幼児誘拐(現場)
俺が涼葉とこんな風に一緒にいられるのはいつからだろう。ふと琉鬼の脳裏に過去の涼葉が思い出される。
初めて会ったのは鈴木警部がまだ元気だった頃。
8年前になるのか。
涼葉もまだ8歳だった。
「初めまして」琉鬼が挨拶をする。
「…」
「涼葉、挨拶しなさい」
「はじめまして、」それだけ言うと父親である鈴木警部の後ろに隠れてしまう。
地下鉄の駅まで歩きながらそんなことを思い出していた。
涼葉は“?”というような顔で琉鬼を見る。
おそらく男の人というよりは肉親に近い感情なのだろう。
涼葉は美少女だと思う。
努力家であり勉強の才能にしてもすごいものだ。
でも、なんと言えばいいのか時おり消えてしまいそうなくらい頼りなくなる時がある。
琉鬼は自分の涼葉に対する感情についてもよく分からなかった。
ただ、涼葉が結婚するまでは彼女は作らない。
それだけは固く誓っていた。
地下鉄の駅を降りてから15分くらい歩くと最初の事件が起きた現場にたどり着く。
公園は広く芝はバスケットボールコートくらいの広さがあった。
警察官とボランティアが必死になって周囲に被害女児がいないか捜索していて物々しい雰囲気だ。
「高久」
琉鬼と涼葉が声のする方を見る。
白のワイシャツに黒のスラックスを履いた中年の男がこちらを見ている。
「佐伯さん」
その男は練馬警察署の捜査一課の巡査長だった。
高久と佐伯は中野警察署で1年間在籍期間が重なっている。
「デートにしてはだらしない格好だなもう少しお洒落したらどうなんだ?」
「佐伯さんからかわないでくださいよ、それより手がかりはあるんですか?」
「ここからは一人言だからな、」
「はい」
「白いハイブリッドカーが目撃されている、3ヶ所とも同じ型だ。ナンバーまでは分かっていないがな」
「はい」
白のハイブリッドカーが日本に何台あるのだろう。
ただ、事故で行方不明になったのではなくやはり車を使っての誘拐であることは間違いなさそうだ。
「いなくなったのは5歳の女の子他の情報はインターネットで公開している」
「はい、ありがとうございます」
「それと、非番の日くらい彼女を気の利いた場所に連れていってあげろよ」
「はい」琉鬼はポリポリと頭をかいた。
インターネットの情報によると最初の被害者は公園のすべり台付近で目撃されたのが最後のようだ。
着ているのは赤の上下に茶色い熊さんの耳付きの帽子、靴はオレンジ色をしているとのことだ。
いなくなった時母親は近くにいたとのことだが。
高久と涼葉は公園とそのまわりをじっくり一時間かけて観察する。
その後は2番目の現場であるパチンコ店と3番目の現場であるショッピングセンターに移動しそれぞれ観察する。
高久のアパートに帰ってきたのは夜の8時を過ぎる頃だった。
「高久おじさんはどう思ったの?」涼葉は帰ってくると扇風機を独占して風を浴びていた。
「目撃情報がないな、おかしすぎる」
「変質者じゃない?」
「そうだな」琉鬼は換気扇の下に移動してタバコを吸っている。
「地元の人間でもない?」
「それは今のところ何とも言えないな」