島の探索4
ライラ様にからかわれお姫様抱っこされたままでいつまでも不機嫌でいられるはずもなく、私はライラ様の首筋に腕を回して抱き着いてご機嫌になって島の探索を続けた。
ライラ様は森の中は危ないから、ともう木々の上に出てしまい、そのまま今度は山を登っていく。傾斜をぐんぐん上がっていくのもこれはこれでドローン視点みたいで楽しい。
ライラ様とおしゃべりしてライラ様のお顔も楽しみつつ、景色も楽しんだ。
山は天辺も木が生えていて、わかりやすい降りるところがなかったのでライラ様は一番高い木のてっぺんの上にとまった。実際に体重はかけてないんだろうけど、外から見たらすごい状況だろう。
たしか高さによって環境が変わって木が成長できなくなったりすると富士山の話で聞いたことあるので、一般的にそこまで高い山ではないんだろう。
でも下の森のあたりより木の数は少なくて上から見ても枝にもぶつからずに普通に降りられるスペース自体は見える。木と木の間の間隔が広めと言うか。上と下で微妙に環境はちがうのかな? よくわからないけど。
「ここからなら島の全貌が見やすいだろう。どうだ? これで今日の島の探索は十分か?」
「うーん? ライラ様、もしかしてそろそろ面倒になってます?」
「そんなことはないが、このまま地下を探すと言われたら面倒だと思っている」
「あー……」
別に責めるとかじゃなく、飽きてきたならいったん降りておやつでも食べてから帰ってもいいかな、と思ったのだけど、普通に厄介なことになるんじゃないかと心配されていた。
うん、地下遺跡とか言ったけど。でも地下を探すって言われたら私も面倒だなぁ。わかる。
「じゃあ、いい感じのところでおやつを食べたら帰りましょうか」
「いい感じのところ? また難しいことを言うな」
「川の辺とかよくないですか?」
木々の上を飛んできたので、どこに大きな川が通っているかはすぐにわかる。いい感じか? と不思議そうにされたものの、ライラ様はそのまま私を近くの川に連れて行ってくれた。
「ここでいいか?」
「おー、いかにもな川辺ですね」
傾斜があまりない下の方に分岐している広くて比較的開けている場所があった。川の周りは一定範囲で水がないあたりもあんまり草がなくて丸い石が転がっていたので、場合によってはここまで増水するってことなのかな?
「あ、おっきい石がありますよ。あれに座りましょうか」
「うむ」
「ん? あれ?」
ライラ様は川辺に降りた時に私をいったんおろしてくれたのに、周りを見渡していい感じの石を指さして提案すると、ライラ様は頷いてから何故かまた私を抱っこした。
この距離でわざわざ抱っこ? と首をかしげるけど無視された。ライラ様は私が指さした石のところまで歩いて、その上に座ってから自分の膝に私を座らせた。
そう言うことか。えへへ。ライラ様、私といちゃいちゃしたい感じなのかな?
「えへへ。ライラ様、一緒におやつ食べましょうか」
小さめのリュックにちゃんとおやつと水筒を持ってきている。お姫様抱っこの時は軽くつぶれていたけど、おやつは柔らかいドライフルーツなので大丈夫。
水筒をだしてちょっと飲む。全然運動はしていないけど、おしゃべりしていたのでちょっと喉が渇いてたので常温のお茶だけどとっても美味しい。
「ふー、ライラ様も飲みます?」
「そうだな」
ライラ様は私から水筒を受け取って口をつける。つけてから、あ、これ間接キスだなと思った。いや、ものすごい今更だけど。あーんとかしょっちゅうだし、そもそもキスしてるわけだしね。
「ん? どうした。全部は飲んでないから安心しろ」
「あ、いえいえ。そんな」
と言うわけで動揺するわけじゃないけど、ついついじっと口元を見てしまっていたら普通に不思議そうにされてしまった。
しかも私が全部飲まれないか警戒して見ているかのように受け取られてしまった。全然そんなことは、まあ今から食べるところなので、全部飲まれたらちょっと困るか。
「じゃ、食べましょうか。リンゴのドライフルーツですよ。あーん」
「ん。うむ。うまい」
差し出すとライラ様は顔をよせて髪を耳にかけながらぱく、と一口かじって味わってからにっと笑ってくれた。
人差し指くらいで一口でも食べられるサイズなので、かじりついたままひっぱって私から受け取ってそのまま一気に一つ食べると思っていたのに、ライラ様は遠慮してか半分だけをかじった形になった。
その何気なく髪をかける動作、色っぽいなぁ。一口小さいのも可愛いし、なんだかドキッとしてしまう。
「だが、ドライフルーツと言うのは乾燥して固くなっているものではないのか?」
「そう言うのもありますけど、これは半生くらいのドライフルーツですね。美味しいですよねー。私も好きです」
マドル先輩特製のドライフルーツ、最初に甘く味付けてくれたやつらしくてとっても美味しい。ほんのり酸味が残ってるけど甘くて、リンゴの風味もあって、いくらでも食べられる。
ライラ様が食べた残りを食べてから、次のやつをだす。そんなにたくさんは入っていない。晩御飯に影響しないよう、あと四つだ。休憩をかねているのでゆっくり食べよう。
「ん、うーん」
もぐもぐしながら、ライラ様に次を差し出す。食べている途中で口を開けるのは行儀が悪いので、唇を閉じたままはいあーんをする。ライラ様はちょっと横着な私の態度にくすっと笑ってから私の手首をつかんで自分に引き寄せた。
「ん。む」
「んにゃっ。ら、ライラ様」
そしておもむろに一気に私の指まで口に入れた。唇が人差し指の背中と親指の第一関節のくびれに当たった状態で、べろぉっと私の親指の爪辺りがなめられた。
思わず力が緩んでライラ様の口の中にリンゴを落としてしまうと、ライラ様の舌先が私の人差し指の腹をつんとつついてから口が離された。
「ふふふ。お前の指ごと食べると、なお美味いな」
「も、もー。ライラ様、いきなりでびっくりしちゃいます」
「お前が私を挑発するからだ」
「えっ、そ、それはその……だって、ちょっとくらい意識しちゃいますよぉ。今更って言っても、一応キスですし」
「ん?」
「え?」
にんまり悪戯っぽく言われて、どうやら私がさっき間接キスを地味に意識していたことがばれていたらしくて私は恥ずかしくなりながらも言い訳したのだけど、何故か首を傾げられてしまった。
「え? いやさっき、ライラ様と間接キスになっちゃったからですよね?」
「くっ、くくくく。違うぞ。ついさっき、崖のところでお前が私が意地悪だと真っ赤になって可愛い顔をしていただろうが。くくく。全く、自覚がないのがまた、可愛い奴だな」
「えっ、それは、えーっと……い、今のはなしで」
触れ合っているお腹をぴくぴくさせて、ライラ様はだいぶうけてしまっている。め、めちゃくちゃ恥ずかしい。ライラ様にとっては間接キスなんて全然気にならない子供の考えってことだよね。
いやもちろん忘れたわけじゃないよ? でもほら、ついさっきの方が記憶に新しいから。ただそれだけで。ううー。いやだって、ライラ様が悪いよ! ライラ様が色気がありすぎるから! すでに恋人として一年近いのにいまだに見るだけでドキドキしちゃうくらいえっちだから!
「ははは。仕方ないやつだ。ほれ、次はお前に食べさせてやる。口をあけろ。あーん」
「あ、はい。あーん」
脳内で言い訳しながらも目をそらしてしまう私に、ライラ様は笑って私の手元からリンゴを一つ取り出し、唇に軽く触れさせながらあーんをしてきた。
その勢いの良さにちょっとびっくりして、顔の赤みを消しながら口を開ける。
「んんっ!?」
口を開けるのに合わせてずぶずぶとリンゴが力強く入ってきて、そのままライラ様の指まで侵入してきた。
そのまま舌をなでられてしまい、甘いリンゴの味と一緒にしびれるような感覚が広がり、体全体が愛撫されているようにぞくぞくしてしまう。
「んんっ。んむぅ。もぐもぐ」
「くくく。どうだ? 美味いだろう?」
ライラ様が指を引き抜いたので、残ったリンゴを食べながらライラ様を見あげる。にやにや笑うライラ様が私を見ていて、その視線を向けられるだけでさっきの感覚がまだあるみたいな気がして、リンゴの味がよくわからない。
私はそんなライラ様のからかいから逃げる為、急いでリンゴをごくんと飲み込み、お茶をのんでなんとか口内をすっきりさせる。まだちょっとドキドキするけど。
「こ、こんな風にされたら全然味なんてわかりませんよぉ」
「そうか。なら仕方ないな。もう一度食べさせてやる」
なしってお願いしたのに対して仕方ないなって許してくれたはずなのに、普通に舌までなでてくるなんて。私のせいだっていうのを受け入れたとして、さすがにお外だしお昼だし、そう言うのはね、よくない。
ライラ様が楽しそうにもう一つリンゴを手に取っているので、あんまり否定するのも申し訳ない気がするけど、でもでも、このままだと流されてとんでもないことになってしまいそうだ。
「えっ、えっとぉ、次はライラ様の番なので」
「じゃあ分ければいいんだな。口を開けろ。あーん」
「え? あ、あーん」
あと二つなので一つ食べてもらったら、自分の分をさっさと食べれば終わりだ。と言うことでさりげなく、食べさせてもらうのをやめてライラ様も食べようねと誘導しようとしたのに、何故かライラ様はそのまま私の頬に手を添えて固定して逃げられないようにして強引に私の口元に持ってきた。
そうしてあーんとまで言われてしまうと、殆ど条件反射であーんしてしまう。
リンゴのさきっぽが口に入ってくる。指をいれられないようすぐに閉じたけど、そのままリンゴだけずるずる押し入れられた。だけどライラ様の指は入ってこなかった。
「私の舌は噛むなよ」
「!?」
ライラ様の指がリンゴから離れていき、あれ? と思うもつかの間、ライラ様なにんまり微笑み囁くようにそう言うと、唇をあわせてきた。
そしてそのままこじあけるようにして舌をいれてきた。リンゴの端がひっぱられ、ライラ様はそれを噛んでから私に送り出してきた。
「ん%みゃ&ま#っ!」
口をふさがれているので、言葉にならないとわかっていても勝手に私の口から変な音がもれてしまう。
だけど混乱する私を無視して、いやむしろ目を合わせてよりライラ様は楽しそうにして私の口内に舌を出し入れし、どんどんリンゴをかみ砕いていき、私の口の中はリンゴの甘い味とライラ様の唾でいっぱいになってしまう。
「っ、っう、んくっ、あっ……ら、ライラ様ぁ」
頬にあったライラ様の手が私の顎にそえられ、くいっとより角度をつけて上を向かせられる。口の中いっぱいになったリンゴ味のライラ様の唾液が私の中に流れ込むようで、私はたまらずそれを飲み込んだ。
「ふっ、これなら文句はないだろう?」
全部飲み込んでしまったし、全然わけてない。だけどこんなことされて、文句なんてあるわけがなかった。
マドル先輩には悪いけど、これ以上美味しいリンゴの食べ方なんて、私には思いつかない。そのくらい美味しくて、気持ちよくて、中毒性があった。
誰もいない二人っきりの中でこれでおしまいなんて、そんなことできるくらい私は理性的な人間ではなかった。
「あの、最後の一個も、わけっこして食べます、か?」
「くく。ああ、そうするか」
さっきは驚いて味わいきれなかったので、最後の一つはじっくりゆっくり食べた。




