1人の違和感
「ナズナ・ホールウェン…」
興味深そうに呟く男が1人。それは、ナズナのクラスの先生であった。視線の先には入学試験で集めたナズナに関する情報用紙。この情報用紙とは、いわゆる生徒ごとの履歴書のような物で、これまでの大まかな生い立ちや入学試験での得点率やその概要、どのような魔法を得意とするかなどが示されている書類であった。ナズナの書類には、「町の一軒家で育つ」「魔力値1」「得意なスキルなし」「試験点数70点」「身体能力がやや高めか」などの情報が示されていた。
(パッと見たかんじ、特にこれといった特徴も秀でた能力もない生徒だが…なんだ、この違和感は。なぜそのような生徒がこの学園に入学出来たのかもそもそも気になるところだが、先程のあのバトル…)
そう、先生が気になっているのは、先程のナズナ対ユリウスの時の試合で見せた、あの戦闘スタイルだ。小さな水の塊を高速で打つという発想や、それが立派な攻撃になっていることにも舌を巻いたが、それより何よりもーー
「…なぜユリウスの攻撃を全て避けることができた…?」
そう、普通なら、本当に普通の生徒なら避けることなど出来ないはずなのだ。なぜなら、妖精の放つ攻撃は魔力による攻撃とは比べ物にならない程の速度であり、あまりの速さに目では捉えることはできず、余程魔力がある生徒であってもそもそも見えない攻撃に対しては成す術もないはずなのだ。それなのにナズナという生徒は一撃も当たることなく避けきることができていた。しかも魔力がほとんどないに関わらずだ。
「何が違う?魔力が少ないことが関係しているのか?それとも、ただの偶然か?」
何か、何かが普通の生徒とは違う気がした。しかし違和感の正体には、まだたった1回のバトルを見ただけでは到底見極められそうにない。
(まだ1日ある、とりあえず様子を見ることにするか。)
先生は無精髭をボリボリ掻きながら、大あくびをして再びバトルステージへと目を戻す。気づいた時には、その時試合していた生徒は敗戦して終了していた。