないようにするならば、擬装用の大きな船を手に入れてからになります」
「ふむ。そうか」
「え? あ、そう言うことですか!?」
ひたすらわくわくしてテンションがあがる私とは逆に、ライラ様が真面目な顔でそう問いかけて、マドル先輩はよどみなく答えた。
その内容に一瞬わからなかったのだけど、ライラ様が頷いたのを見てから遅れてはっと気づいた。
私たちがここまで来た船もそこそこ大きなものだったけど、ネルさんがいるので実はそこまで余裕のある大きさではない。だけどたとえネルさんがいなくても、遠く離れたここまで一気に来れるほどの大きさではないはずだ。
まして木とか大きな荷物をたくさん運ぶとなると、もっともっと大きな船が必要になる。実際にはぎりぎりそれだけ乗せられるならライラ様が移動させてくれるけど、それは秘密な以上、客観的に違和感がない程度大きな船が必要になるんだ。
もちろんそれだけお金がかかる。船がないなら、怪しまれないようあくまで陸で買い物したと見せかけて、こっそり夜にライラ様が運ぶしかないんだ。昼間の船だとどうしたって見られるから、ぎりぎりだと怪しまれるんだ。
「いや、でもすぐの話じゃないんですもんね。私もお金になるようなもの、考えてみますね。そうやって大きい船を買えればライラ様の負担も少ないわけですし、頑張りましょう!」
「では私と一緒に服作りをするのがいいかと思います。エスト様の知識をお金にするのはそれが一番かと」
「あっ、いいですね!」
「おい待て。エスト、お前、何か勘違いをしていないか?」
「え? なんですか?」
船を買うのが遠い道のりだからってライラ様だけに押し付けるのは違うだろう。私たちはもう運命共同体なのだ。大変なことはみんな一緒にするべき。
そう思っての決意表明だったし、マドル先輩もいい助言をくれたのに、何故かライラ様から呆れたような顔で突っ込みがはいった。
「お前、船があれば私が楽をすると思っているんじゃないだろうな? 船があっても私が運んだ方が早いだろうが」
「え? じゃあ船があってもライラ様に夜中に船ごと運んでもらう形になるので、ライラ様の負担は変わらないってことですか?」
じゃあこの島暮らしってライラ様にばかり負担がかかる大変な選択肢なのでは? 私が安易に島暮らしを選択肢に入れたばっかりに?
「いえ。大きな船が用意できれば、私一人で交易を担当することはできます。以前エスト様がおっしゃっていたように、年齢や見た目を変えて別人を装えば不自然ではないでしょうし」
「えっ、そ、それはそれで、でも、マドル先輩だけに押し付けることになりますし」
さらにマドル先輩からされた提案は、もっとひどいもので動揺してしまう。ひどいというか、だってライラ様はまだ日帰りできるけど、マドル先輩は一人で何日も船旅をしなきゃ交易なんてできないのに。一人だけ働かせに島を出て行くなんて、そんなひどい話ある?
ライラ様の話はまだ、ライラ様に移動をお願いするだけで実際の売買とか雑用は私たちがする前提で考えてたし。ライラ様にばかり負担をかけるのも嫌だけど、だからってマドル先輩だけにってのも違うし。
かといって交代制で一人ずつってわけにもいかない。何故なら私一人で大きな船を操縦するとか無理なので。二人がすごすぎるのだ。
この場合どうなるのがベストなんだろう? 全然わからない。
「マドル。その交易とやら、どの程度の頻度で必要だと考えている?」
「往復する時間が必要ですし、今目をつけているところで問題なくやり取りが可能だとして、一度の量を多くして月に一度程度でしょうか。海の状態や風によって速度が変わりますので、立地的に安定して月に二度は難しいかと考えています」
「うむ。だろうな。でだ、エスト。どうだ?」
「え? ど、どういうことでしょう?」
悩んでいる横で二人が頭のよさそうな会話をして、これまた急に話をふられた。ライラ様、会話にいれてくれるのありがたいけど、全然わからないです。どうとは? 今どういう話の流れ?
「察しの悪い奴だ。この島にずっとこもりきりより、月に一度くらい、街にデートに行きたいと思わないか?」
「え? 行きたいですけど」
急にデートの話になった。待って、急展開でついていけないんですけど。でもとりあえずデートはしたいです。もちろんそうなので即答はするけど、首をかしげてしまう。
そんな私に苦笑してライラ様は私の頭を撫でながら頷いた。
「そうだろう。そのついでにマドルも連れて行き、売買を済ませてしまえばいいだろう。それなら船も今の大きさで十分だ」
「あー! なるほど!」
つまり生活に必要な業務だから、ライラ様を毎回足に使うのはちょっと違うよね。と感じるのであって、それそのものを楽しいお出かけにしてしまおうと! 天才すぎる!
「さすがライラ様! それなら全員ちょっとずつお仕事を担当して……いや私だけ美味しいとこどりしてますね!?」
全員ちょっとずつわけあって、と言おうとして私全然負担なかった。ライラ様に船をだしてもらって足を担当してもらい、お出かけ先でマドル先輩がお仕事を担当し、私は移動中ものんびりして街でもデートって遊び百パーセントだった!




