幼児誘拐(初動)
「高久おじさんいつまで寝てるの?」
滝野川の琉鬼のアパートに涼葉が押しかけていた。
「仕事が終わったのは今朝なんだ…眠い…」
「もう12時よ?」
「あ・・そんな時間?って涼葉は学校はどうしたんだ?」
「今日は土曜日だよ?曜日も分からないの?」
「あ、そうか・・・変形勤務だから」
「そんなことより事件よ、事件」
「ん?」
涼葉が持っていたタブレットを高久に渡す。
“都内でまた誘拐事件、今月に入って3件目”と書かれていた。
「これかあ・・・」
「そう、これよ!」
被害者は5歳から7歳の女児2人と男児1人、事件は練馬区と板橋区で起こっていて捜査本部は練馬警察署に置かれていた。
涼葉の父である鈴木警部が亡くなったのは7年前だから涼葉がまだ9歳の時だ。
父親が亡くなったことは相当ショックだったのだろうが家族や友人、琉鬼の支えもあって涼葉は真面目に学校生活を送り中学は首席の成績だったし現在は国立大学付属高校に通っている。高校でも成績はトップクラスで将来は遺志を継いで警察官になると決意していた。
琉鬼が住んでいるのは涼葉の家から1キロも離れていない場所だったので涼葉は良く出入りしている。在宅中は鍵もかけていない。
誘拐事件、それも幼児を狙ったものであれば性的な目的が考えられるしまた被害者が無事に帰ってくるかも分からない。
警視庁本庁捜査一課の連中と練馬警察署・板橋警察署の担当は必至で捜査に当たっているだろう。
「高久おじさん…助けよう」
もちろん助けたい・・・だがそれが可能かも分からない、それに鈴木警部の愛娘の涼葉を危険なことに関わらせたくはなかった。
「だめだ、涼葉」
「高久おじさんがやらないなら私1人でやるわ」そう言って立ち去ろうとする。
「まてまて・・分かった、俺もやる」
「高久おじさんならそう言ってくれると思った」涼葉はにっこりとして琉鬼の腕に抱きつく。
練馬警察署管内と志村警察署管内で起きた誘拐事件
幼児が行方不明になったのは公園とパチンコ店駐車場とショッピングセンターだった。
今のところ不審者の情報は公開されていない。
発生したのは6月8日と6月9日の2日間
最初の誘拐事件から既に1週間が経過している。
「高久おじさんはどう思うの?」冷房機器が扇風機1つしかない高久のアパートでそれを独占しながら涼葉がスエット姿の高久を見つめる。
「うーん、目撃情報が、多分ショッピングセンターには防犯カメラがあるはずだがそこに映ってないとなると計画的だな、人数も3人ということもあって単なる幼児性愛者でもなさそうだ」
「どうなのかな?色んな幼児を並べてみたいっていう変態かもしれないじゃない?」
「涼葉はよくそんなこと考え付くな、いや、でもそういう視点は大切かもしれないな」
「現場100回でしょ?行こうよ!」
「そうだな、ちょっと窓の方見ていてくれ」そう言うと琉鬼はジャージを脱いで着替え始める。
涼葉は近くで兄が着替えてでもいるかのように気にせずスマホをいじっていた。
琉鬼の着替えが終わると2人でアパートを出る。
身長差が30センチほどあるだろうか。
涼葉はデニムジーンズに薄いベージュの半袖ブラウスを着ている。
琉鬼もデニムジーンズに黒いプリントTシャツだ。ただ琉鬼のTシャツは古くなって首の部分がよれている。
涼葉は少し非難するようにその首もとを見る。