釣りにむけて
昨日の探検は楽しかった。楽しかったけど途中から色々あって、お風呂あがってからずっとライラ様といちゃいちゃしてしまった。向こうを出発する前々日にも、これから旅にでると二人きりになれないからってしてたのに。
「今日も探検するのか?」
「今日は……食料を確保するため、行動したいと思います!」
ゆっくり朝起きてライラ様とのんびり朝食をしながらされた質問に、私はちょっと考えてからそう宣言した。
大きな島なので何日もかかると思っていたけど、ライラ様との弾丸ツアーでなんとなくの島の全容はわかったし、ひとまず探検はいいだろう。
あと多分、具体的な目標がないからついいちゃいちゃに意識がいってしまうのだ。なのでちゃんと具体的なお仕事を決めたいと思う。探検で言うなら地図をかくくらい真面目にした方がよかった。
と言うことで、本日は自給自足の為の一助になるべく、食料確保と言う観点から行動したいと思います!
「食料の確保と言っても、お前は狩りもしないだろう。なにをするんだ?」
「例えばマドル先輩の畑の手伝いとか、釣りとか、山菜探しとかー? と言うか、そう言えば昨日は全然生き物を見ませんでしたね」
遠くから鳥の声とか、たまに何かの鳴き声とか聞こえてはいたけど、全然姿は見えなかった。上から川の近くに行くときなんかは特に急に現れたんだから姿くらい見てもおかしくないような気がするのに。
「遭遇しても面倒だろうが。私が適当に遠ざけていたんだ」
「ライラ様、そんなことまでできるんですか? え? あの黒いもやもやしたやつとか使った感じですか?」
「いや、あまり強い力で追い払うと警戒して縄張りにも影響を与えるからな。お前には聞こえない音で追い払っていただけだ」
「えぇ……」
「なんだ、その反応は」
「ライラ様がすごすぎて言葉にならない反応です」
「ならいいが」
いやほんとに、吸血鬼ってなんでもできるの? そんな超音波みたいなこと……いや、でも吸血鬼って蝙蝠に変身できるイメージだし、むしろ謎のもやもやよりありなのかな。
「畑に関しては、ひとまず私だけで手が足りています。と言いますか、力仕事が多いので」
「あ、はい。じゃあ、釣りでもしますか。釣り具から作って、あ、船もないですね」
「別にあの船を出してもいいが、そうだな。気楽に出せる小舟があってもいいな」
と言うライラ様の鶴の一声で、ネルさんたちとの協力して、船を作っていくことにした。
「船、わでもいいと思うけどよぉ。たしかこの周りの海の流れがおかしくてぇ? 危ねぇって言ってたよなぁ? 船で釣りなんかして大丈夫なのかぁ?」
「イブ、船、好き。でも、あぶねぇ?」
「あー、そう言えば」
と言うことで浜辺で鬼ごっこして遊んでいたネルさんとイブに声をかけ、リビングで腰を押し付けて提案したところそのような根本的な指摘されてしまった。
そう言えばそうだった。危ないっていうか、船で出入りできないんだよね。大きな船で出入りできないって話で、ちょっとなら行けるくらいに勝手に思ってたけど、その辺ちゃんと確認してなかった。
「ライラ様、そのあたり、改めて詳しく調べたほうがいいんでしょうか?」
「いや、問題ない。確認していないのに船づくりを提案するわけがないだろう」
「あ、そうですよね。さすがライラ様。どういう感じなんですか?」
「マドル。地図を出せ」
「こちらです。お飲み物も用意しております」
「わーい、ありがとうございます」
マドル先輩がしゅしゅっと机の上に地図を用意してくれる。この島周辺の地図だ。一昨日この島に来た時に見せてもらったのは、この島がのっていない地図だったけど、今だされたのはこの島の地図だ。
周りの海も範囲にはあって小さな小島とかはあるけど、大陸なんて影も形もないこの近辺だけの地図だ。と言うことはつまり?
「まさかこの地図、マドル先輩のお手製ですか?」
「おっしゃる通りです。今後開拓の際にも役に立つよう、縮尺の異なる別のものも作成予定です」
「マドル先輩すごいです。地図までかけるなんて」
「実際にあるものを描くだけですので、そう難しいものではありません」
しれっとした顔をしているけど、言ってる内容すごすぎる。この近辺の地図を描くのが難しくない? ある程度ざっくりな部分があるかもしれないけど、そうだとしてもそれぞれ島の形がちゃんとしてるし憶測じゃなくてちゃんとかいてるよね? マドル先輩まじで自分のスペックの高さに自覚がなさすぎる。
はえー、すごすぎる……とマドル先輩を見る私をスルーして、そのまま何でもない顔で全員にお茶を用意してしまった。
「うむ、ご苦労。で、この渦の模様があるところがその特殊な海流を示している。と言ってもずっと同じ場所ではなく、常に変動しているが、おおむねこの辺りと思って問題ない」
「こうやって見ると、結構離れてますよね」
思っていたよりかなり離れている。こんなに広く離れているなら、普通に船はだせそうだ。ネルさんとイブも身を乗り出して地図をまじまじと見ている。
「ほー。こういう形なんだなぁ。地図っておもしれぇなぁ」
「へー。山、行った? お風呂、ある?」
「あ、温泉ですか。イブ、いいこと言うね。今度探しに行こうか」
山と言えば温泉、なとこあるもんね。忘れてた。でも確か、活火山っていう、マグマがでてくる可能性のある山だと、下をマグマが通っているからそれに温められて温泉が湧く。んだっけ? でもマグマの有無って見た目の違いあったっけ? わかんないな。
「温泉ですか。確か以前、エスト様が山の中で仰ってましたね」
「あ、そうそう。あれ自然にできた天然温泉でしょうね」
「ふむ。だがここは井戸水の温度も高いわけではないようだし、ないんじゃないか」
「そうですね。他の水源を調べたことはありませんが、普通に湯をわかせばいいのではないですか?」
「えーっと、まあそうですね」
露天風呂とか、と思ったけどそれも別に沸かせないことないか。家の近くに作れば簡単だし。
「んー、外お風呂、つくる?」
「はい。今度作ってもらいましょうね。今は船です。船があれば魚が食べ放題ですよ」
「楽しみ。イブ、魚食べるの、好き。頑張る」
「頑張ろうね」
「ねー」
うーん、イブ可愛い。ネルさんにべったりだし、一緒に遊ぶけど逆に面と向かってお話しないから、たまにこうして正面からにっこり笑ってねーとか言われると、可愛いね。
「で、海流の辺りまで離れてるから、そこまでなら安全だし、船をだして釣りもできるんですね」
「ああ、この辺りまで海流となるほど深さがないからな」
ライラ様が説明してくれるところによると、私でも足がつく範囲が結構多くて、波打ち際あたりは波も穏やか。五メートル以上すすまないと船が浮かばないらしい。だけど潮まで数キロあるし、むしろその流れのおかげで色んな種類の魚が紛れ込んだりしてる可能性があるらしい。
大規模な漁はできないけど、遊び感覚で釣りをする分には楽しめるだろうとの見立てだ。
さすがライラ様。前のところでもマイ竿買ってただけあって、釣りに対してやる気ですね!
と言うわけで、憂いもなくなったので船づくり本題にはいることになった。
と言ってもそう簡単にできるものではない。まずは大きな木をきり、ある程度の大きさに切って乾燥させて、乾燥してサイズが変わった状態から、組み立てられるよう計算した大きさに改めて調整する。それから組みあわせて船の形にしていく。設計図を用意して、必要な大きさ、数を把握したうえで始めなければ、途中で息詰まるだろう。
ネルさんはマドル先輩と協力して前の家をつくっただけあって、モノづくりの知識はあったけれど、船づくりとなると設計図が必要だ。
「ご用意いたしました」
と言う話になったところで、マドル先輩が机に設計図を出してきた。話が早い。
「この大きさならネル様も利用できるかと」
「そうなのかぁ。ありがとなぁ」
と言うわけでさっそく船をつくることになった。
まずは木材作りだ。開拓予定地の整地にもなると言うことで、たくさん切っていくことになった。私とイブは力がないので、切られて横たわっている木の細かい枝を切って取り除いたり葉を片づけたりしていった。
その日は一日林業をした。家の裏の木々がかなりの広さ開拓されて、大量の木が並べられた。まだ未加工で丸太状態のものが多いし、枝葉もめちゃくちゃ発生してしまった。
小山のようになっていて、ちょっとだけ飛び込みたい気持ちになるけど、普通に枝なので危ない。
「今日は久しぶりに働きましたねー」
「まあ、労働らしい労働と言う意味ではそうだな」
「楽しかったなぁ。明日も必要なことあったら、いつでも言ってくれよぉ? わで、なんでもするからなぁ」
「ありがとうございます。それではしばらくは木材作成をお願いします。船づくり以外にも、必要なものはありますので」
「わかったぁ」
ネルさんは仕事をふられてニコニコしている。労働の喜びってやつだね。何でも自分でしちゃうマドル先輩から頼られると嬉しいよねぇ。
「マドル先輩! 私もなんでもしますので!」
「ん? イブも、しますので!」
追従するように手を挙げてそう言った私を見て、イブはきょろきょろして周りの様子を見てからきりっとした顔でそう言った。
と言ったものの、私とイブは林業において最も大事なパワーはない。食べ物は必要なので船はおいておいて、明日は魚を捕るための罠を作ってみることにした。
明日はライラ様は狩りをしてくれるらしいし、畑はあるにしても山菜とか探しにいくのもいいよね? この島の全体図もわかったことだし、より豊かで文化的な生活の為、もりもり頑張っていこう!




